発端
『緊急速報です。これより軍が始動します。各施設の封鎖を確認。研究員達は各自マニアルに従い避難したものもします』
(あぁ、研究がまだ途中なのに)
「ちっ、忌々しい。あぁ、そうだ我が息子達よ、逃げるのを手伝ってくれないか」
彼はポケットから小さな箱を幾つか取り出すとそれをばら蒔いた。
「さぁ、芽吹け」
箱が自動で開き透明な何かが地面を這う。
α隊の苦難
『保管研究庫に居る関係者は全て抹殺せよ』
「っ、関係者の子供は?」
『対象に入る。しかし運がいい事にそこに子供は居ない、担当も1人らしい』
「承りました、御配慮感謝します」
『対象のデータは電子ファイルで送った通りだ。あと数秒で届く』
「はい」
隊長らしき人物は通信を終えると右手の甲を向けた。
微細な粒子が中に舞い、映像が映し出された。
顔写真、年齢、生立ち等など、一人の男のデータだった。
「おい、島野この顔だ覚えておけ。」
「了解です」
α隊の構成は2人。隊長と島野だけの少数精鋭だ。
即座に敵の足取りを見つけ追跡するプロである。
「居たぞ!こちらチームα対象を視認した。これより殲滅に入る」
目標の男が赤く非常灯の光る廊下の奥へ去ろうとしていたのを見つけた。
「構え!撃て!!」
「了解!!」
部隊の使うJMKB-12から弾が放たれ目標に命中。
「やりましたかね?」
「油断は禁物だ」
しかし倒れて程なく再び立ち上がった
「まて、あれはIMだ!こちらα!IMを確認。目標はIMと同化してた模様」
「隊長、アイツはなんですか……」
「アイツは化け物人間だ」
「生き返ってますね」
「今度は変更だ、使用武器をIMKBにしろ!」
「了解!」
目標に命中。
目標は消滅した。
「こちらα、目標の消滅確認。これより施設内の巡回に回る」
『一匹残らず絶やすのだぞ』
「はい、心得ております」
「よし我々はこれより施設内のIMの排除に移る」
「了解です」
隊長は島野と共に施設内を巡り始めた。
『緊急速報です。これより軍が始動します。各施設の封鎖を確認。研究員達は各自マニアルに従い避難したものもします』
誰に告げるアナウンスなのか、未だに人っけのない空間に鳴り響く。
β隊の苦難
「こちらβこれより表からの侵入を開始する」
「隊長扉開けます」
隊員の1人が扉の''ボタン''に触れた。
ペキっと言う軽快な音が鳴る。
隊員はその場から動けず固まる
「どうした?」
「隊長!ルドの指が」
ボタンを押した指が曲がっていた。
「まさか、気を付けろ!IMの可能性が高い」
「え、出口って他の部隊が抑えてるんでしょ?それでここがIMに制圧されてる。つまり中の人はもう敵って思った方がいいよね?よーし!撃ちまくれるぞ」
「馬鹿野郎!ふざけてる暇があったらルドに起きた現象を解析しろ!」
「いや、解析終わってますよ。これ有名なやつッスよ」
「有名なやつ?回りくどい言い方する暇があったら早く言え!それと他の奴らはルドを退かして」
「他の人は触らない方がいいよ。そいつは『トマレロ』日本の怪物さ」
「なんだ、JMなのか」
「そいつは簡単に言うと触れたら最後、どかしらの骨が折れて付近が壊死するまで本人が固まってしまうってのさ」
「おい、ルドはどうなる」
「本土送りだね、多分切り落としか……まぁどの道もうここでは日の目を見れないよ」
「くそっ……俺が開けとけば」
隊長が悔しそうにしているなか通信が入る
ザッザザーと通信機が受信音を立てた。
『こちらアルファー増援を頼むっ!!』
α隊からのヘルプコールのようだ。
「こちらベータ、侵入困難だ。1人やられた」
『そうか、もう少し持ち堪えてみる。こちらは残り俺一人だ』
「すまない上宮」
『気にす──ザッザザー』
「お、おい!ちくしょう!どうしようもないのか!」
「隊長、扉爆発しましょうよ」
「馬鹿言え核にも耐える構造だぞ」
「ならアルファー隊の侵入経路から行く手は?」
「それもありだが俺らとは真反対だ、他の部隊に要請してみる」
「んー、どうしよっか」
「副隊長しっかりしてください!」
「そーですよ、自分ルドみたいになりたくないっすよ」
「あー、IMKBで押したら行けるかも?」
「いや、怖いので副隊長に譲りますよ」
「リカルド覚えといてよ?本土帰ったら。モチロン咲島君はやってくれるよね?」
「も、もちろんですとも」
「あ、ちなみに間接的に触れても意味ないから効果無かった時死ぬよ?」
「そ、そんなこんな時にジョークは」
「聞いた事あるぞ、確か虐められてた少年が脅されて駅の非常停止ボタンを押した時に主犯格3人が首の骨を骨折。少年は偶然駅に居た酔っぱらいに飛ばされ急ブレーキをかける電車に突撃して、これまた偶然か首の骨を骨折しただけだったとかなんとか」
リカルドが副隊長のセリフに合わせ曖昧な知識を披露した。
「も、もし俺が押したら副隊長も危なくないですか?その話だと」
「あ、そっか!どーしよ逆戻りだね」
「逆戻りだねーじゃないわ。お前らγ達の侵入経路から行くぞ、ついでだが近くにベースキャンプがあるからルドをそこに置いてく」
「隊長!とりあえず他の人が触れないようになんかいい感じの透明なカバー被せときました」
「あぁ、たまには役に立つな」
一人と数百の脅威
1匹の透明が地下道を歩く男の所に飛んできた。
「そうか、まんまと騙されてるか」
(薄々はこうなることを予想出来たが、とりあえず街に出て施設を確保しなければ)
男は薄ら笑を浮かべながら歩いていた。
暫く歩くと少年に出会った。
「おい!あんた見ねぇ顔だな。通りたけりゃ出すもんだしな」
「なんだ、モグラか。ほれ、小切手でもなんでもくれてやるわ」
「何だこのメモ帳は!金を寄越せ!」
「知らないのか?その小切手を」
「こぎって?聞いた事ねぇな。さては俺がバカただと思って騙そうとしてるな」
「しょうがないな、見とけよ」
男は適当に1枚破り1万円と書いた。
すると1万円札に変化した。
「おぉ!なんだこれ魔法じゃねぇか!え?いいのかこんなもんくれて」
「お金なんて必要ないだろ」
「なんで?」
「そりゃそうさ。お前さんお金が使える場所を知ってるからお金に価値を感じてるだけだろ?」
「そうりゃそうだよ!この紙切れ1枚でも食事に服!他にも沢山の物が手に入るんだよ?」
「じゃぁ前提を与えよう。もしお店なんぞなくてみんながみんな物で交換してたら?」
「?」
「もっと分かりやすく言うぞ。お前が店で飯が欲しいと言ったらお金を要求されるのが普通だろ?」
「おう」
「だけど店が物を請求してきたらどうする」
「困る」
「お金の価値は?無いだろ?」
「ならお金で見合うものを買えば」
「そうは上手くいかないよ、店だけじゃない世界中が何かを得るのに物を必要とするようになるんだよ」
「でも物々交換の時代は不便だったから無くなったんだよ」
「違うさ、脅しのような権力的支配が背景にあったからだよ」
「それならお金も同じじゃ」
「お金の普及した世界は必然的に交渉の場を設けてるだろ」
「それが会計するところってこと?」
「そうだ。みんながそこでその金額分の紙を渡すから、向こうもそれを受け取りそれに価値が付くっと、時間が無いんだった。すまんなボウズ。あ、最後に1つ頼まれてくれないか?」
「もしかしてお前追われてるの?」
「まぁそんなところだな」
「で、頼みって?」
「この箱をやる。そのうちここに変な格好のヤツらが来るからそん時に投げて欲しい」
「それだけ?」
「あぁ。それでいい」
(さて、地上に上がるか。思い知れよ。政府共よ)
男は作業員用通路を通り地上に上がった。
「手始めに『水神の祟り』でも使うか。水の都ウォルティアナを堕とすのにはピッタリだ」
男はまた箱を地面に落とした。
箱の中から龍が出現する。
「父上、今か今かと待ち侘びておりました。ご命令を」
「お前の任務は部隊が到着した1日後にここを洪水させるって事だが頼めるか?」
「はい、ですがそんなに温くて宜しいのでしょうか」
「構わんよ、俺はその間に『幽霊船』を説得してくるから」
「相変わらず仲が悪いんですね」
「まぁな、反抗期のようだ。そういやお前さん部隊が来たか分かるのか?」
「はい、でも部隊が来るのは相当あとだと思いますよ。なんせここは平和の街なんですから」
「じゃ、後のことは頼むなー」
男は港へと歩き出した。
β隊の侵入
「γ隊との通信が取れない、つまりここも危険かもしれない。気を付けろ」
「了解です」
「あいよ」
「うっす」
ルドをベースキャンプに置いてきたβ隊はγ隊の侵入経路から施設内に入った。
「え、隊長こいつγ隊のエンドウっすよ?」
入ってすぐの所に散らばってる肉塊の付近にあったドッグタグを確認して副隊長は言った。
「付近に銃痕があるって事は初手で不意を憑かれた感じだな」
「俺らも注意ッスね」
「うわぁー、また死体。今度はなんすかねこれ」
2人組が寄り添い首が飛んでる状態の死体。
「ふむ、出たよ『2人が死』これは親に九九が覚えれず虐待を受け死んだ子のデータを元に創られたJMの仕業だね」
「これって付近に居ても?」
「いや、居ないと思うぞ。γ隊は少なくとも残り2人は居たはずだ」
薄暗いロビーを突き進むと実験棟と書かれた場所に着いた。
「あれ、ここって」
「そうだα隊の侵入場所だ」
「見た限り扉の開閉は行われてないな」
「なんで分かるんですか?」
咲島が隊長に疑問をぶつける
「お前部隊の試験よく受かったな。俺らは扉を蹴り破るだろ?」
蹴り破る理由は扉の後ろに敵が潜んでいる可能性があるからだ。
「そ、そうでしたね」
「よし、入るぞ。手順は覚えてるよな?リカルド行け」
「おっす」
「リカルドはJMKBを、咲島はIMKBを」
リカルドと咲島が銃を構え引き金を引くと同時に扉を蹴破った
「やめ。よし敵無し」
大量の筒が置かれている部屋だったが銃撃によりガラスが割れ内部の液体と物体が1部散らばっていた。
「くっせ、ひでぇなこれ」
「あれ、人いね?」
「お、おいあれってα隊の殲滅対象だったフォーマン博士じゃ?」
「生きてるのか?」
無事な筒の中の一つにフォーマン博士が入っていた。
「お、おいα隊は排除したって言ってたよな?」
「α隊の報告ではIMと同化したって」
「あー、意識あるなら1度上に掛け合って、尋問だな」
「とりあえず救出します?」
「だな。これどう出すんだ?」
「副隊長頼めます?」
「了解、このボタンを」
プシューと内部液が消えてゆく
「上からの通告だ、持ち帰れと。その後施設内を空中からスキャンし状態に応じて爆破処理」
「α隊は?」
「発信機の反応も消えているらしい。ほかの部隊も幾つか引き上げてる。そろそろ俺らも潮時だ」
「あいさー、とりあえずリカルドと咲島。フォーマン博士を頼んだよ?隊長が前衛。俺が後衛で警戒はするから」
「「うっす!」」