40日目:リゲルさんの報告
いつも誤字報告ありがとうございます、助かってます。
購入した絵本は、メリカさんモデルのでっかい黒い鯨さんが、ゴーラを救うために賢い子供と一緒に海を冒険する……みたいなお話だった。
ぱらっと読んでみたけど、とにかくメリカさんかっこいい! って感じを全面に押し出している。わかる。かっこいいよね巨大な黒い鯨。今は家くらいの大きさになっちゃってるけど。
これはテトに読んであげるのが楽しみ……だけど、夜までお預け。テトは残念そうだったけど、リゲルさんとの約束があるからね。
ブランシュさんと別れたあと、絵本を供物台に置いてメリカさんに送ったところ、アクアさんからのお礼状と袋一杯のアサリをもらったよ。なお、イオくんが送ったおにぎりには袋一杯のわかめだったらしい。唯一絵本にだけ送られてきたアクアさんからのお礼状には、「良い品。感謝。謝礼」という単語の羅列が書いてあった。アクアさん、相当気に入ったのかな。
アサリはありがたく料理させていただきます。イオくんが。
その後もサクサクと買い物を終わらせて、リゲルさんとメッセージのやり取りをして、丁度お昼ごろに北門前の広場で合流。合流を喜ぶテトさんが駆け寄ってリゲルさんの回りをぐるぐる回る。
おしごとおつかれさまなのー♪
と労りの心を忘れないテト、とてもえらい。リゲルさんとは今日で一旦お別れだからね、思う存分戯れておくといいよ。
「昼食の店は予約してある。行くぞ」
「ついていきます!」
「頼む。テト、ナツの護衛してろ」
わかったのー♪
楽しそうなテトは、僕の右側にピトッと移動した。もうここが定位置なので、実に歩きやすい距離感で寄り添ってくれてありがたい。
リゲルさんが案内してくれたのは、イオくんたちが武器の強化をしてもらったラドン工房のある、朝焼け通り。そのどん詰まりの突き当りにあるのが、「隠れビストロ・白雲亭」だ。
「個室を予約できるが、1階にテーブル席もある」
「すごい、大きな店ですね」
ゴーラで大人気の、どばーんと開放的なお店。広々とした佇まいで、立地的に、港からも店に入れるようになっている。だからか、1階はかなり混み合っている様子だった。
リゲルさんはスタッフさんに声をかけて、予約のことを告げる。領主さんの名前を出したのか、速やかに2階へと案内された。
「こちらです」
と通されたのは、2階の海側の部屋。2階は全室個室みたいで、海側か街側かで広さが違うみたいだった。そんな中で一番広い部屋へ案内されたので……あのリゲルさん、この部屋3人と1匹にはちょっと広すぎませんか……? ってなる僕である。
「ランチが15,000Gから、30,000Gまで。このくらいの価格帯なら、毎日は無理でも通えそうだな」
「うーん、今はお金あるから問題ないけど、ディナーは最低でも50,000Gからだし、夜は無理だね」
おたかいのー?
「ちょっとお高いねえ」
「私の奢りだ。高給取りだからな、安心しろ」
「リゲルさん、もうそれ忘れていただきたい!」
なんかフッて感じに笑われました。くっ、しばらくこれ言われ続けそう……! ぐぬぬとなっている僕を横目に、リゲルさんはスタッフに30,000Gのセットを3人分とデザートだけ1つ多く、とオーダーしている。テトに優しい。
どうやらこのお店のランチは、前菜、スープ、選べるメイン料理+本日のパスタ、最後に選べるデザートとなるらしい。昨日の夜教えてもらったように、アナトラ世界のお高いレストランは、コースで順番に運んできてもらうパターンとセットで全部いっぺんに持ってきてもらうパターン、どちらも対応してくれる。
リゲルさんは今回もセットで頼んでくれたので、また一気に料理が運ばれてくるパターンだ。
メインとデザートを選べるので、テトと一緒にメニューを確認する。
メインは魚料理と肉料理、6種類から選べる! ということで僕は牛ステーキ一択です。いや魚も良いんだけどね、朝いっぱい食べたから昼は肉がいいな。そして僕と同じことを考えたらしいイオくんも牛ステーキ。気が合うね本当に。
そしてデザートは……ケーキが4種類……! わー、これは悩むぞ……!
「ロールケーキ……! チョコレートクリーム……! 季節のパウンドケーキに、レモンパイ……! これ絶対どれも美味しいやつだ、どれにしようテト」
くりないー?
「栗はないかなあ。レモンパイはすっぱいからテトは好きじゃないかも」
じゃあ、しろいのあるー?
「ロールケーキは白いクリームだよ」
テトそれにするのー。しろいのならきっとすてきにおいしいのー。
「わかった、テトはロールケーキだね。僕は……パウンドケーキにしようかな?」
季節のドライフルーツやナッツ類が入ってるらしいから、きっと食感が良いやつだと思うんだよね。僕、ナッツ系のパウンドケーキ大好き! 贅沢をいうならフルーツ系のタルトがほしかったけど、ゴーラはどっちかというとクリームのほうが入手しやすいもんね。
「俺はレモンパイだな。リゲルは?」
「私はパウンドケーキにしよう」
さくっとオーダーが決まると、スタッフさんたちがささっと動いて僕達にレモン水を配ってくれて、一度全員が部屋を出ていく。少し待ってればまとめて持ってきてもらえるはず。
「さて、料理が来る前に報告しておくか。まずは救出した遭難者のことだが」
時間を無駄にしないリゲルさんは、さくっとそう切り出した。
「全員、身内と連絡が取れ、無事再会となったそうだ。是非お礼をしたいと言ってきている者も多いから、如月と一緒に皆でカパルのところへ顔を出すように」
「はい!」
「わかった。明日以降になる」
「取りまとめはカパルがやる事になっているが、聖獣や神獣も関わったことでもある。もし何かあれば、全部ナナミのせいにしてしまえ」
「なるほど」
え、つまり、ラメラさんやメリカさんにツテがあるのはリゲルさんだよ! って言って誤魔化していいってことかな? それは助かるかも。会わせてほしいとか言われても困るしね。
「それから、ラメラへの奉納大会……だったか」
「あ、それ! どうなりました?」
「開催は領主も乗り気だ。サンガには料理大会があるし、イチヤでも何か祭りが企画されているのを聞いて、ゴーラでも何かやれないかとは思っていたらしい」
あ、飾り切り大会! もう計画は進んでるのかな? ルーチェさんとサームくんの交流もうまくいけばいいなあ。でもあれがもうゴーラで噂になるくらいなら、企画書とかは出来てるのかも。楽しみだねー。
「何か問題ありそうですか?」
「やはり奉納物に順位をつけるのは良くない、というところだな。そこで、感謝祭のようなイベントにして、ラメラ本人は無理でも人魚族を招けないかという案が出た」
「おお!」
なるほど、それはいい考えかも! 人魚族さんはナルバン王国ではレアな存在らしいし、立派にラメラさんの代理になりそう。
それに、ラメラさんはとても強い竜さんなので、多分エクラさんと同じように姿と気配を消せると思うんだよね。人魚族のみなさんと一緒に見に来ちゃって、お気に入りの職人さんを探すのがいいんじゃないかな?
「一応、エクラを通してラメラに聞いてみたが、ラメラもかなり乗り気でな」
「ですよねー」
「是非気に入った職人に鱗を渡したい、と張り切っているようだ」
「それ言ってたなあ……」
ルミナスシェルの作り方も一緒に教えるんだろうか。ただ鱗をぽんっと渡すだけだと、すぐ劣化しちゃいそうだけど……まあその辺はラメラさんがうまくやるかなあ。
無制限にどんなものでもOKにしてしまうと、奉納されるものが多くなりすぎるかもしれないから、モチーフは竜に限定して、海の素材を使うことを条件にしようって方向で話が進んでいるらしい。奉納大会に出品したものは、すべて人魚族に持ち帰ってもらい、ラメラさんに必ず渡す、と宣伝する予定なんだそう。
「ゴーラは聖獣ラメラの信仰者が多い。盛り上がるだろうな」
「いいですねー。喜ぶラメラさんが目に浮かびます」
絶対すごく喜んでくれると思う、ラメラさんだもん。もしトラベラーも参加していいなら、僕も何か竜モチーフのアクセサリー作りたいなあ。
このタイミングで料理が運ばれてきて、それぞれの前にセット料理が置かれていく。給仕のプロフェッショナルの仕事なので、食器の音がしなくてすごいなあと思う。
「前菜のサラダとフリッタータでございます」
「そら豆のポタージュでございます」
「メインはイチヤ産フルーツ魔牛のステーキ、ガーリックソース添えでございます。付け合せのライスはこちらに。パンがよろしければテーブル中央の籠からご自由にお取り下さい」
「本日のパスタ、カニのクリームパスタでございます」
「デザートのパウンドケーキでございます」
ぱぱぱっと並べられた料理、素晴らしく美味しそう。そして、ごゆっくりどうぞとスタッフさんたちが全員部屋を出ていく。めちゃくちゃ素早い。
「まずは食べるか」
とリゲルさんが言ったのを合図に、僕達はカトラリーを手に取った。絶対に美味しいよこのお店、だってお高いところだし、今この状態で香りがめちゃくちゃ美味しそうだもん!
「では、いただきます!」
いただきまーす♪
「いただきます」
白雲亭の実力、見せていただきましょう!
なんて偉そうに一瞬でも思ってすみませんでした。めちゃくちゃ美味いに決まってるんだよなあこんなの。僕、昨日の「リストランテ・マーレ」より白雲亭のほうが味付け好きかもしれない。
「昨日のお店もすごく美味しかったけど、すごく品の良いお味だったじゃん? このお店はちょっと味濃いめでめちゃくちゃご飯が進む……! ガーリックソースがめちゃくちゃ美味しい、ところでイオくんこの香辛料何?」
「わからん。いや名前はわかるけどリアルにはない。倉庫街には香辛料置いてなかったから、街で探してみるか」
「是非お願い!」
美味しい! 超美味しい! 味付け濃い目は多分、働き盛りの船乗りさんたちに合わせた味付けなのかもしれないけど、この味嫌いな大学生男子多分いないよ!
繊細な味付けも良いものだけど、こういうガツン! と旨味が押し寄せるのもよいのだ、最高。あとスープ! そら豆のスープがめちゃめちゃクリーミーで美味しい。これ、まじでレトルト食品にしてほしい、毎日食べたい。
「テト! テトこれ美味しいよ! 食べてみて!」
と思わずテトに分け与えるくらいに美味しい。ぺろっと舐めたテトさんがにゃっと目を輝かせるほど美味しいのである。
あまーい!
「でしょー!」
ほのかなしおのおあじがあまさをとてもひきたてるのー。これはすばらしいスープなのー♪
「塩の役割を理解しちゃったかー! さすがテトさんグルメだねえ……!」
甘いものは、ちょっとだけ塩を潜ませるともっと甘くなる、これはトマトとスイカで学べる事実です。テトは賢いねえ。
僕達がいつも通り賑やかに食事してる横で、リゲルさんが黙々と手を動かしている。なんか微笑ましいものを見るような顔でこちらをたまに見るんだけど、リゲルさんもしや僕とテトを幼子だと思ってませんか。……テトは幼子で間違いないけども。
カニのクリームパスタももうなんか贅沢だよ……。だいたいカニが入ってて美味しくないわけ無いからね、海産物とクリームの組み合わせ、強い。
余りにも美味しかったのであっという間に食べ尽くし、残りはデザートのみとなったあたりで、そう言えば、と思い出した。
リゲルさん癒やしセットを作ってきたんだった。またしても渡すの忘れてたよ。慌ててインベントリから竹籠を取り出して……えーと、癒やしのお守り、腰痛のお守り、身体保護のお守り、最大HP上昇のお守り、炎鳥のお守り……ちょっとゆとりがあるから、この隙間に癒やしのお守りを追加して3つくらい入れておこう。よし。
「リゲルさん、これよかったらどうぞ」
「ん?」
「ラメラさんの奉納大会の話まとめてもらっちゃったので、お礼に!」
ナツいっしょうけんめいつくったのー。テトもおうえんしたよー。
テトと一緒ににこやかに差し出した竹の籠を、リゲルさんはすんなりと受け取って中身を確認した。お守りだとわかって小さく頷いたけれども、すぐにその眉間になんかシワが寄る。
「これは……ナツのオリジナルか」
「頑張って作りました! 【フリードロー】難しいですね」
「……いや、まあ。HP上昇だとか、身体保護はまあいい。腰痛、癒やし……問題はこれだ」
リゲルさんがすっと籠から取り出したのは、炎鳥のお守り。リュビとサフィが可愛く寄り添っている図柄は、僕のオリジナルお守りの中でも屈指の良い構図だと思う。
だがしかし、問題とは?
「……はあ。イオ、これはどのくらい広まっている?」
「言いふらすようなやつには渡してねえよ。そういうの、ナツは間違えないからな」
「野放しにするのは危ないぞ」
「言わなきゃバレないとも思ったが、ナツはリゲルに渡した。つまりそういうことだろ」
首を傾げる僕の前で、イオくんとリゲルさんがなんか真顔。……あのー、僕のお守りがどうかした? なんで僕じゃなくてイオくんに会話振るんですかねリゲルさん。そりゃイオくんのほうが色々わかってる説ありますけれども。
もう一度大きくため息をついたリゲルさんは、炎鳥のお守りを籠にしまって、僕をまっすぐに見た。
「ナツ、炎鳥のお守りは二度と他人に渡すな」
「えっ」
「二度と、だ。これは神の力に近いものだ」
……はい?




