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最強の傭兵、人狼となりて異世界を征く  作者: 観音崎睡蓮
一章 異端の皇女、奴隷となりて傭兵と歩む
4/20

4話 『街へ』

評価&感想をいただけました、ありがとうございます。

今後もよろしくお願いします。

 ゴブリンの襲撃を退けてから数十分後。

 シュウヤは馬車の荷台に腰かけて、水筒の水を口に含んでいた。

 あちらこちらに転がっていたゴブリンの惨殺体はすでに片付けられて跡形もなくなっている。というのも無残に殺された死体を横に休憩するのは気分が悪いからだ。それに死体をそのまま放置しておくと、血の匂いに誘われて他の凶暴な野生動物が寄ってくる可能性もある。

 というわけでシュウヤと御者で協力して、なんとか近くの川まで運んで死体を捨てたのだった。


「すまねえな、襲われたのはこっちの不手際だってのに死体の後片付けまで手伝わせちまって」


 御者が申し訳なさそうに頭を手で撫でながらこちらにやってきて、頭を下げた。

 後ろには澄ました顔で桶に汲まれた水を飲む二頭の馬の姿がある。どうやらシュウヤが休憩している間に、先ほどの襲撃で混乱していた馬を宥めていたようだ。


「いや、大したことじゃないさ。それより頼みがあるんだが……」


「まあ、待てって。まずは名乗らせてくれよ、命の恩人の旦那。俺はトーマスっていうもんだ。見ての通りしがない行商人さ」


 御者、改めてトーマスは自嘲気味に自分の馬車を指差した。

 

「そうか。俺はアリサカ・シュウヤだ。お互いに無事でなによりだな」


 シュウヤも笑顔で彼の自己紹介に答える。


「そうか! アリサカってのか! 変わった名前だな!」


「あ、アリサカは名字だ。名前はシュウヤだ。シュウヤと呼んでくれて構わないよ」


「何にしたって変わった名前じゃねーか! まあ、こまけえこたぁどうでもいいさ。んで、旦那の頼みってのはなんだい?」


「単刀直入に言おう。実は……えーと、道に迷ってだな……近場の街へ行きたいんだが、方角が分からなくて誰かに聞こうと思っていたんだ。そこでちょうどお前の悲鳴が聞こえたもんで、助けに出張ってきた、って感じなんだが……」


 シュウヤは街までの案内をトーマスに頼む。上手い具合に言い訳をでっちあげてだ。

 わざわざ嘘の事情を話すのは、正直にシュウヤの事情を話したところで、トーマスがいきなり信じてくれるとは思えないという理由もあれば、せっかく幸運にも巡り合えた異世界第一住人との縁をここでぶち壊したくないという理由もある。


「つまりは、街まで乗っけてってくれってことかい?」


 どうやらトーマスはシュウヤのその場しのぎの言葉を都合よく解釈してくれたようだ。

 シュウヤは彼の言葉に頷いた。


「ああ、そうしてくれると助かる。ダメなら、街への道を教えてくれるだけでもいいが……」


「心配すんなよ、旦那! そんくらいは容易い御用さ!」


 トーマスが胸を叩いて、快諾してくれた。

 それから自分の馬車を口惜しそうな表情で撫でて、


「どっちにしろ今回の商売はもう御破算さ。ちょうど俺も元の街に引き返そうと思ってたところだよ」


「そうか。なら交渉成立だな」


 シュウヤが握手の手を差し出すと、トーマスも笑顔で握り返してくれるのだった。



   ~~~



「そうかそうか! つまり旦那は今まで山の奥に籠りっきりで、一旗揚げようと山から下りてきたってわけだな!」


「ああ、まあそういうことになるな」


 隣で、トーマスが愉快そうに膝を叩いて笑っている。

 対するシュウヤはというと、トーマスの言葉に合わせながら相槌を先ほどから打ち続けていた。


 今、シュウヤを乗せたトーマスの荷馬車は街道をかなりの速度で走っていた。

 森の景色が次々と後ろに消えていく。馬車を曳く二頭の馬は鼻息を荒げながら、大地を力強く蹴っている。

 道に刻まれた轍や落ちている石ころに車輪が躓く度に伝わってくる衝撃に、すでにシュウヤの尻は悲鳴をあげていた。これは痔になるんじゃないかと本気で心配するレベルだ。異世界生活一日目に痔になるなんてことは勘弁願いたいものだ。

 隣のトーマスはといえば、この揺れにも関わらず、姿勢一つ崩さない。

 慣れというものは恐ろしい。


「初めて山から出て来たってんなら、ゴブリンの群れに突っ込んで見ず知らずの奴を助けちまうほどお人よしなのも合点がいくってもんだぜ。あくどい奴ならゴブリンが俺を殺すのを待ってから、死体から金目のもの全部剥ぎ取っていっただろうよ」


 トーマスが笑えない冗談を笑って言った。

 その言葉に、シュウヤはこの世界の厳しさを垣間見て、思わず真顔になってしまう。

 人を襲うゴブリンのような生物がいる世界だ。女神からこの世界の一応の概要は聞いていたので、最初から優しい世界などとは思ってもいなかったが、今後はもっと身の振り方に気を配る必要がありそうだ。


「そんな怖い顔すんじゃねえよ、旦那! 旦那が助けに来てくれなかったら俺は今頃、ゴブリン共の死体の代わりに川の底だ。旦那の人助けは立派なもんだ! ただ、そういう優しさに付け入る奴らがごまんといる。気を付けるに越したことはねえってことよ!」


「ああ、アドバイスありがとう。今度からは少し注意してみるよ」


 シュウヤが助言に礼を言うと、またトーマスが愉快にしゃがれた笑い声をあげる。

 本当に最初に出会ったのが彼のような性根が座った人物でよかったとシュウヤは思った。


「にしても、山から下りてきて一旗か……なにかやりたいことでもあるのかい、旦那?」


「いや、それがまだ何も決まっていなくてな……正直なところ、俺は世間知らずなもんで、そんな俺でもできる仕事があればいいんだが……」


 シュウヤの街についてからのことを尋ねてくるトーマスに返す言葉は自然と語尾が弱くなる。

 シュウヤはこの世界のことについて、下手をすればその辺りを歩いている子供よりも無知かもしれない。なので、生きていくために何か仕事をするとしても、そのハンデのせいで上手く事が運ばないかもしれないという不安があった。


「そうだなあ……、確かに商売とかは難しいかもしれねえな……まあ、旦那の腕なら冒険者で一旗揚げる! なんてのが一番似合ってるんじゃねえかな?」


 そう言って、トーマスがシュウヤの腰の剣に視線を送る。


「冒険者……? 悪いが、その冒険者ってのは何をする仕事なんだ?」


 初めて聞く単語をトーマスに尋ねてみる。


「冒険者ってのは、簡単に言っちまえば冒険者ギルドとかから依頼を受けて、魔物を倒したり、アイテムを集めたりして金を稼ぐ仕事だな……。上手くやれば億万長者だって狙えるんだぜ」


「うーん、つまりは何でも屋って感じなのか?」


「まあ、違いはねえな。実際に色んな依頼があるわけだからな。旦那は剣の腕も確かだし、一番手っ取り早く稼げるんじゃねえかな。まあ、危険といつも隣り合わせってのが欠点なんだが……」


 俺にはそんな度胸ねえけどな、とトーマスが呟いた。

 冒険者。トーマスの話を聞く限り、確かに今のシュウヤにもっとも合った仕事に思える。要するに、先ほどトーマスを助けたときのように、魔物を倒すことなどによって依頼に応じた報酬がもらえるらしい。

 戦うことは命がけであるため、報酬がいいというのも頷ける話だ。


「なるほど……いいかもしれないな、冒険者。ところで、その冒険者になるにはどうすればいいんだ?」


「どんな規模の街にも必ず一つはある冒険者ギルドっていうところで冒険者としての登録させすれば、一応冒険者は名乗れるぜ? まあ、その後の稼ぎは頑張り次第ってところだな……おお、そうだ。これから行くジュノーの街にもそこそこでかい冒険者ギルドがあるんだ。冒険者になりてえなら、着いたら登録してみるんだな」


「聞いた感じだとずいぶんと簡単そうだな。一応、命を張るような仕事なんだよな? 適性試験とか条件はないのか?」


「ああ、特にねえって聞くな。まあ、この先冒険者に出会えばわかるが、あいつらも俺達商人と同じで上から下までピンキリなのさ。凄腕の剣士もいれば、盗賊崩れのならず者だっている。門戸は広いが、そこから成りあがれるかどうかは実力次第の世界なのさ、冒険者ってのはな」


 要するに冒険者になって成功できるかどうかは自分次第というわけだ。冒険者の世界は完全実力至上主義であるようだ。

 そう考えると不思議とシュウヤの心は熱く湧きたつ。これも記憶にはない前世の自分の心のせいなのだろうか。確かに女神の話では、前世では戦いを生業としていたらしいが……。

 とにかく、冒険者という職業に並々ならない興味と関心を抱いたのは間違いない。


「わざわざ教えてくれて助かる。街に着いたら登録してみるよ」


「そうかそうか! まあ、旦那なら大丈夫だと思うぜ! ゴブリンの群れを蟻みてえに蹴散らしちまうんだもんな!」


 そうしてまた豪快に笑うトーマス。それからふと笑顔に影を落として、


「後悔してもおせえけどよ……こんな事態になるんだったら、俺も冒険者ギルドに商人護衛の依頼を出しておくんだったな。金を渋ったせいで、今回の商売はパーだ」


 トーマスの笑顔の影の理由はどうやら荷物の運搬を諦めたことらしい。

 確かに行商人にとって商品を抱えて移動することこそが生命線とも言える。彼の言葉から察するに、通常は護衛の依頼を出しているのだろう。詳しい事情は知らないが、今回は護衛を付けなかったようだ。それが彼の後悔の原因なのだろう。


「どうして今日は護衛を付けなかったんだ?」


 シュウヤは単純な疑問を投げかけてみた。


「今日はっていうか……今日に限っては、だな。俺みたいなしがない行商人は普段は護衛なんざ付けねえよ。そんなことしたら、どれだけ商売したって赤字になっちまう。ただな、今回ばかりは積荷が積荷だったからよお」


 トーマスは苛立ちを隠せぬようで、いつもより強く馬の尻を鞭で叩いた。

 それから馬車の荷台を口惜しげに、そして恨めしげに見つめる。


「そういえば何を積んでいるんだ? さっき荷台に座ってたときは甘い匂いがしたんで、果物か何かだと思ったんだが……」


「見たけりゃ見てもいいぜ。よかったら手土産に一つやるよ」


 この荷馬車は御者席と荷台を隔てる木の板の部分に小さな両開きの扉が付いている。

 トーマスはその扉を開けると、中に山の用に積まれた木箱の一つを手探りでまさぐると、中の積荷を一つ、シュウヤに手渡した。

 それは濃いワインレッドの液体が詰まった小瓶だった。

 コルクの栓を開けると、思わず頭がクラクラほど強くて甘ったるい香りが流れ出してきた。


「これはなんなんだ? 飲み物か?」


「ハズレだ。正解は香水だ。これから行くジュノーの街は、この香水の原料になるシャルレーゼっていう花の名産地でな。ジュノーでこいつを大量に安く仕入れて、他の街で上流階級のご婦人方に売りさばいてひと儲け……ってのが狙いだったんだけどな」


「それで、この香水と護衛の件はどういう関係が?」


 シュウヤが尋ねると、トーマスは香水の匂いに顔をしかめながら答えた。


「この香水は嗅げばわかるように匂いが強い。だからご婦人方に人気なわけだが……こいつにはちょっとばかし困った特性があってな。その特性ってのがな、こいつの匂いで亜人共の鼻が刺激されちまうっていうもんなんだ……しかも亜人共は鼻が効くからな、少量でも寄ってきちまう」


 だからこいつの運搬には匂いに釣られた亜人共を追い払う護衛が必要ってわけだ、そうトーマスは付け加えた。


「どうだ? 厄介な商品だが、こいつは高級品だぞ? 一本持ってくか?」


「ご婦人方に人気な香水なんて俺が持ってて役に立つのか?」


「まあ気に入った酒場の姉ちゃんに渡してやれば飲み代くらいはマケてくれるかもな!」


「……途轍もなくどうでもいい使い道だな……まあ、ご厚意に甘えて一本もらっておくよ」


 正直なところ持っていても仕方がない代物だとは思うが……、もしかしたら使い道があるかもしれない。

 邪魔になったら売りさばくか、もしくは捨ててもいいわけなので、シュウヤは素直に受け取っておくことにした。一応、割れ物なのでポーチの中で割れないようになるべく奥の真ん中の方にしまいこんでおく。

 瓶が割れて、ポーチが甘ったるくなるのは御免だ。


 ポーチの入り口を閉じて、シュウヤが顔をあげると景色に変化があった。

 どうやら森を抜けたようだ。永遠に続くかに思われた林道の景色が晴れ、今目の前には青々とした草原ときちんと区画整理された畑が広がっていた。

 そしてその景色の更に先。そこには白い壁で周囲を囲まれた、大きな街が見えた。


「さあ、旦那! いよいよジュノーの街に到着だぜ! 尻はもうちょいの辛抱だ!」


「ああ、俺の尻が使い物にならなくなる前に、さっさと街に辿りついてくれよ!」


 トーマスの冗談に、シュウヤも冗談を返してやりながら、再び目の前に現れた街へと目を向ける。

 この世界に来てから初めてみる人里に、シュウヤの心臓は自ずとその鼓動を速めていた。


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