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26日目:神秘的な夜の遭遇

 美味しいお昼ごはんを食べたら、火山に向かって歩き続けて夕暮れ時。

 もう少しで火山の山道に入る、というところでちょっと大きめのセーフエリアを発見したイオくんは、いち早く乗り込んで「ここをキャンプ地とする!」と宣言した。

「お疲れ様ー! やっぱり夜は飛ばすんだね」

「夜の魔物は無理。今日は早めに寝て時間を明日に回したい。聖獣と無事に会えたら、こっちはうまくクエストの話をしないと」

「あー、キャンプ地で生産するのもちょっと不便がありますからね」

 まあ確かにそうか。それに、夜の魔物が強いのはもう確定してるし、このあたりの魔物のレベル帯が結構高かったんだよね。弱いのもいるんだけど、ちらほら1進化の魔物とか、進化してないけどレベル30以上の魔物とかが紛れてた。

 そういう強い魔物はたいていノンアクティブで、こっちを見かけても襲ってこないタイプが多かったから良かったけど……何匹かアクティブタイプで強いのもいて、僕とテトは避けて通るのも気が気じゃなかったよ。


 きょうおわりー? ナツー、いっぱいあるいたからほめてー!

「おつかれ様テト! 今日もいっぱい乗せてくれてありがとねー、良い子ー!」

 にゃふーっ。

 ささっと伏せてくれたテトから降りて、僕がわしゃわしゃと撫でると、テトは大変満足げな表情をした。お昼食べてからはテト的にはなんにも面白いことなかっただろうに、イオくんの言うことをよく聞いて移動してくれたえらい猫なので、褒められるべきです。

「がんばったテトにはイオくんが美味しいものを用意してくれます!」

 やったー!

「俺に丸投げすな」

「おまけで僕のブラッシングも付きます!」

 わーい!

 喜んでびょんびょんするテトである。如月くんは僕達のやりとりを微笑ましそうに見て、「仲良しですね」と呟いた。仲良しだよ!


「今日は如月もいるし、鍋にするか」

「鍋!」

「きのこ結構収穫できたし、白菜と肉もあるからな」

「おおー! リアルじゃ真夏ですけど、ナルバン王国は夜肌寒いくらいですからね。ちょうどいいと思います」

「テト、魔導コンロ出してくれ」

 コーンロー♪

 テトがにゃにゃっと呪文を唱えながら空間収納から荷物を取り出すと、イオくんはそれを受け取って手早く調理を開始した。と言っても鍋だから、具材切って煮るだけ、とはイオくん談である。だけっていうけどさー、その具材切るのが手間なんだよね。僕だったらもうすでに火にかけるだけで準備されてる鍋セットを買っちゃうよ。つまりちゃんと具材を切るイオくんはえらいのである。

 しかも、アナトラ世界の肉って全部ブロック肉だ。薄切りとかでドロップしないから仕方ないんだけど、鍋にいれるとなったら薄く切り分けるか細かくブロックにしないといけないのである。

 手間じゃん! めちゃくちゃ面倒くさいよ!

 つまりやっぱりイオくんはえらいのである、再確認。


 まあそんな感じでイオくんがテキパキと用意してくれた鍋をみんなでつつき、「豆腐ほしいですね……」という如月くんにしみじみ同意しつつ、美味しい夕飯はつつがなく終了。塩味の鍋で、お肉はワイルドビッグの肉でした。鍋っていろいろな味があるけど、味噌とか醤油とか塩とかトマトとかカレーとか……豆乳鍋とかもあったよね? あと辛いやつ。

 みんなの家では何が定番なのー? って聞いてみたところ、イオくんが「すき焼き」で如月くんの家は「キムチ鍋」だった。ちなみに僕の家は醤油味のが定番。

 まあイオくん家の鍋が高級なのはいいとして、キムチ鍋かー、僕の家ではあんまり出たことないな。

「キムチ鍋って何でしめるの?」

「家はラーメンですね」

「なるほど贅沢……!」

 僕の家では醤油味だったから、雑炊にするのが王道でたまーにうどんにしてたなあ。イオくんの家はすき焼きが定番らしいけど、すき焼きのしめって? と聞いてみたところ、やっぱり雑炊らしい。うむ、お米は偉大なのだ。


 そんな風に雑談しながらまったりと食後の珈琲を飲みつつ、僕はテトに丁寧にブラッシングをしている。テトの毛並みは最高だねー素晴らしいねーと褒めながらブラシをかけると、テトはご機嫌にゴロゴロ喉を鳴らした。「さいこうなのー……」と蕩ける白猫である。

 イオくんと如月くんはなんか珈琲の話してる……如月くんが金属製の珈琲ドリッパーってどうですか? みたいな話をイオくんに振ったみたいで、使い勝手とか味の違いとかの話だ。正直僕にはよくわからんので話に混ざらずに聞き流しているわけだけれども……その時、僕の膝の上でとろけていたテトさんがぱっと顔を上げた。

「ん? どうしたのテト」

 なにかあっちにいるのー。

「え、魔物?」

 んー?

 テトはすんすんと空気の匂いを嗅いで、こてんと首をかしげる。

 わかんなーい。

「わかんないかあ。うーん、ちょっと待ってね」


 テトは今までもいろいろなものを見つけてきたえらい猫なので、テトが気になると言ったら確認してあげたいのが契約主心というもの。名探偵テトの力を、僕は知っているのだ。

 というわけで一旦<識別感知>をば……。

 セーフエリアの周辺に魔物の反応はなくて、代わりに緑色のアイコンがぴこんと近くに1つだけあった。えーと、赤が魔物、青がトラベラー、緑が住人さんや味方の契約獣等。等っていうのがかなり幅広くて、エクラさんや炎鳥さんなどもこの緑アイコンになる。とりあえず友好的な存在って思っていいと思う。

「イオくーん、テトが近くに何かいるって言うんだけど、見に行っていい?」

「待て」

「今度は何見つけたんですか?」

「いやそれがわからないから確認しに行きたくて……?」

 存在を認識したら、<グッドラック>さんも行っといたほうがいいよーって感じの反応してるし。さっきまではなんの反応もなかったんだけど、<グッドラック>さんの効果についても謎が多いな。

「今周辺に魔物いないし、なんか気になるから確認しときたくて」

「俺も行く。如月どうする?」

「行きますよ、当然!」

 当然なんだ? いやまあキャンプ地に1人で残されるのもなんだかなーって感じか。テトどうするー? いっしょー! というやり取りがあったので、結局全員でその緑アイコンに会いに行くことになった。


 よーるのおさんっぽー♪

 とご機嫌なテトが僕を乗せて先頭を行き、イオくんと如月くんがあとからついてくる形。この陣形は珍しいけど、今は周辺に魔物がいないことが確認されているので許可された。普段なら、攻撃手段のないテトを先頭にするのはありえないんだけど、今回はテトが見つけたわけだし。

 アイコンの位置は幸いそんな遠くじゃなかったので、歩いて5分もしないうちにたどり着いた。そこにあったのは、小さな泉のようだ。ちょうど、ラメラさんが泳いでいたところくらいの小さなところ。

 こーんばーんはー!

 とテトが元気に挨拶した先にいたのは……その泉の真ん中あたりに佇んでいる髪の長い女性……? いやこれ鑑定しなくてもある程度の予想が付くな。

「水の精霊さん? こんばんは」

 隣で容赦なくイオくんが<鑑定>してそうだけど、見た目普通に美女さんだからなんとなく住人さんと同様の扱いで<鑑定>しづらい。失礼かなって思うよねこれ。

 女性の長い髪は水のような質感で、先の方は当然のように泉に溶けている。瞳の色も、おそらく月下でもわかるくらいに透き通った青い瞳。どこからどう見てもって感じである。


 女性は戸惑ったようにこちらを見たけれど、何も言わずにわずかに一歩下がった。お話はできないのかなー? と思っていると、テトがにゃにゃっと鳴きはじめる。

 うんでぃーね? おなまえむずかしいのー。

 ……あ、これ会話お任せするパターンのやつか。思うんだけど僕が遭遇しているイベントって契約獣がいること前提のものも結構多いよね多分。

 ディーネ! いいよー。テトはねー、テトっていうのー。よろしくなのー。

「イオくん、テトが会話してる……」

「家の猫万能だな……」

「トラベラーと会話できないってことは何か特別な存在でしょうか……?」

 思わず小声になる僕達を尻目に、テトは上機嫌で更に会話を続けている。なんか僕達を紹介してくれてるっぽいので降りるよって言うタイミングが掴めないぞ。このままテトの上からご挨拶するのはちょっと間抜けではあるまいか。

 僕が戸惑っていると、テトがひょいと僕を見上げた。


 ナツー、ディーネはねー、おみずのかんりしゃさんだってー。

「わあ思っていたより大物だったね! 管理者さんでしたか」

 しんすいせいれい? おしごとしてるのー。えらいのー。

「そうなんだ。テトの契約主のナツです、はじめまして!」

 とりあえずよく人畜無害と言われる笑顔でご挨拶してみると、ディーネさん? はにっこりしてくれた。精霊さんの仲間なんだよね? テトの発音がひらがなだから「しんすい」の漢字はわからないけど、とりあえず精霊さんだということがわかったのでOK。

「サンガで栗の木の精霊さんには会いましたけど、水の精霊さんは初めてです。えっと、ディーネさんは、ここで何をしているんですか?」

 聞いてみると、一応口がぱくぱくしているのはわかった。何か話してくれてるみたい。それをふんふんと聞いて、テトがまた僕を見上げる。

 おねがいされたから、かくちのおみずのようすをみてるってー。

「お仕事しててえらい。えっと、普通の精霊さんとディーネさんは違うんでしょうか」

 ディーネのほうがえらいってー。

「高位存在でしたか……!」


 ど、どうしよう。今からエクラさん呼んだ方が良いかな? とちょっと焦っている僕に、ディーネさんはすっと手を差し出して、その手にむけてふうっと息を吐いた。

 ぱあっと青白いきれいな光が、粉雪のように細かな粒子になって僕達の方に降り注ぐ。ここれって……妖精類の人たちの祝福っぽいな? 驚いて目をぱちぱちしていると、ディーネさんはひらひらと手を振った。そのままたぷんとスムーズに水の中に沈んで、ミニマップからもアイコンが消える。

 時間にして10分もないくらいの遭遇だったけど、アイコンが消えたってことは、もうどこかへ移動したらしい。水の精霊さんだから、水から水へ移動できたりするんだろう。

「緊張したー! きれいな人だったね」

「……いやそれどころじゃねえんだが……」

「さすがナツさん、さらっと未知の存在と会話する才能がありますね……」

 ナツとってもすてきなのー。おはなしたくさんしてくれるのー!


 ふんすっと得意げな顔をするテトさんを撫でつつ、そういえば如月くんとイオくんは全然精霊さんに話しかけなかったな、と思い至る。なんで? とイオくんに視線を向けてみると、難しい顔をしていた。

「いや、すげープレッシャーだったぞ」

「え?」

「威圧されてましたよね。お前たちは何も言うなって感じに」

「ええ!?」

 あのきれいな精霊さんが威圧……!? どういうことなのかよくわからなくて困惑の表情をしてしまった僕だけれども、イオくんたちが嘘を言うはずがないしなあ。なんでだろう、僕がテトの契約主だから、僕とテトだけ許されたのかな? ということはこの遭遇はテトがいること前提のクエストだったりする?

 むむむっと考え込んだ僕に、イオくんがはーっとため息をついて、とりあえずセーフエリアに戻ろうと促す。確かに、夜のフィールドにいつまでもいるのは危険だ。結局テトから降りないままでとんぼ返りしつつ、ステータス画面を開いてさっきの祝福なんだったんだ? とバフ表示を見たけど、特に何もなかった。んー?

 絶対なにかすごいものもらったような気がしたんだけど……気の所為だったかな。インベントリにも何も増えてないし。


 首をかしげる僕に、イオくんはもう一度大きく息を吐いて「ジョブ画面」と告げた。

「ジョブ?」

「項目増えてる」

 項目?

 よくわからないままステータスやジョブなどを表示すると、職業の横に今までなかった文字列が並んでいるのがわかった。えーと……。

「名声?」

 タップすると効果が表示され、「この名声を得るものは神獣・聖獣からの好感度が少し上がる」とある。取り外しはできて、交換もできそうだけど今は他に候補がないのでとりあえず付けておくけど。

「あー、なるほど。他のゲームでいうところの称号だこれ!」

「それ」

「しれっと爆弾見つけてきますよね本当に」

 なるほど理解。取り敢えず神水精霊さんの友だちになりました!


 ナツ プレイヤーレベル16 上級魔法士レベル11 名声:神水精霊の友

年内最後の更新です。

皆様良いお年を。

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― 新着の感想 ―
そういえばむしろ今まで称号関連無かったのか...鳥さん助けたり蛇さんの抜け殻貰ったり海龍さん助けたりしてたのに 良いお年を
鍋…!よいですなぁ、冬ですもんね!ナツさんがちゃっかり爆弾引き当てててびっくり。そしてもうすっかり慣れたイオくんと慣れつつある如月くん。 ここでうちの鍋の話をば サッポロ一番塩らーめんをもやし白菜豚バ…
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