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10日目:お腹が空いたら戦はできぬ


 なんか色々あった午前中だったけど、気づけば時刻は13時を回っている。

 そしてそれまでは別になんとも無かったのに、時間を意識すると突如として湧いてくるのが食欲というもの。

「お腹すいた!」

「言うと思った」

「あー、もうこんな時間ですか」

 あっという間に午前中過ぎちゃったし、結局戦闘はあんまりできてない。そこまで動き回った感じじゃないのになんかすごくお腹が空いている。やっぱり気疲れしたのかな?

 南西門の詰め所からなら、近いのは憩いの広場なんだけど、ちゃんとしたお店で食べたいような気がする。とすると、使えそうなショップカードが1つあるわけで。

「如月くん、これあげるー」

「はい? ああ、ショップカード」

 フェアリーの酒屋さんからもらったうどん屋さんのショップカードを複製して贈呈。トラベラーズギルドの横の通りを北方面に入ったところにあるらしい。完全に空白地帯だから、また少し地図が埋まる。


「……うどん!?」

「そう、教えてもらったばかりのうどん屋さん!」

「昼にちょうど良さそうだな。行ってみるか」

 という流れでそのまま歩き出す僕たち。いつも思うんだけど、今まで何も無かった場所に突然道が現れるの不思議だよね。しばらくショップカードを不思議そうに見つめていた如月くんは、「どんな味なんでしょうか」と少し不安そうな顔をした。それ僕も気になってるんだよねー。めんつゆのある世界じゃないし、醤油はそれほど出回ってる感じしないし。

「多分オーソドックスなのは出てこないと思うんだよね。パスタ風のうどんとかかな?」

「ああ、カルボナーラうどんってありましたよね。あれはあれで美味しいって聞きますけど」

 そうそう、クリームソース系のやつ。前イオくんも明太クリームうどんを作ってくれたことがあるんだけど、あれもすごく美味しかったし、こっちの世界の人たちにも馴染みがある味だと思うんだよね。ゴーラに行ったら明太子も買えるかなあ。

 本音を言うならちゃんとしたうどんのつゆがいいけど、それはイオくんに作ってもらえば良いや。たしかうどんは小麦粉で作れるはずだし、僕たちには醤油とみりんがあるので大勝利確定なのだ。多分。


 この通りにはギルド西通りという、すごく分かりやすい名前が付いている。新しい店舗が多いのはギルド前通りと同じ。北方面に進むんだけど、向かって左側には民家が、そして右側にはお店が並んでいる。手前の方はレンガや石材などの商材が多くて、奥に行くと米や小麦粉を大袋で売っている店や、干し肉の塊を売っている店なんかが続く。業務用商材の店って感じかな?

 途中川辺通りへつながるように東方面へ抜ける道があるんだけど、そのちょうど角にあるのが今回のターゲット、「うどんの店 一徹」だ。

 そんなに混んでいる感じは無いけど、トラベラー達の世界の食べ物で小麦粉から作られています! みたいな説明文を外に出していた。そりゃこっちの世界の人たちにうどんって言ってもわかんないよね。

「……匂いが洋風ですねー」

「やっぱりカルボナーラかな?」

「ナポリタンうどんじゃないか、これ」

 なんて話をしながら店に入ってみる。案内された4人がけの席で、メニューを確認っと。


「パスタソースに絡めてるな」

 周辺を見渡してイオくんが言う。確かに地元のお客さんたちはカルボナーラやナポリタン風のパスタソースに絡めたうどんを食べている人が多い。でも、一応メニューには本場の味! と銘打ったものもいくつか載ってる。

 ちょっと耳を澄ませてみると、住人さんたちはパスタより歯ごたえが良いところや、太麺のところを気に入っているみたいだ。完全にパスタの置き換え食品と思われてるなあ。

 まあそれはしかたないか。カレーと違って、すでに広まっている類似品があるところに参入するんだし。


 さて、じゃあ何を食べるか選ぼうかな。

「バター醤油うどんっていうのはどう?」

 絶対僕が好きな味だと思うんだよねこれ。そもそもバター醤油がまずいことなんてないでしょ多分。あ、ホタテ買ってないや、機会があったら絶対買わねば。

「へー、醤油あるんだな。シンプルな釜玉はないのにゴマダレうどんはあるのか。俺はこれにする」

「お、ゴマダレも良さそう。如月くんは何にする?」

「クリームスープうどんってのが普通にうまそうなのでこれにしようかと」

 注文して食事が届くまでの間、お互いに朝市がどうだったかの情報交換をしてみる。僕たちは妖精の朝市に足を踏み入れたことと、日本酒とみりんを入手したことを話した。契約獣のこととか分類についても話をしたけど、分類の方はヨンドに最速で向かったトラベラーさんが情報を出してるらしい。

 妖精の朝市については、掲示板熟読組の如月くんも知らないとのこと。

「妖精類の知り合いがいないと行けないっぽいですねー。俺も興味あるんで、どこかで知り合いを作ってみます」

「お、ちなみに何が気になった?」

「マギマッシュルームが超気になりますね」

「あんまり美味しくないやつ……」

「俺の場合はとりあえず効率優先なんで」

 それはそれで分かる。


 やがてうどんが運ばれてきて、遅めのお昼を開始。

 うーん、バター醤油のこの香り、大正解だし大正義でしか無い。バターと醤油を最初に組み合わせようと思った人は天才なので褒め称えられるべき……!

「めっちゃコシのあるうどん。このバターと香ばしい醤油の香りが素晴らしいし、味のバランスも文句なし。麺とバター醤油の相性も最高、つまりこれは美味しい!」

「美味いな」

「おー、今まで洋風うどんって食ったこと無かったんですけど、結構うまいですね」

 相変わらず食レポ向いてないイオくんの感想と、素直な如月くんの感想。つまり総合すると、この世界でもうどんは美味しいってことだね。あ、そういえばカレーもある世界なんだから、めんつゆ的な物があればカレーうどんも行けるのか……これは、欲しくなってきたなめんつゆ。材料わかんないけど。料理人さんお願いします。

「イオくん、めんつゆって作れる?」

「作れる作れる。次ログアウトしたら手打ちうどんについて調べるか」

「流石料理人、よろしくお願いします!」

「料理人ではねえんだよなあ」

 まだ自身が料理人だと認めないんですかねイオくん。もう諦めなよ。


「ところでゴマダレ、具体的にどうなの?」

「俺の知ってるゴマダレではないな……」

「え、ゴマの味する?」

「それはする。甘め? クリーミーさはすごく感じるんだが……」

「それはそれで美味しそう」

「これはこれで旨い。まあ別の食い物だな」

 洋風つけ麺って感じ? 創作料理にはありそうだ。

「難を言うならもう少し味にパンチが欲しい」

「もう作るしか無いよイオくん」

「隙あらば俺を料理人にしようとするのやめろ?」

 そんな事言われてもイオくんはすでに料理人なので……。


 美味しいうどんを食べ終わったら、如月くんとは一旦解散。明日の10時にテアルさんの家なので、9時頃ギルドに待ち合わせすることに。連結したままで解散すれば時間軸をあわせてくれる便利なシステムなの助かるね。

 僕とイオくんは腹ごなしをかねて水辺通りに出てから橋をわたり、新人通りのメガさんたちのレンタルキッチンに、昨日預けた福神漬を取りに行く。今日はギガさんのスープカレーが屋台に出ているとのことで、メガさんだけがレンタルキッチンに残っていた。

「ああ、ナツさん。例のトッピングだけど、とりあえずチーズだけやってみることにしたよ。福神漬は全部に乗せて、チーズは希望者だけ追加料金で乗せる」

「やったー! チーズとカレーは相性抜群ですからね!」

 なんて報告もあったりした。これでカレーがまた美味しくなるね!

 イオくんは出来上がった福神漬についてメガさんに感想を聞いたりしつつ、自分で作ったものをインベントリへ。僕たちにとってはカレーイコール福神漬ってくらいペア感の強い食べ物だけど、こっちの世界ではそうではないから、福神漬をつけるか希望者だけにするかっていうのはちょっと揉めたらしい。

 それで、メガさんが強く主張して結局全部に乗せることにしたんだって。

「スープはこっちの世界に馴染みのある味、カレーライスはトラベラーさんの世界に忠実に、って路線で行くことにしたんだ。だから福神漬も必須でつけることにしたよ。食べたくない人は残せばいいし、有ったほうがトラベラーさんたちは喜ぶと思ったんだ」

「それは確実にそうですね」

 色々悩んでたみたいだったけど、メガさんの方針も固まったみたいで良かった。


 レンタルキッチンを出たら、次は……忘れちゃいけない、ココナさんのお店!

「この新人通りに並行する感じで、もう少し南にある通りかな? 近場だし忘れないうちに木材を渡しに行こう」

「そうだな。インベントリ空けておかないと、食材だけで埋まる」

「そうなったら、南西門のあたりで売ってたマジックバッグを視野に入れないといけなくなるねえ」

「収納はいつでも枯渇してるからな。マジで倉庫システムは早めに実装してほしい」

 今イオくんの個人インベントリの半分くらい料理だと思う。確かに倉庫はほしい。今までやってきたゲームだと、拠点に収納できるけど、拠点に戻らないと預けたり出したりできないパターンとか、ギルドに預けられて、どこのギルドでも引き出せるけど、フィールドでは操作できないパターンとかが多かった。ただ、この手のゲームってどうしてもアイテム多くなりがちだから、できればどこでも操作できるやつがだと嬉しいな。

「えーっと、ここだね」

「木目通りか。お、ナツここ道が木材で出来てるぞ」

「ホントだ!」

 イオくんの指摘の通り、ここはレンガや石畳ではなくて端材を組み合わせたような木材が道に敷き詰められている。歩くとコンコン音がしてちょっと楽しい感じ。お店も木材を扱う所が揃っているみたいで、木製の食器類から杖、家具類からおもちゃ類、ハンガー、まな板みたいな日用品まで色々揃っている。

 統一感のある通りで、こういうのも見てて楽しいな。


「っと、ここだな、インテリア・ビューティフルデイズ」

 たどり着いたのは、通りの中程にある上品な雰囲気のお店。ショーウィンドウに飾られているのは小物入れかな? どちらかというと女性向けの店に見えるけど、作ってるのがココナさんなのでそれは当然か。

 水色を基調とした店構えに、ちょっと怯む僕である。

「綺麗なお店だね」

「品が良いのは分かる。入るぞ」

 扉を開けると……当然イオくんが……カランと綺麗な鈴の音がする。中にいた女性が顔を上げて、僕たちを確認して「いらっしゃい!」と声を上げた。朝ぶりのココナさんである。

「待ってたよ! さ、木材をここの棚に出しな!」

 話がとても早い。ちょうどお客さんもいないみたいだし、タイミングが良かったんだろう。ココナさんの瞳がきらきらに輝いていて期待の眼差しだ、これは期待を裏切るわけにはいかないね! というわけでさっと動いたイオくんが棚にざかざかと木材を出していくのを見ながら、とりあえず僕はココナさんに話しかけることにした。出遅れた訳では無いのだ、イオくんの手際が良すぎるだけなので、イオくんはすごいってことで……っ!

「ココナさんこんにちは。すごく上品なお店ですね」

「そうだろう? この辺は高級店も多いからね。これでも売れっ子なんだ。ナツも欲しい物があったら遠慮なく買っていきな、ちょっとならまけるよ!」

「わー、見せていただきます!」


 小物家具を作ってるって話だったけど、女性用の宝石箱とか小物入れが多くて、その他飾りになりそうな彫刻入りのサイドテーブルや、木製の時計、木彫りの像はスペルシアさんかな? お、これとかお母さんが持ってるのににてるなあ、木のフレーム付きの鏡。それからこっちは……。

「ココナさん、これって額縁?」

「ああ。これはここを引くと縦幅が伸びるから、多少大きさを変更できるフレームだよ。ガラスのかわりにグラススライムの表皮を使っているんだ、これだと伸縮性があるからね。レストランでは季節ごとに絵画を変更する店も多いし、多少のサイズ調整ができる方が喜ばれるんだ」

「すごい、便利! ココナさんこれとこれで2つください!」

「ブラウンとライトブラウンだね? 毎度!」

 品の良い店なのにココナさんは男前だなあ。でもこの額縁は是非ともクルジャくんに渡したい。新しい家族の絵、ぜひぜひ飾って欲しいね。

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― 新着の感想 ―
[一言] うどん屋はコピー出来たってことはレアカードじゃなかったのね
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