最終話 また、いつもの冒険者として——
気持ちのいい朝——
僕は窓を開けて空気を入れ換える。
朝日を浴びて伸びをする。
部屋の窓から、この街の鐘が見える。
僕はテーブルの上に置いてある吹き矢を手に、
矢をセットして鐘を目掛けて吹いてみた。
フッ……
ゴーン……
当たった。
もう一度——
ゴーン……
楽しくなってきた。
連射!
ゴゴーン……
僕は震えた。
——楽しすぎる!
ゴゴーン……ゴゴゴゴーン
「どこのどいつだ! 鐘で遊んでる馬鹿は!」
「迷惑にも程があるぞ!」
「探し出せ!」
外は騒ぎになってしまった。
(ヤバい! 調子に乗りすぎた!)
僕はベッドに潜り込んで知らんぷりを決め込む。
バンッ!
「マルク!」
エミリとミッチーが乗り込んできて、
布団を剥ぎ取った。
「あなたは何をしているんですか!」
「ちが……これは……そう!違うんだ!」
「何も違いはありません! その手に持っているのは何ですか!」
うかつ!
ミッチーのお説教タイムの始まりだ。
僕はベッドの上で正座させられると、
布団の中からもぞもぞと出てくる小さな人形がいた。
「カレンちゃんごめんなさいねぇ~! うるさかったですよね~! 今マルクをシバきます!」
ミッチー……最後に睨んできたよ……
エミリのチョップが僕の頭に直撃して、
僕の意識は昨日の、戦いの後に引き戻された……。
『や……やった、やったぞおおお! マルクが遂に奴を倒したぞおおお!」
周りから歓声が上がる。
戦いに参加していた人達は喜び、お互いを称え合っていた。
その中で、僕は——
「……喋りもしない君の声が聞こえたんだ——カレン」
一人呟いた——。
「マルクー!」
「マルク!」
エミリとミズナが、駆け寄ってくる。
「……二人とも」
「マルク……泣いてるの?」
エミリに言われ、初めて泣いている事に気がついた。
「ちが……これは……」
「マルク、無理はしなくてもいいんですよ」
「そうだよ……」
それを聞いて僕は——
声にならない声を上げながら泣いた。
エミリが近づき、
僕を抱き寄せようとした、
その時——
ドスン!
横っ腹に衝撃を受けてはじき跳ばされた。
「ぐえっ!」
痛みやら、悲しみやらがごっちゃになりながらも、
衝撃を受けた横っ腹を見ると、
小さな人形が抱きついていた。
「カレン!」
その叫び声を聞いた二人も駆け寄ってきた。
カレンは至る所が破損している。
「生きてたんだ……」
良かった……
僕はカレンの頭を撫でた。
カレンもまた僕にしがみ付く力を強めた——
僕はカレンを持ち上げてその姿を見つめた。
「……ん?」
僕は違和感を覚えた。
エミリとミズナも何やらカレンを見て驚いていた。
そう——
カレンの身体、
破損している所から、泡が出ているのだ。
その泡は次第に破損個所を修復していく。
「これが……進化の力なのね」
ミズナが呟いた。
そんなことは、僕にはどうでもよかった。
大切な——
仲間が無事ならば。
ガラガラガラと音をたて、
化け物の残骸から何かが這い出てきた。
「……っ、ここはいったい」
男はボロボロになりながらも立ち上がり、
こちらを見た。
僕が持っているカレンを見た瞬間、
「そいつを寄越しなさい!」
叫びながら僕の方によろめきながら歩いてきた。
しかし、男はそれ以上近づく事はなかった。
騎士団の持つ、拘束の魔導具。
魔導具により、男は身体の自由を奪われていた。
「イルタ王子から話は聞いている」
騎士団長が近づきながら、
「ガスリィ、国家反逆罪で貴様を連行する!」
「連れていけ!」
「はっ!」
騎士二名により連れて行かれるガスリィ。
騎士団長がこちらにやってきた。
「君がマルクか」
「は……はい」
僕は立ち上がろうとしたが、
「そのままで構わん」
騎士団長は膝をつき、目線を合わせてきた。
「君の活躍に感謝する」
「そうでしょうか……」
「あぁ、この国は君が救ったようなものだ」
騎士団長は頭を下げた。
「ありがとう」
その言葉を言って立ち上がり、
今度はエミリを見た。
「君にも感謝する」
エミリにも頭を下げた。
「あの時、ゴーレムの集団に襲われていたときの礼がやっと言える」
「騎士団を代表して、感謝する」
エミリに礼をして、
騎士団長はきびすを返して戻っていった。
辺りは日が落ち始めていく。
戦いは終わったのだと。
痛い——
暗闇の中から引きずり出されたような気分だ。
ぺちん ぺちん
痛覚が戻り、うっすらと目を開くと——
エミリが、僕のほっぺを叩きまくっていた。
「マルク~、起きろ~」
ぺちん ぺちん ぺちん
「痛い 痛い 痛い」
「あ、起きた」
僕の上に、馬乗りのエミリがいた。
「お説教は後です。 早く準備しなさい」
「何でだっけ?」
「お城に呼ばれたんだよ、私たち」
そう言えば昨日の夜に、
城からの使いという人がきて手紙を貰ったっけ。
「……服ないよ」
僕は綺麗な服なんて持ってない。
「そのままで大丈夫ですよ」
もう一人部屋に入ってきた。
王子と呼ばれた人は、
ベッドの上にいた僕とエミリを見て、
一瞬、僕を見る目が鋭くなった……気がした。
「イルタ王子! なぜここに?」
ミッチーは焦りだした。
この人が王子様なのか。
初めてみたな。
キンキラだ。
「王都を守った英雄を迎えにきただけさ」
一度僕を見て、笑顔になる。
その後、王子の顔はずっとエミリを追っていた。
「さぁ二人とも、馬車に」
「マルク君も早く来たまえ」
王子は笑顔なんだけど、
目が笑ってない……。
僕への対応……おかしくなかった?
あ、そうか!
二人は女性だもんね!
さすがは王子様だ。
気が利くとは、こういう事なんだろうね。
僕も急いで馬車に向かった。
カレンも僕の肩に座っている。
馬車につくと、二人と王子様は既に乗り込んでいた。
僕も近づくと、
御者の人に後ろの荷物置きに座らされた。
「凄い! 特等席だ! 街がよく見えるね、カレン」
カレンも頷いている。
馬車が城へ向けて動き出す。
城に着いた僕らは玉座の間に通されて——
今回の出来事の顛末を聞かされた。
王様は退任し、王子様が王になるみたい。
ガスリィとかいう人は後日、処刑されるとか。
なんか、大変なことになってたのね……
その後に、僕らは王子様から感謝の言葉と報奨金を貰った。
エミリなんて、天にも昇りそうなくらいな笑顔だよ。
集まった人たちは拍手をし、称えてくれた。
「最後に、我妻となるべきものを紹介したい!」
王子は僕を見てニヤリとした。
……おや?
「さぁエミリ、僕の元へ」
エミリの顔が青ざめ、
地獄へ突き落とされたような顔をした。
会場もどよめき立った——。
「王子! いくら何でもそれはいかがなものかと!」
側近も慌てふためいた。
騎士団長も突然のことだったみたいで凄く驚いている。
エミリも震えながら口を開いた。
「と!……突然の事で……す、すみません、すすす、少しお時間を頂いても?」
どもりながら頑張って話した。
助けを求めるように僕やミッチーをチラチラと見てくる。
「ん? そうか。 僕としたことが早急であったな」
「この話は、また後日改めるとしよう」
王子様は終始、にこにこしていた、
・
・
・
僕たちは城を出た――。
「エミリ……」
トボトボ歩くエミリに僕が声をかけると、
青ざめた顔で、
「…………あんな気持ち悪いの嫌」
「……げる」
「なに?」
歩くのを止めて、大声を上げた。
「逃げるよ、マルク!」
エミリは爆走して街から出て行った。
取り残された僕とミッチーは呆気にとられた。
「は! エミリを追いかけないと!」
「ど、どうやってですか!? 追いつけませんよ!?」
僕とミッチーが慌てていると、
そこに、見知った人が現れた。
「おや? マルクさんじゃないですか」
オクタムさんだ!
「オクタムさん! このお金上げるからエミリを追って! 今すぐに!」
「なんか訳ありか?」
「早くしなさい!」
「ま、今は仕事もないしいいだろ!」
「いくぞ! お前たち!」
馬二頭は、任せろと言わんばかりに鳴いた。
馬車は猛スピードで街を、王都を後にするのだった。
エミリに追いつけるであろう、唯一の手段だ。
風を切って走る馬車。
僕の肩で座りながら、ゆらゆら揺れている小さなゴーレム人形のカレン。
美人でどこか壊れているけど、頼りになるミッチーことミズナさん。
遥か先には猛スピードで王都から逃げる、僕の最強の幼なじみのエミリ。
そして、腰には愛用の吹き矢がある。
また、いつものように——
笑って、馬鹿やって、そして怒られる。
そんな冒険者としての生活が続いていく——
あれ?王子様から逃げたらまずくない?
「ねぇ、ミッチー……」
「今いいところなんです!」
“ カレンちゃんと私のラブラブ日和 ”とかいう本を熱筆中だった……。
「……うん、ごめん」
考えるのを止めて、空を見上げた。
雲一つない、晴れ渡った空。
馬車はエミリを追ってひた走る。
——今日も、吹き矢日和だ。
—— 完 ——
最後まで読んでくれて、ありがとうございました。
マルクたちのお話はいかがでしたでしょうか。
ここまで見届けていただいたこと、うれしく思います。
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