(7話) 天使セルリルとシーカーの最期
ダンジョンの中はアリの巣のような構造になっている。所々人間が勝手に休憩スペースの為に自分で掘ってそこで寝泊まりできるようになってる所もあるが、基本魔獣で溢れているため常に防御魔法を賭けられるような人や、大人数パーティで見張り番をたてられるような所じゃないと使えないというのが現状だ。
私達は奥へ奥へと潜っていき人がいないところまで潜った。
ここから先は片方は行き止まりになっていてもう片方は奥まで続いている。ここでナザールは二チームに別れて行動することを提案する。もちろん任務のために私は許可を、レイナも許可をすると皆断ることも無く、スムーズに事が進んだ。
別れる寸前にレイナが『どうかお手柔らかに』と、念話で聞かれてることを前提に殺さないよう私に忠告してきた。『そこはお気をつけてでは無いのかしら、』と返信すると『御冗談を』と返されて終わってしまった。
私たちが入った方のルートは誰もが知ってる何も無い行き止まりルート。ナザールの「もしかしたら新しい道が逃げた魔獣によって開拓されているかもしれない」という馬鹿らしい理論でなんとか私を全く人の来ないルートに誘い出すことに成功。そして途中道で召喚術式をセットして、錬金術で形成した画鋲をその周りに散りばめて力を流し込んでおいた。これは時間差で発動するようにしている。
そして私達は一言も喋ることなく行き止まりルートの一番奥まで到着した。
「行き止まりでしたね。」
と、私が言うと、
「そうだなぁ...ふへっ...」
と、ナザールは気味の悪い声で返事をしつつ、急に顔をくしゃりと歪めて、
「シーナちゃ〜ん...はぁ、はぁ、もう俺我慢出来ね〜、一緒に気持ちようなろうなぁ〜」と、手を私の方に向けてきた。
同時にシールズも
「シーナちゃん。きっとあなたも気に入るわ、毎日毎日したくなるわ、私と一緒にこっち側に来ましょう...」と壁に追い詰めてナザールの手が「いや、やめて...やめて!」と、涙ぐむ私の服のボタンに手を伸ばそうとした時だった。
私たちのいる空間がピカーッという光に包まれた。
「ん?どこだここ?」
うわっ!?やっちゃった!?
召喚された場所を神気を使って覗くと、なんと召喚されたのは魔獣ではなく少年天使だった。力を込める時に間違えて神気を注ぎ込んじゃった...やっちまった...こうなったら...作戦変更するしかない!!
私は念話で「なんでこんなとこに来たんだ?」とか言ってキョロキョロしている天使に話しかけた。
『そこの天使、私の事知ってるわよね。念話で答えなさい。』
『ん?...えっ!?姫様!?』
どうやら天使は私のことを知ってるみたいだった。まあ、当たり前か。一応私、こう見えても、いえ、どう見ても女神様であり第一王女ですから!
『あら、知ってるのね。名前はなんて言うのかしら?』
『セルリルと申します。』
なんというか、いかにも天使っぽい名前ね。
『セルリルね、まずこれは命令なのだけど、私は今訳合って人間界に潜んでるのですけど、私が女神だとバレないように接しなさい。あとここからはお願いなのだけど、私が許可するからこのダンジョンで暴れて欲しいのよ、人は殺さないで入口に押しやるイメージで、』
『は、はぁ、姫様の命とあらばそうします。』
あら、意外とあっさり頷いてくれた。ちょっと困惑気味の表情ではあるけど、話が早いと助かる。
『そう!偉いのね。天使セルリル、覚えておくわ。』
『有り難き幸せ。』
『あともうひとつ注文なのだけど、』
『はい、どんどん命令を、』
『私、今からここにいるふたりの人間の脚を斬るという命を母様から受けてるの、で、周りの人間に疑われないように私がこの二人を切ったら、演技をするからこのダンジョンのメインストリートで私を突き刺して欲しいのよ。』
『ぼ、僕が姫様をですか!?』
『ええ。もしかしてできないのかしら?』
『い、、いえ、ただ、姫様に刃を向けるなど──』
『やってくれるわね?』
『...はい...』
うん。話し合いって大事よね。私は決して権力の暴力などという言葉はしらない。
『大丈夫よ。神は何をされても死なないの。たとえ体をぐちゃぐちゃにされても、分子レベルに分解されても、神核に触れられる物は私だと母様だけ。わかったかしら?』
『はい...分かりました...』
セルリルは渋々頷いていくれた。これで作戦成功は間違いなし。いやー結果オーライ。話が通じる方が作戦通りに行きやすいですからね。
『ではミッションスタートよ。』
念話を初めたこの間1秒。ゆっくりと動かしていたナザールの手が私のボタンに触れた所で会話は終了する。
ナザール達は最初のセルリルの登場で目がくらみ、地面にうずくまりながら「な、なんだ!?目が!!」ともがいている。
私が動き出すと、セルリルは天使語を叫びながらメインストリートで暴れまくった。シーカーからすれば神に近い見た目をしている天使が暴れだしたら怖くてしょうがないよね。
だから直ぐにシーカー達はダンジョンの外に逃げ出した。そして五分もすればこのダンジョンには、私とナザール、シールズしか残っていない。
奥の階の人達も皆元々ダンジョンに付属してある転移陣で地上に帰還済みだ。
いや、ちょっと待て、一人だけいるな、でも奥か...なら大丈夫かな。
私は作戦に支障が無いことを確認すると直ぐに行動に移る。
セルリルは行き止まりの壁に背を向けている私の背中と壁の僅かな隙間に浮き、目眩しから開放された二人を凝視する。そして
「¥$$¥┴┯♪&$¥:Σ〃ゝ⊃━┤┥⊂ゞ´*@@##!、↿↾⇀⇏☼♯¦‼_¸¬▼※━┰!!!!!」
と、天使語で叫ばれた私達はビクッ!と肩を震わせたあと、ワナワナと顔を青ざめて後ろを振り返る演技をする。リーナ直伝の演技をここぞとばかりに見せびらかす。
それと同時に私は一瞬にして風の刃で二人の膝から下を切り落として元の位置、元の体制に戻った。
すると直ぐに後ろからゴトンゴトンという崩れ落ちる鈍い音と、
「ギャァァアァァア"ア"ア"!!!!!!」
「ヴァァァァアア"ア"ア"ア"!!!!!!」
という断絶魔の様な悲鳴が聞こえてまたまた振り返る。すると泣き叫びながらバタバタと転がる二人の大人の姿が目に入る。
私は顔を真っ青にして「キャァァアアアアア!!!!」という悲鳴を上げて、のたうち回る二人の間を通り過ぎ、涙を流しながらメインストリートの方へ。
私が必死に走る素振りを見せたところで、後ろからブスッ...と刺される。セルリルの剣は私の背中から左胸を貫通した。
それと同時に念話で『レイナ、頼んだわ。』つたえる。
嫌がっていた割にしっかり心臓貫くあたり面白い天使だな〜なんて考えながら私は演技を続ける。
「あ...ぁ...ぅあ...」
私は吐血しながら刺された剣からズルズルと地面に落ちた。
セルリルは、「@━↿┰#¦、┴┴*_、┤☼▼@´*¦↾⇏┤」と言葉を残してこの場を離れてダンジョンの奥の方へ向かっていった。
よし、これであとは待つだけだ。
洞窟の奥の方からは激痛に苦しみ、「ギャァァアアアア!!」「ヴァァアアア!!」と泣き叫び続けるナザールとシールズの声。これで任務完了だ。
私は特に罪悪感なく人を刺せることがわかった。
五分くらいするとレイナが到着し、背中を刺され、口から血を流して倒れている私を見て「ヒィッ!!」と悲鳴をあげるが、私のお願いをすぐに思い出したのか、奥に入って暴れる二人に「静かにしないと天使に見つかりましてよ!?」と言って黙らせ、首の襟の部分を引っ張って引きずって出ていった。
もう一度私の隣を通り過ぎた時に念話で『それ、痛くはないのでして?』と質問されたので『全く痛くないわ。』と答えた。そしてレイナの姿が見えなくなったところで私は「ヨイショっ」と立ち上がった。
私は、私のために泥を被ってまで頑張って手伝ってくれたセルリル君に褒美をあげるベく、この場で待ち続けることにした。今どこら辺にいるのかな〜なんてサーチしてみると、一つの視線を感じた。
『え?これ?どこから見られてた?』
そう。私は見られてた。演技に夢中で気が付かなかったけど、確かにその人の周りの岩の温度が、その人の体温近くにまで上がっているのが確認できた。
『まずい...』私はどうしようかと思考を巡らせるのであった。
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ちなみにセルリル君は天使語で何を言っていたかというと、私たちの前で叫んだ時、
まあ見ても分からないと思うけど、
「¥$$¥┴┯♪&$¥:Σ〃ゝ⊃━┤┥⊂ゞ´*@@##!、↿↾⇀⇏☼♯¦‼_¸¬▼※━┰!!!!!」
これ、訳すと
「お前らのようなヤル事だけが生きがいのゴミ共がうちの姫様に触れるなんて100億年早いんだよー!!!!!!!!」
そして二つ目の
「@━↿┰#¦、┴┴*_、┤☼▼@´*¦↾⇏┤」が、
「いや、まじでほんとすいません許してください。まじでバツだけはホント勘弁っす。」
私は聞き取れていたから、なんというか、可愛い後輩が出来たみたいでとても嬉しい気分になった。
ついでに言うと、ダンジョンでシーカーを追い出す時は、
「オラオラオラー!!逃げろ逃げろーーー!!ほらほらほらーーー!!早く逃げねーとお前らの晩メシ食っちまうぞーーー!!」
って言ってた。
いや、可愛い過ぎかよ。




