赤ん坊は寝て育つ
大騒ぎの御七夜も三日目には落ち着きを取り戻し無事?終了した。オレの健康チェックをしに来た在富はホクホク顔だ。
「かなり成長が早いですが、健康に問題は御座いません」
マンマに向かって、そう報告している。
「この様子では、お声を発するのも、そろそろかもしれませんな」
本当は、もう発声出来るのだけどな。視界も広がって、部屋の中ならだいたい見渡せるぐらいになっている。
「それと、この子、ほとんど泣かないので心配で」
「御所さんも、ほとんど泣かない赤子でした。お血筋なのかもしれませぬ」
「あら?そうだったの?」
「はい。勘解由小路は、鷹司の秘蹟を司る家でもありまして、御所さんの時もこの在富が秘蹟の儀式を執り行ったのです」
「あぁ、それでトノのいとけなき頃もご存じなのですね」
「なにぶん、秘事の儀式ゆえ、あまり触れ回る事もありませぬから、お知りにならぬのも無理もなき事かと」
「その頃のトノさんは、どんなお子だったのかしら?」
マンマと在富は、パッパが幼児だった頃の話しで盛り上がっている。稚児姿でお漏らししたとかバラしてる。在富は後で叱られるぞ。
それにしても、確かにオレの成長が早い気がする。大人の意識で肉体を操っているからかな?筋トレも筋肉の成長を意識してやるといいって聞いたしな。
ちょっとだけ、声を出してやろうかな?
「ア、ア〜?」
「今、若竹が⁈」
「確かに、若竹丸様が発声いたしましたな」
みんながオレに注目する後でコッソリとサムズアップするな在富。その後、また喋らそうとするマンマとか、まだ帰ってなかったジィジの突撃とか、ひと騒ぎがあったのだが適当に付き合ってあげた。赤ん坊の体力だから最後までは付き合いきれなかったが。発声するのも結構疲れるのだ。
一眠りして目が覚めると、マンマは寝台の上に文机を置いて何やら読み書きしている。
「十日も休んだら、文がこんなになるとはね。鷹司に来たばかりの頃は、これ程では無かった気がしますけど」
「あの頃は宮さんの化粧料の方が多いぐらいでしたし、家中に文を書ける者も少のうございました」
何やら事務仕事をしているみたいだ。マンマもオバチャンも遠い目をしている。机の下から見上げているのに積み上げられた紙が見えているぞ?どんだけ積んであるんだ?
「今や右京は一面、田畑に御座います。これも鷹司が惜しみなく開墾のやり方を披露したおかげと、京雀の間でも語り草になっております」
「なにしろ、あの頃、九条さんや二条さんだけでなく、あちこちのお寺さんも一斉に開墾を始めましたから。皆さんのご指導に駆けずり廻っておりましたねぇ」
なんだか、パパンが苦労をかけていたみたいだな。しみじみと昔を振り返っている様子。
「ウチの開墾はそこそこに、クワやらコエやらを売りつけて何をしているのかと思いましたが……」
「よそ様の面倒を見るのが、これ程儲かるとは!」
「これ!声が大きいですよ?」
「これは、すみませぬ。それにしても、笑いが止まらぬとはこの事でしょうね」
「それはそうね。オーホッホッホ!」
アレ?一気に悪代官みたいな雰囲気になったぞ?マンマも悪役令嬢の高笑いを披露している。何やら各家からの依頼が殺到しているらしい。積み上がった紙はその依頼の手紙だったのだ。
「日々、田畑を手入れするにも人手がいりますからな」
「人手を貸し付けるなど思いもよりませなんだ」
「それで在富は牢人を取り込んでいたのですね」
「人手はいくらあっても困るものではありませぬからな」
春の田おこしでスキを引く時も、牛や馬ごと貸し出したりしているらしい。農機具のレンタルから肥料の販売。果ては苗や種の販売から、労働者の派遣などを一手に引き受けているそうで、オマエはどこの農協かと……。
「このままでは、又、新しい蔵を立てねばなりませぬ」
「オーホッホッホ!」
マンマ……。鷹司家は尊敬を集めつつ、実利も獲得しているらしい。実家の奮闘を祝って、オレは寝ておこう。
マンマの口調が安定しません。御所ことばとの調整難しい。そもそも御所ことばもよく分かってないし。目に余る言い方があればご指摘お願いします。
【今回のやらかし】
忠冬達がやらかした事案をここで解説します。
灌漑用水:右京地区を農地にするために灌漑工事を行なってます。西堀川(現在の紙屋川)や天神川なども使い、賀茂川や桂川を繋げて水位調節もしています。
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