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Chapter2-6 休憩の終わり


 調査ポッドの中に響く船の駆動音に乗せて、母星ではとうに旬を過ぎた流行歌が耳元のスピーカーから流れてくる。時間を持て余していたクエリは相変わらず回線を開き、遥か遠方を往く同胞との会話を続けていた。彼は聞こえてくる音楽に自分の鼻歌を重ねながら、二つ目の飲料パックを取り出してストローを刺した。


 『そういえば、あの話を知ってるか?』

 「うん? ……ああ」


 スピーカー越しに届く男の声に、クエリはストローを咥えながら返事をする。


 「君んとこの上司とオペレーターがデキてるって?」

 『いやその話じゃ、って、ええ!?』


 クエリが言うと男は驚き、うろたえるような声をあげた。それから何かがぶつかるような音がして、スピーカーの向こうからうめくような声が漏れ聞こえてくる。


 『……なあ、冗談だろ?』

 「きっとね。それで? 話ってなんのことさ」

 『流していいのか? お前の言った話は流していいんだな?』

 「いいよ。……多分」


 クエリは面白がってわざと意味深な言葉を付け足した。

 小さく笑いながら言う彼の様子に、相手の男もようやくそれが冗談だと受け取ったようである。


 『……話ってのは、エイジャックスのことさ。

  お前、探査船の出発式で彼の姿を見たか?』


 男は言った。

 「エイジャックスの?」とクエリは男の言った言葉をなぞるように呟く。


 「そういえば見てない気が……」

 『やっぱり。

  いや、これは乗組員全員が同じ返事をするだろうと思ったよ』

 「何かあったのかい?」

 『ああ。なんでも、探査船が出発する直前までどうにか船に潜り込めないか動き回っていたらしいぜ』


 男は言う。

 クエリはそれを聞いて思わず眉を顰めた。


 「そんなの局長が許さないだろう。いったい誰が作戦を仕切るんだ?」

 『…ま、そんな理由から承認は下りなかったみたいだ。

  それでも抵抗したもんだから、最終的に局長達に部屋の中で大人しくしてるようにと

  探査船が完全にウィータンを離れるまで幽閉されていたらしい』

 「ええ……それで見送りの席にいなかったのか? なんでそんなことを……」

 『俺達のボスの好奇心には頭が下がるばかりさ』


 男はそう言って笑った。

 好奇心。そう言われてはクエリも納得せざるを得なかった。

 探査船を飛び出した時に自覚した自分の気持ちを思い出してみれば、エイジャックスが調査任務に同行したがる気持ちがよくわかったからである。


 「…しかし、どうして君はそのことを知っているんだ?」


 気になってクエリは尋ねた。


 『ボスが何らかの手段で密航してないか船の中を調べさせられたのさ。

  驚いたし、変な仕事だったぜ? 

  幽閉しているはずの男が乗り込んでないか調べろだなんて、もはやどんな評価を受けてるのかわからねえよ』

 「そ、そうか……」


 男の口調からクエリはその疲労を察し、労わりの言葉をかけた。

 探査船はそれなりの広さがあり、しらみつぶしに探し回るとすればなかなかに骨の折れる仕事であったはずだ。


 クエリは回線を開いての会話を続けながら、ふと窓の外に意識を向けた。

 調査ポッドの外には依然として暗い空間がどこまでも続き、遠くには大小さまざまな隕石が浮かんでいるのが見える。


 今いる自分がいる小惑星帯の内部は、エイジャックスでさえ未踏の領域である。

 

 「来れなかった者のためにも、何か結果を持ち帰ってやらないといけないな」


 窓の外を眺めながらクエリはそう言った。

 そうだな、とスピーカーの向こうから声がする。


 『ここから先の栄誉を、彼よりも先に受け取ってみせよう』


 男はそう言って笑った。




 話し込んでいるうちに船はだいぶ先へと進み、反射装置を配置する予定の座標も近づいてきたようである。クエリの乗った調査ポッドの周囲を浮遊する小惑星は明らかにその数を増やし、その影響か無線通信に使用している回線の音質は落ち、会話には次第にノイズが乗るようになっていた。


 「そろそろ潮時かね……。

  休憩も終わりのようだ。話せて良かったよ」

 『こちらこそ。落ち着いたらまた連絡をしても?』

 「ああ。通じればね」

 『設置した反射装置のアンテナを使えばなんとかなるさ』

 「おいおい、私物化に僕を巻き込むのか?」

 『大丈夫だって。

  実はな、装置には後で通信網として利用するためのプロトコルも仕込まれているんだ。

  とすれば通信のテストだって必要さ。

  別々の任務でチェックするよりも、一つの任務で一緒に動作のチェックが出来れば効率的だとは思わないか?』


 男は言う。

 よくまわる口だな、とクエリは噴き出して笑った。


 「なら次は別の音楽を用意しておいてくれ」

 『とっておきを用意するよ』


 二人の通信はそこで途切れた。

 クエリは空になった飲料パックを捨て、一度長く息を吐き、気持ちを入れ替えるように首を回した。関節が鳴る小気味よい音が彼の耳の中で響く。

 それからクエリはポッドの自動操縦システムを解除して、手動運転に切り替えた。


 船はスラスターを噴かし、姿勢を調整して進んでいく。


 クエリの操縦しているポッドの通信回線がもう二度と開かれることがないとは、この時は誰も知るよしの無いことであった。



いつも足を運んでくださりありがとうございます。

このところ読みにくれる方が増えて嬉しい限りです。

次回更新は5月15日午前2時ごろの予定です。


何か刺さる部分がありましたら、感想や評価などいただけると嬉しいです。

Twitterで更新情報など出してますので、よかったらどうぞ!

/脳内企画@demiplannner

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