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5日目:ランチはご一緒に。


「クエスト進行、期限1年間かあ」

「まあ、ゲーム内1年間なら余裕だろ」


 サームくんのクエストは、1年間の期限付きだった。ついに出てきたよ期限付きクエスト。でも期間が長いから、今までやってきたゲームの期限付きよりはずっとゆるい。助かる。

 アナトラはログインしているときだけ時間が流れる仕組みだから、プレイヤー同士では「長いこと会わなかったね」みたいなことはあるけど、住人は前回ログイン時に会っていれば「昨日会いましたね」になる。

 だから、ゲーム内1年間の期限なら、期限切れを心配しなくても大丈夫だと思う。知らない間に期限切れ、とかは多分ない。


 孤児院から出て、今日も今日とて陽だまりの猫亭へお昼を食べに向かっている。時刻は12時半ごろだから、ゆっくり食べても14時の出発には間に合うね。

「サームくんからもらった本、<鑑定>してみて」

「お? ……あ、なるほど。これはプレイヤー間で回すための道具なのか」

 サームくんが僕に渡してくれた「ナルバン王国に住まう聖獣」という本だけど、これは受け取るだけで白地図に竜の形のアイコンがいくつか出現した。実際に中身を読めるようだから、後でゆっくり読んでみるつもり。サンガについてからでいいかな。

 で、この本を<鑑定>すると、『ナルバン王国の聖獣たちに会えるかもしれない本。この本を入手した者は、信用のおける相手に譲渡することを推奨する』という記述がある。住人は正道から外れることができないわけだから、この場合譲渡すべきはトラベラーの方だ。つまり、トラベラー間で回し読みして聖獣に会いに行こう! という意味だね。

 聖獣たちと会話することで発生するイベントやクエストがある、という意味でもあるんだろう。

「まあ、誰か親しくなったプレイヤーがいたら回すか」

「そうだね、今すぐどうこうって話じゃなさそうだし」

 他のプレイヤーさんたち、たくさんいるんだけど、まともな会話したのは高校生3人組くらいだなあ。少人数推奨ゲームだからか、一人で淡々とやりたい人とか、少人数でひっそりやりたい人が多いんだと思う。僕たちもそうだしね。


 他のゲームだと、最初の広場に陣取って声掛けしてくるプレイヤーが絶対にいたんだけど、アナトラは全くそういうのが無い。キャラメイクからチュートリアル直行だし、チュートリアルは別サーバで個別に行われて職業別の戦い方レクチャーから初期スキル選択、武器の選択等を経てギルド登録までチュートリアル中に全部終わっちゃう。

 戦闘指導のAIさんがすごく親切で、色々アドバイスくれるからやりやすかったなあ。僕も長杖か短杖か迷ったときにそれぞれの利点や欠点なんかをわかりやすく説明してもらってありがたかった。

 チュートリアルが終わってからも、ギルドでクエストを拾えない仕様だから、みんな街中に繰り出していくし。パーティーを組みたかったら公式掲示板で募集すればよいわけで、わざわざ広場とかで大声で声掛けして不審者になる必要はないのだ。

 それにこのゲーム、PCとNPCの区別がつけにくいんだよね。アイコンとかでわかりやすく表示することもできるんだけど、設定しないと行動で見分ける以外にない。僕とイオくんは設定してないから、誰がプレイヤーか住人かは話す内容で判断している。

 まあ、僕は<識別感知>を取得したので区別できるんだけど、わざわざ街中では見ないかな。


 丁度昼時についたので、陽だまりの猫亭は程よく混みあっていた。これは少し待つかも、と思っていたら、店内に知っている顔を発見。

 如月くんだ。

 メロンさんとレモンさんはいないっぽいな。

 声をかけようかどうしようかと思って見ていたら、不意に目が合う。何か察したらしい如月くんの方から「相席しますか?」と聞いてくれた。これまた心読まれているのでは? とちょっと思ったけど、相席はありがたいので気にしないことにする。


「ありがとう、助かる!」

「すまんな」

「いえいえ、この店教えてくれたのお二人ですし」

 ささっと如月くんの席に相席して、今日のランチメニューは、っと。

 マーボーナスセット……中華料理はこの店で出るの初では? 気になるけど、オムライスセットというのもかなりよさげ……いや待って、こっちフォレストスネークの唐揚げだ! めっちゃ興味ある!

「僕、唐揚げセット!」

「言うと思った。ナツはなんでゲテモノ食いに抵抗がないんだ……」

「料理人さんが店で出すものがまずいわけないので!」

 その辺の信頼感大事だと思います!

 僕は他のゲームでも昆虫食とか蜘蛛肉とか別に抵抗なく食べてたんだけど、イオくんはそういうの一切受け付けなかった。どうしても料理前の姿がちらついてだめらしい。

 魔物肉とか食べるゲーム多いし、蛇とか蜘蛛とか言う前に魔物だって思えばカテゴリが違ってくると思うんだけどねー。ワイバーンのお肉食べるのと同じだと思うんだ。まあ、イオくんが食べたくないなら無理して食べる必要もないと思う。好き嫌いは誰にでもあるし、どこまでOKかの線引きはそれこそ人それぞれだ。

 イオくんに食べろと言わない代わりに、イオくんも僕に食べるなとは言わない。その辺の割り切りは大事だよ。


「如月くんは何食べてるの?」

「俺はマーボーナスです、めっちゃうまいし辛さが選べる」

「それもいいなー。イオくん何にする?」

「俺、卵食いたいからオムライスセット」

 注文して到着を待つ間に如月くんと話をすると、レモン&メロンコンビとは一度解散したらしい。二人は仮眠をとってまたログイン予定だそう。

「俺は相方が朝9時以降じゃないとログインできないんで、次の街まで行って転移登録してきちゃおうかと思って乗合馬車予約したんです」

「あー、リアルで9時ってなるとこっちだと結構時間あるもんね。どこ行くの?」

「サンガです」

「あ、同じだ! 僕たちも今日の午後の便でサンガ行くよ」

「え、マジっすか。じゃあ一緒ですね」

 へえ偶然。でも知り合いがいるなら気楽なもんだね。そんな話をしているうちに、僕とイオくんの注文も運ばれてきたのでしばし咀嚼タイム。

 うむ。

 蛇肉は鶏肉っぽいあっさりした感じのお肉。唐揚げが合うねえ。鶏肉に比べるとちょっと辛みがあって、ぴりっとスパイシーな感じで美味しい。

 今後も機会があれば食べておきたいお肉として記憶します。


 食べながら如月くんの話を聞いてみるとレモン&メロンコンビは友人のイチゴ&リンゴコンビとニムへ行って良い装備を探す予定らしい。すごいコンビ感あふれる名前だな。

 如月くんは相方の睦月くんがログインするまでにサンガの転移装置に登録してからログアウトして仮眠をとる予定なんだとか。

「俺が寝てる間に二次職になって装備整えてサンガまで到着しとけって言うつもりです」

「スパルタだねえ」

「まあできるだろ、複合職じゃないなら」

「ロクトだと宝石掘って一攫千金できるって聞いて迷ったんですけどね。公式サイトのアンケートだとサンガが一番人気ないみたいなんで、人の少ない所に行こうと思って」

「えっ、そうなの?」

 意外だなあ。みんな絶対美味しい物好きだと思うし海にも抜けられるのに。

 と思ったら、ニムがダントツ一番人気で、ニムから首都ナナミへ向かうプレイヤーが多いんだそうだ。みんな良い装備をニムで整える! って目標にしてて、そのための金策として先にロクトへ向かってお金を稼ごうというプレイヤーも一定数いると。

 あとイメージ的に、1の次は2、って思っちゃう人も多いみたいだね。

「なるほど。確かに装備は大事だし、美食は娯楽だから後回しでもいいもんね」

 そう聞くと納得かな。

「俺とナツはもうイチヤで長く使えそうな武器見つけたし、金策も困ってないからな」

「あー、めっちゃうらやましいです。俺生産スキルは<調薬>だったんで、売っても微妙なんですよね。レベル上げのために死ぬほど戦ったから、素材売ったお金である程度良い装備買えたんですけど」

 如月くんはどうやら魔法双剣士らしい。腰の左右に1本ずつちょっと婉曲した短剣が下がっている。短剣と言っても、ちょっと長い短剣というか、イオくんの長剣と短剣の中間くらいの長さかな?


「薬は売れないの?」

 疑問に思ったので聞いてみると、「売れるには売れるんですけど」と如月君は渋い顔をした。

「基準を満たしてないと、ポーション系は買ってくれないんですよ。ギルドはどれだけ良い効果の品でも一定価格だし」

「ああ、世知辛いやつ……」

「かといって薬屋に持ち込むと、弟子以外の薬は買い取らないとか言われて弟子に勧誘されるという」

「お? 弟子入りイベントなんてあるんだね」

「それが掲示板によると、弟子になっちゃうとかなりの時間拘束されるらしくて」

「あー、それはちょっと嫌だね」

 ままならないなあ。

 弟子入りしたい! って人もいるだろうけど、0時ログインしてスタートダッシュ決めてる人たちは、基本朝になって混む前に移動を考えてる人たちだ。イチヤの探索はそれなりで終わらせて、後で戻ってこようって感じかな。そんな人たちに長時間拘束必須の弟子入りを提案しても、喜ぶ人は少ないだろう。


「<調薬>の発展スキルが<上級調薬>と<自由調薬>で分かれてて、自由のほうは色んな素材組み合わせてオリジナルの薬を作るってやつなんですけど、そっちだとうまくすれば結構高額取引できるぽいんですけどねー」

「如月くんは上級の方?」

「はい。正直自分で考えて色々試すの面倒で」

「それはそれでわかる」

 試行錯誤面倒くさいよねー。調薬だと微妙なもの作ったら素材も無駄にしちゃうわけだし。あ、そういえば。

「イオくんの料理は売れないのかな?」

 そういえばギルドに持って行ったことなかったし、売る気もないけど。ふと疑問に思ったので聞いてみると、イオくんはオムライスを飲み込んでから答えてくれた。

「ギルドでは売れない。ギルドで屋台をレンタルして売ることはできる」

「ああ、そういう感じなんだ」

 自分で売ってね! 値付け自由だよ! って感じかあ。でも正直、イチヤにも屋台とかたくさんあるし、プレイヤーの店だからって売れるとは限らないよね。

「多分、<上級調理>でバフ付きなら高く売れるんじゃないか? 俺は<料理>選んだから知らないが」

「正直料理バフより普通に魔法バフのほうが手軽だよね」

「それな」

 そもそもボス戦の前とかに料理必死で食べてるのちょっとシュールなんだよね。アナトラはバフ付きとバフ無しを分けているところ、とてもえらいと思う。住み分けは大事。


「なるほど。それを考えると<彫刻>は手軽な金策だったんだね」

「それは間違いないですね。まあ<調薬>は自己使用できるんで、そこ考えるとお得ではありますけど。掲示板情報だと、今一番人気は<裁縫>と<調理>ですね」

「へー、そうなんだ。<調理>は分かるけど、<裁縫>?」

 <調理>はいずれバフ付きが作れるって分かったら人気出るのは知ってるし、そうでなくてもこのゲームは最初からお米があるから作れるバリエーションが豊富だ。普段から料理する人なら選んで損はないよね。

 でも<裁縫>は……?  装備自分で作ったりするのかな?

「<裁縫>の上位スキルがどれもこれも金策として効率がいいらしくて」

「……あー! 刺繍とか!」

 このケープ買うときに聞いたやつか! <魔法図案>!

「それに、最近だと料理と裁縫は小学校で全員やりますからね。多少でもやったことがある生産のほうが良いって意見もあります」

「家庭科でやったね、そういえば」

「<刺繍><レース編み><被服><皮加工>、どれをとっても売値がいいんですよ。派生もまだまだありそうですし」

「ちょっと僕はできそうにないかな。<彫刻>は<上級彫刻>から<金属加工><細工>って出るらしいよ」

「ナツさんそういうの掲示板に書きましょうよ!」

 って言われてもねー。

 実際そうなるかはわかんないじゃん、まだハンサさんにそう聞いただけだし。ちゃんと検証してからじゃないと、不確定情報書き込めないよ。

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