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2.白猫の罠

「むー!!む、む〜!!(ちょっと出しなさいよこの変態!人として、いや魔族として恥ずかしくないの!?)」

「隊長、ホントにこのガキで合ってるんすか?魔力無いし何よりすげえアホそ……いてえ、こいつ蹴ってきやがった!」

「むー!!(レディに失礼なこと言っちゃいけません!!)」

「まるで狂犬だな……疑いたくなるのはわかる、だがそのガキが魔王城から出てきたのは確かだ。

それにあの方の仰ることを忠実にこなすのが俺達の役目だろ、ほら行くぞ」

「ういっす」


 むーむー言いながらジタバタ暴れる可憐な少女・リーナちゃん、というか私。


 決して魔獣化して言葉を失ったとかそういうわけではなく、現在私は縄で縛られ口にはくつわをはめられているのである。


(ダメだ、全然身動きが取れない)


 どうやらここは馬車の荷台のようだ。周辺には荷物らしき複数の木箱、四方は黒い布のようなもので覆われ、ガタゴトという振動のみが伝わってくる。


(うわぁぁ、一体なんでこんなことに)


 馬の手綱を握る二人の誘拐犯を恨めしげに見上げつつ、私はつい数時間前――まだ私が魔王城にいたときのことを回想する。



◇◇


「お嬢様、ではおやすみなさいませ。私はノワの代理として隣の執務室におりますから、何かあればいつでも仰ってくださいね」

「ふぁー……わかった。おやすみ、ハク」


 パタン


 ハクが扉を締め、部屋を出ていった。


(ここでの暮らしにも、ちょっとは慣れてきたかな)


 天井を見つめながら、私はぼんやりとそう思う。


 魔王城にて私がノワから与えられたのは、かなり広い一室だった。寝台も大きく、前世で言うとキングサイズというやつだろうか。前に暮らしていたボロ塔とは大違いである。


 私にはもったいない、と断ろうとしたのだが部屋は余っているからと言われてしまった。


 しかしそれでもなお食い下がる私に、ノワはこう告げたのだ。


『そんなに嫌なら俺と同室にするか?』

『あ、いえ大丈夫です。本当に大丈夫ですお気遣いありがとうございます』

『ほう、そうか……』


 流石にノワと同じ部屋で生活など、中身アラサーの私が受け入れられるはずもない。

 

 そういうわけでありがたくこの部屋を使わせてもらうことになったのだが……そういえばお断りした時、なぜノワはちょっぴり残念そうな顔をしていたのだろう。


(まあ結局執務室の隣だから、起きて部屋を出た瞬間ノワに連れて行かれるんだけどね)


 大抵は執務室でお仕事か、私が寝ている間は外でもお仕事をしているらしいノワ。


 全く休息を取っている気配がないのが心配である。


「バカ魔王、なんて言われてるけど意外と真面目なんだよなぁ……」


 そんな事を考えながら、明日に向けて寝ようとしていたその時。


 ニャー


(……ん?)


 猫の鳴き声のようなものが聞こえてきた。


「……外からかな?」


 体を起こして耳を澄ませてみると、どうやら窓の外で鳴いているらしい。


「よっと」


ガコッ


 カーテンを開け、力を込めて引っ張るとその窓は案外簡単に開いた。


「ミャァ」


 窓から外へ少し顔を出し、目を凝らしてみると――


(あれは……猫?)


 窓から1mほど離れた木の上で、白い子猫が鳴いているのが見えた。


「さては、降りられなくなっちゃったか?」


 私の部屋は2階、ジャンプして降りても怪我はしない程度の高さである。そして窓は小柄な私ならば問題なく通り抜けられる。


(問題は子猫のいるところまでたどり着けるかだけど……あの高さなら登れそうだな)


 王宮脱出のため、毎日反り立つ壁を無謀にも登ってきた私。木登りスキルにはそれなりの自信がある。


(でもなー、ノワの言いつけを破ることになっちゃうよね)


 ノワの言いつけである『危険だから、王宮の外には出ない』を守り切ると決意した私。


(残念だけど、今回は見捨てるしか)


 ごめんね、と思いつつ窓を閉めようとした、次の瞬間。


「ニ、ニャァァ!!」

「っ危ない!!」


 子猫の乗っていた枝が、突然折れた。鳴きながら落ちる子猫を見て、私の体が考える間もなく動く。


「っと……良かった、間に合った……!!」

「ミャァ」


 土まみれになりつつも、なんとか間一髪で猫をキャッチすることに成功。安堵しつつ腕の中の子猫を撫でようと手を伸ばした……のだが。


「……え?」


(いない……!?)


 確かに受け止めたはずの白猫が、どこにも見えない。慌てて辺りを見回し探そうとすると――


ボコッ


「っ……!?」


 突然腹部に強い衝撃を感じた。そして遅れて襲い来る痛み。


「隊長、ホントにのこのこ出てきやがりましたよ。魔王城には強力な結界が張られてるから、一時はどうなることかと思いやしたが……こんなアホで助かりましたっす」

「まあ魔力もないからな、俺達が魔族だってことも見て分からなかったんだろう。ほら、馬車まで運ぶぞ」

「ういっす」


(なに、このひと、たち……ま、ぞく?)


 痛みで遠くなる意識の中で、ぼんやりと自分の体が持ち上げられるのを感じ……


「これで、あの魔王――ノワに一矢報いてやれやすね」

「ああ、きっとあのお方もお褒めくださるだろう」


 そこで、私の意識は途切れた。


◇◇


「むー……むむーー!(私のバカ!!あーもうどうしよう……!)」

「おいお前、あのガキ黙らせてこい。静かになったと思ったらまた暴れ始めてるぞ」

「えー、いやっすよ。あいつ蹴ってくるんすもん、隊長行ってきてください」


(これ、完全にハメられたな)


 厳正なる回想の結果、私はある結論にたどり着いた。


『あの子猫、魔族。私、罠にかかった』


 こうである。いや、今更気づいても遅いのだが。


(ああ、もっと慎重になればよかった……!)


 魔族は魔獣が進化したもの、そしてハクが飛ぶときに魔獣時代の名残として翼が残っていることを考えると、魔族が魔獣時代の姿に変化できたとしても不思議ではない。


(いや、もしかしたらそういう変化系の魔法の可能性もあるけど……とにかく、この状況がまずいのは確かだ)


 二人の魔族の話を聞いている限り、どうやら「あのお方」というやつの指示で私を魔王城からおびき出し、どこかへ誘拐するという手はずのようだ。


(「あのお方」って誰だ、ってかこれからどこに連れて行かれるんだ……?)


 ああもう、わからないことが多すぎる。仕方がないので魔族の話に耳を澄ませていると。


「お、隊長。ようやく到着っすか?結構かかったっすね」

「ああ、そいつを運び出すぞ」

「うっす。力仕事は任せてくださいっす!」


(お、さては着いたっぽい?)


 周りの風景が全く見えず、そもそも魔国の地理などさっぱりなので場所は皆目検討もつかないのが。


「よっ、と」

「むーー!!(おーろーせー!!)」

「ほら、もっかい殴られたくなけりゃ大人しくしてろ」


 先程私を殴って気絶させてきたらしき男に再度体を持ち上げられ、私は馬車から降ろされた。


 満月が近いのか、強く差し込む月光に目を細めながら顔を上げる。


(……!?)


 そこには、周辺を深い森に囲まれた大きなお城の姿。


 しかし月光に照らされ白く輝くその姿は――


  


 魔王城と、まるで写し鏡のように瓜二つだった。


3/14 誤字修正だけ行いました

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