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22日目:アサギくんのお手伝いをしよう

 さて、一瞬で夜を飛び越えて翌朝。

 今日はアサギくんの予定を聞いて、手伝いができることは手伝おう、という感じ。火山も行きたいし湯屋も建設したいけど、その前にギルドを整えてサンガから来る人たちを迎えられる準備が先だ。できればスペルシア教会もほしいよね、お守りを売って欲しいから。

 ナツー、おはよー。

 ともっふもふのテトさんが僕のお腹の上に……テトさん小さい頃から僕の上に乗っかるの結構好きだよね。顎を乗っけているだけなので助かるけど、全体で乗っかられると僕は潰れるので注意が必要です、貧弱エルフなので!

「テトおはよう。元気?」

 げんきー。きのうのしろいのおいしかったー。

「シチュー美味しかったねえ、また作ってもらおうね」

 テトを撫でながら起き上がると、イオくんは座卓の上に朝食の準備を済ませていた。僕とテトの会話に苦笑している。

「作るのはいいが、多分かまどの力だぞあの肉の柔らかさは」

「そうなの? イオくんの料理スキルかと」

「スキルレベルは上がったけどなー」


 イオくんが言うには、魔導コンロより普通の調理器具のほうが良いものを作れるし、それよりもかまどのほうが更に良いものが作れる、つまり道具が良いということらしい。魔導コンロは持ち運べる利点があるし、かまどはその代わり手入れをしっかりしないといけないから、それぞれに良し悪しがあるって感じだ。

「もし拠点が実装されたらめっちゃ欲しいな、かまど。手入れは苦にならないし」

「美味しいものが食べられるなら大賛成だけど、それなら土間が必要かなあ」

「そこら辺どうなるかな、流石に室内でかまどは使えないだろうし」

 そもそもこのゲームで拠点とかホームとかが持てるのかわからないからねえ。でも正直倉庫は欲しい、本サービス開始したら是非お願いしたい。

「今日卵サンドと珈琲な。ナツの分はカフェオレ」

「……もはや何も言うまい。テトにもホットミルクください」

「あー、牛乳結構少ないんだよな、シチューに使ってて。代わりにサンガで買ったプリンでいいか?」

「よろしいと思います!」

 ぷりーん!

 にゃーん! とご機嫌に鳴いたテトは、プリンは美味しいと理解しているのでにっこにこで座卓の横におすわりした。懐かしのプリンの歌を歌っている……いいなプリン。僕も食べたい。イオくん僕にも1つ!



 美味しい朝ご飯を食べてから、揃って居間に顔を出す。あ、魔石はちゃんと空の魔法石になったので、後で魔法を込めてみようと思う。パーティー用の伝言板に忘れないようにメモしておこう。

 庭には、夜ほどのお客さんはいなくなっていたけれど、それでも早朝から訪ねる里の人たちの姿がちらほらあった。炎鳥さん、大人気だなあ。

「村長さん、おはようございます!」

「おはよう」

 おはよー!

「おお、なっちゃんとイオとテトじゃな。おはよう」

 にこやかに挨拶を返す村長さんは、お茶を飲んでいる。茶葉ってあるのかな? って話を聞いたら、野草茶だって。ドクダミとかヨモギとかをブレンドするんだそう。味の想像が……あんまりつかないかも。

 とりあえずアサギくんの居場所を聞いてみたところ、すでにギルド予定地へ向かっているとのことだったので、僕たちもそこへ行くことにした。


 昨日新しい魔法をゲットしたから、午後にはフィールドに出て戦いたい。お肉もまた集めたいし!

 でも僕たちは今日が終わったらリアルの方で夕飯休憩に入るから、今日のうちにアサギくんの手伝いをしておかないと、休憩時間の兼ね合いで手伝えない可能性がある。

 僕たちのクエストは、アサギくんのクエストを手伝えば手伝うほど報酬がもらえるシステムだ。1つでも手伝うことができれば、里の住人さんからの好感度が上がりやすくなるって説明に書いてあるんだよね。アナトラは住人さんとの交流を推奨しているゲームだから、こういうのはなるべくこなしておきたいわけで。いつアサギくんが休憩に入っちゃうかわからないから、とりあえず1つは先に終わらせちゃいたい!

 今しかできないことが当然優先だよ。


「アサギくんは門の近くだから……あ、雷鳴さんからメッセージ来てる」

「雷鳴たち今どこらへんだ?」

「えーっとね……。すごくずらずらと【グローアップ】についての考察が書いてあって……あ、正道沿いのキャンプ地で一泊したら、ゴーラから来た荷馬車と一緒になって、事情を話したら乗せてもらえることになったって」

「お、いいじゃん」

 歩くよりも馬車のほうがずっと早いから、これは幸運な出会いだったね! そして雷鳴さんは【グローアップ】気になるけど使ったら負けな気がするという葛藤がすごい。真の農業ガチ勢からしたら魔法で作物を育てるのは邪道、いやしかしそういう魔法があるならばこの世界では邪道ではないのかもしれない、であるなら自分も己のこだわりを捨てて世界に迎合すべきか……! というようなことがなんか長々と……。

 複雑な心……! 僕だったらわーいって速攻使っちゃうけども! でも慎重なのは良いことだと思います。頭いい人って色々考えることがあって大変だなあ。


 そんな話をしながら門の近くまで歩いていくと、4人ほどの屈強な鬼人さんたちとアサギくんがちょうど長屋を崩しているところだった。文字通り、壁をどーんと崩して、枠組みを解体している感じ。近所の家が建て替えするときこんな感じだった気がする。

「アサギくーん、おはよー!」

 おはよー!

 と声をかける僕と、僕の真似をするテトに、振り返ったアサギくんは「よ、おはよ!」と片手を上げる。あ、イオくん無言会釈で終わらせた……! まあリアクションはしたので、いいでしょう!

「手伝いに来たんだけど、なにかやることあるー?」

「超助かる! 【クリーン】使えたら頼む!」

「ああ、それなら任せて! 僕もイオくんも使えるよー」

「神!!」

 アサギくん<風魔法>は使えないのかーと思って聞いてみると、使える魔法は火力アップのための<火魔法>と状態異常回復のための<土魔法>だけだそう。まあ本業弓士なら2種類で十分だよね。本業剣士のイオくんも<風魔法>のみだし。


「【サンドウォーク】も【イグニッション】も使うからいいんだけどな! 正直【クリーン】のためだけに<風魔法>取るかめちゃくちゃ迷う」

「わかる、【クリーン】便利だよね」

「サンガで時々一緒に冒険してた奴が持ってたんだよ、<風魔法>。あ、ところで<水魔法>で覚えられる最初の便利魔法って何?」

「【アクアクリエイト】だねー。水を作り出す魔法で、飲水にもなるので割と重宝」

「欲しくなるやつだ……!」

 アサギくんはぐぬぐぬしながらステータス画面を開く仕草をして、何かを確認してため息をついた。多分SPが無いんだね、知ってる。なぜなら僕も今SP無いからね……仲間だよ。

「いやよく考えたら俺魔力低いからな……自重……!」

 あ、諦めたようだ。

「あ、俺<風魔法>あげたいし、【クリーン】は俺がやっていいか?」

 イオくんがちらっと僕を見るので、よろしい! と頷いておく。【クリーン】は消費MPも少ないし連発できるし、魔力も関係ないから使いやすいよね。


「じゃあ僕は何かやることあるー?」

 あるー?

 首を傾げて問いかけた僕、その隣で同じ方向に首をかしげるテト。まねっこ好きなうちの猫さん超可愛いと思いませんか。契約主である僕もドヤ顔になるってなものである。

「じゃあ、ここの瓦礫から金属類だけなるべく取り除けないか? この辺はあとで燃やすんだけど、金属入ってると残るから、片付けのとき危ないし。あとリサイクルできるならしたいって感じ!」

「OK、なるべくやってみる!」

 テトもおてつだいするのー。

 というわけで、僕とテトのお仕事は分別だね。と言っても、この里にはあんまり金属がある印象無いんだけど……、あ、一応壁になんか芯っぽいの入れてる? これで丈夫にしてるのかな。

「テト、ちょっと待って。これ尖ってるから危ないかも」

 ナツあぶないー?

「うーん、僕よりテトがね。結構瓦礫とか重そうだし……あ、そうだ!」

 ちょっと思いついたんだけど、これ<金属加工>で取り出せないかな? 金属を含んだ鉱石から金属を取り出すことはできたわけだから、壁の素材……漆喰とか? そこから金属だけ浮かび上がらせることができるかも。

 僕が何か思いついたことに気づいたテトが、がーんばれー♪ と応援ソングを歌ってくれた。応援されたのならば、ここは成功させねばなるまい!

「よーし行くよ! <金属加工>!」


 ごそっとMPが減った。

 あっ、しまった範囲指定してなかったから、この辺一体にスキルが……!

「……っ!? ナツ何やってんだそれ!?」

 背後でイオくんの焦った声がする。いやそりゃそうだよね、びっくりだよ僕も。視界の隅で<金属加工>スキルのレベルが2つくらいぽんぽんっと上がったお知らせが出てたけど、それどころじゃない。いやあのこれ……これどうすればいい?

「なんか出た!」

「いやなんかじゃねえわそれ金属だろ!?」

「ちょっと思った以上に広範囲にわたってしまい!」 

「雨雲みてえになってんぞ!」

 イオくんの言う通り、瓦礫の上に雨雲みたいに鉄っぽい金属の塊がごそっと浮いているのである。……いやほんとこれどうすれば!?

 ナツすごーい!

 ってテトは喜んでくれていますが流石にこのままではどうにも……、あ、そうだったアーツ! アーツあるじゃん!

「【プレス】!」

 叫んだ僕の目の前で、雲のようにふよふよ浮いていた金属の塊がガシャーン! と金属の板になって落下した。ものっすごい埃が舞い上がって視界が真っ白になる。


「なっちゃん!?」

 とアサギくんの焦った声が聞こえて、首根っこを掴まれた僕はイオくんによって埃の中から救出されるのであった……。おうふ……普通に持ち上げられてる……。

「力持ち……! イオくん筋力今いくつ?」

「言ってる場合じゃねえわ。瓦礫押しつぶしてるこれどうにかできるか?」

「大変申し訳ございませんでした! 早急に対応いたします!」

 もくもくと舞い上がっていた埃が落ち着くと、そこにあるのは巨大な……畳3枚分くらいありそうな鉄っぽい板。<鑑定>すると混合金属とか出てくる。様々な金属が混ざったもので、強度はそれなり、って感じのものだそうです。

 そしてその下に燃やす予定の瓦礫があるので……どうにかしてどかさないと。

「びっくりした、大丈夫かなっちゃん!」

 と駆け寄ってきてくれたアサギくん、僕が子猫のように首根っこ掴まれてぷらーんとぶら下がっているのを見て、口元を手で抑えた。いいよ、我慢せずに笑うがいいよ。自分でもちょっとこれはないなって思ってるから……!

「イオくんそろそろ降ろしませんか……!」

「テト、俺が仕事終わるまでナツのこと乗せてろ。自由にさせると何しでかすかわからん」

 わかったのー。

「いやあのイオくん、その前にこの板どうにかしないとなので……」

「できんのか?」


 そこはやるしか無いんだよイオくん!

 えーっと確か、さっき新しいアーツを覚えたってお知らせが視界の隅に……これか! <金属加工>スキルのレベル4で【キューブ】というのを覚えている。プレスが板にするアーツなら、キューブは文字通り四角を作るアーツだ。つまり、インゴットというやつだね。

「えーと、範囲指定をちゃんとしてから……【キューブ】!」

 イオくんが降ろしてくれないので、とりあえずぶら下がったまま近いところの金属板を範囲指定して、アーツを唱える。ぱっと範囲が光って、それがぽんっと瞬く間に四角形を作った。うーん?

「インゴット……ではないね……?」

「でかいサイコロだな。よし、それで板をちゃんと退けろよ」

 ふうっとため息を吐きながら、イオくんは僕をテトの上にぽいっと乗せた。くっ、すごく雑に扱われているのにちゃんとテトに配慮された乗せ方……! えらい!

 

 ナツすごいのー。おおきいのえいって!

 ときらきらした目で見てくれるテトさんには申し訳ないけど、これはちょっと失敗しましたね。結果的に金属を抜き取れたのでよしとしたいところです。許されたい。

「えっと、この四角いのをたくさん作るから、ちょっと付き合ってねー」

 いいよー!

 範囲指定、大事。もう覚えたので同じ失敗はしないのだ。というわけで、近場から……。

「【キューブ】! テト、右に移動してー」

 はーい。

 さて、いくつ四角ができるかな!

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