1-02:登録試験
「ギルドマスター……」
「おい、マジかよ。ギルドマスターが新人に興味を持つなんて、何年ぶりだ?」
げ、出てきたのはよりによってギルドマスター、最高責任者かよ。責任者がゴーサインを出しちゃったら、もう誰にも止められないだろうな。ってか、あのオッサン、アゴがめっちゃ出てるな。元の世界にあんな顔のプロレスラーがいたっけ。
「小僧、そこにいるライオネルはDランクの冒険者だ。普通の新人では間違いなく勝ち目はないが、お前さんは勝てるかどうかはともかく、いい試合をしてくれそうだ。まだ、正式な冒険者ギルド会員ではないが、その実力は本物。よって、仮登録のギルド会員として、ギルドマスターたるこのワシ、イーノック=アントニーから緊急の指名依頼を出す。依頼内容は、もちろんそこにいるライオネルとの模擬戦。報酬は、勝利時に特例でEランクへの昇格だ。敗北の場合は、通常通りFランクからの登録。受けてくれるな?」
ふむ、ギルドマスターの名前、イーノック=アントニーって、そんなとこまで似てんのかよ!? ……まあ、いいか。勝利すればいきなりEランクに昇格なら、やってみてもいいかもな。
「わかりました、やりましょう」
俺は頷きを返し、再び模擬剣を構える。
「この修練場は冒険者が暴れても簡単には壊れないよう、頑丈に作ってありますので、思う存分戦ってください。では、はじめっ!」
「期待の新人の実力を確かめるなんて大役を仰せつかったわけだけど、僕にだってDランクとしてのプライドがあるからね。一撃で決めさせてもらうよ。土弾!」
開始直後、ライオネルが口上とともに素早く魔力を練り上げ、固めた土の弾丸を放ってきた。その数3発。偏差射撃、って言うんだったか、正面、それと左右どっちに動いても直撃は避けられない上に、かなり速い。だったら、イチかバチか叩き落す!
「はぁっ!」
正面から迫る弾丸に対して一歩踏み込むと、気合一閃、全力で振り下ろしを放つ。
ガキン!
木製の模擬剣と魔法が正面から激突し、鍔迫り合いのようになったが、それは一瞬だけだった。俺が先ほどのハリー戦同様に力を逸らして受け流し、いなしたからだ。キレイに受け流したことで模擬剣もヒビひとつ無い。そのままの勢いをもって、ライオネルに突撃する。ここで時間を与えれば、今度こそ防ぎきれないような攻撃が来るに違いない。ならば、この一瞬に懸ける!
「くっ、アース――」
ライオネルが何か魔法を放とうとするが、遅い。袈裟懸けに振り下ろした模擬剣が、ライオネルの左肩を捉える。
「ぐうっ!」
打撃が決まったことでライオネルの集中が途切れ、魔法は不発に終わっただけでなく、痛みからか右手に持っていた杖を取り落としてしまい、カラン、という乾いた音が響いた。
「勝者、トーマさん!」
受付のお姉さんが決着を宣言すると、修練場がどよめいた。
「すげえな、あの新人。Dランクのライオネルに勝っちまったぞ」
「いや、それはそれですげえが、アイツ、ライオネルの攻撃魔法をただの木製の模擬剣で正面から叩き落としやがった。そっちのがすげえよ」
「見事だ。約束どおり、Eランクからの登録を認めよう。ところで、どうだ? まだやれるなら、このギルドにはCランクの者がいる。そいつと戦い、勝てたならいきなりDランクに昇格させてやるが……」
おいおい、まだやらせる気かよ。さすがにキツイぞ。
「いいえ、もう十分です。いずれ模擬戦をする機会はあるかもしれませんが、それは今じゃない。正直言って、今のライオネルさんだって薄氷を踏むような勝利だったんですから。今の俺がCランクの方に挑んだところで、秒殺されるのが関の山ですよ」
さすがに「いつやるの? 今でしょ!」のネタを知ってるはずはないが、ネタとか関係ナシにしても言われるのを防ぐため、そんな風に言っておく。
「そうか、まあ良いだろう。では、これにて戦闘テストを終了するとしよう。ベラ、残りの手続きを進めてやれ」
「はい、わかりました」
イーノックのオッサンは受付のお姉さん――ベラさんにそう指示を出すと、修練場から去っていった。ベラさんと俺もそれに続くように修練場を出る。出る直前にふと振り返ってみると、ハリーはまだ昏倒したままだったが、ライオネルはもともと気絶まで行ってなかったのもあり、すでに立ち上がっていた。おそらく、回復魔法は使えないのだろう。叩いた左肩がまだ痛そうだ。そもそも必要もないのに向こうからやりたいと言い出したんだ。やらなければ俺がやられていた以上、やりすぎたとは思わないけどな。
「それでは、こちらがトーマさんのギルドカードになります。特殊な加工をしているので、ギルドの受付カウンターの中に設置してある装置と本人以外には情報が読み取れないようになっています」
再びホールに戻ってきた後、俺はベラさんから銀色に輝くカードを受け取った。俺が手に持ってみると、名前、年齢、冒険者ランクがホログラムのように浮き出てきた。試しにいったんベラさんに渡してみると、ホログラムは消え、ただの銀色のカードにしか見えなくなった。なるほど、異世界の技術すげえな。
「このように特殊な加工をしているので、いかなる理由があれども、紛失されると30万ゴルド、破損してしまうと10万ゴルドの手数料をいただかないと再発行はできませんので、あらかじめ承知しておいてくださいね」
うわ、失くしたら30万ゴルドか。絶対失くさないようにしないとな。
「では、これで登録手続きは完了ですが、他には何かありますか?」
「そうだな、俺は今日この街に来たばかりで、武具屋とか宿のことを何も知らないんだが、店はどこら辺にあるんだ?」
これから冒険者として活動するわけだが、何にしても、まずは防具を手に入れなくては。それと拠点になる宿もね。
「武具屋はこのギルドのすぐ隣にあります。ギルドと提携しているので、ギルドカードを見せれば、割引が利くようになります。宿については、10軒ある宿の全てがギルドと提携していますが、そのうち規模が大きく、比較的部屋が取りやすいのは2軒。ひとつは武具屋の隣にある銀盆亭。値段は1泊あたり夕食と朝食がついて、3000ゴルド。もうひとつは街の中心付近にある、竜頭亭。こちらは1泊朝食つきで、2400ゴルドですね」
「なるほど、わかった。早速行ってみるよ。ありがとう」
ベラさんに礼を言って、ギルドを後にする。
確かに、すぐ隣には剣や盾を模した看板がかかっている店があった。
「いらっしゃーい」
入ってみると、カウンターにいた女性が声をかけてきた。ずいぶん小柄だが、貫禄めいたものを感じる。
店はかなり繁盛しているようで、多くの冒険者が展示されている武具を眺めていた。さて、革鎧はどこだ?
「あんた、防具を買うのは初めてかい?」
その声に振り返ると、さっきまでカウンターにいた女性が立っていた。
「ああ、あたしはイザベル。ここの店員だよ」
「俺はトーマだ。初めての防具として、革鎧を買おうと思っているんだが、見繕ってもらえるか?」
「ふむ、ちょいと失礼するよ」
イザベルさんはそう言うと、俺の身体をペタペタと触っていく。体格に差があってやりづらそうだったので、少ししゃがんであげた。
「そうだね、あんたの体型なら、このあたりかね。籠手や膝当てとかはどんなのがいい?」
「俺は剣だけじゃなく格闘や魔法もやるから、それに合ったものが欲しいな。そういう希望を取り入れると、だいたいどのくらいの値段になる?」
「んー、格闘もやるとなると、膝や肘、拳を鋲で強化したものがいいだろうね。ブーツも足先を鉄で補強したものにするとなると、ギルドカードで割引しても一式で9万ゴルドってところかな。魔法はあまり防具とは関係しないけど、別で集束具っていう道具が必要になるよ。でも、その様子だと持ってないみたいだね。ちょっと待ってな」
なるほど、9万ゴルドか。決して安い買い物ではないんだろう。それにしても、集束具ってなんだ?
「コレがうちにある一番安い集束具。試しに使ってみるかい?」
イザベルさんは店の奥から細い棒のようなものを持って戻ってきた。これが集束具か。見た目はオーケストラとかで指揮者が持つ指揮棒みたいで、武器としてはとても頼りない印象だ。
それを借りて、店の窓から空に向けて風弾を放ってみる。なるほど、確かに違うな。何もないと拡散しがちな魔力が、集束具を持つとその名のとおりに集められるような感じがする。おそらくだけど、多少は消費される魔力を軽減してくれるような気がする。端的に言えば、魔法使いの杖ってやつみたいだな。
「いいな、これ。武器と一体化してるのとかって無い?」
「あるにはあるけど、結構高いよ? 例えば剣だと、安くても7万ゴルドくらいは……ん? どうしたんだい、あんた」
イザベルさんと武器の値段の話をしていると、店の奥から突然もうひとり、ずんぐりした影が現れた。この2人の年代はおそらく俺の親父やお袋とさほど変わらないだろう。それでいて、この体格となると、ドワーフなのかな?
「剣も格闘も魔法も実戦レベルで使いこなす器用な新人が現れた、っていう連絡をギルドから受けたんだが、お前のことだな?」
「ああ、たぶんそうだろうな」
「やはり、そうか。それで、話は聞かせてもらったが、武器と一体化した集束具が欲しいんだな? だったら、この前たまたま作ってみた試作品だが、格闘用のグローブに集束具の機能を持たせる加工をしたから、これを使ってみろ。半ばお遊びで作った試作品だから金はいらない。その代わり、使い心地とかを確かめて俺のところに報告に来い。必要に応じて改造してやる。もちろん、改造するときにはいくらか代金をいただくがな」
どうやらずんぐりした影は、この店の主人らしい。主人はニヤリと笑って俺にグローブを手渡してきた。受け取ったグローブの背、手の甲の部分には宝石のようなきれいな石がはめ込まれている。聞いてみると、この石は魔宝石というもので、色によって異なる属性を持つらしい。もらったグローブには白い宝石がはめ込まれている。この色は火水風土の4属性に、光と闇を合わせた6つの属性全てを内包した、とても希少性の高いものらしい。そんなものを試作品に組み込めるなんて、この主人、太っ腹すぎる。いや、遊びでそんな希少品使うなんて、ただのバカの可能性もあるのか? まあ、使いこなせるかどうかは俺次第だろう。
「わかった。タダで良さそうなものを提供してもらったからな。実験台でもなんでも、やらせてもらおう。じゃあ、その革鎧一式で精算してくれ。9万ゴルドだったな?」
試作品とはいえ、集束具としての機能をわざわざつけてもらったんだ、断る理由がない。グローブ――店主命名・マジックナックルを手にはめ、先ほど選んでもらった革鎧一式を購入し、武具屋を出る。
お読みいただき、ありがとうございます。
次回……1-03:生活基盤を整えよう
本日(11/2) 15:00 予約更新をセットしておきます。




