41日目:黄昏通りの職人さん
黄昏通りは、ギルドや教会よりももっと西側、西門寄りにある。
ギルド前通りからまっすぐ北方向へ入る通りで、プリンさんに案内されるまでは生け垣で隠されていたところに道が出来た。
「お、結構広い通りなんだね」
「そうよ、活気もあるんだから!」
自慢げに言うプリンさんは、すっかりここをホームと見ている感じだ。道行く途中のお店から、「あらプリンちゃん、今日はお店じゃないのー?」とか「パフェちゃん、今日いいの入ってるわよー」とか声がかかっている。
そんな声に「友人を案内してるんです!」とか「わー、後で見に来ますね! それまで残ってるといいな」とか返事を返すプリンさん。馴染んでるなあ。
「ちなみにプリンさんとパフェさん呼びはどっちが多い?」
「それが8割プリン呼びなのよねー。なんでかしら?」
へえ、そうなんだ。なんとなくプリンさんのほうが呼びやすい気もするけど……理由はわかんないな? でも長い名前だと略して呼ぶ時どこを取るかって、結構決まってるよね。
「アルフレッドはアルだし、エドモンドはエドだし、ヴォルフガングはヴォルフじゃん? やっぱり名前の前のほうが取りやすいんじゃないかな?」
「そんなものかしら?」
プリンさんはいまいちピンとこないみたいだ。まあ全部そういう法則ってわけじゃないのはわかってる。英語名だとマーガレットがメグになるしエリザベスはリズになるから、そういう不規則な感じの呼び方だとお手上げだよ。
あ、僕のそういう略称の知識は全部漫画からです、あしからず。実際の略称がそうなるのかは知らない、漫画ではそうだった!
プリンさんが師事している編み物の師匠さんは、編み物がメインだけど刺繍やレースなどを組み合わせてかわいい小物や服なども作る、オールマイティーな被服職人さんであるらしい。知り合ったきっかけは、サンガのグロリアさんのツテだそう。
「すごいのよ師匠。私に小言を言いながらぱぱぱっと作品をしあげちゃうの。プロの仕事よ」
しょくにんさんはすごいものなのー。
「テトそういう人の手元見てるの好きなんだよね。見せてもらえるかなあ」
「楓の木の精霊さんだから、テトには甘いと思うわ」
「妖精類さんでしたか」
なでてくれるひとなのー。
わーいっとテンションを上げるテトさんである。妖精類は撫でてくれるとすでに学んでいる猫なのだ。精霊さんってことはすごく長生きなんだろうし、それならきっとたくさんの時間を編み物に費やしているんだろうなあ。どんなものを作るのか、すごく興味が出てきたぞ。
わくわくする僕とテトを前に、プリンさんは、
「テトとナツさんって同じ顔するのね」
とめちゃめちゃ微笑ましいもの見る目で見てくるんだけど、それよく言われます。テト、僕達また同じ顔してるってー。
なかよしだから、おそろいなのー。
「そうだね、仲良しだもんね!」
うちの子本当に嬉しそうにこれ言ってくれるので、僕は毎回和んでいます。やっぱりテトが最高なんだ。そう思いませんかイオくん!
「家の猫しか勝たん」
「だよねー! さすがイオくんわかってる!」
やっぱり気の合う友人ってのは得難いもんだよ。イオくんノリ良くて好き。
とまあそんな茶番をしている間にたどり着いたのは、ゴーラらしく扉をばばーんと開け放ったよくあるタイプのお店で、でっかい木製の看板に書いてある店名は「毛糸の山」だった。
毛糸の山。
どういうネーミング……? と思うところもあるけれど、店内をちょっと覗き込むと理由がわかった。大きなガコにどん! どん! どん! と山のように積まれた毛糸の玉が、外からも見えるように並べられているのである。
「名は体を表すってやつか」
イオくんが感心したように言うけど、確かにわかりやすい店名かもしれない。でもこれ外から見ると毛糸屋さんに見えるけど、編み物作品も売ってるんだよね?
「師匠ー! お友達を連れてきたのと、頼みがあるんだけどー!」
と大きな声で呼びかけながらプリンさんが店内に入ってくので、ぞろぞろと後ろに続く。入口付近の目立つところに色とりどりの毛糸が売られているけど、店の奥へいくとテーブルに作品が並んでいた。セーターやベスト、ポンチョやニット帽……なるほど、毛糸で編んだだけじゃなくてワンポイントで刺繍を入れたり、レースを裾につけたりしている。
こういう商品を作るなら、確かに<裁縫>スキルは必要だね。
毛糸の色は原色に近いはっきりした色が多いかな? パステルカラーとかは染色が難しいのかもしれない。全体的に女性向けのかわいいラインナップ……と思っていたら、奥から出てきた師匠さんは男性の姿だった。
「猫!」
「契約獣です!」
「撫でる許可を!」
「どうぞ!」
……第一声が勢い良かったので、思わず勢いで返してしまった。低音美声の、細マッチョ系の男性。パッと見ただけだとヒューマンにしか見えないんだよなあ。どうやって精霊さんを判別するんだろう住人さんたちって。
あ、もしかして魔力を見ればいける? <魔力視>を弱めで……あ、理解理解。ヒューマンと違って、精霊さんって常に魔力をまとってる感じなんだね。
「もう、師匠ったら……」
プリンさんが呆れたようにため息を吐いたけれども、わしゃわしゃとテトを撫でまくっている男性は「手触りが良い!」とまた勢い良いお言葉。
「師匠、猫派じゃないって言ってませんでしたっけ?」
「一番は爬虫類。でも契約獣はすべて素晴らしい存在」
「紹介したいんですけど……?」
「この子の名前は?」
さっと顔を上げた師匠さん、顔立ちはちょっとこう、ワイルドな感じ? 外見からは繊細な編み物が上手な人には見えないけど、まあ外見なんて当てにならないものだから。イオくんだって品の良さそうな凛々しげ騎士様フェイスだけどスマートヤンキーだもんね。
「その子はテト、僕が契約主のナツです。こっちの気さくなイケメンが親友のイオくん、緑髪の爽やか青年が如月くんです!」
「テト、ナツ、イオ、如月。覚えた。ところでこの子はフォレストウォーカーか? それにしては魔力量が多いような」
「あ、スカイランナーです。テト、翼ばさーってしてあげて」
わかったのー。じまんのはねー♪
ばさーっと羽を広げるテトさん、全力のドヤ顔がかわいいね。この羽、ブラッシングしてるとまるで無いように感じるから不思議なんだよねー。
「素晴らしい!」
ほめられたー♪
「テトが素晴らしい猫だから仕方ないね。あの、ところでお名前聞いてもいいですか?」
「ロアチェ。一応こっちのプリンの師匠などしている」
「ロアチェさん」
わしゃわしゃとずっとテトを撫で続けていた手をようやく止めて、ロアチェさんはようやくこっちと話をしてくれる感じになった。テトはたくさん撫でてもらって満足そうだ。
「君たちも編み物をするのか?」
と聞かれたけど、流石に無理です。首を振って否定しておく。
「僕、生産は<彫刻>とか<細工>やってます。アクセサリ作るのは好きですけど、細かい作業は苦手で」
僕がそう言って否定すると、如月くんも続けて口を開く。
「俺は<調薬>です。薬を作ってます」
最後にイオくんが短く「料理」とだけ答えると、ロアチェさんは「そうか」と一つ頷いた。
「なぜこの店に?」
首をかしげて問いかけられる。ごもっともな疑問である。
「私が師匠を紹介したくて連れてきたのよ! あと、みんなで結婚式に出席することになったから、必要なものを揃えるのに黄昏通りが丁度いいと思ったの」
「なるほど。あ、料理は良いな、一食分売って欲しい」
「師匠お昼は?」
「いいところだったんだ」
「また食べてないのね?」
「すごくいいところだったんだ!」
コントかな? と思うようなやり取りを繰り広げるプリンさんとロアチェさんである。イオくんに目配せしてみたところ、無言でサンドイッチと卵スープを取り出している。あ、市販のコロッケにソースを塗ってパンに挟んだコロッケサンドだ。イオくん僕それ食べたこと無い。
「ゴーラで作ったやつ。明日の朝出してやる」
「くっ、心読まれたけど食べ物に関する感情は自分でもわかりやすい自覚しかない……!」
ばっと顔を輝かせたロアチェさんがいそいそとカウンターに座ったので、僕達はとりあえずその周辺に集まった。食事してる人は食事に集中してほしいんだけど、プリンさんが「見張ってないとちゃんと食べるかわからないのよね」と言うので。
すごーく僕の回りにもいるタイプだ。雷鳴さんもこのタイプだけど、身近なところだとイオくんのお兄さんの常磐さんとかと同じタイプ。食事中でも他のことに気を取られたら中断してそっちに熱中しちゃうような人種である。
「師匠はこんな感じだけど、すごく編み物上手だしデザインセンスも素晴らしいのよ……」
「猫デザインのものある? 購入を検討します」
ねこー♪
にゃーん♪ とご機嫌なテトさんに微笑んで、プリンさんは右の方のテーブルを指さした。動物系のモチーフはそこら辺らしい。じゃあロアチェさんの食事が終わるまで、ちょっと見せていただきましょう。
「猫いるかなー?」
ねこー、ちょうちょでもいいよー。あとねー、くじらさんと、りゅうー。
「ゴーラだから、鯨さんはあるかも。……あ、これトカゲかな? 爬虫類好きって言ってたっけ」
とりさんはー? ピーちゃんせんぱいー。
これ編み物で柄編んでる……? 色違いで柄つけるのって、2色の毛糸使って編み込むのかな。めちゃくちゃ細かい作業なのでは。
「あ、こっちはワンポイントの刺繍だ。猫がいたよテト」
しろねこー?
「んー、こっちは茶白さんだねえ」
これは……毛糸の靴下と手袋かな? 刺繍だと細かい柄や表情まで入っててすごくかわいい。サイズが小さいから子供用だと思うから、流石に買えないけど。あ、こっちのネックウォーマー? 輪っかになっててかぶって首をガードするやつ。これ、紫がかったグレーに白の毛糸で猫が歩いてる柄が入ってるから、これは白猫と言えるかも。
「白猫いたよ」
すてきー♪ おいくらー?
「テトお金持ってないでしょ。買うなら僕だよ」
お値段は……3,000Gか。手編みならもっと高いかと思ったけど、どうやらお値段は毛糸の品質で決まるっぽいな。ポンチョみたいな大きなものだと6,000Gとか7,000Gとかだけど、使ってる毛糸の量も違うんだろうし。
購入しようと思ってネックウォーマーを持ってプリンさんたちの方に戻ると、なんか結婚式に出るために必要なものについて色々と話が弾んでいるっぽかった。
「ネクタイはあったほうがいい。絶対にいい」
と力説しているロアチェさんである。ヒューマン、もしくはそう見える種族はネクタイしてないと他の参加者がネクタイ貸そうとしてくるらしい。服装に合わないネクタイむりやり身につけるより、最初から服装に合わせたやつをつけとけという話だそう。
「あ、ナツは別にいらない。エルフはネクタイしない」
「何その種族差別……!?」
「正装の違い」
ドワーフとかは軍服っぽいの、鬼人は和装っぽいの、フェアリーは民族衣装っぽいのがあるらしい。獣人さんたちは基本、ヒューマンと同じなんだそうだよ。で、エルフは魔術師っぽい服装してれば良いらしいので、ケープをちょっと豪華なローブとかコートに変えればそれで良いと。
妖精類はそれぞれ民族衣装っぽいのを持ってるとかなんとか。
「ナツは、もらったばっかのシャツが良い感じだしな」
「ああ、これ銀糸の刺繍がきれいでいいよね」
イオくんに言われたのでちょっとケープ脱いでシャツを見せてみると、ロアチェさんは「なにそれ良いね」と頷いている。
「すごくエルフっぽいやつだ。それ見せたほうがいい」
「エルフっぽいんだ……? 靴は革靴を買ったほうがいいですよね」
「ブーツはだめ」
じゃあやっぱり買わなきゃだな。
僕達はこの世界の常識については不安があるので、プリンさんがロアチェさんから聞き取った内容を全部メモしてくれて大変助かります。出席者は宝石NGとか武器・防具は当然NGだからしまっとけとか。
「師匠、女性はワンピースでいいって聞いたんですけど」
「女性はそれでいい。あ、生花はNG。結婚式で生花を持つのは花嫁だけ」
「その花嫁さんの着るドレス、見せてもらったんですけどあまりに地味で。刺繍入れさせてもらいたいんですけど、おすすめの柄はありますか?」
「そんな楽しそうなことになぜ師匠を誘わない?」
「師匠は飲食忘れて没頭した上にとんでもない豪華なもの作りそうだからちょっと……」
「否定できない!」
出来ないんだあ。
なんというかプリンさん、すごく良い師弟関係を築いているなあ、とほのぼのする僕なのであった。




