下した決断
後半から、短編に触れていきます
私は1週間待ったわ。ええ、待ちましたとも!あんなに苦しい1週間はもうイヤ!
私は落ち込みながら1週間を振り返った。
─入学式の翌日─
朝、隣のクラスを覗いてみた。アーサーはどこかし……ら……?
教室の中央に、女の子にデレデレしてるアーサーがいた。なんでよ!なんで私以外の女の子にデレデレしてるのよ!
飛び出したい。邪魔したい。アーサーを叱りたい。
そう思ったのに、身体が動かなかった。……だって、アーサー、すごく楽しそうなんだもん。だって、私が、アーサーの幸せを心から願ってる私が、楽しそうなアーサーを邪魔出来るわけ、ないじゃん。
教室に戻って、表面的には何事も無かったかのように過ごした。でも、トイレに入ったとき、私は、嗚咽を漏らすことを止められなかった。
その日は落ち込んで、昼休みとか放課後はアーサーを見に行けなかった。
翌日翌々日は休日だった。
その2日を使って、私はもう落ち込まない!って心に決めながらなんとか立ち直った。
─次の週初め─
朝、アーサーはやっぱりデレデレしていた。悲しかった。でも、まだ大丈夫。
「ベアトリス様!少し青ざめてますわ。保健室に行かないと!」
だ、だい、じょう、ぶだから……。へ、へいきだ、もん!
しくしく。
昼休み。この時間は長い。だから、アーサーを監視しないと!
ドアの陰からこっそり窺った。
やっぱり、アーサーはあの女の子と一緒にいる。あ、お弁当まで一緒に食べるなんて!ずるい……。私だって一緒に食べたいのに。
───その日から数日は様子を見た。そのお陰で、新たに分かったことと、見たくなかったことがある。
新たに分かったこと。
あの女は悔しいことに私より可愛いこと。
アーサーはいつもあの女にベッタリで、デレデレしてること。
でも、案外昼休みは一緒じゃない日もあって、私が見た時はどうやら偶然らしいこと。
その時のアーサーは、外で球技にいそしんでいること。
アーサーは、あの女と一緒に帰ってること。
あの女はアーサー以外の男子達も侍らせてること。
その男子達は、お友達の婚約者によって構成されていること。
見たくなかったこと。
あの女がアーサーと手を握って歩いていたこと。
アーサーはあの女に、色々勉強を教えていること。
アーサーが私にしか見せてなかったあの優しげな笑顔をあの女に向けていたこと。
アーサー……!どう……して……?私じゃ、ダメ、だったの……?
ねぇ……アーサー……。
涙が止まらなかった。
とめどなく溢れる涙は、私のアーサーとの思い出や私の恋心まで流してしまいそうで。好きな人の為に努力した成果が無駄だったことを示しているようで。
でも、そんなのは嫌だ。私、今まで、頑張ってきたもん。アーサーのために、ピアノもダンスも座学もマナーも身につけた。
アーサーが嫌な気持ちにならないように、美容にも気を使った。
アーサーの足でまといにならないために、色んな毒の耐性をつけた。毒を微量ずつ身体に取り込むのは苦しかった。
でも、全ては、アーサーの妻になれるように……。
それなのに!それなのに私を!あっさり捨てて、他の子にうつつを抜かすなんて許せない……!
決めた。
私は、あの女に惑わされたアーサーを正気に戻してみせる。私だけしか見えないアーサーに変えてやる。いくら私より可愛い娘を見ても、私にしか興味の無い男にしてみせる。
まずは、あの女をアーサーから引き剥がして、虫が付かないように徹底しなくちゃ。
顔を上げたとき、私はもう新たな涙を流していなかった。
翌日の朝、私は自分を激励していた。憤慨することで、落ち込まないように自らを叱咤した。
──大体、誘うあの女もあの女だけど乗るアーサーもアーサーよ!浮気なんて婚約者がいるのにするもんじゃないわっ。
──それに何よ、あの女。私よりちょっと綺麗なだけじゃない!
──婚約者ばっかり侍らせて、いやらしいわ。私のお友達まで手にかけるなんて、娼婦の血でも混ざってるの?
──もう、許さないんだから!
昼休み、私はお友達を引連れてあの女の前に立った。さぁ、戦闘開始よ!
「ごきげんよう、白羊伯令嬢。少しお話があるのだけれど。お付き合い願えません?」
出来るだけ冷ややかに言った。ちょっと戸惑ってるみたいだけど、そんなの知らない。有無は言わせないわ。拒否するようなら爵位で脅してでも──
「ごきげんよう、ベアトリス様。私とお話してくださるの?!」
──あっさりついてきてくれた。うん、計画通り……計画通りなんだけど……ちょっと拍子抜けね。あと、気になるのは……、
何故?!何故そんなに嬉しそうについてくるの?!
調子を狂わされながらも、とりあえず人目につかない校舎裏まで誘導できた。さ、て、と……
「アリシア様。私の婚約者に手を出さないでいただけます?アーサーに浮気をさせないでください。
それに、聞くところによると、他のご令嬢の配偶者まで誑かしているとか。殿方を何人も誑かすこと自体も感心しませんけれど、婚約者ばかり狙うのは趣味が悪うございますよ?」
後ろから賛同の声が上がる。お友達の援護射撃ね。
「えっと、私、別にたらしこんだりしていませんよ?」
何故かきょとんとされた。しらばっくれるつもりかしら?それでも私は畳み掛けた。
「あら、入学式以降仲良くしてらっしゃるのでしょう?一昨日は手も繋いでらしたわね。それでなお、たらしこんでないなどと言えたことかしら?」
「いえ、あれは──」
否定なんてさせない。言い逃れは許さない。
「貴女の言い訳など、聞きたくありません!事実は事実と認めた方がよろしくてよ」
「本当に違うんです!あれは、アーサー様が逃げる私の手を掴んで離さなかっただけで──」
聞いたとたん、みんなが非難の声をあげた。
私は、怒りが極限に達し、言葉も出なかった。
ふーん、アーサーがわざわざ貴女を掴んで離さないほど気に入ってるって思ってるの?
あの優しいアーサーに罪をきせようとしてるの?
何が何でも自分は悪くないとでも言いたいの?傲慢が過ぎるわ。
──いい加減にしてよ!
「……そうですか。後悔しても知りませんわよ」
吐き捨て、踵を返した。台詞は、悪役っぽくていやな感じがしたけど、あの女の傷ついた表情を見れたから、ちょっとスッとした。
アーサーを振り向かせるより、まずは全力であの女を遠ざけましょう。
その日から、私達はあの女に嫌がらせを始めた。
今回が、ベアトリスが一番悪役令嬢らしく振る舞っている気がします。
読んでくださり、有難うございます。次話、短編の内容になりますが、一言一句同じにはしてません。