26日目:名声は検索できないワード
精霊たちの取りまとめをしている4大精霊は、スペルシア神によって精霊から神獣へ引き上げられた存在なので、一般的な精霊とは違うらしい。
魔王の呪いが広まってから、人が手入れできない離れた場所の自然を管理するため、自由に動き回れる存在が必要だったのだ。そのため、スペルシア神から適正の高い者に火・水・土・風の力を与えることで、その存在を4大精霊とした。それぞれサラマンダー、ウンディーネ、ノーム、シルフという名前だ。ファンタジー系のゲームでは定番の名前だね!
会話ができなかったのは、もともと妖精類として普通に暮らしていた存在を神獣に引き上げた弊害らしい。同じ神獣たちや聖獣、契約獣等なら普通に会話が可能。
そして大事なことが一つ。
彼らはもともと普通に暮らしていた妖精類なので、勝手に<鑑定>されることを好まない。
「これかー」
「これだ。俺は即座に<鑑定>した」
「俺も<鑑定>しました……しちゃいますよね普通に」
「なんてデリカシーのないことを。そんなんだとモテな……いやイオくんモテるな。なんで僕モテないんだろう?」
「真顔になるなよ」
「テトにはモテますよ」
ナツだいすきー!
「僕もテト大好きだよ!!」
テトにモテるのであれば多少人間にモテなくても仕方あるまい……。まあ友達は多いからいいや。
そんなわけで僕がディーネさんに友達認定されたのは、<鑑定>しなかったから! と判明した。そもそもこの4大精霊さんたち、王国だけでなく大陸の各地に常に移動しているので、会える確率がものすごく低い。さっきの遭遇でもそうだけど、すぐ移動しちゃうらしいし。
ちなみにこれまでの情報は、ヨンドの国立図書館からわかった情報をまとめている「【世界観補足】図書館から見るアナトラ雑学」という掲示板から。これ多分、メインで情報を落としてるのって博士さんだと思うんだよなあ。あの人すごくヨンドに行きたがってたし。まあ、ちょっとしか会話してないから、あんまり当てにならないカンだけど。
他の街ではまだ本を作る余裕があんまりないって話だったけど、ヨンドは国立図書館があるところだからか、すでに本の作成が始まっているらしい。戦時中から戦後の出来事とかを歴史書として編纂してる最中で、その中の一冊に載っていた情報がこの4大精霊さんの話だったというわけだ。
「でも、そんなに珍しい精霊さんに会えたのって超ラッキーだよね。テトえらい!」
えへへー。
「そもそもなんで気付いたんだ?」
んー? ナツにブラッシングしてもらってしあわせーっておもったら、なんかわかったのー。
えっへん、とドヤ顔しているテトである。もしやこれあれかな、<ハッピーラッキーブースト>の効果だったりする? テトが幸せなときに僕の幸運が上がって……その影響で僕のためにテトが気づいてくれたとかかなー。うちの有能な新入社員がさらに有能になってしまったか。
「テトはいろいろ気づけてえらいねー! 名探偵だもんねー!」
わしゃわしゃとテトを撫でていると、イオくんも「うむ」と頷いてひと撫でしていった。ダブルで褒められたテトさんは満足気ににゃふっとヒゲをぴーんとして、きらきらと期待に満ちた眼差しを如月くんに向ける。
さすが向上心のある猫、褒められの機会を逃さないな。もはや褒められのプロである。
さあ褒めるが良い! というテトの眼差しと、褒めてあげてー! という僕の視線に負けて、如月くんは苦笑した。「えらいえらい」と撫でられて、トリプルで褒められたテトさんは大変満足そうに僕にすり寄る。
いっぱいほめられたー!
にゃあん、と朗らかな声で報告するので、「よかったねー」と僕も嬉しくなるのであった。契約獣ってみんなこんなにかわいいんだろうか。トラベラーさん、契約獣と契約するべきだよ、と心から思う。幸せを運んできてくれるからね。
「そういえば、イオくんたちも名声もらった?」
僕とテトは同じやつをもらってたんだけど、イオくんたちがもらってるかどうかまでは確認してなかった。あの時のディーネさんのキラキラした祝福っぽいのは、僕達全員にかかったと思うから、多分もらってるよね? と思って聞いてみると。
「一応」
「ナツさんのやつの劣化版みたいなやつですね」
という返事。
劣化版かあ。やっぱり<鑑定>が良くなかったのかな。
イオくんがステータス画面を見せてくれたので覗き込む。僕がもらった名声が「神水精霊の友」で、効果が「この名声を得るものは神獣・聖獣からの好感度が少し上がる」。
イオくんたちがもらったのは「神水精霊との遭遇」で、効果は「この名声を得るものは神獣・聖獣との遭遇率がほんのわずか上がる」というものだ。
遭遇率と好感度だったら、劣化版とかいうより別のものとするべきじゃないかな? と思ったんだけど、効果量が結構違いそうだ。「ほんのわずか」ってどのくらいだろう。
「これ実感できないくらい少ないのかな?」
「多分な。俺と如月なんて幸運がそもそも低いし、正直上がってもわからないだろう」
「めっちゃそう思います。ナツさんくらい幸運値あったら、多少実感できるかもしれませんけど」
0.01%が0.02%になったってわかんない理論だよねー。他にどんな名声があるのか探せないかなと思って掲示板の検索バーに入れてみたけど、その単語は検索できません、って出てきてしまった。これも伝承スキルみたいな、書き込めない情報なんだろう。
「他にどんなのがあるのか知りたかったなあ」
「それは俺も気になりますね」
多分、すごくレアなイベントに遭遇したとか、珍しい人に会ったとか、なにかしら難しい条件があると思うんだけれども。それに、同じイベントに遭遇しても僕とイオくんたちみたいに違う結果になるわけだから、分岐も多そう。
「聖獣さんたちと沢山知り合ったらもらえる名声とかもありそう。なにかヒントが欲しかった!」
「ナツさんは多分普通に行動してればそのうち増えますよ。俺はソロ行動だとこれ以上怪しいですけど……」
「幸運に対する過大な信頼……!」
「ナツさんの場合実績があるので」
確かにそう言われちゃうとね! <グッドラック>さんの実力がすごいだけだと思うけど、実際、僕幸運だなーと思うこと結構多いから……まあ実績はあるね。
「如月はゴーラまで行くよな? そこまでは同行するだろうし、あと1個くらいは行けるだろう」
とかイオくんが軽く言ってるけど、それは僕になんか見つけろということですかね。が、がんばるけども。そしてイオくんの言葉を聞いて喜んだのは、テトである。
きさらぎといっしょー!
とぴょんぴょんしたあと、どーんっと如月くんに体当りしてぐりぐり体を押し付けている。サンガでお別れした時落ち込んでたからなー。嬉しそうで何よりです。
「うお! ナツさんテトなんて言ってるんですか?」
「如月くんが一緒で嬉しいって」
「おお……。それは俺も嬉しいですね……」
笑顔でテトを撫でる如月くん、なんかお兄ちゃんっぽい顔をしているんだよなあ。テトのことを無邪気な弟か妹と思ってる感じなのかな? ちょっと微笑ましい。
「珈琲もう一杯飲んで寝るか。ナツはカフェオレな」
「……何も言うまい。カフェオレ大好き!」
「あ、俺もいいですか?」
「おう。テトはミルク飲むか?」
あまいのー。
「甘くしてほしいって」
「砂糖入りホットミルクな」
ゲームの中なので、珈琲飲んだからと言って眠れないということはないんだけど、やっぱりなんか夜に飲むならカフェオレのほうが良い。もっと言うならミルクココアがベスト、ミルクティーも悪くないと思う。テトのリクエストのホットミルクも、冬に飲むと体が温まって良い感じだと思う。
甘けりゃなんでも良いとも言う。
しろーくてあまーい♪
と上機嫌に歌っているテト、テーブルで手際よく飲み物を用意してくれているイオくんの手元を興味深げに見つめている。如月くんは今日採取した薬草の仕分けをしているみたいなので、僕は……。
あ、共有インベントリに入れてあるお守りの在庫が少ないかな? 【コピー】使って補充しておこう。お守りだとどうしても回数制限があるから、こまめに補充して置かないとすぐなくなっちゃうんだよね。
特に生産成功率UPのお守りと身体保護のお守りは消費が激しい。とりあえず一気に【コピー】して……と作業していると、テトのきらきらの眼差しはいつの間にかイオくんから僕の方に向いていた。
ナツおまもりつくるのー?
「うーん。作るつもりはなかったけど、最近【フリードロー】使ってないし……やりますか!」
わーい!
テトが喜ぶならば、作りましょうとも、新しいお守りを! 護符を作りたいから<上級彫刻>のレベル上げはしたいしね!
そうと決まれば彫刻刀を出して、どんな絵柄にしようかなー?
テトなにがいい? ああ、炎鳥さんたちいいかもね。えーと、でも僕の絵心ではデフォルメされたひよこしか描けないんだけど……こうして……これでどうだ! 寄り添う2匹のひよこ! 【インスピレーション】で効果を確認……生き物に対する何らかの効果? それはあんまり求めてないかな……。
あ、そういえば社祠を作ってもらってたし、こう、こうして囲って……お家の中にいるひよこでどうかな? 屋根付けて、っと。……鳥に対する何らかの効果、色もほんのり金だけど、まだ品質低そう。あ、そういうえばここは<鑑定>を使えばちょっと情報出たはず。
……ふむ。もう少し柄を増やせと。うーん、枠線の内側に書き込める何らかの図案とは? そういう小技を僕のような美術の成績微妙な男子大学生に求めないでほしい。テトー、この隙間になにか描けって言われたんだけど、何がいいかなー? ……なるほど羽か、良いね! 羽をこう、ひらひらさせて……これでどうだ!
お! 金色がちょっと濃くなったし、効果も「魔力に関する効果」に変化した!
「よし、これで行こう! 決定!」
サフィとリュビだー!
テトの嬉しそうな声に背中を押されるように、描いた下絵にそって溝を彫る。MPもしっかり注ぎ込んだし、あとは丁寧に、線から逸れないようになぞって……っと。
ナツがんばれー!
テトが隣で応援してくれているので、ここで盛大にミスなどできない。っていうか羽って描くの結構難しいな……! と四苦八苦しながら絵柄を彫り終わると、なぞり終わった線がぱあっと光ってからお守りが完成した。
よし。どんなお守りになったかな? <鑑定>!
「お、テトの言った通りに作ったら面白いのができたよ」
できたー? どんなのー?
「炎鳥のお守りだって」
作った僕が思いっきりリュビとサフィを頭に思い描いていたからだろうけど、まんまるしたひよこは無事に炎鳥と判断されたみたいだ。
「炎鳥のお守り。死者の屍と対峙した時、その魂を大いなる川へと送る。生まれたばかりの赤子と出会った時、その魂に僅かな加護を授ける……ってこれ、炎鳥さんの能力の劣化版を使えるって感じかな? 品質表示がないから、保存のお守りと同じように使い切りだね」
ナツ、えんちょうさんになるのー? すてきー。
「いや僕は鳥にはならないよ? でもそうだね、住人さんに使えたら良いかも」
トラベラーには無用のお守りだろうけど……そうだ! ビワさんの奥さんが出産が近いんだった。これを渡してホットポテトのことをお願いしよう。たしか、炎鳥さんたちはもう少し成長しないと祝福したりとかできないってエクラさんが言ってたし。
「イオくん、如月くん、面白いお守りできたよー!」
あけましておめでとうございます。
今年もまったりやっていきます。




