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王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません  作者: きぬがやあきら


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対策 1

 ピリピリ、ピー……


 弱々しくはあったものの、口笛は確かに、響いた。


 するとセイカーは聞きつけたのか、空の彼方でくるりと旋回すると、一直線に飛んできた。


 バサバサと羽音を立てて、窓枠に止まる。


「来てくれたわ! マクシムさんは今、怪我をしているの。私の腕に、止まってくれる……?」


 アシュレイはそっとセイカーの足元に腕を差し出した。


 手乗りの鳥と違って、ハヤブサは猛禽類だ。特有の鉤状の爪も鋭い。


 マクシムはセイカーの爪が腕に食い込む様を想像し、止めようとした。


 だが、アシュレイはマクシムの心配などどこ吹く風で、セイカーは軽やかにアシュレイの腕に留まった。


 爪を立てぬよう、自ら加減しているようだ。


「ありがとう」


 アシュレイがセイカーの喉を撫でると、セイカーは心地好さげに目を細め、グルグルと喉を鳴らした。


 マクシムは呆気に取られてその様子を見ていた。


 セイカーはマクシムにさえ懐かない。


 それにアシュレイがセイカーと戯れる姿は、神々しいほど優雅で美しかったからだ。


「ア……アシュレイ様?」


「あ、これですよね。アルダからの手紙」


 アシュレイはセイカーの首に巻かれていた細いベルトを、器用な手つきで外すと細長く折りたたまれた紙を隙間から取り出した。


「読み上げていいですか?」


 身動きの取れないマクシムに読ませるには酷だと気を遣ってくれたのだろう。


 マクシムは了承した。


 今やマクシムにとって、アシュレイのなす全ての行いが正しいものに思えていた。


 この建物内にいるのは、皆信用の置ける者たちだ。


 この村自体もジェニスとソノラを中心にして、良く団結している。


 べリングバリ邸に出入りしている者はもちろん、全員がアルダシールを支持している。


「それでは……読み上げます」


 アシュレイは紙を広げ、文字に目を走らせると大きく見開く。


「全域に俺の捕縛令が降り、包囲網が敷かれつつある。辺境伯代理のギルフォード・ベラミ伯爵の助力を得て、7月28日早朝より、王都へ向けて進軍を開始する。急ぎ国境を越えるように……」


 内容は簡潔だった。


 元来アルダシールは、余計な言葉を好まない。


 必要なことさえ伝わればよいと、常々言って憚らない人物だ。


 マクシムがアシュレイの護送を終えるまでを憂慮して、伝令を寄こしたのだろう。


「28日にベラミ領を発つって……もう、出発しているの!? ベラミ領って、確かアラウァリアとセレンティアとの国境付近ですよね? ここから、どれくらい離れているんですか!?」


 アシュレイは血相を変え、マクシムに尋ねた。


「ベラミはセレンティアとランドット自治区との国境を守る要です。ここから国境までは3日ほどですが、国境からアラウァリアの王城がある首都迄は直線距離で測ればさほど変わりません。アシュレイ様、落ち着いてください。元よりこの様な事態も想定の内です。辺境伯と言えば歴史に名高い武人を何名も輩出している名家ですし、軍も精強です。王国の騎士団員の中にはこの機に内応する者も少なくないでしょう。決して不利な戦いではありません。まして、神の代理人であるアシュレイ様がいれば尚更」


 マクシムはアシュレイを落ち着かせるべく、言葉を尽くした。


 しかしアシュレイの顔は晴れない。


「そういう話じゃなくて……軍がぶつかれば、内戦になるじゃないですか!?」


「それは、その通りですが、蜂起せず捕えられれば、殿下は処刑されるでしょう」


 ぐっ、とアシュレイは唇を噛んだ。


 内戦となれば国民の負担は甚大だ。勝敗の如何にかかわらず国は疲弊し、国力は衰退する。


 それらの懸念は今までも、何度となく議論されてきた。


 最後の手段ではあるものの、決戦に向けて準備もしていた。


 重大かつ、罪深い決断が、とうとう下されただけだ。


「進軍の計画について、マクシムさんは詳細をご存じですか?」


 沈痛な面持ちで、アシュレイは尋ねた。


「概要は共に検討してまいりました」


「あの2人も、ご存じですか? 武装蜂起の可能性があると」


「はい。蜂起の計画まで知る者は拠点に数名程度ですが、殿下に賛同する者は皆覚悟の上です」


「じゃあ、私、地図を借りてきます! ちょっと、待っていてください! 貴方も、ちょっとここにいて」


 言うが早いか、アシュレイはセイカーを窓際に誘導すると部屋を飛び出して行った。


「え……、あ! ……アシュレイ様?」


 止めようにも、ロクに身体が動かない。


(いかんな、一刻も早く回復せねば。いや、これしきの傷……)


 撃たれたのは、右脇腹だ。


 普段通りに動こうとすると、首から足まで、連動して痛みが走る。


 そこで方針を変更した。


 だましだまし、左腕に体重を乗せるようにして、少しずつ重心をずらしていく。


「くっ、これ以上醜態を晒してなるものか」


 マクシムが歯を食いしばって、ようやく身体を起こしたところで、バタバタと足音が戻って来た。


 アシュレイだけでない。


 ジェニスとソノラも一緒だ。


「せっかく2人きりにしてやったのに、欲がねえなあ」


「そうも言ってらんねえだろ。一大事だもんよ」


「一大事だからこそ、燃えるってもんだろう? まあ、あの怪我じゃたいしたことはできねえだろうけど」


 ジェニスは丸まった地図を抱えていた。


 呑気な会話で、2人がとんでもない誤解を抱いているのだと思い出した。


 どうやらジェニスもソノラも、アシュレイをマクシムの恋人だと勘違いしている。


 戦闘前の負傷に加え、このような不敬な勘違いが耳に入りでもしたら、生きてアルダシールに合わせる顔がない。


「ごめんなさい、マクシムさん。お待たせしました。知っている範囲でいいので、進行の計画を教えてください」


 先にジェニスとソノラの誤解を解きたかったのに、最後に入室したアシュレイがキビキビとした口調で地図を広げる。


「マクシムさん、背中に枕でも入れましょう。ちっとご辛抱ください。先発隊がベラミを発ったとあっちゃあ先延ばしにしてらんねえ」


 ソノラがマクシムの背を支え、ベッドボードと背中の間に枕を入れる。腰が落ち着くように調整してくれた。


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