22日目:アントと戦ってみる。
里の北方面に伸びる枝道に沿って、索敵しながら歩いていくと、早速ソルジャーアントとの戦闘になった。
アサギくんの言ってた通り、3匹で1組って感じで動いてるっぽい。敵を見つけると襲ってくるアクティブタイプだから、攻撃される前に先制して優位を取っていく必要がある。イオくんが横一線範囲攻撃を繰り出して全員からのヘイトを取るけど、HPが減ってる感じはあんまりしないな。
「かってぇなこいつ! 物理半減くらいかもしれん」
「試しにアロー打ってみるのでロックオンお願い!」
という感じで僕が一番近い敵に【ファイアアロー】をぶち込んでみると、それだけでHPが半分くらいまで減った。すぐにイオくんが【ロックオン】でヘイトを奪い返してくれたけど、これは……なんていうか……!
「ここまで魔法に弱い敵今までいなかったかも?」
「楽勝かもしれん。レインいけるか?」
「新しく覚えた範囲魔法やってみる! 【ファイアウェーブ】!」
呪文を唱えると、杖を中心に半径3メートルくらいの円系に炎のリングがぶわーっと広がっていく。当たらなかったら無駄打ちになるから一応ソルジャーアントに近づいてから撃ったけど、思ってたより円狭いな……! これ普段の僕の位置取りだと対峙してる敵に当たらないかもだ。しかも円だから、背後とかちゃんとチェックしてからじゃないと余計な巻き込み事故起こりそう。囲まれたときとかに打てれば効果抜群だけど、そもそも僕が囲まれるような状況ってなかなか無いしなあ。
敵対していたソルジャーアントは、HPが減っていた1匹が無事消滅し、残りの2匹も残HP10%くらいまで減った。とすると、威力はアロー以上ランス未満って感じか。当然ヘイトがこっちを向いたので、怒って襲いかかろうとする敵の前に【ファイアウォール】を張って防衛。
「こんな減るんだ、これ多分【ファイアランス】使ったら1撃で倒せるかも」
「他の魔法でも結構効きそうだな。 【強撃】!」
「【ライトアロー】!」
残った敵を倒しきってからドロップを確認すると、「兵士蟻の鎧殻」という防具用アイテムが落ちていた。めっちゃ丈夫らしいよ。これは里に寄付かな。
「経験値あんまり美味しくないなー」
3匹で集団戦してくる相手だから、もう少し経験値もらえるかと思ってたんだけど。魔法が使えればあっさり倒せるからなんだろうか……。もう少し経験値欲しい。
「ドロップもう一種類出るまでは戦うけど、この経験値なら無視したいところだな」
「相手に見つからなければそれでもいいんだけど。アサギくんが、この辺に巣があるって言ってたよ」
「めんどくさそう」
イオくんは基本物理攻撃だから、物理攻撃が通りづらい敵は面倒だよね。僕としてはハニーラビットだけ出てきてくれればそれでOKです。
「新しい範囲魔法の範囲と威力は大体わかったから、<樹魔法>と<氷魔法>試したい。ちょっと検証したらセーフゾーンでお昼にしよう!」
「そういやテトどうした?」
「戦闘開始と同時にハウスに戻ったよ」
「そのシステム便利だな」
テト本猫は「やだーー!」って言いながらブローチに吸い込まれていったけどね……! あ、そう言えば戦闘開始と同時にテトがハウスに戻ったってことは、そのとき同時に僕も敵に認識されたってことだ。<迷彩>を見破れるくらい索敵が上手な種族なのかも。
というような話をイオくんにしたところ、スキルじゃないかと言われたよ。
「確か、<直感>ってスキルを育てると、見破る系のスキルが出てくるはず。<迷彩>は基本スキルだから、発展スキルなら看破できるとかありそうだ」
「あ、なるほど。……SPあるなら発展スキルを取るんだけどね……!」
今のSPは、増えた分足して7だからあと3稼がないと<潜伏><認識阻害>の両方取れないからなあ。どっちか片方だけ取っても僕には多分つかいこなせないから、取るなら両方取って速攻で統合しちゃいたい。そのためにも新しい魔法のレベルを上げなくちゃ。
「<直感>は俺が取ってみるか、パッシブだし。そうだ、そう言えばようやく<風魔法>がレベル5になったから取りたいスキルがあったんだった」
「お、どんなの?」
「<風鎧>ってスキルがあってな。<風魔法>レベル5が取得条件なんだ」
ほうほう。名前からして防御系のスキルかな? その前提条件なら僕も取得可能なはずだから、検索してみて……これか。
<風鎧>は【ウィンドウォール】を纏うスキルで、宣言すると一定時間風の鎧がついて魔法防御がすごく上がる、というやつだった。<火鎧><水鎧><土鎧>もあるけど、全部効果は同じで1つしか取得できない。ただ、発展スキルになったときに属性ごとに異なる効果が追加されると。
「<風鎧>は、発展スキルで<暴風鎧>になって、鎧をまとっている間俊敏がUPする、と。なるほど前衛向けのスキルだね」
「最初は短時間だから使いづらいけどな。魔法防御今弱いし、いざというときに使いたい」
言いながらイオくんは<直感>と<風鎧>を取得した。うむ、イオくんが固くなるのは良いことです。……僕向けの物理防御上げるスキルとか無いかなーと思ってちょっと探してみたけど、無さそうだったので、大人しくPP溜まったら振ろうと思います……。
その後もソルジャーアントを中心に、アント系の敵と戦いながら北方向へ。
使ってみました<樹魔法>の【トラップ】! アントって巨大な蟻だから、足が6本あるじゃん? これが面白いほど引っかかってくれて、戦闘はかなりイージーモードだった。どうも【トラップ】のあたり判定が足ごとにあるらしくて、1匹のアントが3回引っかかって効果時間3倍になったりしてたよ。
それなら<上級土魔法>の【バインド】も効きそうだなって思ったんだけど、ソルジャーアントは風属性だから<土魔法>の回避率が高くて、こっちはいまいちだったんだよね。このゲーム、結構属性相性大事っぽいなあと思ったよ。
そして<氷魔法>の【アイスアロー】だけど、こっちはまあまあ普通に効いた。稀に氷結状態になるらしいんだけど、確率はだいぶ低いみたい。何回か戦闘で使ってみたけど1回も氷結状態は見られなかったよ。多分、敵が火属性とかならかかりやすいのかなー?
今度火山に行くし、そのときは<氷魔法>に活躍してもらいたいね。
唯一、マギアントっていう魔法を使ってくる敵がちょっと厄介だった。こいつだけ闇属性で、基本スキルの魔法を使ってくる。魔法の威力はそんなに痛くないけど、【ダークアロー】の「稀に光属性封印」という効果をかなりの高確率で付与してくるんだよ。これ僕がやっても全然出ないのに!
ついでにこいつだけ魔法防御力が高いので、必然的に最も手こずる敵となるのだ。でも、遭遇率は本当に低いので、そこは助かるところ。経験値もこいつが一番多くもらえるんだよね。イオくんの物理系アーツが他のアントより効くので、こいつだけは【トラップ】の後に物理で押し切っている。
「魔法蟻のダーククォーツっていうのが落ちたんだけど、これ多分レアドロ」
「お? アント系は鎧殻と飴石だけかと思ったら。何に使える奴だ?」
「杖素材だね、一応宝石の分類」
そう、アント系の敵は全部鎧殻か飴石っていう、琥珀みたいな石しか落とさなかったので、これが初めてのレアドロだね。ちなみに飴石は砕いたり溶かしたりして染料として使うようなので、これも住人さん向け。
で、今落ちたダーククォーツだけど……。
「アント系の魔物が稀に精製する闇魔法の力を秘めた宝石。闇属性のみだが、通常の水晶系を使うより魔法威力を強化する……って感じだって」
「特化魔法士用か」
魔法士の魔法については、現状では全属性を平均的に全部伸ばしていく感じが主流らしい。でもそれはパーティーとかで、前衛がいるのが前提になる。
ソロでやりたい人とか、組んでいる相手も弓士とかで遠距離攻撃同士だったりすると、魔法士でも何らかの攻撃スキルが必要になるから、そういう人たちはSPの関係で3つくらいの魔法に絞ってレベル上げした方が効率がいいらしい。
多いのは、光・闇に+1属性って編成かな? 氷・雷・樹は、出すまでにSPも労力も使う上、他の魔法と比べて特出して強いってわけでもなく、一長一短あるので敬遠されがち。光・闇もスルーして、最初の4属性だけ伸ばしていくのも安定するらしいよ。
1属性だけ特化する魔法士は結構レアだけど、RPの関係で絶対そうしたい! って感じの人も絶対にいる。それか魔法剣士系で暗黒騎士やりたい! って人が魔法師で闇魔法とって、剣士でやり直すパターンはありそう。杖を持ち替えるのが苦にならない人なら、それぞれの属性に特化した武器を持ってもいいし。
僕は面倒なのでやりませんが!
「これはオークション行きだね」
「早く始まんねえかなオークションと個人ショップ」
「その前に倉庫をどうにか……」
「拠点欲しいよな」
日当たりの良いサンルーム付きの家、欲しいねえ。テトとそこでお昼寝するんだ……まあトラベラーの眠りは一瞬だけど、至福の時間を過ごせるに違いないよ。
「よし、そろそろ昼にするか。そこのセーフエリア行くぞー」
「はーい! テト、お昼ご飯だよー」
わーい!
ブローチに向けてテトを呼ぶと、テトは速攻でしゅばっとハウスから外に出てきた。いつもこの巨大な猫が小さいブローチから出てくるの不思議で仕方ない。
イオくんが選んだセーフエリアは、森に入る手前の草原にぽつんとあるところで、すぐ近くを枝道が通っている。いずれこの枝道が大きくなったら、ここも大きくなってキャンプ地になりそうだなあ。
ナツー!
とぐりぐり僕に体を擦り寄せてくるテト、どうやら問答無用でブローチに強制退去されたのがよほど不服だったようだ。にゃにゃーーっと一生懸命抗議している。
テトにげられたのにー! ハウスにぽいってされたのー! ひどいのー! おーぼーなのー!
「テトを守ってるんだよ、ブローチをかじるのはやめようね……!」
ナツのことまもってにげられたのにー!
「テトさん、僕は戦うんだよ……!」
でもナツはかよわいからぺしゃんこになっちゃう……。
「ならないよ!? ほら前衛にイオくんがいるからね!?」
そっかー。
テトはてててっとイオくんの側まで走っていって、すりすりと体を擦り寄せながら「イオはつよいからナツのことしっかりまもってほしいのー」とか言っている。くっ、僕どれだけ貧弱だと思われてるんだろうか……! この前ちょっと見直してもらえたと思ったのに……!
「紙装甲だからだろ」
「次はPP振りますぅ!」
僕がぐぬぐぬしている間に、イオくんはテキパキとテーブルセットを出して昼ご飯を吟味中だ。テトには一足先にマドレーヌを出してくれたので、愚痴大会はそこで終了となった。イオくんテトの扱い上手いねえ。
「ナツ、パンと米どっちがいい?」
「お米! なぜなら朝サンドイッチだったので!」
「よし、鮭飯食っちまうか」
お、これはサンガで作ったシャケの炊き込みご飯! イオくんが日本酒とみりんを手に入れた喜びのままに作り上げた、しめじとシャケの炊き込みご飯ではないか! 出来上がったときあまりに良い匂い過ぎて2人で思わず貪り食ってしまったので、おにぎりにして置く予定が後1食分くらいしか残らなかったというやつ……!
「味噌汁! 味噌汁を所望します!」
「おう。これももう無くなるし、また作らないとな」
ナズナさんにもらったじゃがいもと里芋もあるし、かまどの使い方もおしえてもらったから、時間見つけて作りに行きたいね。テト、応援してあげて! と促したところ、テトさんは目をきらきらさせながらイオくんを見つめた。
イオー、くりたべたーい。
「……栗の甘露煮で蒸しパンとか作れませんかイオくん!」
「ああ、オーブン無いからマフィンは無理だけど、ホットケーキと蒸しパンなら行けるか……?」
やったー!
大喜びするテトの一声で、食事よりお菓子が増えていくインベントリなのであった。




