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人物編:魔導兵に寄り添って

お、いらっしゃい…今日は兄ちゃんが休みなんだ、けど異世界とやらで語られた話の扱いは出来るからそれを期待してるなら安心していいぜ。まぁ、酒や肴目的でも大歓迎さ。


歴史ってのは人の動きがあってこそ成り立つ…まぁ、当たり前の話だわな。

その中で好転に深く関与した人間がしばしば偉人として取り上げられる。

俺の知る世界にも何人かいるが…そうだな。

混乱期マガス帝国軍に居た、『カーティ』という人間について聞いてみるか?

その人生は時代に翻弄され続け…っと準備が出来たかな?


じゃあ、もう少しで向こうの席に会話が再現出来るから待ってくれよ・・・



っとそうだ。今回の話は少し残酷かもしれん。

よって、見る際には十分注意するように。

…大丈夫かな?

では、行くぜ・・・

彼女は、戦争で行き場を失い帝国軍に就いたとされている。

後に発見された日記によれば、帝国兵の強さが自分の怨みを晴らす手助けになるとのことだった。

何を怨んでいたのかまでは書かれていない。

まぁ、混乱期後期は明確な怨みの無い奴が珍しくなかった…後で話すアイツが現れるまでは、だが。

当初は前線の攻撃部隊の志願だったが、実際に彼女が配属されたのは準支援隊―援護と補助を主とする部隊だとある。

当時の彼女にはその立場でも十分だったのだろう。

隊での仕事を真面目にこなし、数カ月後には隊の模範として彼女の名が挙がっていた。

余談ではあるが当時の彼女はそれなりに人気があったらしく、様々な噂が立っていたようだ。

まぁ、準支援隊は魔術の研究もする以上魔術に異様な興味と執着を持つ、いわゆる”魔導狂”と呼ばれる奴が少数ながら存在していた。で、カーティもそういった奴らの影響を受けていたという。

まぁ、流石に大地に埋まりたいなどと思う程心酔しちゃいない…というかそういう奴らに良い印象は持ってなかったらしいが。


そんな彼女は準支援隊に所属する中でとある部隊に憧れを持つ。

それが、魔導兵との混成隊だ。

というのもマガス帝国は魔導兵の製作・実践投入に力を入れて発展しており、まだ発展途上とされるこの時期ですら部隊の一員として十分と言える精度を誇っていたという。

そんな姿に彼女を含め多くの兵士が惚れ込んだ。

それ以来彼女は混成隊、特に人間と上手く連携を取る魔導兵たちへの憧れから暇を見つけてはそれらについて勉強し、異動を勝ち取った。

但し、彼女の異動先は混成隊ではなく話術研究チームだった。

混成隊に4回も断られ志願から1年近くが経ったところでのスカウトであったという。

彼女は主に言語能力調整とこれまでの勘を生かした戦闘技術調整を担当し、少なくとも10体程の魔導兵に関わってきた。

戦前準備だけでなく、戦中では準支援隊に混じって経過観察を行ったりもしていたという。

まぁ、そんな経歴故に『魔導兵とカーティが居れば戦地を抜けられる』なんて言われたりもしたそうだ。

ただ有名なエピソードにそういった物が多いから勘違いを受けがちではあるが、言語能力調整技術についてもチームメンバーに後れを取らない腕だったらしいな。


…だが、相変わらず戦闘もこなし次第に前線での戦いにためらいを無くしていった彼女はラウモでの敗戦で大怪我を負い、戦闘技術調整の担当を外されることとなった。

この療養生活で彼女の価値観が変わったといってもいいだろう。

怪我の状態も精神も落ち着いたころ、彼女は軍医にこうこぼしたそうだ。

『前線を退いて初めて自分の心の汚れがどれほどだったか実感できる。私がこのまま平和を迎えたとして、果たして私は大人しくそれを享受出来るのだろうか』

研究チーム復帰後も戦闘技術調整からは手を引き、以降は言語能力調整に力を注ぐこととなった。


…とは言うが、戦闘をしなくなったというだけで前線には別の目的で相も変わらず出て行ったそうだ。

魔王軍相手の防衛戦等に顔を出しては前線のサポートに走り回ってたらしい。

仲間を助けようとし何度も死にかけては軍医に世話になってたという。

まぁ、明確な怨みを持っていなかった他の連中が魔王に対して敵意を露わにしていった中で彼女のこの考えだ。数人の旧友と疎遠になったことが日記から見て取れた。

それが拍車をかけたのか、或いは担当を一つ失って余った時間を補うかは定かでは無いにしろ彼女はより魔導兵の会話能力についての研究に没頭していた。

むしろ、言語能力研究にかけていた熱は準支援隊時代に嫌悪感を示していたとされる「魔導狂」の域に片足を突っ込んでいるといっても過言ではない。

しまいには彼女にとある葛藤が芽生えた。彼女の日記にこんな心情がつづられていた。

『魔王が討伐されれば平和が訪れる。しかし、そこに戦の象徴が存在することを人々は許さないかもしれない。もしそうなれば、戦いの歴史に生まれた魔導兵たちはどうなるのだろうか。話せば分かり合える存在にすらなれる彼らを、拒絶するのだろうか。私たちの同僚であり、友であり、よき相談相手にまで成長した彼らを…』


しかし、彼女を待たずして決断の時期は迫ることとなった。

帝国を始めとした連合軍が遂に魔王を打ち破り、混乱期が終結した。

それでも急に変われないのが人間だ。平和な時代に必要のないものを追放しようとして、安心を求めて世界中でとある運動が巻き起こった。

争いによる抑圧の反動、戦力排斥運動の始まりだ。

話術研究チームも身の振り方をめぐって意見の対立が起こっていた。

軍との関係を清算するか、これからの時代に合わせて変えていくべきか、の二つだ。

最終的にチームは魔導兵関連を軍に明け渡し、かつてから行っていた帝国政治の補助に全力を注ぐという決断をした。

が、魔導兵共存を願っていたカーティは数度の衝突の末、話術研究チームと袂を分かつこととなった。


そして彼女は、魔導兵数体と関連資料を盗み出して帝国軍を離れていく。

程無くしてマガス革命運動が起こり、帝国は革命軍によって強制解体され、その面影をほとんど残さずしてその姿を消した。

逃亡生活を送っていた彼女がそれを知ったのは数日後のことである。

しかし魔導兵を平和な時代に合わせて送り出さんとする彼女にとって、状況は悪化していたと言ってもいい。

今度は魔導兵の排斥の動きが活発化したからだ。

更に、彼女にまで懸賞金が掛けられていたのである。


もっとも彼女への懸賞金に関しては魔導兵とは思惑が異なっていたようだ。

マガシア政府はドゥーマと共同で新政治システムの開発を進めており、恐らくは彼女にも参加させるつもりだったのだろう。

現にカーティを生きて引き渡した場合、より多くの額を出すと政府は各所に通達していた。


しかし彼女も帝国軍の前線で活躍した経歴を持つ元軍人である。

少なくとも世間ではそういった認識があったため、彼女の命を狙う人間も居た。

よって、そういった者達の目を逃れるためにカーティは街へすら出ることは無かったのだ。

自然、彼女があのようなマガシア政府の思惑を知る由もなかったのである。


潜伏場所を変えながらも、カーティは魔導兵が平和な時代に生きていける手段や方法の研究を続けていった。

しかしそれも長くは持たず、遂にカーティは村の自警団に見つかり拘束されることとなる。

彼女に抵抗する様子は見られず、しかし盗んだとされる魔導兵などは見つからなかったそうだ。

そうして彼女はマガシア公国の中央機関へと送られることとなるが、移送中に暗殺されこの世を去った。


…共同開発されていた政治システムは後に一体のインターマーによる資料提供により改良されることとなる。

そして、その資料の製作者がカーティと判明したことで注目されることになったようだ。

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