9 影の夢
その夜、夢はまたしても地下だった。
湿った石壁、途切れ途切れの灯り。
今回は前よりも鮮明で、冷たい床に子どもや女性が倒れているのが見えた。
息をしているのかも分からない。沈黙が重くのしかかる。
「――っ!」
レディアは飛び起き、衣を羽織って父ヨハンの執務室へ向かった。
「……地下施設に人が倒れていました。子どもと女性です」
報告を受けたヨハンは険しい顔で黙り込み、やがて深く頷いた。
「緊急性が高いな。監査室を使おう。殿下に聴取をお願いする」
研究所内の監査室――本来は違法な魔術研究を監査するための部署だが、重大な案件では王族すら足を運ぶ。
レディアはそこへ連れて行かれた。カタリナは……もちろんフィリップに預けられている。あの子がここにいたら、絶対に場の空気を壊すから。
◇◇◇
監査室は重厚な石壁に囲まれ、音が吸い込まれるように静かだった。
エドワード・ヴァレンシュタイン王弟殿下が深い紺の外套を纏い、椅子に静かに腰かけている。
穏やかな表情の奥に緊張を孕み、ただそこにいるだけで場の空気が引き締まった。
レディアは背筋を正し、震える手を膝の上に置いた。
「……見た夢について、思い出せるだけで構わない」
エドワードが静かに促す。
レディアは頷き、断片を必死に言葉にしていった。
湿った石壁。薄暗い灯り。床に描かれた魔法陣の痕跡。倒れている人影――。
すべてを語り終えたとき、喉はからからに乾いていた。
王弟殿下の視線を正面から受け続けるのは、想像以上に精神を削る。
部屋を出るころには、レディアはすっかり疲れ果てていた。
「……しんど……」
壁にもたれ、そっと深呼吸する。
その向こうで殿下が何を話しているのか、レディアには分からなかった。




