表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/12

嫌がらせ②

ついに、短編では描かれなかった嫌がらせを紹介いたします。

 

 嫌がらせその4 無様に転んでくださいな


 ある日、私は思い付いた。そうよ!無様な醜態を見せればアーサーもあの女のことを諦めるんじゃないかしら。


 貴族のパーティの日。

 私は、あの女の足を引っかけるために人混みに紛れた。こっそり引っかけるつもりなので、お友達とは別行動である。

 お友達に、心配そうな顔で

「御武運を」

 って祈られた。……私を信じてよ。


 あの女がこちらに向かってきた。よし、計画通りいくわよ!

 足をスッと前にだした。あぁお母様、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

 今日はお母様はいらっしゃらないけれど、貴族のパーティが否応なくお母様を連想させる。バレない、とわかっていても怖くて、ギュっと目を瞑った。

 ・・・・・・あれ?そろそろ来るはずよね。

 おそるおそる目を開けたけど、アリシアは視界にいなかった。

 え?!え?!

 いい感じに(?)混乱してたら後ろから勢いよく両肩を掴まれた。

「ひゃあっ?!」

 驚きの余り、悲鳴をあげてしまった。小さな悲鳴にして、周りの紳士淑女の皆様にご迷惑をかけなかったことは誉めてほしい。

 やや涙目になりながら、そーっと後ろを振り返る。

 そこには、してやったり、という表情のアリシアがいた。

「アアアアアリシア様?そ、そのように女性の肩を乱暴に掴むのは淑女としてどうかと思いますわっ」

 思わず本気で抗議したが、アリシアは涼しい顔で返した。

「ふふ、ベアトリス様が可愛らしい悪戯をなさっていたので、つい驚かせたくなったのです」

 ば、ばれてたのね……。

「い、悪戯とはなんのことでしょう?」

 冷や汗をかきながらしらばっくれる。

 アリシアは、なにも言わずににっこり笑った。あぅ……。ごめんなさい。追及されないことが、むしろ罪悪感を大きくした。

「ベアトリス様。その様に不自然に足を出していらっしゃいますと、誰かがつまづいてしまうかもしれませんわ。お戻しになった方がよろしゅうございます」

 混乱していた私は、弾かれたようにアリシアの言葉通りにした。

 アリシアは満足げな笑顔で一礼すると、どこかへ行ってしまった。


 置いていかれてボーッとしていた私は、我に返った。

 なんで?!なんで私はアリシアにお説教されてるの?!

 確かに私が悪いことをしたのは承知してますけど!してますけど、それをよりにもよってアリシアにお説教されるなんて……。

 新たなショックにうちひしがれた。




 嫌がらせその5 階段から落ちるのは痛いのよ?


 お友達の一人が教えてくれた。嫌な娘は、階段から落としてやればいいんですって。なるほど、確かに落とされれば怪我をしてしばらく学校に来れないわよね。痛い目合わせるにもぴったりだわ。

 問題は……、

「べ、ベアトリス様!ごめんなさいもうお止めください唆した私が悪うございましただから落ち着いてーっ!」

「そそそういうわけには……っ!」

 動悸が治まらない。ハァッ……ハァッ……ッン!……ハァッ……。

 どうしよう。今までの悪戯とは比べ物にならないくらい、今回の嫌がらせは良心に訴えかけてくるわ。

 っでも!私はやらなきゃいけないのよ!アーサーを取り戻すために!


 授業と授業の間の移動時間中、アリシアを見つけた。踏ん切りがつかなかった。

 お昼休みにアリシアを見つけた。迷ってる間にアリシアに見つかって、お昼を一緒に過ごすことになっていた。

 放課後、アリシアを見つけた。でも、アーサーがいた。

 ……もう、今日は諦めようかしら。でも、今日出来ないのに明日出来るようになるわけないわよね!いや、そうは言っても──

 葛藤を繰り広げてたら、階段の滑り止めにつまづいてしまった。

 バランスがとれなくなる。

「キャアアアアアアアアッッ!!」

 私は、ごくごく自然に宙を舞っていた。驚いたアーサーは、私を避けた。ひ、ひどい……。

 ショックをうけながら、私は落下する。落下点には、奇しくもアリシアがいた。

 アリシアは何故かこっちに向き直り、両手を広げた。バカなの?!貴女は逃げなさいよ!


 ドサッズズッドテッ


 アリシアは、私を受け止めようとして失敗し、一緒に転げ落ち、私の下敷きになった。

 頭が真っ白になる。

「う、うう……。ベアトリス様、お怪我はありませんか?」

 呆然としていたら、下から涙目になったアリシアに声をかけられた。

 慌ててアリシアの上からおり、アリシアの様子を見る。

 ドレスがぐしゃぐしゃだった。

「……っ!バカ!なんで避けないのよ!貴女のその細い腕じゃ私を止められないに決まってるでしょ!バカ!なん、で……!」

 思わず叫んでいた。途中から嗚咽まじりになる。

 ほんとは計画通りのはずなのに、全然上手くいってない。

 私は、こんなこと、望んでない。

 私のせいで誰かが傷つくなん、て……っ!


「私が避けたら、ベアトリス様のお顔に傷がついてしまいましたから」

 曇りのない笑顔でそう言われた。

 私は、言いたいことがたくさんあったけど、言葉にできなかった。代わりに言えたことは、ただひとつ。

「保健室、行きましょう」


 保健室につれていって、私達は擦り傷と打ち身が所々あるけど、大したことはないって診断された。よかったぁ!ほんとによかった!

 大怪我はさせずに済んで、私は心からほっとした。涙が止まらなかった。

 その日はアリシアと一緒に帰った。別れ際、小さな声で

「ごめんなさい」

 って呟いた。届かなかったとは思うけど、いいの。聞いてほしかった訳じゃないから。

 今日のことは、きっと、神様がやってはいけない一線を越えようとしてた私へ罰を下したのね。


 私は心に決めた。

 もう、二度と怪我をさせない。それは、たとえアリシアに対しても。

 私のせいで怪我はさせない。

 アリシアは、他の手段でアーサーから遠ざけるわ。




 あぁ、アーサー?ずっと呆然としてて、何もしなかったわ。幻滅したけど、だからと言って嫌いにはなってないわよ。今回、悪かったのは私だしね。





 嫌がらせその6 服を切り裂いて差し上げます


 明後日、“学園”でダンスパーティーがあるわ。こないだの貴族パーティーみたいにはいかないんだから!

 ……どうしようかしら。足を引っかけるのは上手くいかないみたいだし、ワインでもかけてやろうかしら。お酒の香りに誘われて虫にも集られるし、ワインの色が移って服もダメになるわ!よし、そうしましょう。

「お嬢様、“学園”のパーティーではお酒は出ませんよ」

 そんなっ!私達ももう15歳なのよっ。お酒くらいいいじゃない!

「ダメです。お嬢様はお酒に弱いんですから、たとえ出たとしても近づいてはなりません」

 ち、近づくのも禁止されるの……?

「当然です。この間もお嬢様は気化したワインで酔っていたではありませんか」

 そんなこと、あったかしら?

「覚えてないのが何よりの証拠です。い、い、で、す、か。何があってもお酒に近づいてはなりませんからね!」

 侍女にことごとく計画を邪魔されてしまった。まだ私何もしてないのにぃ……!

 さて、じゃあどうしたらいいかしら?うんうん唸っていると、呆れた表情で侍女が私を見ていた。な、なによぅ。

「ねぇ、呆れてないで貴女も何か考えてよ」

「それではお嬢様。別に、パーティーの場に拘る必要はないのではありませんか?」

 え、どゆこと?はてなマークが頭上に浮かんでいる私に侍女は溜め息をついた。ちょっと!溜め息つかないでよ。どうせ貴女もろくなこと考えてないんだから!

「つまり、パーティーの準備のときなどでも嫌がらせはできるのではありませんか?ということです。例えば、用意されているお召し物を切り裂く、とか」

 あ、あぁ〜!すごいわ!確かにそうすればドレスをメチャメチャにできるわね!パーティーにも出られないに違いないわ!

 ……貴女も相当性格悪いわね。こんなもの、普通は思いつかないわよ。


 “学園”に登校してから、私はあの娘を呼び出した。

「お呼びですか?ベアトリス様」

「来てくれてありがとう、アリシア」

 階段の件以来、私はアリシアに様をつけるのをやめていた。だってアリシアが『他人行儀に聞こえるからやめてください!私はもうお友達ですよね!』っていうんだもん。負い目があるから断れなかった。お友達……ではないのだけど。

「明後日の貴女のドレスが見たいわ」

「わかりました、ベアトリス様。明日持ってまいります」

「ええ、お願い」

 よし!これで切り裂くドレスをゲットしたわ。明日は裁ちバサミをもってこなくっちゃ。


 翌日。

「ベアトリス様、これが私の明日のドレスですわ」

「ふぅん。じゃあアリシア。よく見たいから貸して下さる?」

「勿論でございます」

 アリシアが私にドレスを渡す。私はそれを机に広げた。

 手が少し震えた。血の気も引いてるみたい。ちょっとクラクラする。あ……。

 なんとかこらえ、無言で隠し持っていた裁ちバサミでドレスを切る。さて、どの角度がセンスのいい切り方かしら。切り方一つでも公爵令嬢としての気品が出るわよね。

 ザクッザクッ

「……っ!」

 アリシアが愕然とした表情で私の手元を見る。悪いわね、アリシア。私はこうするためにドレスを見せてもらったのよ。

 ザクッザクッザクッザクッ

 段々切ることに集中し始め、罪悪感が薄れていった。

 アリシアは凍りついて動かない。教室にはハサミが服を切り裂く音だけが響いていた。


「はい、ありがとう。よく似合いそうなドレスでしたわね」

「あ……う……」

 アリシアは明らかに傷ついた表情をしていたけど、何も言わずに切り裂かれたドレスを持って立ち去った。

 その姿をみて、罪悪感がよみがえった。ごめん……。さすがに……やり過ぎよね……。

 それを見ていた侍女は言った。

「罪悪感を感じる必要がありますか?お嬢様は布を裁っただけですよ。お嬢様があの小娘にされたことを思えば些細なことです」

 その言葉は私の行動の免罪符のようで。

 私は悪くなかった、ということにしてくれた。

 でも……。その甘い囁きに従うのは、後ろ髪を引かれるようで、はばかられた。


 何となくモヤモヤしたまま迎えた“学園”のダンスパーティー。

 ダンスが始まっているがアリシアはまだいなかった。

 うん……計画通り、なのよね。私はこうなるって分かってた。階段の件は私の本意じゃなかったけど、今回は私が望んでこうした。だから、くよくよしてちゃダメよね!

 とりあえず気持ちを前向きに方向転換して、私はエスコート役のアーサーと踊ることにした。


 2曲程踊った後のこと。

 会場の入口からどよめきがあがった。な、何事?!

 みんなが入口を注視する。入口付近の人垣が割れる。

 悠然と入場したのは私に切り裂かれたドレスを身にまとっているアリシアだった。


 会場から、思わず溜め息が出た。


 だって、その姿は……。

 ──豊かな胸がやや大胆に露にされ、

 ──絹のように繊細でミルクのように白い腿がチラッと色っぽく姿を見せ、

 ──細い腕や華奢な肩が所々見えることで儚げな彼女の印象を一層際立たせていた。

 つまり、切り裂かれたドレスを大人っぽくセクシーに着こなしていた。


 ……って、バカ~~っ!!なんで来たのよ!そのドレスはもはや夜会用のドレスでしょ!ダンスパーティーには着てこないでしょ!そーゆー意図で作ったのに、どうして来ちゃうのよっ。

 予想の斜め上をいくアリシアに、頭が痛くなった。どうして?どうして私のすることなすこと上手くいかないの?


 頭を抱えていたら、パーティーの給仕役をしていた私の侍女がやってきた。どこか、怒ってるように見える。

「お嬢様?誰が夜会用のドレスを作れと言いましたか?!切り裂くって言ったら普通は使い物にならなくするのですよ!」

「え?え?だって、ダンスパーティーにはもう使えない……わよね?夜会用のドレスよ?」

 侍女の剣幕に戸惑う。どうして私が詰問されているの??切り裂くって言ったら他のものを作れってことじゃないの?

「普通なら夜会用は使えないでしょう。でもね、お嬢様。今日は学校のパーティーですからドレスであればなんでも良かったのですよ。無論、夜会用でも」

「え?どうして?」

「“学園”には庶民がいることをお忘れですか?庶民はいくつもドレスを買えないのですよ」

 そ、そんな~。聞いてないわよそんなこと!ショックを受けた私に、侍女のお説教はまだ続く。

「大体お嬢様?切り裂いて夜会用ドレスを作るということ自体が問題です!今までの夜会用ドレスだって、切り裂かれたものはなかったでしょう?」

 うん、そうね。私も初めての試みだったわ。

「切り裂くことでより一層大人らしい魅力を引き出すドレス。お嬢様は革新的なことをなさったのですよ!しかも、それを浮気先の女に!なんて勿体ない!その上お嬢様は切り裂いたことに罪悪感を感じていたのですか?!どこに罪悪感を感じる必要があったのですか?!」

 あぁ~、そゆことね。侍女の剣幕に驚きすぎて、他人事のように理解した。うん、勿体ない勿体ない。残念なことをしたわ(?)。私も罪悪感感じなくてよかったのね~(?)。

 侍女は溜め息をつき、呆れたように立ち去った。ええ~?私、間違えたの?


 侍女に置いていかれて呆然と立っていた私に、今度はアリシアがやってきた。

「ごきげんよう、ベアトリス様!」

「ご、ごきげんよう、アリシア」

 元気はつらつなアリシアに戸惑う私。なんでそんなにスーパーハイテンション?

「ベアトリス様!有難うございます!私、こんなに素敵なドレスに生まれ変わるなんて思いませんでした!」

 うん、これは貴女のスタイルの良さのお陰もあると思うわよ?

「ベアトリス様、切ってる間、時々私の身体を観察してましたよね!それは私に似合うものを作ろうという意図だったのですね!」

 ま、まぁ、夜会用にするための採寸は簡単にしたけど……。

「それなのに私、ベアトリス様を疑ってしまって……。どうかこんな浅はかな私をお許しください!」

 いや、疑いは正しいわよ。貴女をパーティーに出られないようにしたつもりだったし。

 アリシアの目が信仰してる者のそれになってきた。こ、怖い……。

 私はなんやかや理由をつけて、アリシアから逃亡を図った。助けて!誰か、ここにいる誤解の激しい少女から私を救いだして!




 ちなみに、切り裂きドレスは夜会用ドレスの流行になり、金獅子公(おとうさま)は夜会用ドレスを作る仕事を請け負ったので収入が増えた。宣伝は、美少女アリシアが勝手にやってるから注文が殺到してる。

「お嬢様のセンスが素晴らしいのは良かったのか悪かったのか……」

 って侍女が悩んでたわ。確かに、公爵家としては良かったけどね……。



階段から人を落とすのって勇気が要りますよね。箱入りのベアトリスは人を傷つけたことがなかったので、大分取り乱しました。


話に矛盾や違和感を感じた方は、教えて下さい。

お付きあいくださり、有難うございました。

短編の続きに入りましたのでこれからは週1程度でお送りします。何か要望がございましたら、お知らせください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ