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Chapter1-16 三種の知的生命体


 会談がさらに進むにつれ、トレヴァースとウィータン人達はお互いに持つ情報を出し惜しむことなく始まって以来の盛り上がりを見せていた。

 地球人とウィータン人の繋がりについて。

 見た目の類似性をきっかけに始まったその議論は、会談参加者らの好奇心を大いに刺激したのである。


 会議室ではトレヴァースの出力するホログラムを基にして、二種間の主だった内臓系や骨格、

 その他の細やかな組織に至るまでの比較がなされた。

 テーブルを囲むように座っていた参加者の面々はいつしか椅子から立ち上がり、

 それぞれ思い思いの場所を立ち歩きながら議論を交わしていた。


 並みいるウィータン人科学者同士の間でも、専攻の垣根を横断して意見の交換が行われていった。

 しかし結果としては地球人とウィータン人の繋がりを決定的に示すものは見つけることはできなかった。骨格に関して言えば同じ脊椎動物門に属すように酷似している部分もあればまったく重なることの無い部分もあり、内臓器官系などはそれのさらに半々といったところであろうか。

 一方で頭部の体積やその中身の発達の度合いなどは二種ともに同程度のものであった。




 「トレヴァース殿。

  そこのエイジャックスから、我らウィータン人の事情をいくらかは聞いていると伺いました」


 「ええ。調査船の中で聞きました。

  地下へ逃れて以来、何百年という歴史を喪失したと」


 会談をとりまとめていた年長のウィータン人の言葉にトレヴァースは頷いて答える。

 すると相手は、沈鬱な表情で首をわずかに横に振った。



 「より正しく言うならば、全て、と言った方が良いでしょう。

  気が付いたら、土の中にいた……というのが我々の抱いている正直な感覚なのですよ。

  地上の探検で見つけた我らの祖先の痕跡から、数百年前までウィータン人が地上で暮らしていたという伝承の裏付けはできておりますが、実のところ彼らから今の我々に続く出来事については何もわかっていないようなものなのです」


 年長のウィータン人がゆっくりと言った。


 「我々のルーツは未だわかりませんが、もしかするとその答えなどは地球人にあるのかもしれません。この件についてはもう少し継続して議論をしてみたいものですな」


 ウィータン人の言葉にトレヴァースは同意するように頷いた。


 「ええ、何らかの関わりがあったのかもしれません。

  僕はそこに人類の行方に繋がる手がかりが見つけられればと考えています」





 「歴史といえばだが、あの爆弾の話はどうする」


 地球人とウィータン人の繋がりに関しては現状灰色というところであった。

 ひとしきり参加者の中で話題が一周したところで誰かが言った。


 「ここで我々は自分たちのルーツを遠い惑星の住人に重ねて検討をしてみたわけだが、

  もう一方(ひとかた)違う種の生命があったじゃないか」


 ウィータン人の科学者がそう言うと、その場のウィータン人の何名かが同意するように頷き合った。

 それからやがて、彼らを含め参加者たちの視線がある一辺に集まった。


 視線の先には、先ほどから黙ったままのクロラが座っていた。


 クロラは椅子に深く腰掛け、手すりに左の肘を預けて頬杖を突く姿勢を取っている。

 自分に向けられる視線に気づいていないのか、それとも興味がないのか。

 彼女は顔色一つ変えず、じっと空いた方の手を弄ぶように眺めていた。


 他のウィータン人と同じようにトレヴァースもクロラの方に顔を向ける。

 防護服を脱いだ実際のクロラの姿をトレヴァースが初めて見たのは、この会議室に入ってからであった。他のウィータン人と同じような浅い褐色の肌に、長く伸ばした銀色の髪を重力に任せて無造作に下ろしているのが目立っている。


 「ええ。あの爆弾は間違いなく私たちとは違う生き物によって作られたものよ」


 ややあってからクロラが答えた。

 

 「我々の祖先が埋めたものだとは考えなかったのかね?」


 一人のウィータン人が尋ねた。


 「祖先は意図的にこの星の地上部分を使い物にならなくしたというじゃないか。

  例えばあの爆弾は、祖先が支配者たちに抵抗するためにつくったものということは?」


 「……はぁ?」


 ウィータン人の意見をクロラは一笑に付した。


 「資料(データ)を見た上での意見じゃないことを願うわ」


 彼女は溜息をつきながら面倒くさそうにそう言って手元の機械を操作すると、

 一つのホログラムを空中に現した。それはトレヴァースから受け取った爆弾の解析データであった。


 彼女はその機構で用いられている技術が自分たちが祖先から受け継いで来た技術体系といかに異なっているかを説明し、またそこで使われている材料などに至るまで言及しウィータンの外でそれが作られたものであるかを示す要因がいかに明白かを淡々と述べた。


 「あれだけの技術があればもっと早くに私たちは地上に出られたはずよ

  だいたい、伝承なんてそこまで当てになるのかしら。

  私個人としては、私たちの先祖がそれほど高い技術力を持っていたように思えないのだけどね」


 クロラはひとしきり説明を終えた最後にそう言って席に着いた。

不出来な生徒に語り掛けるような、延々と続く彼女の説教に耐え切れなかったのか質問をしたウィータン人は申し訳なさそうな顔で縮こまっていた。


 「お前はどう思う?」


 そう言ったのはトレヴァースの隣にいたエイジャックスであった。

 彼は、トレヴァースの方を向いて尋ねた。


 トレヴァースは周囲の者達の顔が自分に向けられるのを感じながら、少し宙に視線をやった。


 「僕もクロラと同じように思っているよ」


 トレヴァースがエイジャックスの方を向いて言う。

 それから彼は自分の様子を窺っている他のウィータン人の方を向き直った。


 「僕は、あれがウィータン人の文明とは離れた思考により作られたものだと知っています。

  何故なら、僕はあれとよく似たものを地球で見たことがあるからです」


 トレヴァースがそう言うと、会議室の中がざわめき立った。

 少し離れたところに座っているクロラは、ここで初めて興味を持ったようにトレヴァースの方を見た。



 「地球人はあの爆弾を作った者達

  ――私達はコスモリアンと呼んでいますが、彼らによって滅ぼされたのです」



次回更新は3月2日午前2時ごろの予定です。


Twitterで更新情報など出してますので、よかったらどうぞ!

/脳内企画@demiplannner


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