8怪しい影
その日、レディアは校舎の向こうに、噂の侯爵令息――フリードリヒ・ヴェルナーの姿を見た。
整った顔立ち、貴族らしい洗練された立ち振る舞い。微笑みすら絵画のように美しい。
だが、見た瞬間に胸の奥がざわついた。――どこかで。そう、夢の中で見たような感覚。
「へぇ、優男系なんだねー」
隣でカタリナがのんきに言う。
「マッチョの方が死ななそうで、あたしは好きだなー。あ、でもフィリップみたいに振り切ってるのもアリかも」
「え、なんか言った?」
レディアが振り返ると、カタリナはにかっと笑って手を振った。
◇◇◇
その夜。
夢の中で、レディアは再びフリードリヒを見た。
ヴァルハラ帝国の商人から、怪しげな液体の入った瓶を受け取っている。
耳元には――ここ最近何度も夢に現れた、あの耳飾り。
レディアは目を覚ますなり、すぐに父ヨハンへ報告した。
「なるほど……フリードリヒ・ヴェルナーか」
ヨハンの顔は厳しかった。だが判断は早い。すぐに王立魔術大研究所へも情報が回された。
◇◇◇
「その男には、絶対に近づかないでください」
翌日、フィリップ・ハーゲンが珍しくきっぱりと言い切った。
いつもは魔術の話に夢中で寝癖すら気にしない彼が、真剣な顔で釘を刺すのは初めてだった。
「……あのフィリップが……ビシッとしてる……!」
カタリナは目をまん丸にして、小声で衝撃を漏らす。
レディアは胸の奥にひやりとしたものを抱えながら、ただ頷いた。




