el mariachi 4
初めのサーブのところは007慰めの報酬OSTの1番、Time to Get Out を聞きながら読むことをお勧めします。
通常、自動車道での平均速度は約40キロ前後だ。一般的な日本市民はそれをきちんと守り、時速30~35キロで巡航するのが定石だ。もし路面が濡れているならなおさらだ。だが、今日の千葉の自動車道には一台例外の車がいた。大量に降り注ぐ雨を物ともせず、黒のサーブ9-5はグングン加速して行く。現在、エンジンの回転数は6000rpm、スピードメーターは80キロをマークしていた。右折コーナーが差し掛かる。
乙鬼はギアをニュートラルに入れ、ハンドルを右に切ると同時に思い切りハンドブレーキを引いた。
リアタイヤがロックし、サーブはドリフト状態に入る。リアが滑り出すと、乙鬼は軽くカウンターステアを入れ、ヨーの発散を抑える。70度のオーバーステアが入った時、乙鬼は素早くギアをDに戻し、ハンドブレーキを戻す。そしてアクセルを再び床まで踏んだ。ターボエンジンが勇ましく吼え、前輪に強力なトラクションが掛かる。そのままサーブはコーナーをクリアし、雨の中を加速していった。
インターカムから乙鬼は連絡を取る。「円城?」三秒間の沈黙の後、円城が電話に出る。
「・・・・その音、運転してるんですか?」やたらと嫌そうな口調だった。
「運転して何が悪い。それより、標的の居場所がわかった。千葉湾運倉庫だそうだ。」
円城はほう、と呟いた。
「で・・・・、増援が欲しいと?」
「いや、迅速な死体処理、後はアレをやってくれ。」
「良いんですかぁ?相当人数いると思いますよぉ・・」
「大丈夫、僕は死なない。」
乙鬼は交信を切り、インターカムを耳からはずし、助手席に置いた。
時刻は午後5時20分。乙鬼はギアをマニュアルモードに入れた。
ヴォゥゥーーーーン
エンジンが軽くブリッピングし、4速に入る。
黒いサーブはそのまま雨の中へ消えていった。
「さてと、僕もそろそろ始めましょうか」
そう言うと、円城はクラウンのエンジンをかけた。ステアリングがドライバーの位置に下がり、
デジタルメーターがタコメーターとスピードメーターを映し出す。
円城はナビをセットアップした。目的地は、千葉火力発電所。
ギアセレクターをDに入れ、クラウンは静かに発進した。
50分が経過した。 時刻は5時50分。雨は一層強く吹いていた。
千葉湾運倉庫のガレージの中に10人の男達がいた。全員ヒスパニック系で、大量のダンボール箱をせっせと二台のトヨタ・ハイエースバンから降ろしていた。
10人の一人が喋り始めた。「Maldita sea, ¿dónde está Carlos!? sólo tenemos diez minutos!!」(ッたくカルロスの奴、いったいどこにいやがんだ!!後10分で客が来るんだぞ!!)男は40代ぐらいで、長い髪を後ろで一本に巻いていた。
「no se preocupe, que vendrá」(んな怒んなよ、すぐに来るって。)二十代ぐらいの男が返した。
突如、大きな衝撃音が辺りに響いた。
不自然な音に10人は動きを止めた。
全員、胸や腰のホルスターから銃を取り出し、安全装置を解除した。部屋の中の空気が一瞬で変わった。
「Manuel!」(おいマニュエル!)40代の男が吼える。
「ir a buscar fuera.」(外行って様子見て来い)
「¿Por qué yo!?」(はぁ!?何で俺が!)マニュエルと呼ばれた20代の男が講義に出る。
「Sólo tienes que ir!」(いいから行け!!)拳銃を振り回しながら男は怒鳴った。
20代の男はしぶしぶ行くことにした。ナイロン製の灰色のレインコートを被り、テーブルに置いてあったH&KG36を手に取った。透明プラスチックのマガジンを装填し、レーザーサイトのスイッチを点けた。
男が外に出た時、気温は3度まで墜ちていた。豪雨のせいで視界は最悪だった。男は人扱いが悪いだの、パシリにしやがってだのとブツブツ呟きながら歩き始めた。
突如、男の目の前に、黒い物が見えた。男はソレに向かって歩き始めた。
10メートル歩いた。 黒い物が少し大きくなった。
更に10メートル近づいた。その黒いものから煙がたっているのが見えた。
30メートル近づいた時、初めてソレを認識することが出来た。
黒いソレは乗用車だった。スウェーデン製の、サーブ9-5エアロは、ただ静かにそこにたたずんでいた。さらに男は、フロントが激しく損傷していることに気づいた。フロントウィンドーは派手にひび割れ、外から、雨水が漏れている。ボンネットは折れ曲り、開いた隙間からもくもくと白い煙を吐いていた。おそらくウォータータンクが破損したのだろう。両方のヘッドライトは電球が割れ、電気コードだけでぶら下がっており、バンパーは無くなっていた。
ひとしきり見渡した後、男はこの車がどうやって進入したのかに気づいた。
見上げると、そこには見事に破壊された門があった。男は門に駆け寄ろうと歩き始めたその時、車の陰から何者かが飛び出した。




