Chapter1-27 遺跡に眠る歴史
トレヴァースとエイジャックスが見上げている壁画とは、紛れもなく遠い宇宙の彼方に浮かぶ地球の姿を描いたものであった。
その壁画はかつてこの場所に地球を認識している存在がいたということを示しており、ウィータン航空宇宙局での意見交換会で宙吊りになっていた議論に大きく影響を及ぼすものであると思われた。
「やあお二方、待っていたよ」
不意に、壁画を見上げていたトレヴァースとエイジャックスの耳に男性の声が届く。
二人が声のする方を振り返ると、遺跡の奥から砂まみれの作業服を身に着けた大柄なウィータン人がやってきた。
男は恰幅の良いその肉体を揺らして走り、辺りに大きな足音を響かせながらこちらへと近づいてくる。
どうやらエイジャックスは相手が見知った顔であると気付いたようで、「おう」と気さくに返事をした。
それは発掘現場での指揮を担当する男で、トレヴァースも何度か航空宇宙局の基地の中で見かけたことのある顔であった。
男は息を切らしてトレヴァース達の前へやってくると、その巨体を丸めるようにして腕を膝につき、しばらくぜいぜいと肩で息をした。
「よう、とんでもないものを見つけたな!」
息を切らして顔を下げたままの男にエイジャックスが言う。
男はそれを受けて呼吸を整えると、顔を上げて笑顔を見せた。
彼はトレヴァース達が壁画を眺めていたことに気付くと、「実は奥にもっとヤバいものがありそうなんだ」と言った。
「ヤバいもの?」
興奮した様子で語る男の言葉にエイジャックスが尋ね返す。
「ああいや、もの、というよりは場所と言うべきかもしれないがね。
瓦礫の奥をスキャンしてわかったんだ」
男はそう前置きして、呼吸を整えるように息を深く吐いた。
「すっかり潰れてしまった通路の向こうに、相当な広さの空間があることがついさっき判明した。
今もちょうど瓦礫をどかしているところだがね、なに、開通は時間の問題さ。
ボス、もしかすると俺達の探す歴史の正体がここで掴めるかもしれないぞ」
興奮した様子で男は言った。
トレヴァース達が男の話を聞いているその頃、遺跡の奥では作業服に身を包んだ数人のウィータン人が一所に集まり、もぞもぞと窮屈そうに身をよじっていた。
彼らは通路を進行するために必要な最低限の瓦礫を取り除きつつ、足下の道が繋がる終点を目指して歩き続けているところであった。
崩落が起きぬよう慎重に瓦礫をどかすと、一人のウィータン人が「あっ」と声を上げた。
彼が取り払った瓦礫の先にぽっかりとした空白が出現したのである。
それは通路に詰まっていた瓦礫を抜けたということを示しており、それに気が付いた他の者達は、慎重さを見失わぬよう意識しながらもはやる気持ちを抑えられないといった様子で瓦礫をどかす手を早めていった。
そうして道を塞いでいた瓦礫が完全に取り除かれる。
しかし、彼らの目の前に現れたのは広大な空間ではなく、上部から下に向けて打ち下ろされた鋼鉄の隔壁であった。
目指すものに対して”おあずけ”をくらったようなものであったが、とはいえそれを目の当たりにした作業員達に落胆の色は見られなかった。
科学者集団としての側面を持つ彼らにとってそれは失敗ではなく新たな判明した事実の一つであり、またその奥に確かな空間が存在することへの期待をさらに膨らませるものであったのだ。
「まったく焦らしやがるぜ」
作業服を着た男はそう言いながら、隔壁に近づいて屈み、あるいは立ち上がって自分たちの行く手を阻む障壁を調べ始めた。
「さてさて、開くかどうか……やってみよう。
誰か! 俺の代わりにこいつをライトで照らしておいてくれないか」
「よしきた。こんなものでいいか?」
男の声に別の誰かが反応した。
「もう少し下を。そう…そのあたりだ。そこに手をかけてみよう」
暗がりの中で隔壁に向けたライトの位置を調整させて男は頷いた。
彼は両の手を脱力させてひらひらと振り、それから意を決したように隔壁に腕を伸ばした。
大きなグローブが隔壁にぴったりと吸い付く。
衝撃や劣化で歪んでしまった隔壁の隙間に指を入れ、男は上方向に向かって力を込めた。
が、隔壁はびくともしなかった。
男はそれでもしばらく粘ってみたが、結果は変わりそうになく、彼は隔壁から腕を離して荒く息を吐いた。
「だめだ、動く気配もない……。ジャッキを使おう」
男は周りの者達とやり取りを交わしながら、隔壁と床部分との隙間に銀色の機械装置を差し込んだ。
「重さは問題無いはずだ。さあ、どうだ?」
取り付け作業を行った作業員がジャッキを操作しながら言う。
ゆっくりと隔壁の隙間が拡張されていく。
その様子を作業員達は固唾を呑んで見守った。
「よし…よし! だいぶ開いてきたぞ!」
ジャッキを操作する作業員が嬉しそうに言った。
彼の視線の先では今まさに黒い空白が姿を現し、その領域は徐々に拡大していっている。
ある程度のスペースを確保したところで作業員達はジャッキを動かすのをやめ、隔壁を持ちあがっている位置で固定させた。
スキャンした情報と相違の無い領域。
ついに彼らは遺跡の最奥に到達したのである。
作業員達は慎重に隔壁をくぐり、暗闇の中へと入っていった。
入り口から漏れる光だけではその部屋の全貌は全く把握することができず、その様子はここが大変に広い空間であることを彼らに実感させた。
作業員たちはライトをふりながら一塊になって慎重に辺りを探っている。
まずは調査用の照明を設置しなければ、と誰かが思った時であった。
動かした足が何かに辺り、乾いた音が辺りに響いた。
「すまん! 何かを蹴っちまった」
作業員は慌てた様子でそう言うと、手に持っていたライトを足下に向ける。
暗がりの中で、数百年ぶりに光を向けられて浮かび上がったのは一揃いの人骨であった。
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次回更新は3月23日午前2時ごろの予定です。
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