↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役を演じきった公爵令嬢は、断罪の夜に王国ごと買い取る。  作者: ももにく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/3

第三話


第3話 悪女は、聖女のドレスを引き裂く

夜会の前の王宮は、香水と緊張の匂いがする。

その日、わたくしは開演一時間前に、聖女リリアの控室の扉を、ノックもせずに開けた。

「失礼するわ」

部屋の中では、王宮お抱えの仕立て屋たちが、純白のドレスをまとったリリアを取り囲んでいた。

「セ、セラフィナ様!?」

わたくしは頭の先から裾まで、ゆっくりと眺め回して、鼻で笑ってみせる。

「まあ、何ですの、それは。聖女の夜会衣装が、そんな野暮ったい仕立て? 王宮の名折れですわね」 「お、恐れながら、お嬢様。こちらは王宮からの指定で……」 「黙りなさい」

親方の言葉を、扇でぴしゃりと遮る。

(この一週間、確かめていた。このドレスだけ、注文書の日付が三日早い。しかも、腰の内側に追加の縫製がある)

わたくしはリリアの背後に回り込み、腰の縫い目を指でなぞった。 ふくらみ。固くて、小さな粒。

——あった。

「ここ、歪んでいるわ。直して差し上げる」

言うが早いか、両手で縫い目を掴み、思いきり引き裂いた。

「きゃっ!」 「な、何をなさいます! 聖女様のドレスを!」

悲鳴が上がる。布の裂ける音が、控室に響き渡る。 その騒ぎのなかで、わたくしは手袋の内側に、小さな石を滑り込ませた。誰の目にも、ただ癇癪を起こした悪女にしか見えなかったはずだ。

「不出来な仕立ては、正して差し上げたまで。何か文句がおあり?」

   *

「セラフィナ!」

騒ぎを聞きつけて駆けつけた王太子アルベルト殿下が、破れたドレスと震えるリリアを見て、顔色を変えた。

「どこまで彼女を傷つければ気が済む!」 「殿下。王宮の者が仕立てた衣装が、聖女に相応しいか確かめただけですわ」 「屁理屈だ」

殿下はリリアに上着を掛けてから、苦い顔でわたくしを睨んだ。

「宰相が心配していた。君は聖女を妬むあまり、危うい真似を重ねていると」

——宰相が、ね。

その名前が、殿下の口から自然に出てくること自体が、わたくしには収穫だった。

「妬む、ですって? ご冗談を。わたくしが妬むほど、その方に価値があるとでも?」 「セラフィナ……!」

殿下は拳を握りしめ、けれど、ふと何かを言いかけて口を閉ざした。 眉間に、迷いのような皺が寄る。

「……いや。今は、リリアの着替えが先だ。代わりの衣装など、間に合うはずもない」 「ご心配なく」

わたくしは指を鳴らした。 控室の扉が開き、マルタが大きな箱を抱えて入ってくる。

「代わりは、わたくしのものを貸して差し上げますわ。そんなみすぼらしい姿で殿下の隣に並ばれては、公爵家の恥ですもの」

箱から現れたのは、夜空のような深い青のドレスだった。 リリアの瞳と髪の色に、誰よりも映える一着。三週間前から、こっそり仕立てさせておいた。

ざわ、と控室の空気が揺れる。

「お下がりを押しつけるなんて」 「聖女様に恥をかかせるおつもりよ」

囁きが聞こえる。ええ、そう思っていただければ結構。

リリアだけが、ドレスにそっと指を触れて、小さく頭を下げた。

「……ありがとうございます、セラフィナ様」 「礼を言う暇があるなら、さっさと着替えなさい。時間の無駄ですわ」

背を向けた顔が緩みそうになるのを、わたくしは必死でこらえた。

   *

廊下の隅で、ようやく手袋を外す。

手のひらの上に、指先ほどの小さな魔石が転がっていた。 音を拾って、離れた場所へ伝える石。ドレスの縫い目に仕込んで、聖女の声を、誰かに聞かせていたのだ。

「お嬢様……それは」 「ええ。盗聴用の魔石ですわね」

石を裏返す。 裏面に、極小の文字が刻まれていた。

『財務局 備品 F-0417』

わたくしは思わず、笑ってしまった。

「国庫の金で、盗聴器を買っていたのね。備品番号までつけて」 「……お嬢様?」 「備品なら、購入の記録が帳簿に残っているはずですわ。誰が、いつ、誰の署名で買ったのか」

石を握りしめ、わたくしは扇を開く。

「さあ、次の悪事——いえ、次の調査に取りかかりましょうか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。