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Chapter1-15 地球とウィータンの会談

 

 生きて避難区画に戻って来たクロラの姿は他のウィータン人達を驚かせた。

 それから旧支配者の遺した破壊兵器解体の報せがクロラを通して伝えられると、地下へ避難していたウィータン人達の間に安堵の声が広がり、クロラの後ろからエイジャックスが姿を現すとその声は大きな歓声へと変わった。

 エイジャックスは惑星外の調査のために少なくない期間ウィータンを不在にしていたらしく、そんな彼の帰還はウィータンの基地に残っていた彼の仲間達を大いに喜ばせるものというわけなのであった。


 ひとしきりの歓迎を受けた後で、エイジャックスは自身の新たな友人を紹介した。

 かくしてトレヴァースは多くのウィータン人のざわめきとともに迎えられることになった。





 ウィータン航空宇宙局。

 エイジャックスとクロラの所属する組織はウィータン人の言葉でそのような意味合いの名前を付けられていた。そこは失われてしまった起源や歴史といったものを探ることを主の優先目標に掲げているウィータン人達の中でも、惑星外の未踏領域やそれに類する科学的調査と検証を一手に引き受ける組織であるという。


 トレヴァースはそこで多くのウィータン人に詰めかけられることとなった。

 というのも、ウィータン航空宇宙局に所属するウィータン人の多くは未踏領域を目指すパイロットやエンジニア、そして科学者で占められており、彼ら一流の好奇心はトレヴァースの出現を非常に喜ばしいものとして受け入れさせ、さらには彼と対話をすることをよく望んだのである。


 その場にいた者達の適性ということを抜きにしても、ウィータン人は非常に友好的な種族であった。


 それからしばらくして、トレヴァースとウィータン人の双方が意見を交換することを望んだこともあり、基地の中で緊急の会談を行うこととなった。トレヴァース一人に対し航空宇宙局の重だった顔ぶれが勢揃いするその会談は、現時点において航空宇宙局での最優先のスケジュールと認識されていた。





 トレヴァースが通されたのは基地の中で最も広い会議室であった。

 扉をくぐると、部屋の中央に大きな円形のテーブルが組まれているのがまず目に入った。

 会議の参加者がそれぞれ部屋の中央を向くように座っているが、その視線は今入室してきたトレヴァースに向けられている。


 トレヴァースは用意されていた席に着いて周りを見回した。

 視線の先には宇宙服を脱いだエイジャックスと同じ浅黒い肌をした者達がそれぞれ同じような装いをして連なっている。


 彼らの正装だろうか、とトレヴァースは思った。


 締め切られた部屋のすぐ外ではひっきりなしに物音がしている。

 それは会議に参加できなかった者達がどうにかしてその内容を直接自分の耳に入れようと抵抗しているようであった。


 一度会議室の扉が大きな音を立てて開き、すぐに閉じられた。

 参加者の視線が一時的にトレヴァースから扉の方へ向けられる。



 「遅れて申し訳ない! いや、連中を振り切るのに手間取ったよ」



 そう言って慌ただしく部屋に入って来たのはエイジャックスであった。

 彼は部屋の中を見まわしてトレヴァースを見つけると、そこへ駆け寄り、空いていたトレヴァースの隣の席へと腰を降ろす。


 エイジャックスが席に着くと、会談のための準備が全て整ったことを示すかのように、それまで少しざわついていた室内がしんと静まり返った。 


 会談の開始に伴い、トレヴァースの目の前に座っていたウィータン人男性がおもむろに立ち上がり挨拶をした。その肌にはあちこちに深い皺が刻まれており、周囲の者達よりも遥かに年長であるということが窺える。


 ウィータン人は文化的繋がりを持たぬトレヴァースに対して、彼らの考えられる限り最大限の敬意を示す手段を取っているようだった。

 トレヴァースは隣に座るエイジャックスそれを伝えられると、目の前のウィータン人と同じように立ち上がって地球式の挨拶を丁寧に述べた。


 見慣れぬ所作に加えて流暢なウィータン人の言語を操るトレヴァースの姿に、どこかからか感嘆の息が漏れた。


 通訳を使わずとも高度な議論を理解して話すトレヴァースの知性に、ウィータン人の面々はより強い敬意をもった。一時それは緊張という方向に進みかけたものの、エイジャックスの言葉をベースとしたことによって時たま飛び出すくだけた物言いがちょうど良い塩梅に場の雰囲気を和らげていた。





 「地球はどういった姿をしているのですか?」


 ある一角に座っていたウィータン人が尋ねた。


 「惑星としての地球なら、そう、こんな様子です」


 トレヴァースは手の平から光を投影し、立体ホログラムを参加者の見やすい位置に出現させた。


 青い球体が室内に浮かび上がり、ウィータン人達はそれを食い入るように見つめていた。

 トレヴァースはそれから地球の景色やそこにいる生き物の姿へと映像を切り替えていく。

 かつて人類の生き残りを探して得た膨大なデータを彼は披露してみせた。


 「なんという景色だ……」

 「見ろ、あの生き物を。あんなもの見たことが無いぞ!」


 ウィータン人同士はお互いに映像の様子を指摘し合っていた。


 「あなたは先ほどの自己紹介の中で、自分のことを機械、つまり作られた存在であるとおっしゃいましたが、地球にはあなたとその創造主のような存在は他にも大勢いるのですか? 

  創造主と言うのはつまり、ウィータンに住む私たちのような生き物、という意味合いで」

 「地球人という存在について、というわけですね?」

 「はい、そのとおりです」


 映像を見ていたウィータン人の一人がトレヴァースの方を振り返って言う。

 トレヴァースはその言葉に少し間を置いてから首を横に振って応えた。


 「残念ながら、あの星に地球人はもう、存在しません。遠い昔に滅んでしまったのです」


 トレヴァースがそう言うと、会議室の中がどよめきだつ。


 「その、気を悪くしたのなら、申し訳ありません」


 質問をしたウィータン人が気まずそうに言ったが、トレヴァースは「いえ」と相手の遠慮を断った。


 「地球での彼らは滅亡しましたが、種としての滅亡はまだ迎えていないと僕は考えているのですよ」


 トレヴァースが言う。


 「僕が目覚めた時、既に地球人は滅びその姿を消していました。

  しかし、地球を調べて回るうちに一部の地球人が宇宙へ旅立ったという記録を見つけることができたのです。私はそれを辿り、こうして宇宙を旅しているのです」


 トレヴァースはそれから手元を操作した。すると映像が切り替わり、地球人の男女の図が表示された。


 「これが地球人、ですか? なるほど…… あなたの姿にそっくりですね」


 ウィータン人が言う。周りにいた他の者達も映し出される映像を眺め、それぞれに意見を交換し合っている。


 「妙に似すぎていないか? この姿は…」


 交わされる議論の中で、部屋の一角で誰かが呟いた。

 トレヴァースはそれを聞いて頷き返す。


 「この貴重な会談の中で一考してもらうべき議題は数え切れぬほどありますが、

  一つだけ僕から全く荒唐無稽な話題を振ることができるとしたら、今このタイミングでしょうね」


 トレヴァースが言った。

 その思わせぶりな発言は再び彼の下に参加者の視線を集めた。



 「地球人とウィータン人の共通点について意見をいただきたいのです」


 


次回更新は2月27日午前2時ごろの予定です。


Twitterで更新情報など出してますので、よかったらどうぞ!

/脳内企画@demiplannner


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