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ゆるだら令嬢、魔王になる ~それでもお嬢様は可愛いので僕は無限に甘やかす!~  作者: 川石折夫
第1シーズン・ゆるだら令嬢危機一髪編
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第47話「ゆるだら令嬢と幼なじみ」

 


「あ~、ヒマだなぁ……」


 


 暗殺されてかけて魔都(まと)から戻ってきてからずっと、あたしは魔王城の自分の部屋から一歩も外に出られない状態だった。



 あたしが今いる寝室とドア一枚で隔てられた隣のリビングには、護衛役のバルザックさんとディアーシャさん……それにばーちゃんから遣わされた使用人がずっと張りついている。



 ……さらなる襲撃を警戒しての処置だそうだけど、これじゃ軟禁だよぉ。



 幻魔族(ナイトメア)領の屋敷にいたころも似たようなもんだったけど、ここまでひどくなかった。



 あたし……というか魔王クゥネリアも休業状態。



 おかげで寝室にさえ閉じこもっていればゆるたらし放題だけど、ここには遊ぶものがなにもないし、甘やかしてくれるフィリーたちもいない。



 それに隣にバルザックさんたちがいると思うとリラックスもできず、おかげで省エネモードになることもできない。



 だから、ここ数日はゆるだらしようにもできず、ただベッドの上でぼーっとしているだけの時間が続いた。



 昨日までは本当に一歩もベッドから動かなかったけど、フィリーに言われてからは食事の時や気が向いた時だけ、隣のリビングに顔を出すことにした。



 ここがうちの屋敷だったら下着のままうろつくのも躊躇(ちゅうちょ)しないあたしだけど、さすがにバルザックさんたちがいる中でそんなことはしない。



 あたしの本当の姿は、誰にも知られちゃならない。



 魔王城にいる間は、あたしはあくまで魔王クゥネリアとしてふるまわなければならないんだ。



 だから、すこしめんどくさいけどリビングに行くときはちゃんとドレスを着るし、仮面も忘れない。



 フィリーたちがいなくても、あたしにだってこれくらいはできるんだよ。



 ……普段はフィリーたちがなんでもやってくれるから、自分でやる機会がないだけで。




「――魔王様、そんなに堅くなさらず、もっと楽にしたらいかがかしら? ほら、そんないかつい仮面なんかはずして」



「そうはいかぬ。この仮面は余が魔王として生きる証、この下の素顔を見た者は死ぞ」



「あら、こわい」




 顔を合わせるたび、ディアーシャさんは執拗にあたしに仮面をはずすよう言ってくるけど、前々から仕込まれていた脅し文句でなんとか乗りきる。



 ……本人は全然ビビってないみたいだけど。



 でも、ディアーシャさんの前ではなにがなんでも仮面をはずすわけにはいかない。



 なにせ、この人には前にがっつり素顔を見られちゃってるからね。



 なんだか妙に勘がよさそうだし、すこしでも隙を見せたら一発であたしがルーネだってバレちゃう気がする。



 だから、この人に絡まれるたび、生きた心地がしないくらい緊張してしまう。




「無礼だぞ、ディアーシャ! 申しわけありません、魔王様。どうかご容赦を……」



「いや、かまわぬ」




 けど、そのたびにバルザックさんがすかさず間に入ってくれるから助かる。



 見た目はガラが悪そうで最初会った時は苦手だったけど、この人、意外と常識的でいい人っぽいんだよね。



 なんか親戚のおじさんみたいな、そんな気さくな雰囲気の人だ。



 そんなバルザックさんもディアーシャさんには当たりがきついけど、それでも妙に距離感が近いし、なんだかんだでいつも一緒にいるのが不思議なんだよね。




「ところで貴公ら、前々から気になっていたのだが、どういう関係なのだ? ずいぶんと気安い間柄のようであるが」




 だから、あたしは思いきって聞いてみた。



 魔王から言われたら、答えないわけにはいかないっしょ。




「あ、いや……なんと言いますか……」



「ただの腐れ縁ですわよ、子供のころからの」




 バルザックさんが急にしどろもどろになったかと思えば、その横からディアーシャさんがしれっと言った。



 ……それはつまり、幼なじみとゆーやつでは?




「意外だな……たしか、炎魔族(フレイマ)氷魔族(フリーゼ)は昔から不仲と聞いていたが」



「それは、まぁ……ただ、不仲と言っても、しいて言えば喧嘩友達のような関係ですね。炎魔族(フレイマ)氷魔族(フリーゼ)は相いれない関係である一方で、領が隣同士だから昔からなにかと交流があるので」



「仲が悪いのも互いになんとなく毛嫌いしているとか、その程度のものよね。ウチらの親たちも、顔を合わせるたびしょっちゅう罵り合ってるくせに、領共同の祭事とかじゃ仲良く一緒に運営してたものだし」




 ……不思議と、その光景が鮮明に目に浮かぶかのようだった。



 ていうか、それって……




「それは……」



「あら、なんでしょう?」



「いや、なんでもない」




 ――それって、まさに今のあなたたちと一緒じゃ?



 そう言おうとして、なんとなく口をつぐんだ。



 言ったらまた騒がしくなりそうだしね。



 でも、幼なじみかぁ……



 当然だけど、あたしにはそんな相手はいない。



 子供のころから屋敷に引きこもって、パパにあちこち連れまわされる以外は外での交流が全然なかったからなぁ。



 だから、当然友達もいない。



 昔はまあさみしかったりもしたけど、フィリーが来てからはそんなこともなくなった。



 フィリー、メルベル、ガーコちゃんは……うーん、幼なじみと言うには微妙だ。



 彼らとは子供のころからの長い付き合いだけど、みんな昔から全然見た目が変わらないから、幼なじみって気が全然しないんだよねぇ。



 ……あたし自身、伸びたり縮んだりしているせいで、時間の感覚があいまいなんだけどさ。



 ただの従者と割りきれるほど冷めた関係でもないし、しいて言えば家族、かな……



 フィリーと言えば、今日も事件の調査に出ているのだろうか。




(フィリー、今ごろどうしてるかなぁ……)




 昨日顔を見たばかりだというのに、なんだかもうさみしくなってきた。



 フィリーはいつも、あたしの隣にいたからなぁ……一日中顔を合わせないなんてこと、そういえば今まで一度もなかったや。



 ……また、ふらりとここに来てくれないかな。



 そんなことを思いながらぼんやりしていると、不意に部屋のドアがコンコンと鳴る。




「失礼します、魔王様」




 やがて開かれたドアから現れたのは、シャロマちゃんだった。



 思わぬ人物の登場に、あたしは思わず仮面のうちで目を丸くする。



 彼女とは魔都(まと)での事件直前にはぐれたっきりだったので、なおさらだ。




「シャロマ? お前はフィールゼンと事件の調査をしているはずでは?」



「はい、ゆえあって今日はフィールゼンさんひとりにお任せしています。ところで、ナーザ様がお呼びですので、お越しいただけないでしょうか?」



「ナーザが?」




 そういえば、ばーちゃんも事件からぜんぜん顔を見てないなぁ。



 事件についてなにか進展があるかもしれないし、フィリーが具体的になにをしてるのかも聞けるかもしれないし、ちょうどいいや。



「わかった、行こう」



「魔王様、我々もご一緒しましょうか?」



「申しわけありません、バルザック様。ナーザ様からは魔王様おひとりをお連れするよう言われてますので……」



「だそうだ。貴公らにはここでの待機を命じる」



「は……」




 そんなやりとりを経て、あたしはシャロマちゃんに案内されて部屋を出た。



 いつもどおりなら、ばーちゃんは執務室で待っているはずだ。



 あたしはそう思って、なにも考えずシャロマちゃんのあとについていった。



 けど……


 


 


「――えっと、シャロマちゃん?」



「はい」



「ここ、どこ……?」




 周りにほかの人が誰もいないのを確認して、あたしは仮面をはずしながら尋ねる。



 ひたすらシャロマちゃんについていったら、気がつくと見知らぬ部屋にたどりついていた。



 四方が丈夫そうな石の壁に包まれた、簡素ながらやけにだだっ広い部屋だ。



 こんなところが魔王城の中にあるなんて、はじめて知った。




「ここは兵士の修練場でございます。周りの壁は特殊な魔法加工で保護されており、

 多少のことでは傷がつかないし、音も外に漏れることはありません」



「へー……って、そーじゃなくて! ばーちゃんはどこ? ほんとにここにいるの?」




 とぼけたようにつらつらと解説するシャロマちゃんに、あたしは思わずつっこむ。



 話があるのにわざわざ修練場なんてとこに呼ぶのは意味がわからないし、そもそもここにはばーちゃんの姿がなかった。




「すみません、魔王様……あなたをお呼びしたのは、ナーザ様ではないのです」



「……は?」




 シャロマちゃんのこれまた意味のわからない言葉に、あたしは言葉を失う。



 そして、気づいた。



 今になって、気づいてしまった。



 ……あたしを見るシャロマちゃんの目が、光を失っているのを。



 こないだあたしを襲った、あの少女たちと同じ目をしているのを……



 そんなシャロマちゃんを前にあたしが呆然としていると、不意に後ろから誰かの気配がした。




「――お待ちしておりました、魔王様」




 その声に振り向き、あたしはその人物の姿を捉えた。



 そこに立っていたのは、まさかすぎるあの人物だった……



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