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嫌がらせ④

令嬢の悪戯って難しいですね

 

 嫌がらせその9 そーっと、そーっと……。


 来週、貴族パーティーがある。

 侍女に予定を聞いてそれを知ったとき、私は前の貴族パーティーを思い出した。


 足をひっかけようとした。でも、失敗した。あの娘はすぐに感づいたのだ。

 それだけじゃなかった。あの娘は後ろから登場することで、私を驚かした。正直、ほんとに怖かった。

 あの悔しさはもう忘れない。


 ……!意趣返しすればいいんじゃない?ね?ね?私もあの娘の後ろから近づくの!きっと、私が動転したくらいあの娘を驚かせるに違いないわ!

「お嬢様……、いつもよりは名案です」

「何よ、その素直に受け取れない褒め言葉」

 言いつつ、内心は小躍りしそうなくらい嬉しい。だって、あの陰湿な嫌がらせを極めてる侍女に褒められたのよ?成長を実感できたわ!

「お嬢様、私は陰湿ではありませんよ?」

「わ、分かってるわよ!」

 な、なんで分かったのかしら?何も言ってないのに!

「お嬢様のお顔に全てが書いてあります」

 ……。ポーカーフェイスの練習が必要ね。貴族としても、この侍女と生活する者としても。

「ところでお嬢様。どうせ背後をとって奇襲をかけるなら、背中に氷を入れて差し上げたらいかがですか?きっと、驚きますよ」

 氷を背中に……?

 !

 確かに!確かにそれは驚くわ!そんなことを思いつくなんて、やっぱり貴女は陰湿ね。でも、採用するわ。


 その翌日。

 私はいそいそと魔法瓶に氷を入れた。

 コトンコトンコトン。

 コトンコトンコトン。

 コトンコトンコトン。

「お、お嬢様?一体いくつ入れるおつもりですか?」

 にこ~♪

「お嬢様……」

 侍女に呆れたような表情をされた。しーらないっ♪

 ご機嫌で氷を入れ続ける私に、侍女はもはや何も言わなかった。


 学校にて。

 授業と授業の間の移動時間。私はアリシアを見つけた。

 そーっと、そーっと近づく。魔法瓶から氷を取り出すのも忘れない。

 そーっと、そーっと……。あ、待って人混みが……。あれ?アリシアが……どこ?どこ?!

「ひゃう!」

 少女の悲鳴が上がった。……その少女は、アリシアではない。

 あッ!ひんっ!~~っ!ひゃんんッ!

 背中に急に冷たいものが……、ううっ誰よこんなことする酷い人は!涙目で振り返る。

 アリシアだった。氷の入った袋を右手に持っている。さっきのはそれを背中に押し当てたのね。

「アリシ──ひゃんっ!……アリ──あんっっ」

 抗議するために呼び掛けようとしてる時に、氷を押し当ててくる。ん゛~!

「アリシア!やめっ──ああん!……やだ──ひんっ……お願──ひゃう!」

 立てなくなるくらい執拗に押し付けられ、私はうずくまった。遂に涙腺も決壊する。

「ふ、ふぇ~ん、ふぇ……ヤダって……えぐっ……言ってるのにぃ……ひぐっ」

『べ、ベアトリス様?!』

 近くにいたお友達が背中をさすってくれる。

 ううっ、……ぐすっ……えっぐ……。

「ベベベアトリス様!すみませんごめんなさい悪ふざけが過ぎましたっ」

「そうよっ!なんでベアトリス様を泣かせるのよ」

「泣かせるつもりじゃなかったんです……」

「普通、あれだけ執拗に押し付けられたら泣くわよ誰だって」

「ほんとにやり過ぎました……。悲鳴をあげるベアトリス様がとても可愛くて……」

「……分からないでもないけどね。でも、ベアトリス様を泣かせた時点でアウトでしょ」

「べ、ベアトリス様ぁ。どうか私を嫌わないでください……」

 みんなが何か話してたけど、泣いてて余裕のなかった私が内容を知ることはなかった。



 みんなに泣き顔見られちゃった……。恥ずかしいよぅ。





 嫌がらせその10 罵詈雑言の嵐を呼びます


「そういえば、お嬢様」

 氷で泣かされた日のティータイム。私を慰めていた侍女がふいに言った。

「何かしら?」

「お嬢様は色々嫌がらせを考えていらっしゃりますけど、悪口とか罵声の(たぐい)はあまりなさってませんね?」

 私はきょとんとした。え?悪口?

「嫌がらせで、一番に行われるものが嫌味、皮肉、悪口、罵声ではありませんか?」

 そ、そうなの?で、でもお母様が「嫌味や皮肉は自分の意思表示としての武器です。むやみに使ってはなりません」って言ってたから……。

「お嬢様、今はアリシア様を拒絶するという意思表示が必要では?」

 え?でも……。アリシアを拒絶するべきなのは私よりアーサーだし……。

 侍女は溜め息をついた。

「ではお嬢様、考え方を変えましょう。何故、奥様はむやみに使うなと言ったと思いますか?」

 えと、えーと……

「……敵を作らないため?」

「おそらくそうでしょう。さて、お嬢様。アリシア様は味方ですか?敵ですか?」

「それはもちろん敵!……あ」

 敵なら別に問題ないじゃない。なんで私はこんなことにも気づかなかったのかしら。よし、明日はたくさん暴言はくからねっ。

 ふと顔をあげると、一瞬こめかみを押さえる侍女が目に映った。

 ジト目で睨んでおいた。


 次の日。

「アリシア!私、貴女に言いたいことがあるわ」

「はい、何でしょう?ベアトリス様」

 若干怯えているようだ。ふふん、たまにはこうやって威張ったようにするべきね。……本当は、昨日泣かせたことで嫌われたんじゃないかと怯えられた、なんて知らない私はご機嫌だった。

「……」

 ええと、えーっと……。言うべき暴言が思い付かない。だって、悪口なんてほとんど言ったことないんだもの。

 アリシアが心配そうに私を見はじめた。お願いだからそんな目で見ないでっ。大丈夫だから!……多分。

 見かねたお友達がこそこそと耳打ちする。

「(ヒソヒソ)暴言なら、バカとかアホとかマヌケと仰れば……」

「(ヒソヒソ)でもあの娘成績優秀だし、私の嫌がらせを軽やかに回避するわ」

「(ヒソヒソ)では、皮肉を言えばどうでしょう?」

「(ヒソヒソ)どんなの?」

「(ヒソヒソ)アリシア様の貴族らしくないこと、とか……」

 ありがとう!おかげで方針がつかめたわ。

 改めてアリシアに向き合う。

「アリシア、前々から思ってたのだけど、なんで貴女は貴族なのにお弁当を作ってらっしゃるのかしら?」

 言外に、お弁当作りは貴族に相応しくないとメッセージを込める。さぁ、どうよ?

「えっ……、だってベアトリス様が美味しそうに召し上がってくださるからですよ?」

 ……。私のせいだった。き、気にしないもんっ。次いくわ!

「アリシア様は私達とは違って大変武芸に秀でてますわね」

 今度は、貴族令嬢は剣など持たなくてもいいのに、というメッセージ。

「お褒めにあずかり、光栄です。強い女になろうと努力した甲斐がありました」

 とっても嬉しそうなアリシア。なんでよ?!皮肉を言ったのに!婉曲な批判は貴族なんだから分かるでしょ?!

 ……でも、ちょっと羨ましい。強い女ってかっこいいなぁ。

 くっ。強敵ね!次よ!

「アリシアは可愛いのに服のセンスがダメね。宝の持ち腐れだわ」

「まぁ!可愛いだなんて……」

 照れるな!ってか後半を聞け!服のセンスがダメって……

「ベアトリス様に誉められるなんて……(うるうる)」

 ……聞いてる?!ねぇ!

 む~~っ!こうなったら爆弾を投下するわよ!


「アリシアは私の婚約者と随分仲良しのようね。人のものに勝手に手をつけるのは感心しませんよ」


 渾身の一撃!これは返答次第で貴女の学校生活に影響が出るわよ!

 意気込む私とは対照的に、アリシアは困ったような笑みを浮かべた。

「私はアーサー様よりベアトリス様をお慕いしてますよ?」

 …………

 ……カアアアッ!

 え、あ、ちょ、ちょっとヤダもう……!変なこと言わないでよ。どうしたらいいか分かんなくなるじゃない……。

「そうやって赤くなるベアトリス様、とっても可愛いです」

「(ボソッ)……バカ」

 私はもう俯くしか出来なかった。

「ベアトリス様、昨日はすみませんでした。嫌がるベアトリス様は、それはもう苛めたくなるくらい可愛くて、その、やり過ぎました」

 今このタイミングでそんなこと言うの?!卑怯よぅ……。

「ベアトリス様!お願いです!私のことをそんなに目の敵にしないでください!アーサー様に私は興味ないですから!」

 ダウト!それは嘘!そう思って思わず顔をあげた。

 すぐ目の前に、上目遣いで目に涙を溜めながら私を見つめるアリシアがいた。

 うっ……、演技でもそんな目をされたら、敵対するのが辛くなっちゃうじゃない……。



 今回の嫌がらせは、私を更に辛くした。

 アリシアはアーサーを奪おうとしてるのに。

 私、アリシアを苛めるの、心が痛いよ……。

 ベッドに入り、私は新たな悩みと向き合いながら眠りに落ちた。


 ちなみに、翌日侍女に

「そうやってお嬢様が優しいからアーサー様をとられるのですよ?!アーサー様にだけ優しくなさい!」

 って叱られて、とりあえずこの日のことは忘れることにした。


おつきあい有難うございます。

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