41日目:ルーアさんとの再会
プリンさんが快く了承してくれたので、パスタランチを楽しんだあとはスペルシア教会へ向かう。……大量の肉を! 土産に持って!
「このためにハニーラビットもワイルドピッグもたくさん倒してきたのだ!」
「出たよ子供にいいとこ見せたい奴が」
「子供の笑顔は人類の宝……!」
「本音は?」
「ナツお兄ちゃんすごいって言われたい!」
「正直者め」
お子様に尊敬のまなざしで見られるためなら、多少の苦労は厭わない僕です。イオくんどのくらい差し入れするー? あんまり大量でも迷惑だよねー?
「スミカに直接聞けばいいんじゃないか」
「確かに! そうしよう」
南北通りを南へ向かい、ギルド前通りの交差点で西門方面へ。
スペルシア教会はギルドに隣接してるから、朝来た道を戻るような感じになるけど、教会は10時から15時までしか解放してないから許されるはず。
「テト、今日も子どもたちと遊んでくれる?」
まかせるのー! しんそくのはしりでほんろーするのー。
「手加減してあげてね……!」
ふんすっとやる気を見せるテトだけど、前回も結局おにごっこ負け無しだったみたいだし、今回もそうなるかな? ただ、逃げるテトを追いかけ回しているだけで子どもたちは楽しそうだったし、まあいいか。
「ピーちゃんは子どもたち苦手だから、一度戻しておく?」
「ソウスルワー、マタアトデヨンデネー」
やる気に満ちたテトの隣では、子どもが苦手なピーちゃんが一時帰還。そういえば以前も子どもは苦手って言ってたね。
同時に、居眠りから起きたシャルもホームに一時的に戻った。まだ小さいシャルを子どもたちに見せたらもみくちゃにされそうだし、これはやむなしだ。
というわけで、3人と1匹で教会に足を踏み入れ、礼拝堂でお祈りをしてから、孤児院に面した中庭へ向かう。
「プリンさんは教会初めて?」
「他の街にもあるのよね? 私は初めて来たわ」
「ご縁がないと行けない場所、多いよねえ」
スペルシア教会は大抵ギルドに隣接してるらしいけど、湯の里ではダンジョン隣接だったから絶対ではないみたいだし。やっぱりクエストがないとなかなかたどり着けない場所っぽい。
中庭へ続く扉を開けると、そこで遊んでいた数人の子どもたちが、「猫のお兄ちゃんだ!」と僕達を指さした。……猫のお兄ちゃん……間違ってないけれども!
「こんにちはー! スミカさんいますか?」
「いるよー! よんでくる!」
「猫ちゃん今日あそべるー?」
「おいかけっこしよ!」
わーっと駆け寄ってくる子どもたちに、テトが愛想よく「いいよー! まけないのー!」とお返事して、勢いよく庭へ走っていく。その後を追いかけて数人の子どもたちがわーっと歓声をあげながら駆け出した。転ばないようにだけ気をつけてほしい。
教会奥にある建物が、子どもたちとシスターさんの待機所となっている。スミカさんがその建物から顔を出して、僕達を見つけて「あら」と笑顔を見せた。
「いらっしゃい。大問題を解決してもろうて、ほんにありがとうねえ」
「こんにちはスミカさん! セスくんに、ルーアさんが戻ってるって聞いたので会いに来ました」
「せやねえ。大変だったんよ、えらい泣いて泣いて」
スミカさんの手招きに応じて、前回もお呼ばれしたガーデンテーブルへ。プリンさんを友だちですと紹介したあと、ほうじ茶っぽいお茶を出してもらって、僕達からはお茶菓子を提供する。あ、そうだお肉! 忘れないうちに差し入れしとこう。スミカさん、子供たちどのくらい食べますか?
「高級品やわあ。今夜は争奪戦になりそうやねえ」
「ハニーラビットとワイルドピッグありますけど」
「4つ……5つずついただけるとありがたいわ。えらいおおきにねえ」
ほんわかしたスミカさんの口調からは、とても「鉄拳のスミカ」なんてニックネームがついていたとは思えないけど……鬼人さんだもんなあ、強いんだろうなあ。
イオくんがお肉を差し入れしていると、建物の奥からだだだっと誰かが走ってくる音がして、建物の扉がばあんと開いた。見ると見覚えのある黒髪の女性が中庭に駆け込んでくるところだ。そう、湯の里でちょっとだけお会いした、ルーアさん。小柄でキリッとした感じの女性である。
こうしてみると、ルーアさんはスミカさんに似せようとしてるのかなって雰囲気があるね。スミカさんの話だと、ルーアさんも孤児院出身で、小さい頃からよく知っているんだとか。子どもたちが「ルーア姉ちゃん」と親しげなのも頷けるね。
「すみません! ロイドを助けてくださったトラベラーさんがいらっしゃっていると聞いて!」
「あらあら、騒がしくしたらあかんよ、ルーア」
「だってお礼を……って、え?」
ルーアさん、勢いのまま僕達の前までやってきて、僕とイオくんを見て目を見開いた。そのままぐるりと周囲を見回して、庭で子どもたちと遊んでいるテトを発見して「あ!」と叫ぶ。
「きのこのトラベラーさん!」
「きのこ……?」
「きのこでしたけれども!」
「きのこだったなそういえば」
「あっ、ごめんなさい、すごく印象に残っていて……!」
慌てて口を塞ぐルーアさんだけれども、まあきのこは印象に残っただろうなとわかるのでそれは良いですよ……という気持ち。あのときルーアさん、きのこご飯食べたそうにしてたっけ。きのこの魅力を知る人が一人でも増えるなら大歓迎です。
「ナツさん、きのこって?」
「あ、如月くんは御存知の通り、例のダンジョンでゲットしたやつです」
あの時、教会の隣の敷地できのこご飯を炊いてもらって、おにぎりを作ったんだよ。そんでそれをスペルシアさんに捧げるために教会に行きましてですね……という話をしてみたところ、如月くんとプリンさんはなんとも言えない顔をしていた。
「すごくナツくんたちらしいわね……?」
「そんな出会いだったなら、そりゃきのこの人になっちゃいますね……?」
どうしてそうなった? って感じの反応である。それは僕が知りたいけど、多分きのこが美味しいから悪いのです。だって美味しいからすぐ食べたいってなるわけで。
「きのこご飯が正義ということだね」
「ナツの正義は幅広いな」
「雄大な正義」
「海かよ」
歯切れ良いツッコミありがとうイオくん。
まあとにかく、ルーアさんは婚約者を救出したトラベラーというのが知ってる人だったことに、だいぶ安堵を覚えたらしい。ちょっと張り詰めていた雰囲気が消えていく。
「ええと、確か……ナツさんと、イオさん、でしたね。まさかお二人が救世主様だったとは思いませんでした。本当に、本当に、ありがとうございます」
「ああ、いえいえ。僕たちにとっても乗りかかった船みたいなものでして」
「もともとはグロリアからヴェールを頼まれたからだな」
「そ、そうでした。ヴェール。あれも届けてくださったのはお二人だったんですね」
重ねてお礼を言うルーアさんに、僕はとりあえず如月くんとプリンさんを紹介した。僕達の友達で、如月くんは<調薬>を持ってて遭難者の救出も一緒にやったんですよーってな感じに。
あの時の遭難者たち、重症のひとたちはすぐ入院になったんだけど、ロイドさんたちは軽傷だったからそのまま家に帰れたんだよ。
聞けばロイドさんもこの孤児院の出身で、今は近くに居を構えているとか。ルーアさんとは孤児院時代からのお付き合いなんだね。
「薬師様にも痛み止めと化膿止めをいただき、誠にありがとうございます」
「いえいえ、大事に至らなくてよかったです」
びしっと直角の礼をするルーアさんに、如月くんはちょっとだけタジタジだ。プリンさんがそれを見て苦笑し、話題をそらしてくれるようだ。
「でも、本当に良かったわね。ルーアさんたちの結婚式はいつ頃なの?」
「あ、ええと。実は1週間後なんです」
「まあ! すぐなのね、もう準備は終わっているのかしら? 何かあればお手伝いするわ」
「ありがとうございます」
同じ女性同士だからか、ルーアさんはプリンさんに対して、より気楽な感じになった。照れたような微笑みを浮かべて、孤児院の子どもたちがお祝いの折り紙を折ってくれている、という話をしてくれる。
「結婚式も、スペルシア教会で行う予定ですから。ヴェールも無事に届きましたし、スミカさんがドレスも用意してくださったんです」
「私が若い頃に着ていた着物のリメイクなんやけど、喜んでもらえてよかったわあ。結婚式のドレスにするには、ちょっと地味やけどねえ」
「そんなことないです! ドレスなんて、着ることができるだけでも嬉しくて……!」
嬉しそうなルーアさんの言葉に、スミカさんもにっこりである。そう言えばこの世界のウエディングドレスって、やっぱり白いのかな? ちょっと気になったので聞いてみると、別に色の指定はないらしい。
「ヴェールは白ですけど、ドレスに決まりはないですよ。新郎と並んだときに変じゃなければ、何でも大丈夫です」
「へー、そうなんだ! アクセサリーとかも自由?」
「決まりはないです。宝石は流石に難しいので、色ガラスとか魔法石とか……」
あ、魔法石! それなら僕もなにかお祝いを作れるかもしれない。えーと、いくつか暇を見つけて魔法を込めておいたから、在庫がそこそこ残っている。えーと、お祝いだと光魔法がいいかな? ピュリファイを込めてあるほんのり金色の魔法石がいいかも。
早速……って、さすがにこの庭でやることじゃないか。あとで作ってプレゼントしよう。それに、なんかギルドの作業場使ったほうが、屋外で生産作業するより効率がいいような気もするんだよね。
前に、湯の里で外で出張お守り屋さんやった時、ちょっとだけやりづらい感じがしたんだよ。気のせいかもしれないけど、多分作業場になんらかの補正がかかっている可能性がある。
僕がそんなことを企んでいる間に、プリンさんがいい感じに話を続けてくれている。
こっちの世界の結婚式、必ずしも教会でやらなくても良いらしい。夫婦でスペルシア教会を訪れて、結婚しましたって報告さえすればOKなんだそう。
でも、ルーアさんもロイドさんも孤児院出身だから、結婚するなら教会で式をして、孤児院のみんなにお祝いの料理とか食べさせてあげたいねって感じなんだって。料理ならば家のイオくんがなんかアドバイスできるかもしれない。あ、そうだよお肉!
「よかったら結婚式のお祝いに、お肉差し入れる?」
なんかゴーラではお高いらしいし、喜ばれるんじゃないだろうか。
そんな軽い気持ちで提案してみると、ルーアさんはぱあっと表情を明るくした。
「良いのですか!?」
「いいよー。トラベラーはいつでも取りに行けるし」
「ありがとうございます! 本当に、良いことも悪いことも……っ」
笑顔のままぺこりと頭を下げたルーアさんは、そのままじわっと涙を浮かべた。おや? その言い方は悪いことがあった感じ?
「なんでも解決は出来ないと思うけど、何かあったならちょっと話してみる?」
ルーアさんにとっては一応、恩人ポジションみたいだし。それならちょっとした相談くらいは乗れるよ? にこやかにそう促してみると、ルーアさんはぐっと唇を噛んで、それから大きく息を吐いた。
「その、不幸な偶然が、重なっておりまして……」
「うん」
「私もロイドも、孤児院出身ですし、ろくなツテもなく……」
「ん? 何のツテ?」
「その」
言いにくそうに一度口を閉じたルーアさんは、何度か口を開いて、閉じてを繰り返した。
「その、結婚式には、結婚に許しを与える存在が必要なのです」
ルーアさんが小声で説明してくれたところによると。
教会に「結婚しました」と報告を入れた時、目上の存在に「わかりました、これからも仲良くね」って感じに認める言葉を紡いでもらうことで、結婚が成立する。その存在を「司祭」と呼ぶ……これは翻訳された言葉だから、実際には違う言葉なんだろうけど、僕達の世界で一番近い言葉を探すと司祭になるんだろう。
で、その司祭さん。
身内から選出してはだめ。
新郎新婦と何の関係もない人はだめ。
新郎新婦と目の色が同じ人はだめ。
……と、色々と細かい規定がある。全部で10個ほどの禁止事項があって、それらに当てはまらない人に頼まないといけないんだって。
「当初、司祭をお願いする予定だった方が、病気で入院してしまって」
「もしかして、代わりが見つかってない?」
「そうなんです……」
孤児院出身の2人は、元々そんなに交友関係が広くない。でも全く関わりのない人にお願いできないから、必死で探したそうなんだけれども。
「難航しております」
時間がないので、遠方から呼ぶことも出来ない。でも全ての条件を満たす人なんて……と途方に暮れているという話である。これは……クエストだね、紛れもなく。僕の<グッドラック>さんが、探してあげましょうよ! って強く訴えてくるのを感じる。
そっとイオくんたちの方を見てみると、イオくんはうんうん頷いているし、それを見たプリンさんと如月くんも笑顔で「どうぞどうぞ」のジェスチャー。理解のある同行者さんたちで嬉しいです!
「ルーアさん、見つかるかわかんないけど、僕達も探してみるから、その条件を教えてもらっていい?」
「本当ですか!」
「うん、なにかしらルーアさんたちに関係のある人……もしかしたら見つかるかもしれないし」
「助かります、今はとにかく、少しでも可能性があれば……!」
大丈夫、多分見つかるよ、とは言葉を飲み込んでおく。でも自信がある。
だって<グッドラック>さんがノリノリだもん!




