116:新たな漫画
お父上様からのメッセージはとりあえず無視をすることにして、俺とベラは屋敷に戻った。
「グリーテンさまはここを見つけれてないのですか?」
「見つけてないはずだよ」
グリーテンにもこの屋敷に秘密の部屋があると言っているがまだベラしか見つけれていない。
グリーテンなら隅々まで見てすぐにでも見つけていそうだが。
「……アルノさまからメッセージが来ています」
俺が無視するから今度はベラの方にメッセージが行ってしまったか。
「お父さんはなんて?」
ベラは俺にスマホの画面を見せてくれる。
『アーサーがなにか良からぬことをしていないか確認してくれ』
この屋敷にお父上様がいないから大丈夫かなぁと思ったけどベラとかグリーテンに連絡はいくか。
「あー、ベラはどうするの?」
まあぶっちゃけどうせこの屋敷に戻ってくれば言われることだからベラが言っても問題はない。
「どうしてほしいですか?」
てっきりすぐに報告するものかと思ったからそう聞いてくるのは驚きだ。
「報告してもいいよ。どうせ帰ってきたら問い詰められることだし、今伝えてもお父さんは何もできないし」
「分かりました。では報告します」
ベラの立場がどうなるとかはないかもしれないが、まあベラが隠すのはあまりよろしくはないだろう。
ベラがお父上様にメッセージを送っている間、俺は紙とペンを用意する。
中央にある机にそれらを置き、座ろうとすればベラに持ち上げられてベラの膝の上に座らされた。
「返信は終わったの?」
「はい。それで何をおかきになるおつもりですか?」
「あの都市を舞台にした漫画だよ」
てかもうそろそろで俺を膝の上に座らせるのはやめてほしいんだけどな。
「アニェスを主人公にした漫画はどこまでかき終わっているのですか?」
「二巻分くらいはかいてるよ。見る?」
「そういうことはすぐに仰ってください」
「あっはい」
ベラもアニェスのことが好きだからそう言われても仕方がないことか。
「じゃあベラがそれを読んでいる間に僕は試しに別のジャンルの漫画をかいているね」
「はい」
魔法でデスクから『叛逆の英雄~もう一人の叛逆者~』の原稿をこちらのテーブルに持ってくる。
そして俺を膝から下ろしたベラは俺の横にピッタリと椅子を引っ付けてその原稿を熱心に読み始める横顔を綺麗だなと思いつつ漫画をかくことにした。
さて、どういうものをかこうか。
現代都市を舞台にするとして、一つはファンタジーなしの完全現代漫画、恋愛漫画にするか。
一つ目は現代文明を知ってこういうものがあるのだと分かってほしいという側面がある。
さらに思い浮かんだのはトランプやらアナログゲームを主軸にした漫画。まあデスゲームが無難だよな。
二つ目は遊びを知らない人でも分かりやすく知れるというコンセプトを持たせている。
そして最後に思い付いたのは『叛逆の英雄』と現代を組み合わせたローファンタジー漫画。
これはまあ叛逆の英雄の人気を利用しようとしているわけだ。古代の時代にジャックやマルグリットがいてその先の現代で神からの攻撃に対抗するためにジャックたちの能力をよみがえらせ戦う、みたいなストーリーだからジャックたちは力だけの登場かな。まあ力の使い方を指導するために出てくる、みたいなことはするかもしれないけど。
三つかくものが決まったから、後は適当にかいていくか。三つ目から先にかいた方が読みやすいし現代の雰囲気を受け入れやすくなるかもしれない。
ただ純粋な現代を舞台にしている漫画があまりウケないかもしれないからな。まあそこを考えても仕方がない。三つ目からだな。
あらすじ的にはこうだ。
魔法も神の存在も周知の事実ではなくなった科学が発達した現代で、ある場所に天に延びる塔が天より落とされた。
今の人類は生きるに値しないと審判した神々はその光の柱から天使を遣わし人類を滅ぼそうとした。
それにいち早く気がついた秘密裏に魔法を存続させていた組織がそれに対抗しようとするがジリ貧であった。
ジャックの聖遺物である剣を持っていた主人公が、来るはずのない田舎にて単身で襲いかかってきた天使に立ち向かうためにジャックの力を解放して叛逆を始める、って感じか。
タイトルは『叛逆の英雄~時代をこえた叛逆~』かな。
なんだか想像しているだけでもかなりかきたくなってきた。よしこれからかこ!
今回は過去を見るのではなく俺が構想を練って、みたいな感じだがそこは全能に任せればすべてうまく行くし筆がとまんねぇ!
「紅茶を持って参ります」
「うん、お願い」
ベラの方を見ればちょうど一巻くらいを読み終えた辺りで紅茶を取りに行ってくれた。
その間にも漫画をかき進めすぐにベラが自身と俺の分の紅茶を持ってきてくれた。
「やっぱりベラの紅茶は美味しい!」
「ありがとうございます。アーサーさまにそう言っていただけるとアーサーさまが口にするものすべて私が用意したくなります」
それをすると料理長の仕事が減っちゃうからやめてあげてくれ。
「それで、その漫画どう?」
「素晴らしいです。今までの文献ではアニェスのことについてはあまり知れませんでした。でもアーサーさまの漫画は違和感がなく読むことができて面白いです」
「それならよかった!」
「ですが。少しエッチすぎませんか? アニェスの服装が」
前回の叛逆の英雄と少し変更した点はアニェスの服装だ。そしてやはりベラにそれを問われてしまう。
「ダメだった?」
「いえ、そのようなことは全くありません。……ですが、アーサーさまはこういうのが好みなのですか?」
えっ、好みか好みじゃないかって問われればそれは好みだけど……。
「アーサーさまがお望みであれば私のメイド服もアーサーさま好みにしていただいてもいいです」
「えっ、でもそれをしたら他の人にもベラのエッチなメイド服を見せないといけないんでしょ?」
「……先程の発言はお忘れください」
俺に見せる分にはいいけど他の人に見せるのはなぁということをベラに伝えたらベラは気づかれない程度に頬を緩ませて顔を赤くしているのが分かった。
専属メイドにこんな嫉妬心を持つ五歳児だ。でもよく考えなくてもここに五歳児の同世代の女の子に嫉妬しているショタコンメイドがヤバイだろうな。そんなメイドだからいいのだがな。
ベラは恥ずかしさからすぐに二巻を読み始め俺はかき進める。
ベラが読み終わる頃には初回大増量した一話くらいしかかけないようにする。俺が全能をフル活用すればあり得ない速度でかけるのだが、今まで通りかくのが自然だ。まあこんな短時間でかけるのも異常なんだけどね。
でも他の人は俺が最初の人だからこれが異常だとは思わない。これよりも遅くても俺じゃないから仕方がないと思う。それが第一人者のメリットだな。
ただ漫画のかく内容はどんどんと思い浮かんでくるから早く先をかきたいと思うのだがベラがいるからもどかしい。
まあまだまだ時間があるんだ。焦ることはない。
「ふぅ……読み終わりました」
原稿を置き紅茶を飲んで一息つく一連の動作を貴族のそれかと思いつつベラに感想を求める目を向ける。
「とても面白かったです。アーサーさまには是非先にこの続きをかいてほしいと思います」
おぉ、かなりの高評価をもらったな。アニェスを先に読んでもらったのは失敗だったか? まだこの現代の雰囲気がウケるかどうかも分かっていないのに。まあその時はその時か。
「はい、これが第一話だよ」
「『叛逆の英雄~時代をこえた叛逆~』……ですか。ジャックたちが主人公ではないのですね」
「うん、時代が違うからね。僕たちよりもさらに先の時代。魔法を一切使わない文明が発達した時代がその漫画の舞台だよ」
「なるほど……読んでみます」
「うん、素直な感想を聞かせて」
ベラが読んでいる隙に俺は続きをかく。でもここでベラに面白くないと言われたらかくことを諦めるかかき直さないといけないわけだ。
俺の価値観では面白かった。俺の全能は俺の意思と関係なく完璧な仕事をしてくれるから俺のへぼな考えで作り上げようとしてもそれを上手く修正してくれるのが全能だ。
全能様様なように見えるがこれはそういうわけではない。一切へたくそにかけないということだ。
地位が上がったところでへたくそなことをかいて追い出される、みたいな流れもできなくなる。まあそんなことはないと思うが。
ベラを気にすることなくかき続けているとベラは読み終わったようで原稿をテーブルに静かに置く。
「読み終わった?」
「読み終わりました。……少しお聞きしたいことがあります」
「なに?」
どんなことを聞かれるんだろうとドキドキとしているとベラは原稿を手に持ちあるページを俺に向けてきた。
「先ほど聞いたこのテレビは、どういうものなのでしょうか? どういう仕組みなのですか?」
あぁ、そうか。それを説明しないとこの世界の人たちは分からないのか。だから現代文明のものはすべて注釈しないといけないのか!
「スマホは分かりましたが、この車、飛行機、パソコンなどが分かりません」
「あー、うん。そうだね。説明していなかった僕がいけない。ごめんね」
「いえ、話自体はとても素晴らしかったのでそれらの説明があれば完璧です」
「ホント!? それなら良かったー」
「アーサーさまが面白くない話を作るわけがありませんので」
ベラのその過度な期待を前世の俺がそのまま聞けば気分が悪くなっただろうなぁ。でも今の俺は全能で問題ないのだからドヤ顔をしておく!
俺はベラから原稿を返してもらい、ファンタジー作品独特な設定を注釈で簡単に説明を原稿に書いていく。
「詳しい説明は別の紙にでも書いておくね」
「はい。お願いします」
あっ、こういう時にネットで用語集専用のサイトを作ればいいのか。




