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顧客第一

(のどかだなぁ…風もほどよく吹いてて気持ちいい)


鷹野はオフィス近くの広場のベンチに座りながら、みんなのパン屋さんで買ったフルーツサンドを頬張る。


口の中に広がる生クリームの甘味とイチゴの酸味を味わいながら、鷹野は周囲を見回す。犬と散歩する老人や、子供を連れて歩く主婦、鷹野と同様お昼を食べるサラリーマンなど、広場には様々な人がいた。鷹野も広場の風景の一部となりながら、ぼんやりと物思いにふける。


(前職じゃ、外でランチする余裕なんてなかったな…まぁ、まだ入社したばっかだからそんなに忙しくないってのもあるけど…)


そよ風に煽られた前髪が額に張り付く。鷹野は指で髪を払いながら取り留めなく考え続ける。


(でも、和泉さんも神谷さんも…いつも忙しそうだけど、余裕ないって感じはないんだよな)


鷹野は前の職場を思い出す。同僚は皆、いつも上司に急かされながら時間に追われるように働いていた。そして、その上司もまた仕事に追われ、オフィス全体がいつもどこか余裕がなかった。


(質問一つするのも一苦労だったなぁ…とにかく簡潔に質問するように気をつけてたっけ)


それでも答えてもらえない時もあったけど…鷹野は苦笑いしながらフルーツサンドと一緒に買ったコーヒーに口をつける。


(神谷さんもぶっきらぼうなとこはあるけど、質問したらちゃんと答えてくれるし。和泉さんなんか一番忙しそうなのに、忙《せわ》しない感じはないっていうか…いつも穏やかだよな)


「忙《いそが》しいと忙《せわ》しないって違うのかもな…」


鷹野はふとつぶやくと、一口残ったフルーツサンドを口に放り込んだ。


◇


ランチから戻ると、北見がデスクに座っていた。どうやら鷹野と入れ違いで出社していたらしい。


「北見さん、お疲れ様です」


念のため挨拶をすると、北見は一瞬視線を鷹野に投げた後、「おう」とだけ返した。


神谷は今日もコンビニで簡単に昼を済ませたのか、食べ終わった容器を袋にまとめていた。それをドア付近のゴミ箱に捨てながら、コーヒーを啜る北見に話しかける。


「北見、ちょっといい?」


「ん?」


神谷は画面を見つめたままの北見に寄ると、腰に手を当てながら尋ねる。


「依頼シートにあった項目追加。あれこれから対応だっけ?」


「あー今日やる。なんか地味に面倒なんだよなあれ」


「まぁそう言うな、よろしく」


頭をかきながら答える北見にそう言うと、神谷はPCを開いて業務を再開しようとする鷹野に話しかけた。


「鷹野くん、今回作業とかは振らないけど、内容だけ知っといてほしくて。この後ひとつ機能を実装するんだけど、リリースまでの流れを知ってほしいんだよね」


「は、わかりました」


「うん、プロダクト資料にざっくりの流れはあったと思うけど、開発ってのは基本要件定義から始まって設計して、開発して、テストしてリリースって流れになる。ま、厳密にはステージング検証とかあるけど…基本そんな感じ。で、今回は小さい機能だけど、設計まで終わったからこれから開発ってわけ。」


「なるほど」


鷹野は手帳を開くと、神谷の話を忘れないようメモしていく。


「で、今回はもう設計まで終わってるからそこまでの流れをリアルタイムで見てもらうことはできないんだけど、要件がどう機能に落とし込まれていくかだけ見てほしくて」


「は、承知しました」


鷹野が一旦メモする手を止めたのを確認すると、神谷は自身のPCを覗き込み、素早くキーボードを叩いた。


「ん。今エクセル送ったけど、これが今回の要件資料ね。俗にいう要件定義書だけど、軽微な開発だからそこまでかっちりしたやつじゃない。これがリリース内容の定義になる」


送られてきたエクセルを開くと、リリース内容や日付、担当などが表の形で記載されていた。鷹野はスクロールしながら、ざっと内容を確かめる。


「ありがとうございます。えっと、ちなみに…要件自体はどのように定義されるんでしょうか。営業さんからの要望が元になる感じでしょうか」


鷹野の質問に神谷が軽く答える。


「そ、営業が顧客の要望を聞いて、依頼シートに落とし込む。それを俺らが見て、技術的な要件に落とし込むかんじだな」


「なるほど、ありがとうございます。理解しました」


神谷の説明に相槌を打ちながら、鷹野は淡々とメモに追記する。神谷はその様子を眺めながら、言葉を続ける。


「だから依頼シートから見た方がいいかもな。えーっと…ほい。今送ったから、ちょっと確認してもらえると。黄色がけになってるやつね」


「承知しました。確認いたします」


神谷が送ったリンクを開く。みると、先ほどのエクセルと同様、表の形で依頼内容や担当者、希望対応日、優先度などが記されていた。


(えーと、今回の機能にあたるのは…あ、これか)


複数ある行の中で黄色で色がけされた行があった。


(どれどれ、依頼内容は……と。なるほど。現状の画面には出てない項目を確認できるようにしたいのか)


見たところ、依頼内容自体はシンプルだ。


(でも北見さんは地味に面倒って言ってたな…意外と技術的には重いのかな)


鷹野はそんなことを考えながら、横に伸びた行をスライドしていく。


(あ、議事録のリンクも貼ってある…)


鷹野は神谷の説明を思い出す。


『営業が顧客の要望を聞いて…』


(営業がお客さんにヒアリングした時の記録かな。ちょっと見てみるか)


リンクを開くと、予想通り営業と顧客の会話が詳細に記されている。試しに『項目』と検索をかけてみると、議事録の中盤あたりで何件かヒットした。


(お、この辺かな。なになに…)


顧客の発言をじっと目で追う。


『頻度は高くないんだけど、別のシステムでしか確認できない項目がたまにあって』


(ふむ……)


『今は御社のシステムからPDFで出して印刷したあと、別システムで確認した項目を手書きで追記してて』


(なるほど、手書きで…それはたしかに面倒そうだな)


『社外への報告で使いたいから、手書きってのも…なんかいい感じに1枚にまとめられるといいんですけどね』


(たしかに……)


文章をゆっくり咀嚼しながら、そのままスクロールを続ける。


『あぁ、確かにそれは不便ですね』


(ここから営業の回答か)


『それでしたら、弊社の画面に項目を連携しますよ。別システムのAPIが使えれば、弊社システムに連携して引っ張ってこれると思います』


(そうか、外部から連携するのか。なるほど、それは確かに地味に面倒そうだ。……あれ?でも……)


鷹野は資料を少し遡って、顧客の発言を読み直す。


『頻度は高くないんだけど…』


『社外の報告で使いたいから手書きってのも…』


『いい感じに一枚にまとめられたら…』


(これって……いや、でも)


鷹野は思考の輪郭が定まらないまま、もう一度依頼シートを見る。


『画面に項目を追加』


(……………)


顎に指を添えながら鷹野は目を細める。


(たしかにこれでも解決できるんだろうけど……でも顧客が欲しいのって……)


しばらく画面を睨んだすえ、鷹野は隣で作業する神谷に身体を向けた。


「あ、あの…神谷さん、すみません」


「ん?なんかわかんないとこあった?」


神谷が作業を止め、鷹野を振り返る。鷹野は神谷の方に椅子を寄せながら、おそるおそる切り出した。


「い、いえ、ちょっと確認なんですが…」


PCをチラリとみた後、鷹野は意を決して尋ねる。


「あの…お客さんの要望って、項目追加なんでしょうか」


「え?」


神谷の目が少し見開かれる。向いに座る北見が、モニター越しにチラリと鷹野を見た。


「依頼シートにはそう書いてあったけどな。なんか違った?」


神谷は鷹野の方に椅子を寄せると、画面を覗き込んだ。


「は、はい。確かに依頼シートにはそう書いてあるんですが…議事録を見ると、少し違うような気もして…」


鷹野が説明しながら、議事録を映したタブを開く。


「議事録?あ、これか」


神谷はさらに画面に顔を近づけると、鷹野のマウスに手を伸ばして議事録を確認する。


「あ、このあたりですね」


鷹野が該当のやりとりを指で示す。神谷はじっとそれを見ると、同じ箇所を何度か行ったり来たりしながらじっくりと読み込んだ。


「……なるほど。たしかに」


神谷が目を細めて呟く。


「なんか違ったっすか?」


早瀬がモニターの向こうからやってきて、鷹野と神谷の間から画面を覗き込む。


「ここ。お客さんはいい感じに一枚にまとめたいとは言ってるが、画面で確認したいとまでは言ってない。しかも、常時必要な項目ってわけでもなさそう」


早瀬に画面を見せながら、神谷が該当箇所を拡大する。早瀬もまた画面を覗き込みながら「あ、なるほど」と呟く。


「じゃあ項目追加じゃねぇな」


クリアな声がモニターの向こうから飛んでくる。北見が背もたれに身体を預けながら、首をコキコキと鳴らしていた。


「そうだな…これだけ読むと、手書きじゃなくてちゃんと一枚にまとめられればそれでいいって感じに読める。となると…」


「エクセルとかで出せるようにして外で編集。あるいは、画面上で追加編集可能にする、とか」


北見の提案に神谷が頷きながら返す。


「だな。前者の方が実装は楽だが、システム上で記録を残したいなら後者か。ま、どっちにしろちょっと営業に改めて確認した方がよさそうだな」


そう言って、営業にチャットを飛ばそうとしたとき、ちょうどオフィスのドアが開いて元気な声が飛び込んできた。


「たっだいま〜!」


客先訪問を終えた松田と和泉が颯爽と戻ってくる。テンション高く挨拶する松田の後ろから和泉も「ただいま」と微笑む。


「お、いいところに」


「ん?どした?」


松田は神谷の視線に気づくと、デスクの方へ近寄る。神谷が依頼シートを映しながら、自身のPCを見せる。


「こないだもらった依頼シートなんですけどね…」


「うんうん」


議事録を開きながら、神谷は先ほどの経緯を簡単に説明する。


「……ってかんじでして、一応確認したくて」


「え、絶対そうじゃん!それ、もっかいお客さんに確認してもらった方がいい気する。俺から担当の子に言っとくわ」


松田は神谷の説明に膝を打つと、PCから顔を上げながら早口で答えた。


「よろしくっす」


軽く頭を下げる神谷に、松田は頷くと、そのまま奥の営業エリアの方へ足早に向かった。


松田の後ろ姿を見送った後、神谷は北見の方を振り返る。


「ってわけで、北見。一旦これペンドで。営業確認終わったら要件修正して、別途スケジュール調整しよう」


「おけ」


北見が小さく頷く。


「にしても、議事録かー、見てなかったな」


神谷は頭をかきながら、議事録をスクロールする。早瀬も横から画面を覗き込みながらぼやく。


「基本依頼シートしか見ないっすからねぇ、開発側では」


「そこは営業の領域だからな…とはいえ、オーバーな機能実装するとこだった。や、ナイスプレーだわ、鷹野くん」


神谷は頷きながら、鷹野を振り返る。鷹野はその視線を受け止めつつ、顎を引いて控えめに答える。


「い、いえ、僕はべつに何も」


「外部から項目連携するより出力形式増やす方がシンプルだ。影響範囲も小さい」


モニターの向こうから北見が口を挟む。気怠げな体勢とは裏腹な、はっきりとした物言いに鷹野も思わず言葉の続きを飲み込む。


「工数かけて開発して、結果あんま使われないってのが一番しんどいですもんね〜あるあるだけど」


早瀬もまた頭の後ろで手を組みながら、口を挟む。その言葉を引き継ぎながら、神谷も淡々と話す。


「そ、だから今回止められたのはデカい。鷹野くんが議事録まで掘ってくれたおかげだな。マジでありがとう」


「い、いえ、そんな…」


神谷のストレートな感謝に面食らいながら、またも謙遜を述べかける鷹野の後ろから落ち着いた声が降ってくる。


「お客さんに使ってもらえて、かつシンプルが一番イケてるからね。でも意外と難しいんだ、これが」


「和泉さん」


振り返ると、和泉が微笑みながら立っていた。


「営業の先にはお客さんがいる。鷹野くんはそこを拾ってくれたわけだ。ありがとね」


「いや、そんな大したことは…!」


微笑む和泉に半ば恐縮しながら、鷹野は顔の前で手を振る。が、一瞬視線を下げると、ぐっと唇を引き結び、喉まででかかった謙遜を奥へ飲み込んだ。


「……いえ、ありがとうございます。精進いたします」


そう静かに述べると、鷹野は小さく頭を下げた。その様子を見つめながら、和泉も満足したように優しく頷くと、全体に声をかける。


「うん、心強いよ。よし、みんな!ケーキ切ったよ。お客さんからもらったんだ」


「おぉ〜!やったぁ!」


和泉が箱の中で切り分けたケーキを一つずつ紙皿に乗せていく。早瀬は素早く和泉の横に駆け寄ると、満面の笑みでケーキを覗き込んだ。


「キルフェボンですか。いいですね」


ケーキの箱を見ながらつぶやく神谷の奥から、北見が椅子に座ったままいつもの調子で口を挟む。


「甘いもんにはコーヒーだよな。早瀬、とってこい」


「また人を顎で使って!北見さん、たまには動かないとデスクと同化しますよ」


早瀬が北見を振り返って、負けじと言い返す。


「たまに出歩いてるだろ」


「タバコ吸いに行ってるだけでしょ!」


「ふふ…」


2人のいつもの言い合いを見ながら、鷹野は思わず小さく笑う。早瀬はそんな鷹野をめざとく捉えると、揶揄うように笑って言った。


「お、鷹野さん笑いましたね。罰として俺と一緒にコーヒーとってきましょ」


「えぇ?!」


目を丸くする鷹野に早瀬がさらに笑う。その様子にデスクにいた北見はふっと口元を緩めると、のっそりと立ち上がってケーキが載った皿をとった。


◇


(…あ、お米切らしてたかな)


仕事終わりの電車に揺られながら、鷹野はふと自宅の冷蔵庫の中身を思い浮かべる。


(帰りにスーパー寄るか。肉…は、朝冷蔵庫に移しといたし、解凍できてるはず。作り置きが一品あるから、メインだけ簡単に作るかな。野菜あるし、テキトーに野菜炒めとか…)


電車が駅に到着する。車内から吐き出された人々が地上を目指し、大きな塊となって移動する。鷹野もその波に乗りながら、改札を出ると最寄りのスーパーへ向かった。


(えっと、お米と……ん、重いな。あとなんか切らしてるものあったかな……あ、)


米一袋を入れたカゴを手に店内を回ると、お菓子コーナーに見覚えのある商品が置かれているのが目についた。


(このグミ…早瀬さんがおいしいって言ってたやつだ。買ってみようかな)


早瀬が食べていたものと同じ味を手に取り、レジの方へ向かう。列に並んでいるとふと横のレーンに陳列された商品が目に入った。


(……まぁ、たまにはいいよな)


鷹野はよく冷えたそれを棚からひとつ取ると、そのままカゴに入れた。


◇


「ふぅ…やっぱお米は重いな」


米が入ったエコバッグを一度玄関に置く。そのまま洗面所に向かい、手を洗ってシャワー。この一連の流れは暑い時期の鷹野のルーティンとなっていた。


「あ、そうだ…あれだけ冷蔵庫に入れとかないと」


シャワーを出た鷹野は急いで玄関に戻るとエコバッグの中から缶ビールとグミを取り出す。そのままキッチンに直行すると、缶ビールを冷蔵庫に入れ、グミは一瞬悩んだあと、仕事休憩のおやつにしようと、そのまま鞄に突っ込んだ。


「…よし!作るか」


まず米を洗って炊飯器にセット。早炊きコースで大体30分。その間におかずを作り終えられるよう、解凍した肉と野菜を冷蔵庫から取り出し、ざっくりと切っていく。終わったら、油を引いて切った肉を投入。火が通ったら塩胡椒をふって、野菜も追加。味付けは醤油。


(あとは火が通るまで待てばよし。簡単だけど、まぁ上出来だよな。神谷さんの言う通り、自炊してるだけ立派だよ)


鷹野は神谷の言葉に頷く。と、同時に北見の雑な食べ合わせを思い出して少し苦笑した。


(今度余ったおかずとか北見さんに包んであげようかな…さすがにお節介か、手作り苦手な人もいるし。和泉さんは一人でもちゃんと料理してそうだよな。や、実は奥さんとかいたり…?)


そんなことを取り留めなく考えていると、炊飯器がピーッと鳴った。どうやら米が炊けたらしい。野菜炒めもいい感じにしんなりしてきた。鷹野は火を止めると、米をパックに詰めつつ、お茶碗にもよそった。


「いただきます」


手を合わせてそう言うと、皿に盛った野菜炒めから箸をつける。


「ん、うまいな」


目分量だったが、塩加減はいい感じだ。鷹野は満足げに頷きながら、続けて作り置きのおかずを口に運ぶ。こちらも無難においしい。口の中でゆっくりと咀嚼しながら、ほどよく冷えたビールを開ける。プシュッという音を耳で味わいながら、冷えたグラスに注ぐと、そのまま乾いた喉に一気に流し込む。


「…っぷはぁ、うん、たまに飲むとやっぱ美味いな」


鷹野はシュワシュワと泡を立てるビールを見ながら喉を鳴らした。


(あ……写真撮っとこうかな)


食卓に並ぶ皿と茶碗を見ながら鷹野はふと思い立つ。いつもだったら、洗い物を少しでも減らすためにひとつの丼に全部盛ってしまうのだが、今日はなんとなく皿を分けてみた。やはり見た目はこちらの方がいい。丁寧な暮らしといった風な食卓に、鷹野はどこに上げるでもない写真を一枚撮った。


◇


「ごちそうさま」


再び手を合わせてそう言うと、鷹野はきれいに完食された皿を流しに持って行き、水につける。洗うのは寝る前でいいだろう。


「……さて、と」


食後のコーヒーを挿れると、鷹野はいつも通り鞄から手帳を取り出した。机に手帳を広げると、コーヒーをお供に今日の振り返りを開始する。


「えーっと、まず午前だな…」


鷹野はしばらく考えてから、新しいページに少しずつ書き込んでいく。


・今日は、今日の疑問を解消する→一度で完璧にしなくていい

・わからないことは都度聞いていい


(これ、神谷さんよく言うよな…それだけ重要ってことなんだろうな。俺、一人でぐるぐる考えちゃうとこあるし…でも、わからなければ聞いていいんだよな)


鷹野はうなずくと、続けて午後の出来事を振り返る。


(午後も色んなことがあったな…えぇっと、まずは業務の基本から)


・基本の流れは、要件定義→設計→開発→テスト→リリース

・要件は営業からの依頼シートをもとに開発側で技術的に定義する

・営業がお客さんの要望をヒアリングする


(前職もシステム営業だったから、この辺の流れはなんとなくわかる…あとは…)


鷹野は自分の書いた文字を追いながら和泉の言葉を思い出すと、そのままメモに追記した。


・お客さんに使ってもらえて、かつシンプルが一番イケてる


「これだよな…」


鷹野は文章の下に線を引きながら呟く。和泉の『意外と難しいんだ、これが』という言葉が続けて頭に浮かんだ。


(そうなんだよな…お客さんの要望…これを正確に把握するのがなかなか…前職でも…)


頭の中で転がっていく思考を追いながら、鷹野はふと前職の上司に言われた言葉を思い出す。


『PC画面に答えがあんのか?!んなもん見てる暇あったら、1秒でも多く顧客と話してこいよ!!』


『なんだこのゴミみたいな議事録は?!顧客の要望ちゃんと聞き出せてんのか?!』


(……散々言われたよな)


顧客に会って話を聞くこと

顧客の要望を引き出すこと


(間違いじゃなかったんだ…あの時はちゃんと考える余裕なんてなかったけど)


鷹野は椅子にもたれながら天井を見上げる。電球が光る白い天井をぼんやりと眺めながら、今日言われた言葉を思い出した。


『ナイスプレー』

『ありがとね』


「……………」


(……あの時、必死にやってよかった)


鷹野は少し笑うと椅子から背中を離し、机に向き合った。そして、メモにひとつ付け足した。


・無駄に思えることも、案外役に立つ

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