22 番外編 レディアの婚活話
王立魔術大研究所に勤め始めて一年。
フィリップとカタリナは、驚くほどあっさりと結婚してしまった。
平民同士ゆえに式は王都の小さな教会で、二人だけでささやかに行われたらしい。
本来ならカタリナの複雑な生い立ちのせいで、結婚にはエドワード王弟殿下の許可が必要だったが――
「フィリップなら大丈夫だと思います。研究バカなので」
ヨハン卿がそう推したことで、あっさり許可が下りたという。もっともその裏事情をレディアが知るのは、だいぶ後のことだった。
ただ一つ確かなのは、カタリナには生涯監視が必要なため、フィリップがヨハン卿の屋敷に部屋をもらって引っ越してきたこと。
結果として――毎日がうるさい。
◇◇◇
その日、大研究所の食堂にて。
「結婚って、とてもいい」
カタリナが満面の笑みで言った。
「そう……」レディアはスープをかき混ぜながら相槌を打つ。
「レディアは結婚どうするんだ?」
「うちは政略結婚とか必要ないし。好きにしていいって言われてる」
「どんな人が好みなんだ?」カタリナが真剣な顔になる。
「あたしはマッチョが好きだと思ってたけど、フィリップが最高に好きだし、人生をかけて築いてきた価値観が揺らぎつつある」
「……ちょっと待って。あなた、そんな言い回しもできるの?」
「ヨハン卿が言ってた。で、どんな人?」
◇◇◇
レディアはスプーンを置き、これまでに出会った男性たちを思い浮かべた。
パートナーだったら、素敵だろうな――そう思える誰か。
「エドワード王弟殿下……」
カタリナが盛大に吹き出した。
「高望みすぎだろ! あはははは!!」
「理想よ! 理想なんだから高くたっていいでしょ!!」
レディアは頬を赤くして叫び、食堂の隅で昼食をとっていた研究員たちがこっそり笑いを噛み殺した。




