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Chapter1-28 遺骨の正体


 「ふーっ、ふーっ」


 遺跡の中にある細い通路にくぐもった苦しそうな声が響く。

 声の主は、遺跡に入ったトレヴァース達を迎えに来たあの大柄なウィータン人であった。


 「ぶふーっ! ぶふふーっ!」

 「おい、よせ!それ以上は流石に現場が崩れるぞ!」

 「ぅぶふっ!」


 男が荒い息をまき散らしながら身もだえしている。

 彼の巨体が壁一面を保護するシートにこすれると、何かが軋むような低い音がした。

 その様子を見たエイジャックスは慌てて男の作業服の裾を掴み、その太った体を壁から引き剥がす。

 そうして男が勢い余って尻もちをつくと、傍にいたトレヴァースは足下に小さな地震のような衝撃を感じた。


 「あー…、彼がこの道を抜けるのは、難しいのでは?」


 男を見て、それからエイジャックスの方を振り返ってトレヴァースが言った。

 「いやあ」と男が申し訳なさそうに足元で笑う。

 エイジャックスは少し困ったようにため息をついた。


 「まったく……。

  おい、そのヤバいものってのは、つまりこの先にあるんだったな?」

 「ええ、ええ、そうです。

  道なりに進めば、先に中へ入った連中が見つかるはずですよ」

 「わかったよ。

  なら俺たちだけで大丈夫だろう……詳しいことはこの先にいる奴らに聞くさ」

 「いやあ…、申し訳ない。後から必ず追いつきますんで」





 壁画のあったエントランス部分からさらに続く通路に、今度はエイジャックスが足を踏み入れた。

 そこは今でこそ奥へと続く床が見えているものの、ここ数日の発掘作業が始まるまで大量の瓦礫で埋め尽くされていたようで、先へ行くにしたがって、未だ撤去されずそのままの状態で置かれている瓦礫は増えていっている。

 瓦礫の完全な撤去や通路の整備にはまだしばらくかかりそうで、あのふくよかな男が余裕をもって通り抜けるのことができる日も、まだ先の事であろうと思われた。


 「不思議な男だったね」


 身を屈めながら通路を進むエイジャックスに後ろからトレヴァースの声がかかる。

 

 「本当に彼がここの指揮を?」

 「そうとも。

  だいたいあんな調子だが、ああ見えて結果は残しているんだぜ。

  この遺跡だってそうさ」

 「彼、その遺跡を自ら壊しかねないところだったようにも見えたけどね」

 「ああ、あれは酷かった……。

  や、実を言えば彼の専門は分析と指揮といったところでね。

  奴自身が汗水流して発掘するわけじゃあないのさ」


 エイジャックスは言った。

 それから、「そんなことしなくとも汗をかいているし」と彼は付け足して笑った。


 そのまましばらく歩くとやがて瓦礫の道の終点らしき部分が見え始め、それと一緒に前方、彼らが進む方向からがやがやとした調査隊の声が聞こえてきた。


 瓦礫の層を抜け、ジャッキで固定された遺跡の隔壁を潜り抜ける。


 「これは……、なんとも」


 隔壁の先に広がっていた景色を見たエイジャックスが思わずと言った様子で呟き、


 「ひどい場所だな、しかし」


 眉を顰めながらそう付け足した。

 その隣でトレヴァースもきょろきょろと辺りを見回している。


 そこは壁画のあった部屋よりもさらに広い、さながら大伽藍のような空間であった。

 天井は薄暗く、作業員達が設置した照明の光が届き切らないほどの高さがありそうである。

 また部屋の上部へ連なる壁面にはモニターとなんらかの機械部品のようなものが埋め込まれているのがわかる。

 ただそのどれもが破壊され尽くしており、往時にどういった機能をもって使用されていたのかをその見た目から判断するのは難しいだろうと思われた。

 壁の裂け目からは、大量の配線らしきものも見え隠れしていた。


 そしてそれら以上に目を引くのが、辺りに遺された数々の痛々しい痕跡であった。

 空間のありとあらゆるものが荒らされ、激しい争いがこの場所で起きていたのだということが、設置された照明によって浮かび上がっている。

 先ほどから視界に入る壁面の機械類の状況にしても、それらは時間経過による破損というより人為的な力によって破壊された後のように見えた。


 そして破壊され尽くした設備に見下ろされるようにして、床のあちこちには倒れるようにして転がる人骨があった。

 それは数にして一人や二人といったものではなく、一目で大勢の者達がこの場所で息絶えたと一目でわかるほどの量であり、そのどれもが傷つけられていた。


 トレヴァースとエイジャックスが辺りにいた調査隊の者たちから現時点でわかっている情報を尋ねると、まず彼らの見解としても、この広い空間で激しい戦闘があったことは間違いないだろうとのことであった。

 散らばっている人骨の大部分はウィータン人のものであったが、それらに混じって明らかに大きすぎる骨もあると彼らは話す。

 案内された先では、ウィータン人の遺骨と重なるようにしてひと際大きな、そして歪な骨格をした存在が倒れ伏していた。


 その正体は、骨の前に案内されたトレヴァースによってすぐに判明した。

 骨格から見受けられるいくつかの特徴が、トレヴァースの把握しているコスモリアンの身体データと合致したのである。


 先祖からの伝承でしかなかったコスモリアンの存在があっけないほど急に証明されると、少し遅れてからその驚きが調査隊に広がった。


 そこら中にある争った形跡と、ウィータン人とコスモリアンの遺骨。

つまりこの場所で両陣営の戦闘があったのか──調査隊の誰かが確認するような口ぶりで言った。

 その場にそれを否定する者はいなかった。


 この遺跡は、その構造と出土する品や文字等々からウィータン人の軍事拠点、つまり基地であろうということがわかっている。

 であれば、コスモリアン達はここを襲撃した側だろうか。

 得られた情報を整理するように各自が意見を交換し合っていた。


 「ここにある骨は、今後どうする?」


 周囲の者達の言葉に耳を傾けながら、トレヴァースはエイジャックスに尋ねた。


 「ここで諸々の調査を続けていくのかい」

 「いや、一通りの確認をしたら、いったん基地のラボへ運ぶつもりさ」


 エイジャックスはそう言うと、近くにいた調査隊の面々に何か指示を出し、作業の準備にとりかからせる。


 遺跡内部で起きた過去の出来事の調査に関しては引き続きこの場所で行われ、遺跡内で見つかった大量の遺骨は状態の保存も兼ねて一通りがウィータン航空宇宙局にある基地に向けて運び込まれることとなった。


 遺骨の状態を詳しく調べることで、彼らの生前の様子がわかるであろう。

 この場所にいた地球のことを認識していた存在がいるのであれば、それはこの遺骨となった者達である可能性は高い。


 さてこれからの調査でどんな結果が得られるのだろうか、とトレヴァースは期待した。


 

ここまで読んでくださりありがとうございます。

次回更新は3月26日午前2時ごろの予定です。


何か刺さる部分がありましたら、感想や評価などいただけると嬉しいです。

Twitterで更新情報など出してますので、よかったらどうぞ!

/脳内企画@demiplannner

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