3話:衝撃的な占い結果
「おや、これは数奇な運命を持つお客さんが来たよ」
銀色の瞳で私をじっと見ると、自分の隣の席に座るよう、占い師は手招いた。
まるで丁度この時間に、私が来ると分かっていたように思え、少し驚いてしまう。
「ふふ。なるほど。高貴な身分のお方のようだ。そして付き人が二人いる。一人は外で待機。そしてお前さんがここに来ることを進言したんだね。いい心がけだ。お前さんのことは無料で見てあげよう。手を出しな」
占い師はリサの手を取り、その手に自身の手を重ね、水晶玉を見た。
「……なるほど。縁談話を待っているんだね。だがお前さんは、誰かが持ち込む縁で結ばれる星の下に生まれていない。それにね、お前さんは運命の相手と既に出会っている。よーく考えてみるといい。妙齢で、お前さんと結ばれるのに、ピッタリの相手が本当にいないかを」
この占い結果にリサは「本当ですか!?」と目をぱちくりさせ、私を見る。
リサにピッタリの相手……。
彼女のプライベートなことはよく分からない。でも使用人仲間ともうまくいっているようだし、誰からも好かれやすい性格だと思う。ブラウンの髪に琥珀色の瞳で、なんだかリスみたいで可愛らしい。リサのことが好きな異性がいても……おかしくないと思う。
その思いを込め、彼女の目を見ると、「きっと若奥様も、私に運命の相手がいると思ってくださるのですね!」と笑顔になる。
こうしてリサは大変満足そうにして、バーから出て行く。外で護衛騎士のダビーと共に、私の占いが終わるのを待ってくれることになった。ちなみにダビーは護衛騎士であることから、最初から占ってもらう気はなく、外で待機してくれていた。
「では若奥様の番だ。お前さんはもう、全身からオーラが溢れている。水晶玉を通さなくても、ハッキリ未来が視えているよ。これは特殊なことだ」
そこまでは穏やかな表情だった。
だが突然、その顔つきはきついものに変わる。
これには驚き、何だろうと不安になってしまう。
「マスター。気つけになるような強いお酒を一杯、用意してくれるかい」
「かしこまりました」
マスターは洋酒の瓶をとり、グラスに少しだけ注いでいる。
気つけになるようなアルコール度数が高い洋酒を用意させたということは。
相当ショッキングなことを、私に告げようとしているのではないのか!?
心臓がバクバクと激しく鼓動を始めた。
そんな悪い何かが私から感じられるの!?
至って平和に政略結婚の日々を過ごしている。
大きな事件もなければ、これぞという幸運もない。
まさに自分の容姿と同じ、平々凡々な日々を送っているのに。
「どうぞ」
マスターがグラスを置き、占い師は準備ができたという表情になり、改めて私を見た。
「さて。これから話すことは、お前さんにとって、とても衝撃的なことだろう。心して聞いて欲しいが、もし頭の中で混乱したら、これを飲むといい。ガツンときて、気持ちが落ち着く」
「わ、分かりました」
返事をして、ごくりと生唾を呑むことになる。
ワンピースの膝の上に置いた両手を、ぎゅっと握りしめた。
「お前さんは若奥様だ。つまり旦那がいる。その旦那は、社会的に意味のある地位に、いずれ就くだろう。だが既に周囲からは、とても優れた男と思われている。そして今のところ、平穏な日々が続いているのかもしれない」
そこで占い師は、自身のそばに置かれたワイングラスを口に運ぶ。
赤いワインを一口飲むと、唇を舐める。
「だが現状は嵐の前の静けさに過ぎない。そしてお前さんはまだ旦那の本性を知らないんだ。崩壊の時は突然、訪れる。些細な一言が始まりだった」
「い、一体、何が始まると言うのですか!?」
「始まり……という言い方をしたが、お前さんにとっては終わりになる」
「終わりになる……?」
そこで再び占い師はワインを口に運ぶ。
それを見ていると、私も無性に喉が渇いたように感じる。
「終わり。まさに終焉さ。お前さんはね、旦那に刺し殺されるんだよ。ズブリって、ね。何度も」
「!?」
これには衝撃的過ぎて、眩暈がする。
アトラスには品があり、落ち着きがあった。
跡継ぎ作りの行為の時でさえ、乱れることがない。
喜怒哀楽の感情を強く表出させることなく、常に冷静だ。
でもそれは冷たいというわけではなく、木漏れ日のような存在だと私は感じていた。
そのアトラスに、私は刺殺される!?
しかも何度もズブリとされる?????
信じられない。
くらっとする私の手を、占い師が握りしめ、グラスを差し出す。
「飲むといい」
気つけように用意された強いお酒を一気に飲むと、ガツンと来て、目が覚める。
「離婚した方がいい。この国では離婚は基本的に認められていないが、抜け道がないわけではない。子供ができない夫婦なら、夫から離婚することが許されている。特に貴族は跡継ぎ問題があるからね。それでも養子縁組という方法もあるから、裁判所は渋るだろうよ。でも離婚しか、お前さんが生きる道はない。離婚して、国を出な」