ジィジ襲来
五日目はそれなりに静かに過ぎていったのだが、六日目に台風がやってきた。
御七夜は、産まれてから七日目の夜に、赤ちゃんの健やかな成長を願って行うお祝いだが、これは祖父が主催するのが慣わしなのだそうな。そう、オレの父方の祖父、鷹司兼輔がやってきたのだ。
屋敷の中を駆ける音がしたかと思ったら、襖が開いた。スパーン!って音、初めて聞いたぜ。
「若竹はドコじゃ〜!」
叫びながら、爺さんが飛び込んで……、と思ったら、ガッシリした身体付きの中年が爺さんをぶら下げている。襟首を摘まれた爺さんは、空中でジタバタしている。
「大御所様、ご無体はいけませぬ」
「く!こりゃ!元就、放せ!放せ!」
元気な爺さんだな。オレがビックリしているとタロジロがオレを庇うように立ちはだかる。
「まあまあ、おおごっさん。落ち着きなされ。それでは若様も驚かれましょう」
「む? 勾当内侍か?いや、これは、あれ、それ…じゃ……」
マンマお付きのオバチャンに嗜められると、爺さんはプラ〜ンと垂れ下がった。ほぼ同じ歳に見えるから、過去にも色々あったのだろう。どうも苦手にしているようだ。
「右馬頭も、もう下ろしてよろしおす」
「はっ」
すっかり小さくなった爺さんは、部屋の隅で正座している。マンマ達がクスクス笑っていると、オバチャンが爺さんに話しかけた。
「それで、おおごっさんは何しに来はらしました?」
「おお!それじゃ!明日の夜には御七夜だと言うのに、一向に声が掛からぬ。どうした事かと駆けつけたのじゃ!」
瞬の間で復活する爺さん。
「嫡男が生まれたのにのう!おお!姫さんも、ありがとうな!これで鷹司も安泰じゃ!どれどれ、これが若竹か!ジィジじゃぞ!ベロベロ、バァー!」
賑やかな事。この上ない。タロジロも目を白黒させているぞ。
「まったく、准后にもなったと言うのに落ち着きのない。御七夜の事であれば、殿さんとお話しなされませ」
「そうなんじゃが、あれもなかなか忙しそうでな」
「まぁ!呆れた!そこを遠慮してどうします!」
なんか、ウチのお爺ちゃん、家の中では立場が弱そうダネ。
「近衛さんに面倒をかけずに済むようになったのは、忠冬のお陰じゃからのう。なるべく邪魔はしたくないのじゃ」
「それこそ、いらぬ配慮で御座います!殿さんの事をお気遣いなされるなら、なおのこと、話し合われませ!殿さんも日頃から、ホウ、レン、ソウというておられます!」
「ブー!」
思わず吹き出してしまった。パパン、戦国時代に何をひろめてますのん?
「ほら、若竹さんも、ジィジを応援してますがな」
「おお!そうかそうか。では、行ってくるかな。関白の嫡男に相応しい御七夜にするのじゃ!」
うん?最後に少し不安になる事を言い残してジィジは去って行った。ウマノカミと呼ばれてたオッサンも一礼してジィジを追っていった。
「まったく、還暦を超えたら、さらに騒がしくならはりましたな」
「ふふふ、内侍にかかっては、おおごっさんもかたなしですね」
どうも、騒がしいのがウチの家系らしい。楽しくていいけどな!
鷹司家は元々かなり困窮していて、ジィジの代までは何かと近衛家にお世話になっていたんですよね。さらに、ジィジのお父ちゃんがかなりの困り者だったり。はっちゃける気持ちがわからないでも無かったり。
【今回のやらかし】
忠冬達がやらかした事案をここで解説します。
元就:毛利元就です。とある事情から京へ出向しています。
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