嫌がらせ⑤
夏休みも終わりですね
嫌がらせその11 怖いプレゼントを……
今日はお父様のお友達が来ている。確か、立場は隣の帝国の皇弟さまだったかしら?
「ようこそいらっしゃいました、ヤハ様」
お友達様は、ヤハと言う方だ。
「あぁ、有り難う、ベアトリス」
アルカイックスマイルで微笑むイケメン。……私の周りって美男美女が多くて嫌になるわ。
まぁ、イケメンだけど私とヤハ様じゃ親子程の年の差があるから動揺とかはしないわよ?
完璧な一礼をして、話し相手の役目をお父様に渡した。
久々に会えた旧友に、お互い楽しそうだ。私はそこでただにこにこするだけ。……存在が空気になるのはちょっと寂しいわね。
「そうそう、ベアトリスにお土産があるんだ。珍しいものだと思うよ、君には」
暇だけど、お父様達の会話にも入れず、かといって自室にも戻れなかった私に、ヤハ様は突然話しかけた。
「喜んでくれるといいんだけれど……。開けてみてくれる?」
「あ、はい。有難うございます」
満面の笑みを浮かべたヤハ様。お土産をくれるなんて優しいなぁ。
ガサガサ
びよよーん
「きゃー?!きゃーー!きゃーー!!」
金獅子公宅に悲鳴が響いた。
「アッハハハハハハ!ハハ、ハハハ!!やー、さすがはベアトリス。期待を裏切らないね」
心底楽しそうなヤハ様の声が落ちてくる。ちなみに、私は床にへたりこんでる。
「泣くほど喜んでくれるなんて最高だね。どうだい、僕からの贈り物は?それはびっくり箱と言うらしいよ」
残念ながら「喜んでません!全然嬉しくなかったです!」とは(立場上)言えないので涙目でキッと睨む。
……怖かった。
箱から飛び出してきたのは蛇の玩具。箱から飛び出した時点で腰が抜けたのだけど、その飛び出した正体が私の嫌いな蛇だったことで私の涙腺は決壊した。
「うぅ……。怖かったよぅ……」
とりあえず近くにいたお父様に抱きついた。
「……おいヤハ。うちの娘を泣かせてくれるな」
そうだそうだー。もっと言っちゃえ~。
「アッハハー。やー、悪かったよ」
たとえアルカイックスマイルで謝られても嬉しくないです。反省してください。
ジト目でしっかり睨んだ。
……それにしても、この箱、悪趣味ね。人を驚かすための箱、だなんて。
でも……。アリシアへのプレゼントにはちょうどいいかしら?
折角だから侍女に頼んでおきましょう。
「お嬢様。より効果的に使うなら、アリシアの嫌いなものを聞き出す方がよろしいです」
ええ、そうね。箱は聞き出してから作ろうかな。
その後近日の昼休み。
「ねぇ、アリシア。ちょっと聞きたいことがあるの」
「なんでしょう?ベアトリス様」
「えっと、あのね……」
どーしよ。折角アリシアが質問に答えてくれるんだから、ここは好きな人を聞いた方がいい?アーサーのことをどう思ってるか、とか。いや、でも、目的を遂行するのが優先?……あぁ~どうしよう?
「ベアトリス様?」
ハッ!
「あ、えっと、アリシアの嫌いな人教えて?」
あぁーー!焦りすぎて『好きな人』と『嫌いなもの』が混ざっちゃったじゃない!しかも、文的におかしなところがないし!くぅ
「え?嫌いな人?……強いて言えばアーサー様ですかねぇ?」
……はい?あんだけ仲良くしてて?
「……ダウト」
「あ、あの、嘘じゃないんです!最近はよくつきまとわれるし……」
アーサー様はそんな人じゃないわ!のろけは止めて!
ってかそんなことより嫌いなもののが大事よね!
「じゃあ、アリシアの苦手なものとか怖いものは?」
アリシアは困った顔をしている。すごく言いづらそう。
「ねぇってば!」
「……ベアトリス様です」
……。
「……私?」
まぁ、嫌われるようなことはしてるつもりね。成功してないと思ってたけど……。心が嬉しいような寂しいようなモヤモヤだわ。
「あ、いや、ベアトリス様のことは大好きなんですけど!もう何よりも好きなんですけど!……その、ベアトリス様に──れるのが怖いです」
もじもじしながらアリシアが弁解する。最後の方聞き取れなかったけど、とにかく私のこと怖いのよね!
よし、びっくり箱には私が入るわよ!
「あ、あの!待ってください!絶対何か勘違いしてます!私はベアトリス様のこと大好きです~!」
何やら聞こえたけど私の意識には浮上しなかった。
「ベアトリス様に嫌われちゃうのが怖いのに……。私がベアトリス様に敵意を向けてるなんて誤解、早く解かなきゃ……」
「大丈夫よ!ベアトリス様なんだか生き生きしてたから」
「ほ、ほんとですか……?」
自宅にて。
「ねぇ!私やったわ!ちゃんとあの娘の嫌がるものを聞き出したわ!これで計画は成功ね!」
「お、おめでとうございます。で、あの方は何を怖がってるんですか?」
よくぞ聞いた!さぁ教えてやろう。
「この、私よ!」
胸を反らせて言った。侍女のポカンとした顔を見て満足する。
「だから、今すぐ等身大の私の人形を作って!」
「……は?」
唖然とした侍女を言いくるめてから数日後。ついに完成したびっくり箱を持って登校した。
「……それにしても、お嬢様。めっちゃ邪魔ですね、これ」
「仕方がないわ。でも、これだけ大きいからアリシアも持ち帰りが大変ね」
等身大の人形のせいですごい大きな荷物だわ。
アリシアの教室に入ったが、アリシアはまだ来ていないようだ。とりあえず、彼女の机に置いておく。
あの娘はどんな反応をするのかしら?そわそわ。
……
「ご機嫌よう、ベアトリス様」
「ご機嫌よう、アリシア」
ついに彼女がやってきた!ニマニマしそう……。
「あ、あの……私の机の上の箱なのですが……」
すぐに気がついたようだ。困惑しながら尋ねてくる。ふふ、ふふふ。
「これはね、私からのプレゼントよ!ちょっと邪魔だろうけど持ち帰って頂ける?」
「は、はいっベアトリス様!有難うございますっ」
ふふふ、何も知らないからそんな嬉しそうなのよね。今に後悔するのよ。ふふ。
「あ、あの、開けてみてもよろしいですか?」
「ええ、もちろん」
ガサガサ
びよよーん
「きゃー?!きゃーー!きゃーー!!」
教室に歓声が響いた。
「有難うございます!ベアトリス様!このぬいぐるみは部屋にベッドに置かせていただきます!」
興奮した声が聞こえる。……なぜ?びっくりするのが好きなのかしら?
「あぁ、これで寝るときもベアトリス様と一緒にいられる……」
「ア、アリシア?」
大丈夫かしら?と、いうかこの娘怖いわ……。
ふふ、ふふふ、とアリシアから笑いが漏れている。正直、不気味だ。
ってかそんなことより!
「アリシア?私のことが怖いのではなかったの?」
アリシアはアルカイックスマイルで言った。
「そうですね、ベアトリス様ほど私を怖がらせることのできる方はいませんよ?」
……。謎だ。
「これを頂くまで、嫌われたのではないかってすっごく怖かったわ」
アリシアが何か言ったけれど、独り言だったから聞き取れなかった。
その日の帰宅後。
「結局、あの娘の反応の理由が要領を得なかったのよ」
「……。お嬢様、もしかしてアリシアはお嬢様自身を怖がってたのではないのかもしれませんよ?」
「そんなはずはないわ。だって、私が一番あの娘を怖がらせる存在って言ってたもの」
「そうですか……?」
侍女と私は今日の出来事に首をひねっていた。
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……アリシアが変な娘になってしまいましたが、基本的にはベアトリスに嫌われてないことが分かってほっとした反動です。