八話 俺の名前は不審者ではない
突如として開かれるドア。そこにいたのはメンバーを起こしにきた世奈...ではなかった。驚きの人物の登場にメンバーたちの悲鳴が止まらない。
合宿3日目。その日の午前六時。渡たちが眠る部屋のドアが突如として開かれる。
「ふぁ...マネージャーさん?」いち早く目を覚ました渡がそちらを見るとそこにいたのは世奈、ではない。黒マスクに黒ニット、黒の上下ジャージを着た、不審な男。渡は慌てず焦らず荷物から何やら長い棒を取り出した。
「不審者さんはあっち行きましょうね〜」半分寝ぼけ眼のまま鈍器とも呼べる謎の鉄の棒を振り回した。
「ぎゃー!!!やめてくれー!!!」男は叫び声をあげた。
「ん〜?今叫び声が聞こえたような...」優月がその声に目を覚ますと、優月たちの部屋のドアも突如として開けられた。
「助けて!ちょタンマタンマ!!」不審者の登場に優月も
「ぎゃー!!!不審者ー!!!」と声をあげ殺虫剤を構えた。優月たちの叫び声に渡の部屋のメンバーも、裕一たちも目を覚まし二〇一号室に集まった。
「ちょっと、誰!?」「不審者!!不審者だ!!!マネージャー!!!」
その声に不審者の男は咳払い一つして大声で叫んだ。
「じゃあ俺の正体を教えてやろう!俺の名前は不審者ではない!この顔を見て分かるはずだ!!」その言葉と同時に男はマスクやらニット帽やらを外した。
「そう!俺は元Dreaming Makerの花咲翔だ!!」「え?」一同はその声に男の顔を見る。そして次の瞬間「えぇ〜!??!?!!」と悲鳴をあげた。
「ちょっとちょっと、何ですか?」世奈と目を覚ました百花繚乱のメンバーたちも二〇一号室に集まった。
「あ、世奈さん!俺っす花咲翔!」
「ああ花咲くんね!...って」その瞬間世奈と百花繚乱のメンバーも
「えぇ〜!!?!??」と同じように悲鳴をあげた。悲鳴をあげヘタリと座り込むDreaming Maker+、百花繚乱のメンバーと世奈。そこに大地が現れた。
「皆、説明が遅れましたね。いや、朝まで内緒にしてくれと言われてたんですけど...この方は正真正銘の元Dreaming Makerのメンバー、花咲翔くんです。あと、もう一人スペシャル?ゲストが来てるから食堂に集まってください。着替えしてから」
「んじゃ俺も食堂行ってるな!皆ちゃんと髪直してくるんだぞー」翔はマイペースに食堂へと向かった。メンバーたちは未だそこから立ち上がることができなかった。
「あれが...花咲翔さん...」裕一も顔を真っ赤にしながら手を震わせていた。
それからしばらくして、未だ放心状態のメンバーたちが食堂入りした。そこにはすでに大地、講師の先生たち、翔と、もう一人ヒゲをたくわえた高級そうなスーツに身を包む中年男性がいた。
「お、おはようございます」メンバーはそれぞれ緊張しながら食堂に入っていった。
「え、ねぇあの人誰?」千尋がヒゲの男を不審がって見る。
「み、皆さん集まりましたねー!!」世奈はわざとらしく元気に振る舞うが緊張が見え見えだ。そう言った後、
「何で私にだけ教えてくれなかったのよ大地!」と大地に耳打ちした。
「と、とりあえず改めて自己紹介をしてもらいましょう!まずは、花咲くんから!」
「はーい!俺が正真正銘の元Dreaming Makerの花咲翔でーす!今日一日だけなんだけどよろしくねー!」メンバーはあまりの放心状態に返事すらできなかった。
「そして私!ヒゲがチャームポイントです!シャインエール・プロダクションの〜社長でーす!!私も今日一日見るだけなんだけどよろしく〜」続いて自己紹介した男のその言葉に、メンバーは朝から疲れすぎたせいか悲鳴にならない悲鳴をあげた。
「さっきみたいにキャーとか言ってくれないの〜?残念だなぁ」社長と名乗る男はヒゲを触りながら話した。
「あ、あの質問いいっすか」秀が恐る恐る手を挙げた。
「翔さん...?と社長...?は、何で今ここにいるんすか...」
「いい質問だね〜、そろそろ君たちと顔を合わせたいと思っていて、今日がたまたま仕事が暇だったから合宿を見学しようと思ったんだけど、一人じゃ寂しいから、たまたま今日オフだった翔くんを誘って一緒に来た!というわけ!」
「は、はぁ...」納得いってるのかいってないのか秀は恐る恐る手を下げた。
「俺と社長で見学するつもりなんで、よろしくおねがいしまーす!色々講師の先生にも口出ししてレッスン内容変えちゃうかもしれないけどね」翔も気楽に続ける。
「と、とりあえずご飯、食べますか!」世奈がそう合図して翔、社長含め朝食を取り出したが、メンバーは喉に食事が通らなかった。
今日は朝から通しでステージ内容のチェックを始めた。しかしいつもと違う。社長と花咲翔が見ているのだ。メンバーも集中できるわけがなく、ミスが増える。そんな中一人だけ冷静な陽昇がメンバーを見て「情けないな」と独り言を漏らした。
「皆ー!俺たちのことなんか気にせず集中してやるんだぞー!」と翔が声をかけるが、
「そんなこと言われたら余計集中できないっすよー!!」と要が悲鳴にも似た声を上げる。
社長も翔も真剣にレッスンを見ていた。しばらくするといつもの調子を取り戻し、皆の本当の実力が出てきた。
「へぇ...こんな感じかぁ...」顎に手を当て翔はじっくりとレッスンの様子を見つめる。
「アドバイスなんかはこんな感じかな、このメモも参考に午後には翔くんから色々助言してあげてね」
「うっす」そんな会話を交わしていた。
「これは難航しそうだぞ...」翔は最後にそんな独り言を漏らした。そしてドタバタな午前のレッスンを終えた。