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36.小さな雪と、歪んだ祈り

「『氷の檻(グラキエース)』!!」

「『ファイア

面白い。やはり、魔法まで同じか」


 展開されようとする氷の檻を、一歩も動かずに炎で溶かし切るノワ。


「これでも、ダメなのですね……!

ならば!『淡雪ルクス・ニヴィス』!」

「……ほう、これは」


 ノワの足元から上に向かって、柔らかな雪が覆い被さってゆく。


 一瞬面白そうに顔をほころばせた後、彼は軽く片手を前に出し――


パチンッ!


 ジワリ、と溶ける雪。不思議と、溶けた後には雪も、水も――何も残らない。


「っ……!」


 その様子を見ていた彼女――アリスは、冷静に飛び退き距離を取る。


「なかなか良い魔法だ。アリスよ、お前が作ったのか?」

「……答える義務は、ありません!!

六花の拘束(グラス・セルヴィタス)』!!」


 鋭利な氷の棘が、ノワを襲う。


ドンッ!


 壁に、床に、天井に。場を破壊し尽くす棘は、曲がりくねりノワを追い続ける。


「絶対に、逃しませんっ……!!」


 襲い来るそれらを軽く躱しながら、ノワは片手に炎を宿し呟く。


「道を極めたものがたどりつく境地は、同じということか。

……『炎の吐息スピリトゥス・イグニス』」


ボウッ!


 獄炎が、部屋を包み込む。


「……負けません!リーナは!


私が、守るっ!!」


 激しく燃え盛る炎の渦に、一気に何枚もの氷の壁を生成し対抗するアリス。


「……アリス。

お前が守りたいものとは、一体何だ?」

「っ何を……!!

あなたが、マオ先生……!!壊そうとしている、もの……ですっ!」


ジュッ!


 蒸発するように、氷の壁が一枚、また一枚と炎に溶けていく。


「……壊す、だと?」

「とぼけないで、くださいっ……!

氷纏テュニカ』!!」


 迫る炎と、必死に守るアリス。


「あなたは……!それにアドルフ先生も、アイン先生も!」


 魔道具に、細工をして。


「リーナを……!殺そうと、しているのでしょう!」


 それに、と彼女は続ける。


「レオ様が、嘘を言うはずがない……っだから!

あの方は、私を助けてくださった白のお方は!戦場で、あなたに出会い――」


 怒りに満ちた表情で、彼女は続ける。


「そして、あなたに……殺された!」


ゴウッ!!


 突然、その場に現れるのは――激しく渦巻く、吹雪。


 それは徐々に、ノワの魔法を侵食し始め――


「……強いな。

流石は、あやつの魔力を継いだだけはある」


 感心したように呟くノワに、アリスの魔法が襲いかかる。


バキバキバキッ!


 氷は、研ぎ澄まされた刃のように鋭く硬い。


「やはり、その口ぶり……!

レオ様の仰っていたことは、本当なのですね!」


 許さない!と。


 アリスの叫びに呼応するように、氷の渦はノワを完全に飲み込む。


「私が、絶対に!!仇をっ!!」

「……随分と、ややこしいことになっているようだな」


バンッ!!!


 渦が、弾ける。


「……なんで」


 一歩、下がる。


「なんで……倒れないの……?」


 彼女のこの魔法で、立っていられたものなど――一人も、いなかったのに。


(こんなの……!)

「聞いて、ないっ……!」


 中から無傷で現れたノワに、アリスは焦ったように唇を噛む。


「私はこの一生を、あの方にお仕えするために。受けた恩をお返しするために、捧げてきました!!

……この学園にだって、そのために必死になって……!」


 それなのに!アリスの心からの叫びは、場の空気を痛々しく震わせる。


「あなたは、あのお方を!!

――そして、あろうことかリーナまで……!」


 彼女の目から、大粒の涙がこぼれ落ちる。


「――だから、今度は」


 悲痛な叫びは、憎悪へと。


「あなたを倒すために……!

あのお方の仇を取るために、そしてリーナを守るために、全てを捧げる!!」


 アリスの周囲が、凍りつく。


「……『氷雪グラス――』」

「――その魔法は、あなたにはまだ早い」


ピタッ


 音が、消えた。


 凍りついたのは、空気か。


 それとも――思考か。


「……やれやれ。仕える主を間違えると、ろくなことになりませんね」


 窓から聞こえる、夜風のように澄んだ声。


「――え」


 アリスが、その動きを止める。


 対するノワは、振り返ろうともせず不機嫌そうに応える。


「遅いな、もう少しで氷漬けになるところだったぞ」

「何を言うのですか、逆でしょう。

さてはノワ、あなた……自分がお嬢様を殺す、などと言われ怒っていますね?」

「……」


ファサッ


 音もなくその場に舞い降りるのは――白の氷王(アイス・ロワ)


「さてノワ、私は何をすれば?」

「お前はどう思う?ブラン」

「人任せが過ぎますよ、我が主。

……魔力の反応から考えて、外にいるのはざっと数十名。それなりの手練れでしょうね」


 魔国の頭脳は今、その知略を主に捧げる。


「おそらく、お嬢様――すなわち闘技場へ向かうつもりでしょう。

あなたなら同時に相手取っても問題はないでしょうが、生徒たちが心配です」

「構わない。俺はリーナの元へ――」

「こら、教師なんだから生徒の安全は考えなきゃダメでしょう。

……そういうわけで、先に外の者たちを片付けることを提案します。私は――」


 そう言って、立ちすくむアリスの方を向く。


「まずは、この小さな兎さんの誤解を解いてあげるとしましょう」

「……わかった」


 軽く一瞥。静かに、窓のほうへ向かう。


「ブラン。

そいつを――リーナの友を、頼んだぞ」


 次の瞬間、そこにノワの姿はなかった。


「……全く、いきなり呼び出しておいてお礼の一言もないとは」


 ため息をついたハクは、徐々にアリスの方へと歩んでいく。


「……なん、で?」


 呆然とするアリス。


 彼女の周囲の薄い氷の膜が、音もなく剥がれ始める。


ジュワッ……


 地面についた途端、少しずつ溶けていく『氷』を見て――


「ふふ、随分とたくましくなって」


 懐かしむように、ハクは小さく微笑む。


「……お久しぶりです、アリス」


一拍。


「——あの時の、雪兎さん」

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