14話 悪役令嬢の誕生日は静かに終わらない
ミレイユ・アルノーの誕生日当日。
本来ならば格式ある晩餐会になるはずだった。
しかし今年は――
「身内だけで、ささやかに」
と言ったはずなのに...なぜか、なぜなのか。
庭園は装飾に彩られいつも以上に煌びやかだった。
「ささやかとは」
ミレイユは遠い目をする。
◆セシリア
「本日はお誕生日おめでとうございます、ミレイユ様!」
庭園に響くセシリアの声。
今日は完全に彼女が仕切っている。
「……随分と準備が整っておりますわね」
「当然です」
何と真剣な表情なのだろう。
「”わたくしの”ミレイユ様の誕生日ですもの!」
(セシリアったら、本当に張り切って...まあ悪い気はしませんが.....ん?わたくしの?)
「ミレイユ様!こちらお誕生日プレゼントですわ!」
先程の発言に引っ掛かりを覚えたが、プレゼントを渡され思考が中断する。
「あ、ありがとう、セシリア。これは....髪留めかしら?」
「はい!ミレイユ様といったら炎!その炎の色に一番近い色の髪留めを選ばせていただきました」
紅く光る髪留めは私の魔法の色と良く似ていてた。
「ありがとう、セシリア」
そういって、貰った髪留めをさっそくつけてみる。
「どう、似合っているかしら?」
「とってもお似合いです!!」
セシリアは目を輝かせ、そう答えた。
◆ レオニード
「誕生日おめでとう、ミレイユ」
レオニードにしては少し角ばった声だった。
「ありがとうございます、レオニード様」
「怪我の具合はどう......?」
ミレイユは苦笑しながら、
「レオニード様は合う度に怪我の心配ですね。ほら、この通り元気いっぱいです」
その場でふわりと回って見せる。
「そっか.....それなら良かった」
(いつも通りになるのはもう少しかかりそうですわね。まあ確かに火傷に関しては少し痕が残ってしまいましたし。まあ、ルインの色彩魔法のおかげであまり目立たないので、私自身は何も気にしておりませんが...こればかりは時間の問題ですわね)
「ミレイユ、これを」
レオニードは執事に持たせていた箱を差し出す。
「ありがとうございます、レオニード様。中を開けても?」
「ああ...気に入るかは分からないけど」
ぶっきらぼうに言い放つ姿が新鮮だった。
さっそく中を開けてみる。箱の中には、装飾されたアームカバーが入っていた。
「耐熱性のアームカバー。これで魔法を使用しても君を守ってくれる」
「……まあ」
素直に驚く。
「レオニード様、お心遣い感謝いたします。とても嬉しいですわ。さっそく明日からの訓練に使わせていただきます!」
レオニードは苦笑する。
「誕生日の翌日にもう訓練を始めるの?」
当たり前だと言わんばかり腰に手をあてる。
「ええ、2日もサボったら訛ってしまいますから!」
◆ クラウス
「誕生日おめでとう」
いつも通りの淡白な声で祝われる。
「ありがとうございます、クラウス様」
「これを」
手渡されたのは魔力安定用のブレスレットだった。実用一点張り。しかし、ミレイユの目が輝く。
「流れを分散させる術式ですわね?」
「流石だな、分かるのか」
「当然です、誰に魔法を教わっていると思ってるんですか?」
見たからには試さずにはいられない。装着して試してみるといつも以上に安定感が増す。
「素晴らしいですわ!」
その笑顔を見て、クラウスの胸がわずかに締まる。
(……こんなに嬉しそうに)
意識してしまう自分に、少し戸惑う。
◆ ルイン
おずおずと前に出たのはルイン。
小さな包みを両手で抱えている。
「ミレイユ様、お誕生日、おめでとうございます……」
中身は――色彩魔法で染めたハンカチ。
淡い青から紫へとゆるやかに移ろう布。
「時間が経つと、少しずつ色が変わります……」
ミレイユは目を見開く。
「まあ……綺麗」
純粋な感嘆。
「素敵ですわ、ルイン」
即座に受け取り、大事そうに触れる。ルインの顔がぱっと明るくなる。
セシリアはその様子を見て、満足げに頷く。
(ミレイユ様の隣は、価値を認められる者だけですわ)
◆ ノア
最後はノアだった。
にこにことした顔で、細長い箱を差し出す。
「誕生日おめでとう、ミレイユ。これ、僕なりに考えたプレゼント。受け取ってくれると嬉しいな」
最近のノアとも砕けた会話ができるようになってきた。向こうもそれを感じ取ったのだろう。言葉遣いが柔らかくなっている。
中身は精巧な魔力計測用のペン型器具だった。
「まあ!」
ミレイユは満面の笑みを浮かべる。
「これ、微細な流れも測れますのよね!?」
「もちろんです。ただ、精密なものですから、魔力の注ぎすぎには注意してください」
「うっ.....も、もちろんです!ノア様から頂いたもの。丁重に扱わせていただきますわ」
ノアが柔らかな笑みを浮かべる。
「君の笑顔が見れてよかったよ、真剣に選んだかいがあったなかな」
「ええ、とっても嬉しいですわ!これで明日からの魔法訓練がより捗ります!」
喜んでいるミレイユをノアはじっと見つめている。
普段のノアでは見ることのできない優しい眼差しに、従者たちは驚きを隠せなかった。
◆ 祝宴
五人でテーブルを囲む。
「ミレイユ、次の誕生日までに何か目標は何かあるのかい?」
「魔法制御を安定させることですわね」
クラウスが静かに言う。
「急ぎすぎるな。時間はあるだろう」
「急いでなどおりません。備えあれば憂いなしですから!」
(いつ追放されるか分かりませんし....)
レオニードは目を細める。
「ミレイユ....やっぱり強いね」
ミレイユは首を傾げつつ、
「強い...?何を言ってるんですか。レオニード様の方がお強いですよ。拝見させていただいたあの剣技。大人ですら太刀打ち出来ておりませんでしたわ」
「いや、そういう意味では.....いや、分からないならそれでいいや。君はそういう奴だ」
頭に?マークを並べているミレイユを見て、ルインは小さく笑う。
そしてセシリアが誇らしげに言う。
「流石です、”私の”ミレイユ様!その向上心私も見習わなくては!」
「ええ、セシリアも頑張りましょうね」
(セシリアの発言の後、一瞬寒気が....気のせいかしら.....)
◆
談笑の中、クラウスの視線が自然とミレイユに向く。
レオニードも穏やかに観察し、ノアは楽しそうに茶化す。
ルインは尊敬の眼差し、セシリアは常に隣をキープ。
その中心で、ミレイユは本当に楽しそうに笑っている。
「皆さま、本当にありがとうございます」
真っ直ぐな言葉に全員が思う。――この笑顔を、守りたいと。
ただ一人、ミレイユを除いて。
(今年も平和に一歩前進です。後6年...出来ることは全てやってやりますわ!!)




