40日目:トラベラーさんも色々
いつも誤字報告ありがとうございます、助かってます。
「また人様の猫にご迷惑おかけしてるんじゃないわよー!」
すっぱーん!
と非常に良い音を立てて振り下ろされるハリセン。殺傷能力はないと聞いていても思わずひえっとなるくらいの大音量である。
「ぐふう!」
とハリセンにふっとばされたロウガさんが、空中で回転しながらべしゃっと地面に落ちる。そこへ、すかさず次の指示が飛んだ。
「ルナルナいっけー!」
「ニャー!」
掛け声に合わせて、びゅっとかけていったのは小柄な黒猫。倒れ伏すロウガさんの背中に乗り上げ、尻尾でべしべしとその背を叩きながら「ニャニャニャ!」と何か文句を言っていらっしゃる。
カオス……!
そんなカオスな空間を、「おおきいおとしたのー!」と涙目で僕にすり寄ってくる家のテトさん、かわいいの極み。あのハリセン、あんな音するのにダメージはゼロらしいよ。もちろんふっとばされて落ちた時の落下ダメージはあるけれど。
さて、ハリセンを振り下ろしたのはフェアリー族トラベラーのミルミルさん、そしてロウガさんの上で尻尾攻撃を繰り返している黒猫さんは、ミルミルさんの契約獣のルナルナちゃんである。
ロウガさんがテトを撫で始めてから少しして、声をかけられたのだ。なんでもロウガさんのパーティーメンバーなんだそうで。
「また人様に迷惑かけてんのマジありえんしー。ごめんねー、すぐ回収するから許して?」
「ああ、いえいえ。うちのテト撫でられるの好きなので大丈夫です。あ、僕はナツ、こっちのイケメンはイオくんで、あの白猫は僕の契約獣のテトです」
「ごていねいにありがとー。ウチはミルミル、そんで、この黒猫はウチの契約獣のルナルナ。よろー」
フェアリーさんって、身長30センチくらいしかないから、慣れるまで普通に行動するのが超難しいらしいんだよね。だから、プレイヤー人口はすべての人種の中で一番少ないんだ。僕もトラベラーのフェアリーさんと知り合ったのは初めてかも。やっぱめっちゃ光ってるな……彩度高い上にきらっきら……。
そのミルミルさんがでっかい葉っぱハリセンを構えた時、「あれ、町中で武器攻撃は出来ないんじゃなかったっけ?」と思わず声に出すと、ミルミルさんは笑顔で答えた。
「これ、攻撃力0だし。吹き飛ばしスキル付きだから吹っ飛びはするけど、ダメージはくらわんから安心してー」
「なにそれ逆にすごい」
「あ、でもちょーでかい音すっから、うるさいかもー? でかい音苦手だったら耳塞いどいて。ルナルナ、制裁の一撃だよー」
「ニャ」
というわけで、先程のクリーンヒットへと繋がるのであった。マジで超いい音したな。
ちなみにここまでの間、イオくんの口数はゼロである。さっきはあんなに前衛らしく前に出てくれたというのに、ミルミルさんに話しかけられた瞬間に「俺は関係ない」とばかりに僕の後ろに下がったよこの人。よろしい、頼りにしてくれたまえ!
「ところでロウガさん、なんか嬉しそうでは?」
「ルナルナに踏まれて喜んでるっぽいねー。猫好きだからなー、罰になんないんだよねー。ルナルナー! そいつこっちの白猫さんに浮気したから情状酌量の余地はないぞー、ひっかいちゃえー!」
「ニャッ!」
ルナルナちゃんは「心得た!」とばかりにロウガさんの背中でバリバリと爪とぎをするのであった。「装備の耐久がッ! いやしかしルナ様の爪とぎ板の役目、他の誰かに譲るわけにはいかぬッ!」とか言い出すロウガさん、普通に怖いな……。
ちょっと、遥か高みにいるって感じがするね……。
喜ぶロウガさんから目を逸らし、ついでに話題も逸らしてみる。
「黒猫もかわいいねー。ルナルナちゃんはどんな子?」
「ふふん、ウチのルナルナかわいいっしょ? ロクトで契約したんだー、ミッドナイトキャットってーの」
ふむふむ。ミルミルさんが自慢げに語ってくれた内容をまとめると、暗闇に強い偵察が得意な子って感じか。ロクトは鉱山の街だから、洞窟とか坑道とか暗い場所が多くて、そういうところで大活躍するんだとか。
一部の採掘場では、街の外まで続いているでっかい坑道とかもあって、そういうところは魔物も出る。夜目の利くミッドナイトキャットはそういう場所での偵察が得意で、ロクトでは結構ポピュラーな契約獣らしい。
チャームポイントはちょっと煙っぽくなっている尻尾で、これは暗いところでほんのり光らせる事もできるんだとか。
「へー、かわいい上に優秀とはさすが契約獣」
「ねー、契約獣とは一期一会だけどー、マジ運命感じちゃうよねー。まあウチ以上に運命感じて下僕になってるロウガがいるんだけどねー」
大地にひれ伏すロウガさんの上で、ルナルナちゃんは丸くなってマジ寝の姿勢である。そこで「この上なく神。え、何のご褒美ですか?」とか真顔で呟いているロウガさん……。申し訳ないけどドン引きさせてもらうね……。
むむー。テトもかわいいよー? くろもよいけどしろもすてきなのー。
「もちろん僕にとってはテトが一番かわいいよ!」
わかってるならよいのー。
僕の答えに満足したらしいテトさんは、うむっと一つ頷いてから、僕に一回すり寄って、それからルナルナちゃんのところに向かった。
はじめましてなのー。テトだよー。
といつものご挨拶をおすましポーズで。それに反応したルナルナちゃんが、テトを見て丸まってた格好からしゃきっと背筋を伸ばしておすわりポーズへ移行する。
でっかい白猫と普通サイズの黒猫さんがにゃーにゃー会話してるの、めちゃめちゃかわいくないか……? こうして聞いてみると、テトの鳴き声高いねえ。ルナルナちゃんのほうが落ち着いた声色に聞こえるね。
そうなのー? それはよくないのー。せーさいやむなしなのー。
ニャー。ニャニャ?
ナツはそんなことしないよー。じまんのけーやくぬしだもーん。
ニャ……。ニャー。
おっと、これはルナルナちゃんの愚痴を聞いてる感じだろうか。っていうかルナルナちゃんの契約主はミルミルさんなのに、なぜにロウガさんが話題の中心に来るのだろうか……。
「あー、ロウガはなんか、あれだからー」
「あれ?」
「自分なんかが御猫様と契約するなんておこがましい! とかいって」
「よくわかんないけど、ちなみになんでそんなに猫好きなのに犬獣人なんだろう……?」
「アイドル激推ししててもアイドルの顔にはなりたくない、アイドルを見つめて楽しみたいんだって」
「わかるような……わかんないような……!」
なんかこう、アサギくんよりディープなことはわかったよ。ちょっと深淵を覗き込んだ気持ちになるね、いろんなトラベラーさんがいるものだ……。
いつまでもそんなことを道端でやっていられないので、デレデレでルナルナちゃんに踏まれているロウガさんは、適度な所でミルミルさんに引っ張られてギルド方面へ消えていった。ルナルナちゃんがホームに戻って「ああー!」と絶望の声を上げるロウガさんを問答無用で引っ張るフェアリーさん。目立ってるなあ。
まあ、ミルミルさんとは猫スクショ交換のためにフレンド登録したので、今後も御縁がありますように。
「イオくん、世界って広いね……」
「こんなのでそれを実感するんじゃねえよ……」
ひろいー? ナツのってくー?
「ありがとうテトさん、でもハニーラビット倒しに行くから、また後でね」
ざんねーん。
ちょっと呆気にとられちゃったけど、いつまでもぐずぐずしてはいられない。僕達には肉を確保するっていう大事な使命があります。ちょっと足止め食らっちゃったけど、レッツゴー北門、そしてレッツゴー北方面!
いざ、肉を集めに!
*
「行け、【アイスアロー】!」
「っし、【ロックオン】!」
ところでここのハニーラビットは<樹魔法>使ってきます。弱点は氷……だけど攻撃魔法あんまり効果ない。
湯の里の近くで遭遇した川沿いに住んでるハニーラビットは、確か<水魔法>使ってきたんだよね。同じ魔物の種類でも、生息地によって違う魔法使ってくるパターンあるのか。勉強になるねえ。
せっかくなので、残念ながら全然育ってない<氷魔法>を、頑張ってレベル上げして行かねば……!
「【フリーズ】!」
「ナツ、バフ頼む!」
「OK! 【ディフェンシブ】【パワーレイズ】【ヘイスト】【ホーリーギフト】、そして【ハッピーエフェクト】! おまけの【向上】!」
「よっしゃ、肉よこせ肉! 【打撃】!」
基本的には物理が良く利くので、氷魔法以外ならイオくんに攻撃を任せちゃったほうが良い。イオくんにバフかけはできるんだけど、デバフは抵抗力高くてあんまり通らないんだよね、このハニーラビット。攻撃は葉っぱカッターみたいなのとか、何かムチみたいな木の根で攻撃されたりするので、前兆が見えたら即座に防御していく。
「【アイスウォール】!」
なんとか間に合ったウォールに、木の根ムチがばちんと当たって弾かれるのが、結構気持ちいい。
「【クラッシュ】!」
イオくんが宣言したのは、おそらく盾のアーツだけど、盾を素早く正面から叩きつけて押しつぶす感じの攻撃だった。小動物に向けて攻撃入ると、なんか弱いものいじめしてる気持ちになる。ハニーラビットのレベルが2つ上だったのに、この攻撃はかなり効いて一気に敵のHPバーを削りきった。強い。
「っしゃ、肉3つ! ナツいくつ落ちた?」
「僕は2つ……だけどなんか初めて見るドロップ品があるから、多分これレアドロップかな」
「マジか」
さすが幸運の権化、とか言われたけど、まあ<グッドラック>さんと新生ユーグくんのおかげかな。で、そのレアドロップが何かというと……。
「アクセサリ用素材なんだけど……ウサギの後ろ足って、幸運のお守りだったっけ」
「アメリカだったかな」
へーそうなんだ。イオくんやっぱ詳しいな。
流石に生々しい後ろ足の形だったら微妙な気持ちになっただろうけど、今回のレアドロプ品はピンクゴールドのメタルチャームみたいな感じのものだった。後ろ足っていうか、足の形をしたプレート? これならアクセサリ作るときも使いやすそう。
アクセサリを作る技能は<細工>だけじゃなくて、プリンさんがやってる<編み物>もそうだし、鍛冶技能から派生の<金属細工>や、<裁縫>から派生する<革細工>と派生したりする。僕が持ってる<細工>は、一番簡単にアクセサリが作れる汎用的なスキルだけど、完全に魔力で合成するから自分でアクセサリの方向性を決めたりとかは出来ないんだよね。
その点、例えば<編み物>は使う糸によって方向性が固定できたり、<金属細工>や<革細工>なら形を自分で作れるし、より自分のセンスを活かせるんだとか。
センスのない僕には扱えそうにないね!
「肉は今14個だから、30目標にして集まったらワイルドピッグに切り替えるか」
「それもいいね! 僕達お肉めっちゃ食べるからなくなるの早いし」
「それな。ハニーラビットはてりやきでも生姜焼きでもうまいし、煮込みにも合って使いやすいんだよ」
湯の里のあたりで多めに確保したはずなんだけど、今在庫無いって言ってたし、相当食べたよね。テリヤキサンド美味しい。あとハニーラビットの肉って、他の肉に比べてドロップ量少ない。
フォレストスネークが豆腐くらいの塊を落とすのに対して、ハニーラビットの肉はその半分くらいが1個だから、消費されるのが早いんだろうなあ。
ちなみにワイルドピッグはフォレストスネークの倍くらいの大きさで1個だから、魔物の大きさにもよるのかもしれない。
イオくんが<投擲>で次々釣ってくれるので、安定した広い場所で確実に倒していって、6匹目のハニーラビットを倒した時、ようやく僕のプレイヤーレベルが上がった。
「レベルアップ!」
「お、やったな。俺も上がった」
お肉のドロップ数も30ちょいで、良い感じに一区切りだ。時間は15時を回ったところだから、丁度いいし、このあたりで休憩かな。テトも退屈してるだろうし。
「あそこのセーフエリアで休むか。久々にスキル確認したくなった」
「あ、僕もー。最近取得可能リストよく見てないから、なんか面白いスキルとか出てないかな」
「ナツには期待しているぞ」
「無駄なプレッシャーはやめよう」
そんな毎回珍しいスキルなんて出ないから。
……でも出てたら大歓迎だけどね!




