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1-01:あの街を目指して[キャラクターステータス付]

 スキルの習得を終えたので、街へ向かうためにショートソードを鞘に納めてベルトに固定し、丘を下りて街のほうへ歩き出す。

 数分もしないうちに、目の前にウサギのような動物が現れた。大まかな見た目はウサギなのだが、大きさがおかしい。元の世界でペットとして飼われているような可愛らしいサイズではない。俺の腰の高さくらいはある。

 そして何より、頭に凶悪そうなツノが生えている。

 どう見てもこれ、普通の動物じゃないよな。こっち見て唸ってるし。あ、口の中にキバがある。

「くっ!」

 そんなことを考えていたら、問答無用とばかりに頭のツノをこちらに向けて突っ込んできた。

 ギリギリでかわしたが、ウサギもどきはすぐに方向転換し、再度俺に狙いを定める。

 やっぱり魔物だよな、これ。鋭いツノにキバまであり、攻撃してきた以上否定する要素がどこにもない。

 とりあえず、ツノが一本生えたウサギだから、一角ウサギ(仮)とでもしておこう。昔遊んだゲームにそんな名前の魔物がいたような気もする。

「うおっ!?」

 そんな風に思考が横にそれていたら、ウサギの突撃をかわしきれなかった。

 ツノがかすっただけだが、地味に痛い。その痛みが、これがゲームなんかではない、現実だと再認識させてくれる。戦わなくては、やられるだけだ。

 こいつは動物とは違う、魔物なんだ。戦って倒さなければ、いずれ被害は俺だけじゃ済まなくなる。――敵の命を奪うことを、躊躇うな。

 自然と、ショートソードを握る右手に、力がこもる。

「行くぞっ!」

 決意を込めて短く吐いた言葉に呼応して、ウサギが三度目の突進を仕掛けてくる。

 いつまでも受身でいると思うな。こっちからも距離を詰めてやる。

 一歩踏み出すと同時にウサギが剣の間合いに入ったので、身体をひねって突進をかわしつつ、すれ違いざまにウサギの頭を斬りつける。一撃与えたことで、見るからに動きが鈍った。チャンスだ。素早くウサギの背後に回りこむと、首筋に剣を突きたてる。どす黒い血液がドッとあふれ出し、ウサギは動かなくなった。剣を抜き、振って血糊を払うと、死体をインベントリに収納した。やっぱこういうのっていろいろと素材として買い取ってもらえるのかね。

 その後も、少し歩くたびに魔物に襲われ、一角ウサギ(仮)を最初のも合わせて4頭、イノシシそっくりな魔物を2頭、さらにシカっぽい魔物も1頭仕留め、レベルが上がった。


【名前】トーマ=サンフィールド

【Lv.】2

【SP】11

【HP】104(69)  【MP】222 

【STR】59(39) 【VIT】52(35)

【AGI】47(31) 【DEX】16

【MAG】111 【LUK】16

【スキル】剣術2 格闘1 水魔法1 風魔法1 回復魔法1 身体強化1 料理1

【補足】HP・STR・VIT・AGI 各50%上昇


 ふむ、身体強化のスキルのおかげで伸び方としては悪くないのかな。DEXは身体強化のスキルじゃ強化できないみたいだし、何か他のスキルを上げれば付随的に上がる、そんなスキルでもあるんだろうか。MAGは元から高いから伸び率も良いな。スキルポイントはさっき3ポイント余らせておいたから、今回は8ポイントか。多いほうなのかな? 使い道は街について、落ち着いたら考えよう。名前がやっぱり恥ずかしいが、気にしなければいいんだ、きっと。


 そんなことを考えていると、街が見えてきた。



 ☆ ☆ ☆



 一方、デビルロード帝国を脱出したリーファは山を下り、目的地であるノーランド王国への潜入を果たしていた。デビルロード帝国とノーランド王国をはじめとする麓の国々には国交は無いので国境は山の中腹付近、ということになっている。国境に検問は無いが、あらかじめ人間形態に化けておいたことが幸いし、偶然遭遇した訓練中の兵士に怪しまれて問い質されても切り抜けることができた。また、その際に、リーフィアという偽名を名乗ることに決めた。

 魔族が本気で擬態したら、現在の人間の技術では見破ることはほぼ不可能なのだ。ただし、これには欠点もある。

「ぜえ……はあ……人間ヒューマンって、なんて弱っちいのよ……」

 なまじ完璧な擬態をする分、身体能力まで普通の人間ヒューマン並みに下がってしまうのだ。魔族として、リーフィアも本来ならば少々のことでは疲れたりしない強靭な肉体を持っているのだが、この能力低下にはなかなか慣れることができずにボヤキ節が漏れている。

 それでも、何度も小休憩を挟みながら、創暦1763年6月12日、リーフィアは最終目的地、シトアの街に到着した。


 ☆ ☆ ☆


 街の門には衛兵のような格好をした数人の男たちが居て、街に入ろうとする者をチェックしていた。

「次、身分証を見せろ」

「済まないが、田舎から出てきたばかりで身分証を持っていないんだ」

 正直に話す。さすがにこれから世話になる予定の街でいきなり騒ぎを起こすわけにはいかないからだ。

「なんだ、持ってないのか? じゃあ短期滞在用の証明書を発行してやるから、こっちに来い」

 衛兵は少し面倒臭そうに息を吐くと、衛兵の詰め所を兼ねていると思われる、石造りの建物に俺を案内した。

 二階建てになっていた建物の一階が事務所のようになっているらしく、そこには割としっかりした造りのテーブルと、イスが二脚。テーブルの上には何に使うのかよくわからないが、石版のようなものが置いてある。

「じゃあ、そこに座れ。手数料は2000ゴルドだ。持っていなければ、所持品で代納しても構わない」

「わかった」

 俺はイスに座ると、懐から出すようにして1枚が100ゴルドになる銅貨を20枚取り出し、テーブルに置く。

「うむ、確かに受け取った。では、名前は?」

「トーマ=サンフィールド、だ……」

「あまりこの辺りでは聞かない語感だな。出身はどこだ?」

「ニッポニア、という遠い村だ。村自体小さいし、この国じゃないから、聞いたことはないだろうな」

 ニホン、とは言わずに、あえてヒネってみる。それにしても、ニッポニアってなんだったっけ。ああ、トキの学名だ。確か、ニッポニア・ニッポンとか言ったっけな。まあ、今はどうでもいいな。

「うーむ、確かに聞いたこともない地名だ。まあいい、殺人や盗みなどの犯罪歴は無いな?」

「ああ、無いよ」

「よろしい。では、最後にこの石版に手のひらをつけて、その旨を宣言してくれ」

「わかった。『俺には殺人や盗みなどの犯罪歴は無い』」

 言われたとおりにすると、石版がわずかに白い光を放った。それを見た衛兵が、小さなカードに何かを書き込んだ。あの石版はウソ発見器みたいな機能を持ってるのかな。

「これで手続きは完了だ。そのカードが仮の身分証明書になる。有効期間は今日から5日間。カードに、5つの紋章が刻まれているのはわかるな? これは1日ごとに、カードに刻まれた紋章が1つずつ消えて行き、5日の有効期限が切れるとただの真っ白なカードにしか見えなくなる。期限を延長するなら、またここへ来るか、街の中にある役所で手続きをしてくれ。延長の手数料は1500ゴルド、期限切れの罰金は1万ゴルドだ。罰金を払えないと、奴隷に落とされるから気をつけろ」

 不法滞在は罰金を払えないと奴隷に落ちるのか、まあ、治安を守るためなら仕方ないんだろうな。

 けどまぁ、俺には関係ないな。不法滞在なんてするつもりないし。

「ありがとう。しばらく滞在する予定なんだが、正式な身分証はどこへ行けば発行してもらえるんだ?」

「そうだな、ここに定住するなら役所で市民カードを発行してもらうとか、あるいは冒険者ギルドや商人・職人ギルドに登録するのが手っ取り早いだろうな。兄ちゃんは商人や職人には見えねえし、冒険者ギルドに行くのがいいだろうな。街の門をくぐったら、最初の十字路を右に曲がって、後はまっすぐ突き当たりだ」

 なるほど、わかりやすくていいな。

「ありがとう、いろいろと助かった。早速行ってみるよ」

「ああ、ようこそ、シトアの街へ」

 衛兵は軽く手を挙げて門をくぐっていく俺の礼に応えると、また門のところでの仕事に戻った。

「さーて、とりあえず冒険者ギルドに行くとするか」


 ☆ ☆ ☆


「では、登録の最後に戦闘テストを行いますので、奥にある修練場へ移動します。着いてきてください」

「わ、わかりました」

 その頃、リーフィアは冒険者ギルドに登録していたのだが、いきなり戦闘テストを課せられるとは思っていなかったのか、やや顔が引きつっている。


 人間に擬態して低下した身体能力では全く本来の力を発揮できず、リーフィアは駆け出しであるFランク冒険者にさえ一回も攻撃を当てられずに倒されてしまった。魔法もこの状態ではロクに使えないため、武器を使った戦い方に不慣れな彼女に為す術はなかった。

 これでリーフィアにある程度の知識が無かったら、間違いなく冒険者登録不可になっていたのだろうが、仮にも帝国の皇女として学んだ知識があったので、当面は戦闘が絡む依頼への参加を認められない、一種の見習いにあたる「F-(エフマイナス)」ランクでのスタートになったのだった。


 ☆ ☆ ☆


 シトアの門をくぐってまず思ったのは、道がかなり広いということだ。門から続く大通りだからか、それとも荷物を満載した馬車が行き交っているからかはわからないが、おそらく日本で言うところの片側4車線分はある。道の両側に露店が多数展開しているせいで、多少道幅が狭くなってはいるが、それでも片側3車線程度はあるように思う。

 道行く人々はほとんどの人が欧米人のような顔立ちをしていて、黒髪黒目の俺は珍しいものを見るような目で見られている。また、彼らが着ている服はおおよそ今の俺と同じような質素な服装だ。

 あまり突っ立ってると邪魔になるな。人間観察はほどほどにして、ギルドへ向かおう。ええと、門をくぐって最初の十字路を右に曲がって突き当たり、だったな。


 教えられた道順を辿ると、突き当たりに一際大きな建物が見えてきた。そこに出入りする者はみんな使い古された武具を身に付け、鋭い目付きをしている。やはり男が多いようだが、女性の姿もちらほらと見かける。見た目結構美人もいるみたいだけど、中身はメスゴリラ、とかありそうだなぁ。

 西部劇とかでよく見る、木造の観音開きの扉を開けて中に入ると、ホールは少し薄暗かった。入り口の近くにはたくさんの紙が乱雑に貼り付けてある。これが依頼の掲示板ってやつか。

 ホールの奥にはカウンターがある。受付用のカウンターが3席、依頼報告用らしきカウンターが2席。受付用のカウンターは3席のうち2席が使用中か。あの空いているところでいいか。

「ようこそ、冒険者ギルドへ。初めて見る顔ですね、何かご依頼ですか?」

 空いているカウンターの担当は若い女性だった。これはラッキーだな。

「いや、登録をしたい」

「かしこまりました。では、身分証の提示をお願いします。――はい、結構です」

 身分証の提示が済んだところで、冒険者ギルドに登録する上での細かな注意を受けたが、そのほとんどは一般常識だろう。街中で騒ぎを起こさない、街中で武器を抜かない、ギルド員同士の殺し合いは禁止、お互い助け合う……などなど。

「では、最後に戦闘テストを行いますので、奥にある修練場に移動します。着いてきてください」

 え、テスト? しかも戦うの? 俺、防具らしい防具なんてまだ持ってないんですけど?


「では、戦闘テストを始めましょう。相手は……そうですね、ハリーさん。お願いします」

 修練場では、十数人の冒険者たちが思い思いの訓練を行っていた。その中から受付のお姉さんに名前を呼ばれた若い冒険者が木製の模擬剣を持って進み出てきた。

「Eランク冒険者、ハリー=ウッドだ。武器はコイツで大丈夫か?」

 ハリー=ウッド、ってつなげて読むとかの映画の都みたいな名前だな、危うく笑うところだったぜ。まあ、それはともかくとして。

「ああ、構わないぜ。俺はトーマ=サンフィールドだ。お手柔らかに頼む。っと、忘れるところだった。済まないけど、これを預かっていてくれないか」

 模擬剣を受け取りながら俺も名乗ると、受付のお姉さんにショートソードを鞘ごと外して預ける。使わないのに持ってたら動きづらくて、邪魔になるからな。まあ、剣術スキルがあるから、そうそう無様な姿を見せることは無いと思うが。

「はい、では準備はいいですか?」

 俺は軽く屈伸運動などのウォーミングアップをしてから、構えを取る。見ると、ハリーはとっくに準備ができているのか、模擬剣を構えて悠然と立っていた。

「はじめっ!」

 開始の合図と同時にハリーが飛び出した。身を低くして、滑るような速さで突っ込んでくる。

 間もなく間合いに入ろうかと言うところで、俺のほうからも一歩踏み出し、間合いを詰める。ロクな防具も持っていない俺のことをド素人だと思っていたのか、ハリーの表情が驚きに歪んだ。

「たああっ!」

 後の先を取ることに成功した俺の振り下ろし。ハリーはギリギリで俺の打ち込みに剣を合わせたが、体勢を崩される前にバックステップで再度間合いを取る。観戦していたほかの冒険者たちから「ほう……」などというため息なのか感心した声なのか判別に困る声が聞こえてくる。

 今度は俺のほうから攻めてやる。バックステップで下がったハリーに向かって、一気に駆け寄って間合いを詰める。そのままカンカンと何度も打ち合いを続ける。

 結構な長期戦になってきて、少しハリーの息が切れてきたように思える。すると、決着を焦ったのか、ハリーが剣を大上段に振り上げ、強打を放ってきた。

「もらった!」

 だが、その強打は悪手だった。俺はその強打を両手で支えた剣で受け止めると、その力を斜めに逃がすように受け流し、ハリーの体勢を崩させた。

「しまっ……!」

 その好機を見逃さず、まず腹のあたりに蹴りを食らわせて動きを鈍らせ、さらに追撃で魔法を撃つべく、左手の指先をハリーに向ける。

 圧縮した水を一発、撃ち込むイメージで魔力を練り上げる。

「ウォーターバレット!」

 圧縮された水の弾丸がまだ蹴りのダメージから立ち直っていないハリーのアゴを直撃し、ドサリとその場で倒れた。

 静まり返る修練場。あれ、ちょっとやりすぎたか? ハリーの奴、死んでないよな?

「なかなかやりますね。剣も格闘も魔法も実戦レベルで使いこなすなんて。期待の新人の登場、ですかね」

「面白い、次は僕に戦わせてくれないか」

 受付のお姉さんが俺の戦闘を評価しているところに、ローブを着込んだ魔法使い風の冒険者からそんな声が上がった。え、コレって勝ち抜き戦なの? まさか、負けるまで戦わされるのか?

「ライオネルさん、これはあくまで戦闘テストです。今の一戦で十分実力は見せていただきましたので、テストは合格――」

「良いではないか。ワシもその小僧がどこまでやれるのか、興味がある」

 どうやら受付のお姉さん的にはこの一戦限りで終わらせるつもりだったようだが、そこに新たな声が乱入してきた。

 貫禄のある声だけど、何者なんだろう。まさか……な。

お読みいただき、ありがとうございます。

次回……1-02:登録試験

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