5日目:馬車の集合場所へ
昼食を食べた後、そのまま3人で連れだって東門へ向かう。
僕とイオくんはトスカさんの工房に寄ろうと思ったんだけど、住人情報を確認したらトスカさんの居場所が酒屋さんになっていたので……これは会いに行ってもいないやつだな、ということで断念した。エルモさんも自宅表記だったし、今日は工房お休みっぽいね。
まあ、イチヤにはどうせ後でまた来るし、絶対に挨拶したいって程でもないからいいか。ってことで、如月くんと一緒に乗合馬車集合場所の東門へやってきたのだ。
時刻は13時前で、まだまだ時間に余裕はあるけど、僕とイオくんはアーダムさんに挨拶する予定があるし、如月君は塀の上に上りたいというので早めに行動した。
僕たちが初日に壁の上に上ったことは、イオくんが掲示板に報告済みだったんだけど、どうやら情報に埋もれちゃってたみたいだ。少なくとも如月くんは知らなかった。サンガに行く前に上りたいというので、レッツゴー東門。
一周コースは時間的に厳しそうだけど。如月くんは魔法剣士でHPも多いだろうし、問題ないでしょう。
「こんにちはー! アーダムさんいますか!」
「はいこんにちは。アーダムなら詰め所ですよ」
今日の門番さんはいつもの女性だった。この人の名前も聞けてないけど、今回は諦めよう。ありがとうございますとお礼を言ってから詰め所へ向かうと、ソルーダさんはいなかったけどアーダムさんといつもの青年兵士がいる。この人もお名前聞こうと思ってて先延ばしにしてたんだよなー。
「おう、ナツとイオか。今日はどうした?」
「アーダムさん。僕たち今日の午後2時の乗合馬車でサンガへ向かうので、ご挨拶に来ました!」
「ついでにこっちの如月が壁の上に行きたいらしいから、その案内だな」
イオくんがさらっと如月くんを紹介したら、アーダムさんと青年が両方名乗った。な、なるほどスマート! あの青年兵士さんの名前はローランさん! 覚えた!
イオくんほんとこういうの上手いなー。
「じゃあすみませんがローランさん、お願いします」
「はいはい。如月は問題なく登れそうなんで、さくっと行きますよー」
と言うわけで、さらっと話がまとまって、ローランさんが如月くんを連れて壁の上へ。行ってらっしゃい。
残されたアーダムさんに、何か渡せるものないかなと思ってインベントリを確認したところ、作るだけ作って売り忘れてた「結界のお守り」★2が出てきた。
このお守り、★1でHP換算100のダメージを防ぐ。★2だとHP換算で200のダメージを防いでくれる。★が1つ上がる度に×100で防げるダメージが増えていく形になるんだけど、あくまで特殊攻撃のみカウントで、オーバーした分のダメージは食らってしまう。
住人さんにどれだけ有効かわからないんだけど、アーダムさんは兵士だし、本当にお守りとして持っといて損はない、かなあ?
ソルーダさんにも渡した頑健のお守り、もっと作っておけばよかった。あっちなら確実に役に立つんだけど。ま、これも無いよりはいいでしょ、多分。
「アーダムさんにもお世話になりましたってことで、これはお礼です」
と手渡したら、「おお、お守りか」と目を見開いて驚いた後、アーダムさんは嬉しそうにお礼を言ってくれた。よかった、わりと有りっぽい。
「数日しかいなかったから、またあとで落ち着いたころにイチヤには戻る予定だ。ただ、しばらくトラベラーが増えてここは騒がしくなると思う。次の時は、また差し入れでも持って顔を出す」
イオくんが情報を補足して、別に今生の別れじゃないし戻ってくるよってことを伝えてくれた。これを言っておかないと、すごく大げさに悲しんでくれる人とかいるからね。転移装置もあるし、いつでも戻れるのでそんな悲しまれると気まずいのだ。
アーダムさんはサンガ方面にいる魔物の情報をいくつかくれたので、それはイオくんがふむふむと熱心に聞いておく。僕は聞いてるふりして割とぼーっとしてる。
あ、そういえば杖のホルダーほしかったんだった。ここからならすぐ近くに武具通りがあることだし、ちょっと走って買ってこようかな。多分、杖を売っている店にならあるよね?
と思ってイオくんに告げると、「やめとけ。サンガで買え」と真顔で首を振られた。今出て行ったら余計なクエスト拾って馬車に間に合わない予感がするそうだ。そうだねそんなこと前のゲームでやってたね僕。その節はご迷惑おかけしました!
でもそうすると時間が結構余ってしまう……ので、仕方がないので詰め所のテーブルを借りて、ちょっと作業させてもらうことにした。
さっき教会で覚えたばっかりの道迷いのお守りとお札だ。
お札の方は特に、馬車に設置するタイプだからこれから乗る馬車に差し入れしたい。とりあえず最初の1回はアシストで★1固定だから、両方1個ずつ作成してみる。
このお守りとお札は、どちらも「正道から外れない」、という効果で固定で、★によって変わるのは効果期間だ。
お守りは★1で1日、★2で3日、★3で一週間、★4で10日間、と言う感じ。
お札は★1で1週間、★2で2週間、★3で1か月、★4で2か月、となる。
お守りは★が1つ上がるごとに3~4日期間が延びる感じで、お札は★1つごとに倍々になっていくようだ。商売繁盛のお札と比べるとかなり期間が短いけど、呪いに抗うのが大変だからってことなのかも。
「おお、道迷いのお守りまで作れるのか。ナツは店を開いた方がいいぞ、大人気店になる」
横で僕の作業をちらちら見ていたアーダムさんが言う。このお守りは教会の資金源だから僕が売るわけにもいかないんだけど、ショップシステムはこの先行体験会のあとに実装予定だから、ちょっと考えとこう。
道迷いのお守りより、腰痛のお守りの方が売れそうだけどね……。あ、あのお守りギルドで買い取った後はいくらで売ってるんだろう? 確認して金額合わせておかなきゃ。
出来上がったお札は乗合馬車に寄付するとして、お守りの方はどうしよう。トラベラーには必要のないものだし、万が一の時の備えとして詰め所に寄付しようかな。
そう思ってアーダムさんに渡すと、やっぱり意外と喜ばれた。
「悪いな。★1だと1日か、備品としてしまっておこう」
効果微妙なのに、にこにこだ。
流石贈答用品だなあ。
そんなことをしていると、今回の乗合馬車の御者さんがやってきて、馬車の準備を始める。
馬車と言っても、この世界にいる馬は基本魔物だ。ポニーくらいの小さい馬は動物だけど、大柄になるともれなく魔物なのだそうだ。だから、馬車を引くのは召喚士さんの契約獣になる。
住民の召喚士さんにとって、馬型の契約獣を呼ぶことは大当たりに該当するらしい。子どもたちの憧れの的になれるんだって。大荷物を引いて街の門をくぐる御者さんは、自由に街の外を歩き回る事ができない住人さんたちにとってはヒーローなのだ。
召喚士さんが呼ぶ契約獣は、他のゲームだと従魔とか、使役獣とか呼ばれたりもする存在のことになる。戦闘系の契約獣は、召喚士系の職業で召喚術を使わないと契約を結ぶことができない存在だ。戦闘しない非戦闘用の契約獣は、専門のお店で誰でも契約出来るけど、1人1匹までの制限がある。この契約獣たちは、隣接する異世界から呼び出された生物なのだとか。
「この世界には、魔物と動物しかいないの。そして、魔物は元からいた動物が魔王によって変化させられたってことになっているわ。だからテイムはできなくて、他の世界から契約獣を呼び寄せて戦うってことになるのよ。召喚士が一緒に戦っている契約獣たちは、この世界で自然に見ることのない子ばかりよ」
「へー! 異世界人ならぬ、異世界獣かあ」
「みんな、この世界が大変だったことを知って力を貸してくれているのよ。今のところは戦闘に力を貸してくれているだけだけど、もしこちらに移り住んでもいい、と思ってくれたら、常時召喚が可能になるらしいわ。私のピーちゃんは半日くらい召喚できるわよ」
「ピーチャンハ、デキルコヨ!」
「ピーちゃんかわいいね!」
「アリガト!」
……説明してくれたのは、同乗予定のトラベラー、召喚士・プリンパフェさん。
ふわふわセミロングを茶色から黄色にグラデーションさせているところに並々ならぬプリンへのこだわりを感じる。メリハリの利いたスタイルのグラマー美女だ。
そして彼女の相棒、インコのような色鮮やかな鳥・ピーちゃんは、魔法が得意な遠距離攻撃型。インコのようによくしゃべる。彼女にはもう1匹、前衛タンクになれるガンちゃんという頑丈な相棒がいるんだそうだ。
「召喚士さんって少ないの?」
「スクナイノヨ!」
「魔法士よりずっと少ないわね。魔法は魔法士に及ばないし、でも職業としては魔法系だから自動振り分けが魔力と魔法防御に偏りがちで、前衛としても微妙だし……。最初の相棒によってはステ振りが難しいわ。その分、ソロで冒険をするのに向いているから、需要がないわけじゃないと思うんだけど。……どんな子が来るか完全に運だからかしら?」
肩に乗るピーちゃんを撫でながら、プリンパフェさんは言う。そうそう、プリンパフェさんはエルフです。そして弓を使う正統派!
プレイヤーのエルフ、結構見かけはするんだけど、会話をするのは初めてだ。初心者装備に胸当てを足してローブだけ変えた格好だけど、緑系統でまとめていてすごくしっくりくる。
これだよこれ、こういうのがエルフ……!
「面白いのよ召喚士。チュートリアルでランダムに選ばれた3匹の相棒の中から1匹だけ選ぶの。昔そういうゲームあったわよね、ほら、なんとかモンスターっていう」
「ああ」
「完全ランダムだから、どんな子が来るかわからないの。私の時はこの子と、フクロウと、ウサギだったわね」
「ふわふわ天国」
えー、超いいな。僕もなんかモフっとした動物かふわっとした動物が欲しい……いや今は命に責任が持てないのでだめだ。せめてなんか素敵な待機場所を得るまでは……っ!
「私個人的には爬虫類も好きなのだけれど。蛇とか蜥蜴は嫌って人も多いわね」
「目がかっこいいよね爬虫類」
「そうなのよ」
「ソーナノヨ」
僕は動物全般好きだから問題ないけど、やっぱり蛇だけはだめ! とか蜘蛛だけは勘弁! って人も世の中にはいるし、そういう人たちが完全ランダムな契約獣から蛇や蜘蛛を引いちゃう可能性も大いにある。
今のところ契約獣は最初以外選べないらしく、そこがあんまり人気が無い大きな理由だ。まあでもゲームだし、好き嫌いは大事な要素だもんね。
「ある程度選べたら、人気上がりそうなんですけどね。それか、申し訳ないけど虫系NGとか、ちょっとだけでも制限できれば」
と会話に入ってきたのは、壁から降りて来た如月くん。ちなみにイオくんはまだアーダムさんとなんか色々話しているので、暇を持て余してプリンパフェさんと如月さんの会話に混ぜてもらったのである。
「それはそれで偏りそうだね」
「ですよねー」
「個体によって得手不得手があると思うし、制限する方向だとあまりうまくいかないんじゃないかしら。これから召喚士について研究が進んで、何か有益な情報が出ることを祈るわ」
「ピーチャンマホウトクイヨ!」
「鳥系の契約獣は魔法が使える子が多いみたいなの」
「へえ、ピーちゃんすごいね!」
「スゴイノヨ!」
ピーちゃんは小さい体でぐっと胸を張った。ふくふくしている。うむ、鳥さんかわいい。
「初期職で一番人気が無いのって、拳士なの。それで、その一つ上が召喚士」
「え、そうなの?」
意外だったのでつい首をかしげてしまうけど、そんな僕に答えたのは如月くんだ。
「公式サイトのアンケートでは、剣士、魔法士、槍士、弓士、棍士、召喚士、拳士の順でしたね、人気」
「そうなんだ。やっぱりみんな直接攻撃はしたくないのかな? イオくんなんか拳士やりたそうにしてたけど」
「イオさんあのビジュアルでステゴロなんすか……?」
「イオくんは力業でなんでも破壊するの大好きなスマートヤンキーだよ!」
実際このゲーム以外では、結構拳で戦ってたしね。ガントレット装備だったり、小手装備だったり、メリケンサックとかもあったな。あの動きを見ちゃうと、剣使ってるのちょっと動きぎこちないよなーとか思う。
ま、慣れたら剣でぶん殴るようになるでしょう。すでに盾では殴ってるから時間の問題だ。
と、そのあたりで御者さんが動き出し、イオくんもアーダムさんに別れを告げて僕のほうに歩いてきた。
「おいこら。誰がヤンキーだ、聞こえてんぞ」
と小言付きで。
「お帰りイオくん。アーダムさんと何話してたの?」
「サンガのあたりに出る魔物のことと、その先のゴーラの海産物のこととか。兵士たちの会合もあるらしいって話とか」
「へー!」
「そんで、サンガ行ったら北門近くの幼馴染の家を訪ねてくれってクエスト拾ったぞ」
「お、さすがイオくん。クエスト受けてても時間に遅れない」
「自虐やめとけ」
何しろ僕は遅れたからね、そりゃもう見事にやらかした経験があるさ……。




