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ゆるだら令嬢、魔王になる ~それでもお嬢様は可愛いので僕は無限に甘やかす!~  作者: 川石折夫
第1シーズン・ゆるだら令嬢危機一髪編
53/70

第48話「甘やか執事、戦う」

 


   ――かつての大戦に敗北して以降、魔大陸プラトーに押し込められ不自由を強いられてきた魔族を開放するための、人間に対する反抗政策。


 




 ガラド様はそれを僕から魔王様に進言するよう、突如依頼してきた。



 人間を敵視し、強硬派を引っ張るその姿勢から、いつかこういう話が来るとは思ってたけど、よりによってこのタイミングだなんて。



 ……やはり、()()()()()()()()()




「ガラド様、今はそういう話をしている時ではないのでは?」



「いや、今だからこそだよ。そもそも、元皇太子様や先代魔王様が謀殺されたとして、それはなぜだと思う? それは、魔族が人間どもの支配から脱するうえで、彼らが邪魔だったからだよ。それは、今回の魔王様襲撃も同じこと……」




 やっぱり……



 でも、それを言うってことは……




「それは、あなたが一連の事件の犯人だというふうに聞こえますが?」



「そういうふうに言ったつもりだ、今さら否定はせんよ。が、今君が決断すべきは、私の提案を受け入れるか否かだ。魔王様さえその気になれば、もうその身を狙われることはなくなるかもしれないぞ?」




 僕の指摘を受けてガラド様は動揺するわけでもなく、思惑どおりとばかりに余裕のある態度でそう言ってのけた。



 つまりは恫喝……



 魔王様の身の安全を保障したければ、強硬派を支持しろということだ。




「たとえそうだとしても、魔王様の意思を決めるのは僕ではありません。魔王様へのお願いなら、直接本人にお伝えするべきではないかと」




 もちろん、個人的にも強硬派を支持する気はない。



 仮にあったとしても、僕はこう言っているだろう。



 ガラド様も僕がこう答えるのを察していたらしく、不敵に笑う。




「ふ、なかなかの忠臣だな。もちろん、魔王様へも直接打診する。そのための手筈も整えている……今ごろ、魔王様も同じ話を聞かされているだろう」




 やはり……



 ガラド様の言葉を受けて、僕はすぐにソファーから立ち上がる。



「話がそれだけなら、ここにいる理由はもうありませんね。僕は魔王様のところへ戻らせていただきます」



「さすがに魔王様が心配か。だが、そうはいかないな」




 ガラド様はあくまで余裕げにソファーに座ったまま、ぱちんと指を鳴らす。



 その直後、部屋の入口から数人の獣魔族の男たちがやってきて、僕を取り囲む。



 この時のために、あらかじめ隣の部屋にでも控えさせていたのだろう。




「こうして話を聞いた以上、君を外に出すわけにはいかない。なあに、君が抵抗さえしなければ、命まで取るつもりはない……ただ、事がすべて終わるまで、ここで待っていてくれればいいのだ」



「………」




 なるほど、最初から僕をここに足止めするためにわざわざ呼んだのか。



 僕が魔王様を護衛できる程度には腕に覚えがあるのをどこかで知って、それで警戒しているのか……




「勇猛果敢で知られる獣魔族(ビースター)にしては、ずいぶんと回りくどいことをなさるのですね」




 僕はやや侮蔑の笑みを浮かべて、そう言った。



 軽い挑発の意味もある。



 これにガラド様は目立って怒るようなことはしないけど、不服そうに眉をひそめた。




「……私とて、このようなからめ手は好まぬ。なんなら抵抗してくれてもいいのだぞ? 多少痛い目を見ぬとわかるのであれば、こちらにとっても都合がよい。配下のこやつらも食いでのある獲物が目の前にいるとあって、うずうずしているからな……」




 不敵に笑いながら、僕を取り囲む男たちを見渡すガラド様。



 それに答えるように、男たちも薄笑みを浮かべた。



 ……なるほど、やはり獣魔族(ビースター)



 いくら理性的にふるまっていても、好戦的なサガは隠しようがない。




「ならば、抵抗させてもらいましょう」




 これに対し、僕も不敵に笑う。



 けど、いきなり殴りかかるなんて無謀かつ野蛮なことはしない。



 僕は男たちが動くよりも早く、魔法を発動。



 掲げた手から強烈な光を放つ、目くらましのための閃光魔法だ。




「うおっ……!?」




 これにガラド様たちは、目を覆いながら怯む。



 元来、獣は光に敏感なもの……効果はばつぐんだ。



 この光の中、僕は魔法を使う前からあらかじめ目をつけていた窓の方向へダッシュ。



 窓をぶち破り、外へ飛び出した。



 このまま脱出できれば楽だったのだけど……




「窓から逃げたぞ!」



「逃がすな!」



 部屋にいた者たちとはまたべつのグループが、すぐさま駆けつけてきた。



 念のため外にも配下を控えさせていたらしい。



 ……なるほど、戦い好きの獣魔族ビースターらしい周到さだ。




「抵抗した場合、容赦なくいためつけてもよいとガラド様は仰せだ!」



「ウハハ! 久しぶりの獲物だァ、たっぷり楽しませてもらうぜェッ!」




 僕を発見するや、たちまち殺到する男たち。



 そのさなか、獣耳をはやした以外普通の魔族とあまり変わらない彼らの姿が、徐々に変化していった。



 衣服がはじけるほどに肥大化した筋肉と、手足の先の強靭な爪。



 そして、より獣に近づいた頭を持つ獣人へと変身したのだ。



 これが、獣魔族(ビースター)固有の能力……獣の特性を表面化させた戦闘形態へ変身する、“獣化”の能力である。




「ウオオオオォォォォッ!! 殺せェェェェッ!!」




 肉体とともに闘争心まで肥大化した獣人たちは、完全にこちらを殺す気満々で獰猛に襲いかかってくる。




「おやおや、ずいぶんと血気盛んなことで」




 獣化による理性の低下で、もはやガラド様の命令も忘れたとばかりに、凶暴性をあらわにする獣人たち。



 並みの魔族なら死を覚悟する局面だけど、僕はあくまで冷静に対処する。



 獣には火……太古より伝わるセオリーに従い、僕は炎の魔法を獣人たちに放つ。



 ……そんじょそこらの魔族が放つものよりずっと大きく、激しい火炎弾だ。




「うぎゃあああぁぁぁぁっ!?」




 それは一発で、五人ほどいた獣人たちをまとめて包み込んだ。



 激しい炎にまかれて、狂乱する獣人たち。



 強靭な肉体と生命力を持つ獣魔族(ビースター)なら炎にあぶられた程度で死にはしないだろうけど、鎮火してもすぐには動けまい。



 僕があえて外に出たのは、脱出を考えてもあるけど、強力な魔法で敵を一気に殲滅するためだったのだ。




「き、貴様ァッ! よくもォッ!!」




 炎に包まれた獣人たちが地面にのたうち回るさなか、また新たなグループがやってきた。



 屋敷の中で僕を取り囲んでいた男たちだ。



 僕を追ってあわてて、屋敷から出てきたのだ。



 その男たちもただちに獣人に変身して襲い掛かってくるけど、




「すみません、あなた方じゃ相手になりません」




 僕は手の一振りで魔法を発動。




「ぐわあああぁぁぁぁっ!?」




 獣人たちの周囲に突如、竜巻が出現。彼らを空高く舞い上げた。



 それはすぐに消え去り、間もなくして獣人たちは次々と地面にたたきつけられる。



 その衝撃は、屈強な獣魔族ビースターといえど気を失うには十分だった。



 これで襲ってきた獣人たちは、すべて行動不能にした。



 残るは……




「――なるほど、魔王様の直属の側近を任されるだけのことはある。なかなかの高位魔族のようだな、君は」



 ひとまず敵を片付けて僕が一息ついていると、そこへ彼は現れた。



 ――ガラド様である。



 どうやら安全圏から、自分の配下が蹂躙される様を見ていたらしい。




「次はあなたですか?」



「ふ、そうなるな」




 僕の挑発めいた薄笑みまじりの文言に、ガラド様もにやりと不敵に笑って返す。




「今のを見ても、ちっとも臆さないんですね」



「当然だ、伊達に獣魔族(ビースター)の長の座についているわけではない。このような雑魚どもと一緒にされては困る」




 あくまで自信たっぷりに、ガラド様はそう告げた。



 ……はったりではあるまい。



 そもそも、力こそ至上とするのは獣魔族だけにかぎらず、いまだ魔族全体に深く根づいた基本理念だ。



 よって、多くの魔族領は生まれながらの血筋はもちろん、その中でももっとも強い者が領主に選ばれる。



 ……つまり、今僕の目の前に立っているのは、“獣魔族(ビースター)最強の男”だということだ。



 その看板にたがわず、一領主からひとりの戦士に立ち返るように、ガラド様から徐々にぴりぴりとした威圧感を感じる。



 ……今相手をした獣人たちの殺気が可愛く思えるほど、密度の濃い闘志である。



 それをまといながら、コキコキと指を鳴らし、おもむろに戦いの構えをとるガラド様。




「――父上っ!!」



 けど、突然割り込んできた声に反応するように、その闘志が乱れた。



 僕たちが振り返ると、そこにはガラド様の子息……ミランくんが立っていた。



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