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最強の傭兵、人狼となりて異世界を征く  作者: 観音崎睡蓮
一章 異端の皇女、奴隷となりて傭兵と歩む
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3話 『ゴブリン襲撃』

ブクマありがとうございます。

よろしければ引き続きお楽しみください。

 女神が街からそう遠くない場所に転送してくれたというのはどうやら本当のようで、森の中をしばらく歩くと、ある程度整備された街道に出ることができた。

 整備とは言っても、土の地面を通行の不自由がない程度に均してあるだけだが、恐らく主要な街道のようで道幅はかなり広く、車輪の跡がいくつも残っている。

 どうやらこの道なりに進んでいけば街に辿りつくことはできそうだ。


 しかし問題は……、


「いったいどっちに行けばいいのかって話なんだよな」


 轍をいくら眺めたところで方向はわからないし、親切な標識も立っていないので、いったいどっちに向かえば最寄の街に着くのか見当がつかない。


「あの女神は街からそう遠くないと言っていたな。ということは、方向を間違えたら果てしなく歩かされるんじゃないか?」


 この世界の人口規模はよくわからないが、女神からの説明によればそれほど多くはないらしい。

 ということは、大きな街の数も少なく、街から街の間の距離はかなり離れているということは想像に難くない。

 なので道を間違えると、最寄りの街ではなく遥か遠くの街まで延々と歩かされることになるのだ。それは避けたいところだ。


「勘で進むか、人が通るのを待つか……」


 シュウヤは近くに転がっていた木の枝を手に取ると、おもむろに地面に垂直に刺してみる。

 古典的な方法だが、倒れた方向に向かってみるというものだ。ただ木の枝が指す方向が正しいという根拠は何もないので外れたら悲惨なことになるのだが。


 もしくは通行人が現れるまで待って街の方角を聞くという案もある。こちらは確実な方法だが、そもそも人が少ないこの世界でいつ次の通行人が現れるのかという不確実性もある。

 ただ道の様子から推測するに、ある程度の人の往来はあるようなので何日も人が通らないということは考えにくいが……。


「どっちも不確実だな。まあ、結果として確実な方を選ぶか」


 シュウヤは街道沿いの木の幹に背中を預け、辺りを見回す。

 なるべく早く通行人が現れることを祈りながら、空を見上げるていると……。


「うわああああ!? だ、誰か! 助けてくれ!!」


 長閑な朝の森に男の悲鳴が響き渡った。その後に驚いた馬の嘶きが続く。

 突然の事態にシュウヤは思わず身をかがめて、姿勢を低くした。前世の経験を身体が覚えているとはこういうことなのだろうか。

 改めて自分の危機に対する直感能力が人並みではないことを自覚する。

 更に、続けて幾つもの呻き声のようなものが聞こえてきた。

 

「これは……誰かが襲われてるな」


 シュウヤは物音をたてないように、気配を消しながら騒ぎの方へと向かう。

 森の中をくねくねと蛇行しながら走る街道を駆け抜けていくと、現場が見えてきた。

 どうやら襲われているのは馬車のようだ。二頭の馬が引く大型の馬車と御者一人。見たところ行商人か何かだろうか。

 御者は顔を恐怖でひきつらせ、怯えて暴れる馬を必死に宥めていた。


「なんだあれは……」


 呟きながら、シュウヤは顔を顰めた。

 その原因は馬車を取り囲む襲撃者の一団だ。

 緑色の肌に醜悪な相貌を持つ小柄な襲撃者の一団。それはシュウヤの知識の中には存在しない生物だった。


『種族名:ゴブリン 等級:E

 説明:社会性を持つ亜人の一種。一体一体の危険度は低いが、群れで行動することが多く、腕に自信の無い者は群れとの戦闘を避けた方がいい』


 シュウヤの頭の中に目の前の襲撃者の情報が流れ込んできた。

 どうやら鑑識眼が無意識に機能したらしい。

 亜人というのがどういった種族を指すのかは不明だが、どうやら人に準じた生物のようだ。目の前の奴らからは人の理性などは微塵も感じられないが。


 観察していると、一部のゴブリン達が馬車の後に手をかけて乗り込もうとし始めた。また、別の一団は暴れる馬を手に持った棍棒やナイフなどでどうにか黙らせようとしているらしい。


(……どうするか)


 相手は未知の敵だ。

 具体的な脅威がわからない以上、不用意な戦闘は避けたいところだが、鑑識眼によればそれほどの危険度はないらしい。


(情けは人の為ならず、だっけか? 女神とやら)


 シュウヤは女神が手紙の最後に記した言葉を思い出した。

 もし女神がこの状況を想定して、あの言葉をシュウヤに送ってくれたのだとすれば……取るべき行動はただ一つだ。

 それに加えて、今ここで彼を助ければ、街までの道のりが聞けるかもしれない。運が良ければ、馬車で街まで乗せていってくれる可能性だってある。

 答えは決まった。


「数は……十五。いけるな」


 そうと決まれば、行動は早いに越したことはない。

 意を決し、シュウヤは音もなくゴブリンの集団に向かって駆ける。

 ゴブリン達は十五匹の集団を三つに分けている。一つは馬を狙って武器を構える五匹。もう一つは馬車に乗り込んで御者を抑えようという五匹。そして最後は馬車を取り囲む五匹の集団だ。

 どうやら連携を取る脳ぐらいはあるらしい。

 しかし、


「それが奇襲に対しても有効かどうかは別の話だがな!」


 シュウヤは馬を取り囲む五匹に最初の狙いを付ける。

 目的が救出である以上、もっとも危険度が高い標的を最優先で排除する必要がある。今回の場合、馬がやられると馬車が転倒し、御者の安全が損なわれる危険性がある。

 そのため、最初に排除すべきは馬を襲う五匹に定めた。


「女神からの贈り物、さっそくだが使ってみるか……『人狼の呪い』!」


 『人狼の呪い』を発動させた瞬間、全身が大きく深く鼓動を打った。全身の血液が熱を帯び、視界が一瞬だけ深紅に染まる。

 そして、周囲のすべてが停滞を始める。否、シュウヤの速度、動体視力が上がり、周囲が停滞して見えるのだ。


 距離はあっという間に詰まる。もはやあと一呼吸。


「まず一匹!」


 棍棒を握りしめ、こちらに背を向けていたゴブリンに飛びかかると同時に、シュウヤは朧月夜を抜き放ち、首元に一閃。

 確かな手応え。どこか懐かしい感触だ。


「次だ」


 倒れたかどうかを確認する必要はない。手応えだけで十分だ。

 続いて、両脇にいたゴブリン二匹に狙いをつけ、まず利き手である右側にいたゴブリンを、最初の一匹を始末した勢いのまま、袈裟切りにする。そしてその反動を活かして、身体を回転。左側のゴブリンの頸動脈を綺麗に切断してやる。


「あと二匹!」


 ワンテンポ遅れて舞い上がった血飛沫の中、シュウヤは倒したゴブリンの手から離れたナイフを空中でつかみ取り、もう一匹の頭蓋目掛けて投擲する。人狼の力で以て射出されたナイフは弾丸のように空気を切り裂き、ゴブリンの額に突き刺さると……そのまま貫通していった。

 哀れなゴブリンを後ろ目に、シュウヤは間髪入れずに地面を蹴る。そして残る一匹の首を綺麗に刎ねた。


「とりあえず奇襲は成功ってところか」


 命を刈り取られた五つの身体が大地に伏す。

 恐らく、何が起きたかも理解できなかったはずだ。


「うわあああ!? なんだお前は!!」


 突然の闖入者に驚いたのか、御者が情けない声を後ろで上げている。

 そんな御者にシュウヤは刀の切っ先を向けて、短く呟く。


「細かい話は後だ。今はこいつらの排除を優先する」


 シュウヤは刀を軽く振るって血糊を払い、残る敵の様子を確認する。

 ようやく事態を把握したらしい馬車を取り囲んでいた五匹のゴブリンはシュウヤから距離を置き、出方を窺っているようだ。

 馬車に乗り込もうとしていたゴブリンはと言うと、みっともなく馬車から転げ落ちて、地べたを這いずりまわっている。


「一応、聞いておく。今すぐ尻尾を巻いて逃げろ。そうすれば命だけは助けよう」


 前世では戦いを生業としてきたシュウヤだが、別に戦闘狂であったわけではないはずだ。

 事実、ここでゴブリン共がさっさと逃走を選んでくれるなら、戦う手間も省けるのだし、面倒を避けるに越したことはない。


「グルゥ! ガァアア!!」


 しかし、どうやら彼らに人間の言葉は通じないようだ。

 唾を吐き散らしながら、瞳を怒りに染め、こちらに唸り声を送ってくる。


「……それなら仕方がない。恨むなら自分たちの運の無さを恨めよ」


「ガアアアア!!」


 言葉は通じずとも、シュウヤの言葉に含まれる憐憫を悟ったのか、考えもなしに突撃してくるゴブリン。

 しかし、これは失策といえる。

 四方を取り囲んで一斉に攻撃を仕掛けてくるなら、奇襲に対応するだけの脳があると判断できたのだが……これでは各個撃破してくれて言っているようなものだ。

 所詮は動物ということか。


 シュウヤは刀を再び構え、棍棒を振り上げた先頭のゴブリンの首を棍棒ごと刎ねた。


「抜群の切れ味だな」


 次に短剣を構えた奴と粗末な木の槍を携えた二匹のゴブリン。

 刀よりもリーチが長い槍は厄介な代物だが、それは相手が熟練の遣い手であるならばの話だ。

 まず短剣を構えたゴブリンを刀刃が届く範囲まで引き寄せ、胴体を両断してやる。間髪いれずに突進してきたゴブリンの槍をかわし、逆に柄を掴んで引きずり寄せてやる。


「!?」


 突然槍を掴まれてバランスを崩したゴブリンは醜い顔に驚愕を浮かべるが、時はすでに遅い。

 そのゴブリンが最後に見たのは迫りくる銀色に鋭い何かだっただろう。


「さて、あと二匹か」


 頭をきっちり二等分されたゴブリンの手から槍をもぎ取ると、シュウヤは徐にそれを投げる。人狼の力で投げられた槍はもはやバリスタといっても過言ではない。

 あっけなく貫かれた一匹のゴブリンはそのまま背後にいる五匹のゴブリンの一団に突っ込んで、動かなくなった。


「これでお終いだ」


 最後のゴブリンを朧月夜の一閃で土に還してやる。

 残された五匹はというと武器を放り投げ、一目散に森の中へと走り去っていくところだった。


「最初からそうするべきだったな」


 もうゴブリン共に戦闘の意思がないことを確認してから、シュウヤは血糊を払い、納刀した。

 振り返ると、呆気にとられた御者の顔がある。


「さあ、掃除は終わりだ。安心しろ」


「あ、あんた一体なにもんなんだよ……あんだけのゴブリンをあっという間に倒しちまうなんて……」


 ……どうやらこの世界において群れのゴブリンを軽く蹴散らしてしまうのは普通とは言えないらしい。

 少しやりすぎたかとシュウヤは思ったが、助けなくてもよかったところをわざわざ出張って助けたのだから怖がられる道理はない。


「あー、俺は通りすがりの旅人だ。それよりも、怪我はないか?」


「あ、ああ、こっちは大丈夫だが、あんたその邪悪な気配は何なんだ?」


 邪悪な気配、そう言われて一瞬なんのことだか分らなかったシュウヤだが、一拍置いて、自分が今使用している『人狼の呪い』が原因だという可能性に思い当たった。


「すまない。これでもう大丈夫か?」


 『人狼の呪い』の解除を念じ、害意はないと示すために両手を挙げてひらひらと振ってみせる。相手の緊張をほぐすための笑顔もおまけで付けてみる。


「ああ……こっちこそすまねえ。驚いちまって……せっかく助けてもらったのにな」


 それが功を奏したのか、御者もぎこちない笑顔をこちらに向けてきた。

 とりあえず、一安心といったところか。


技能スキル:『人狼の呪い』 Lv5』


 肩の力を抜いたところで、いきなり頭の中に鑑識眼の情報が流れ込んできた。

 どうやら『人狼の呪い』を使用して戦闘をしたことによって、技能スキルのLvが上がったようだ。先ほど確認したLvについての情報が正しければ、『人狼の呪い』の効果は更に上がるはずである。


「おい! 旦那、どうしたよ! いきなり黙り込んじまって……」


「あ、ああ、すまない。ちょっと考え事をだな」


 技能スキルとLvについてのことを頭から追い払い、シュウヤは御者に向き直った。


「お前を助けたのはだな、ちょっとした頼みたいことがあったからだ。助けた対価に頼みを聞いてくれなんて言うのは図々しいかもしれないが……いいか?」


「当たり前よ! 俺にできることなんざ大したことはねえが、命の恩人の頼みってんなら断れねえ。なんでもいってくれ、旦那!」


 御者の男は胸を叩いて、そう宣言する。頼もしい限りだ。

 どうやら”情けは人の為ならず”というのは、本当のことだったらしい。

 シュウヤは心の中で、女神にささやかなお礼を述べるのであった。

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