19 終焉
数日後。
王立魔術大研究所の一室に、エドワード・ヴァレンシュタイン王弟殿下が姿を現した。
深い紺の外套を肩にかけ、落ち着いた眼差しでレディアの前に座る。
「――すべては終わった」
その声は静かだったが、揺るぎない重みを帯びていた。
礼拝堂での摘発、帝国残党の拘束、被害者の救出。
監察院と治安局の合同捜査によって、王都を脅かしていた闇組織は壊滅したと告げられる。
「捕らえた者たちの供述により、残党の一部はまだ潜伏していることが分かった。だが、少なくとも王都を危険にさらす拠点はすべて潰えた」
レディアは胸の奥が少しだけ軽くなるのを感じた。
「……あの夢は、やはり現実と繋がっていたのですね」
彼女の問いに、エドワード殿下は頷いた。
「おそらく、魔力が残した断片だ。君の力がなければ、救えぬ命があっただろう」
褒めるでもなく、ただ事実として告げる声音。
だからこそ、レディアは胸の奥に熱いものが込み上げた。――父以外の誰かに、自分の存在を認められたのは初めてだった。
殿下は少しだけ目を細め、窓の外に視線を向ける。
「カタリナ・ドレイク嬢も無事で何よりだ。……あの娘は実に強いな」
「強いというか……脳筋というか……」
レディアが苦笑すると、殿下の唇にわずかな笑みが浮かんだ。
「君たち二人が王都に来てから、随分と騒がしい毎日だった。だが――悪くない騒がしさだ」
窓から射し込む光の中、そう言い残して殿下は静かに部屋を後にした。




