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昭和のあだ花、父の商売

ご覧いただきありがとうございます。昭和の終わりに極貧生活を生き抜いた、「私」の8年間の記録です。楽しんでいただければ幸いです。

昭和の終わり、日本全体が実体のない熱気に浮き足立っていた時代。私の記憶の始まりは、どこか現実味のない、きらびやかな色彩に彩られている。


私の家族は、父、母、長男である私、そして二つ年下の妹の四人暮らしだった。幼い頃の私にとって、父は「何をしているのかよく分からないけれど、いつもたくさんのお金を持っている人」だった。毎晩のように遅く帰ってきては、母に分厚い封筒を渡し、家では機嫌よく私たちをあやす、ごく普通の優しい父親。


しかし、今にして思えば、あの溢れんばかりの現金は、社会の表街道からは少し外れた、浮き沈みの激しい怪しい商売の果実だったのだろう。


私が私立の幼稚園に通っていた頃、我が家の金回りは全盛期を迎えていた。周りの子供たちよりも少し上等な服を着せられ、おもちゃも欲しがるものは大抵手に入った。何不自由のない、絵に描いたような裕福な家庭。それが我が家の日常であり、この幸福が永遠に続くものだと、幼い私は疑いもしなかった。


小学校に上がっても、一年生のうちはまだ、その余韻の中にいた。私たちの暮らす街は、小さな地方都市で、通学路の脇には青々とした田んぼが広がり、春には蓮華草が咲き、夏には蛙の大合唱が響く、のどかな場所。冬の寒さは東京よりも厳しく、年に数回、数センチの雪が積もることもあった。そんな平凡な街で、私はごく普通の、どこにでもいる小学生として、平穏な日々を送っていた。


しかし、歯車が狂い始めたのは、小学二年生の足音が聞こえてきた頃だった。家の空気が、目に見えて重くなっていった。父の帰宅時間はまちまちになり、時折、深夜に激しい口論や、電話に向かって低く怒鳴る父の声が聞こえるようになった。


子供の私には詳しい事情など分かるはずもなかったが、どうやら父の商売が行き詰まり、にっちもさっちもいかなくなったようだった。後から知ったことだが、父は首が回らなくなった挙句、いわゆる「闇金」のような危険な場所からも多額の借金を重ねていたらしい。


幸いだったのは、映画に出てくるようなヤクザ風の男たちが家に押し寄せ、怒号を張り上げるような、分かりやすい取り立てがなかったことだ。だからこそ、私たち子供にとっては、事態の深刻さがすぐには理解できなかった。ただ、確実に、そして急激に、家の中から「お金」という存在が消え失せていった。


父はそれでも夜逃げや破産という道を選ばず、何とかプライドを保ちながら商売を続けていた。借金をほんの少しずつ返済できる程度には稼いでいたようだが、膨れ上がった元本に対して、それは焼け石に水だった。


専業主婦だった母も、家計を支えるために慌てて働きに出るようになった。しかし、当時はまだ女性の社会進出が今ほど進んでいない昭和の時代である。特別な資格のない母が我が町で得られる仕事といえば、時給の安いパートや内職程度がせいぜいだった。朝から晩まで身を粉にして働いても、入ってくるお金はたかが知れていた。


今の大人の目で見れば、「なぜ生活保護を申請しなかったのか」「なぜ破産手続きをしなかったのか」という疑問が浮かぶ。しかし、当時の地方都市における世間の目は今より遥かに冷たく、何より両親には「他人に頼るわけにはいかない」という、不器用で頑固なプライドがあったのだろう。あるいは、そこまで知恵が回らないほど、日々の資金繰りに追いつめられていたのかもしれない。


いずれにせよ、我が家は「かつかつ」という言葉すら生ぬるい、その日暮らしの極貧生活へと、音を立てて転落していったのである。


第1話をお読みいただきありがとうございました! どん底の極貧生活から始まる物語ですが、最後は温かいハッピーエンドへと向かいます。 全19話を予定しています。毎朝更新いたします。もし「続きが気になる」「応援したい」と思っていただけましたら、下部にある【ブックマーク登録】や【評価】で応援していただけると、執筆の大きな励みになります!

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