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王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません  作者: きぬがやあきら


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レジスタンス 2

「……つまり、あの3人をアシュレ……チハルが1人で討ち取ったと!? 他の2人はともかく、あの、ザイードを??」


「セバスチャ先生がマクシムさんを見てくれている間に、もう一度あの場所へ様子を見に行ったんです。ジェニスが、死体は隠した方がいいっていうから。そうしたらザイードの死体だけなくって……ザイードは、生きています。マクシムさんを撃った仇なのに、ごめんなさい」


 アシュレイは順を追って説明してくれた。


 マクシムが離脱した後、アシュレイは3人と対決し、マクシムを探し当てた。


 マクシムは街の西方に逸れた茂みの傍で倒れていた。どうやら逃亡の末に落馬して気を失っていたらしい。


 馬が付近をうろついていたのが、目印になったようだ。


「それにしても、よく私を運べましたね。それもお1人で。馬に乗せたと言っても、どうやって」


「それはね、てこの原理ってのが……まあ、紐で括ったりして、結構乱暴にしちゃって、ごめんなさい……」


 アシュレイは目覚めないマクシムを抱えて途方に暮れながら村に入った。


 そこで、たまたま目に付いた鍛冶屋の戸を叩いた。


 マクシムの身体から銃弾を取り出すために、道具を借りようと考えたそうだ。


「それで、ジェニスとソノラが私の顔を見て……という訳ですか。では、弾を取り出した話も本当ですか? いったいどうやって……ア……チハルは魔法使いなのですか」


「いや、めっちゃ道具とか使ってるし。魔法だなんて。ごめんなさいね、私初見だから、いらないところ傷付けちゃったかも……でも、こうして目が覚めて本当に良かった! 運が良かったのよ、あの2人も知り合いだったし……多分、それ以上の仲間ですよね? あんまり詳しくは話してもらえてないけど……お互い、まだ腹の探り合いしてる感じだから」


 アシュレイはあっけらかんと笑った。


 吹けば飛びそうになよやかなこの女性がこのような偉業を1人で成し遂げたなど、俄かには信じられない。


 しかし、説明は冒頭から結末まで、全部辻褄が合っている。


 信じられないような偉業の一部始終を聞いて、マクシムは瞑目した。


 でも、きっとそれらは事実だ。


 するとこの頬の傷は、その時に負ったものか……!


(だとしたら……アシュレイ様は、私の命の恩人。何と、尊い……!)


 護るはずだった人に護られて、騎士として不甲斐ない。


 その思いはマクシムを苛んだが、何とも言えぬ高揚感が同時に込み上げた。


 悪に与する邪悪な者を討ち破り、傷ついた戦士を救い癒す。


 マクシムにとってそれらは人智を越えた、神の御業のようにすら感じられた。


 神の御業を施せるのは、神か、それに準ずる者だけだ。


 その、女神が手ずから水まで……畏れ多さと感動に、目頭が熱くなる。


「マクシムさん? 大丈夫ですか……先生を呼びますか?」


 感激の身震いを、アシュレイは痛みに苦しんでいると解釈したようだ。


「いいえ……これは歓喜のあまり……。アシュレイ様は我が国の危機に神が遣わしたもうた神の代理人……聖女に違いありません」


「はい? どうしてそうなるんです。それと、名前……」


 アシュレイは困ったような顔で、マクシムに顔を寄せる。


「聖女様のお名前を偽るなど不敬です。その必要も、ないでしょう。殿下がアシュレイ様を連れ去ったことも、運命の導きであったのです。皆も理解してくれるでしょう」


 マクシムは興奮に任せて、一息に捲し立てた。


「名前のことは、マクシムさんの判断にお任せしようと思ってたので、構いません。けど、話が飛躍しすぎですよ。私はそんな大層なものじゃありませんから」


 アシュレイはどこか所為なさげに視線を彷徨わせた。


 奥ゆかしさは美徳だ。


 こんな控え目なところも、聖女に相応しい振る舞いだ。


 マクシムはふっと得意気に笑みを漏らした。


 そうだ、アルダシール殿下がアシュレイ様を国王陛下から引き離そうとしたのは、天啓だったのだ!


 元より、アルダシールのことは尊敬していた。


 アシュレイを誘拐したと聞かされたのは、護送を命じられる直前だった。


 重要な秘密を打ち明けてもらえた喜びはあったものの、不可解な行動に困惑のほうが勝っていた。


 しかし今ならわかる。


「これだけの負傷ですから、頭が混乱してるんですね、きっと。……マクシムさんには充分な休養が必要ですが、どうしても今、一つだけお願いしたいことがあるんです。手短に済ませるので、お願いします」


 アシュレイは急に真剣な面持ちになって、マクシムの目をじっと覗き込む。


「勿論です。なんなりとお申し付けください」


 女神の代理人が、このように不甲斐ない姿の自分を頼りにしてくれている。


 マクシムは身体こそ自由にならないが、心はすっかりアシュレイに心酔していたので、喜び勇んで頷いた。


「昨日から空中の同じところを、ずっと旋回している鳥がいます。多分お2人が鷹と呼んでる……。アルダからの連絡だと思うんです」


 アシュレイは窓の外へ目を向けた。


 マクシムも仰向けになったまま、そちらを見上げる。


 2階にあると思しき部屋の窓からは、ぽっかりと四角く切り取られた灰色の空が見える。


 定かではないが、その中を時折、豆粒のような影が横切る。


「気になっていたんですけど、私が呼んでも降りてきてくれなくて。何か、合図とかあるんでしょうか?」


「なるほど、それは早急に対処せねば。窓を開けて頂けますか」


 アシュレイはマクシムの指示通り窓を開けた。


 途端に、雨上がり特有の湿り気を帯びた風が入り込む。


 鷹はアルダシールが飼い慣らしたハヤブサ目のハヤブサ鳥だ。アルダシールはその鷹をセイカーと名付けている。


 基本的にはアルダシールにしか懐かないが、マクシムの顔は覚えている。


 合図は定番だが、口笛だ。



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