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リネアとエリオス

初投稿です、よろしくお願いいたします。

リネアはまた目を覚ました。


白い天井。石造りの壁。窓の外には、いつも通りの朝の光。


そして、いつも通りの声。


「おはよう、リネア」


エリオスがリネアに優しく微笑む。


リネアは微笑み返す。


「おはよう……エリオス」


このやりとりに、なぜか懐かしさを覚えた。


だが次の瞬間、その感覚は霧のように消える。


ただ、エリオスの優しい微笑みが胸に残るのみであった。




 

この国では、戦争の影がいつも見え隠れしている。


市場では「帝国との戦争に向け徴兵が近い」という噂が流れ、

教会では「聖女が再び生まれるように」と祈りが捧げられる。

曇天続きの空がまるで人々の心を映し出すかのようだ。


 

「今日は城下へ行こう」


エリオスはそう言った。


彼の手はいつも温かい。けれど、どこか痛いほど優しい。


リネアは首を傾げる。


「どうしてそんなに、私を外に出したがるの?」


エリオスは一瞬だけ言葉を詰まらせた。


遠くで鐘の音が鳴る。帝国との国境警報だ。


その音に一瞬だけ目を伏せてから、彼は言った。


「君は……この世界を見るべきだからだ」




 

その日、リネアは偶然“死にかけた”。


市場で崩れた荷車。


転がる刃物。


ほんの少しの偶然で、命は簡単に終わるところだった。


だが彼女は生き残った。


その瞬間、エリオスの表情がわずかに歪んだ。


安堵ではない。恐怖でもない。


“失われなかった”という、祈りに似た顔だった。




 

夜。


リネアは眠れなかった。


窓の外の月を見ていると、胸の奥に奇妙な違和感が積もっていく。


遠くで赤い炎が見える。そういえば最近帝国の密偵が捕らえられたという知らせを耳にした。


同時に、王国の兵士がそれを処刑する準備をしているという噂も流れている。


王国と帝国、どちらが正しいのかは誰も言わない。


ただ、世界はその二つの間で揺れている。


ふとその時、リネアは既視感に襲われた。

頭がクラクラする。

「私は……何度も、ここにいる気がする」


やっと声に出した瞬間、部屋の空気が揺れた、気がした。



 

翌日、エリオスが唐突に言った。


「もし、君が何度も同じ人生を繰り返しているとしたら?」


リネアは笑った。


「そんな馬鹿な話……」


しかし彼は笑わなかった。


彼の指先は一瞬だけ震えていた。


「君は忘れるようにできている。だが、私は覚えている」



それが、始まりだった。

リネアの中に、記憶の断片が次々と流れ込んでくる。


燃える城。

崩れる都市。

泣いている誰か。

そして、自分の死。


そのすべての裏側に、必ず二つの声があった。


「王国のために生かせ」

「帝国のために終わらせろ」


何度も。何度も。


そのすべてが、自分の人生だったと理解した瞬間、心が軋むような感覚に襲われた。



「帝国が君を狙っている」


エリオスは静かに言った。


その声は落ち着いていたが、どこか擦り切れていた。


「彼らは世界の終わりを望んでいる。君を殺すことで。俺たちは彼らから君を守り続けようとしている。」


「じゃあ……私は、何?」


「たとえるなら…、世界の心臓だ」


その言葉の後、しばらく沈黙が続いた。


そしてリネアは気づいてしまう。


その“心臓”という言葉の重さを、エリオスは誰よりも知っているということに。


まるで何度も何度も、それが止まる瞬間を見てきたかのように。



その夜、リネアは決めた。


もう“守られるだけの存在”ではいないと。


王国は彼女を守るために彼女を閉じ込める。

帝国は彼女を殺すために彼女を追う。


そしてそのどちらも、彼女を“世界のための道具”として扱っている。


リネアは腹立たしかった。まるでリネアの意思など関係ないかのように扱う彼らが。

ならば――そのどちらにも支配されない未来を作るしかない。



「この国から出て行くわ。」


夫は驚かなかった。ただ静かに頷いた。


その目には、悲しみがあった。


喜びでも安心でもない。


何度も同じ別れを繰り返してきた人間の目だった。


「君なら、そう言うと思っていた」


「あなたは……いつも私を知っているみたいね」


彼は少しだけ微笑んだ。


その微笑みは、優しさというより痛みに近かった。


「何度も、君を愛してきたからだよ」



リネアは王国を出た。


向かう先は帝国。


彼女の中には、まだ完全には戻らない無数の記憶が渦を巻いていた。


死。再生。崩壊。繰り返し。


そのすべての中心に、自分という存在がある。


だが今回は違う、それだけでは終わらせない。


“知らないまま終わる人生”ではない。



帝国の国境門を前にして、リネアは立ち止まった。


風が吹く。


その瞬間、彼女は確信する。


私は帝国で何度も死んでいる。


そしてそのたびに、王国も帝国も少しずつ狂っていったのだ。


どちらかが正しいのではない。


どちらも、この繰り返しに囚われている。



「もう終わらせる」


リネアは静かに呟いた。


それは誰に向けた言葉でもない。


この世界そのものに対する、初めての拒絶だった。

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