十四話 お前は何ができる?
要は渡に遊びに行く約束を取り付けた。そこで、渡の本音が溢れ出す。
その日の朝。渡は朝食の用意のために朝4時半に目を覚ました。今日はオフなので家にいようかな、などと考えていた。ふと昨日の要との会話が気になって携帯の電源をつけた。すると要から返信が来ていた。
「悪い。聞かれたくなかったよな」と返信が来た。すぐに渡は「大丈夫だよ」と返す。そして携帯を置いて朝食の準備に取り掛かった。
朝食を食べ終え着替えも済ませた渡は携帯にまた着信が入っていたことに気がついた。見てみると、
「そういえば今日暇か?もしよかったら俺と遊びに行かないか?」と返信が返ってきた。驚きつつも、渡は「いいよ」と返信した。正直家族と一緒にいるのは居づらいと少し感じていたのだ。渡は嬉々として準備を始めた。
「よっ!おはよう!急な約束だったけど来てくれてありがとう!」帽子をかぶっている以外はいつも通りの要に集合場所で出会った。
「お前と一度じっくり話したかったんだよ、今日は金欠だけど俺が人生の先輩として奮発してやる!ドーンと俺に任せろ!」という要の言葉に「そうさせてもらう」と答えついていった。
「ゲーム、センター?」まず訪れたのはゲームセンターだ。かなり小さくてレトロなゲームばかりが並んでいる、いわば穴場だ。
「ここのゲーム面白いから遊んでけ!安いしいいぞ〜!」要は嬉々としてゲームを始めた。
「僕、ゲームセンターは慣れてないからなんか新鮮な気分!」「そっか!慣れない場所もたまにはいいだろ!さぁ対決だ!」二人してキャッキャしながらゲームをプレイした。
続いて訪れたのはデパート、の屋上。子供遊園地。「ここには来たことないか?懐かしいだろ〜?」「僕、こういうところも慣れてなくて...」「お前育ちいいのか〜?ここに来たことないって...まぁいいや!遊ぼう!」大の大人が子供たちにジロジロ見られながら遊園地を満喫した。次にデパート内のゲームセンターで一枚だけプリクラを撮った後、同じくそのデパート内の激安レストランへと入っていった。
「俺のおごりだたらふく食え!さぁ、どれにする!?」「...外食、久しぶりでなんか緊張するなぁ、えっと、エビピラフ!あんまり食べたことないけど!」
「そういえばお前さ、さっきから外食も久しぶりとか子供遊園地も行ったことないとか、家で遊ぶことが多い子供だったのか?」「う、うんまあね。僕料理得意だから自分で家族に振る舞うの」「ふーん、俺も料理は負けねぇぜ!家族は外食がいいとか言うから仕方なく週一で外食連れてくけどさ」会話を弾ませていた。
食事を終え、しばらく落ち着いていた時、要が話を始めた。
「ねぇ、お前の家族って、どんな感じ?」要は勇気を出してその質問を口にした。すると渡はまた全身の力が抜けるような感覚がした。しかしすぐに答えた。
「うちは母子家庭。でも訳あって僕がお母さんみたいな感じ」ふんわりとごまかした表現をした。しかし要には伝わらなかったらしく、「お母さんって何だ?俺はあくまで大家族のお兄ちゃんで通ってるけど...お前のお母さんはどうしたの?」そのなんの悪意もない質問に渡は手に持っていたデザートのスプーンを落とした。
「わわっ!おい大丈夫か!?...どうしたんだ」要は怪訝そうに聞く。すると渡は少し俯きながら話を再開した。
「僕の家、割と最近両親が離婚したんだ。出ていったのは父親。父親は、母さんによく当たっていた」と語り出す渡に要は「えっ...悪いこと聞いちまったな、悪りぃ、さ、行こうか」と渡の手を引こうとしたが渡は椅子から動かなかった。
「それで母さんは精神を病んだ。少し前まで仕事してたけど今は精神療養中で休職中。それにうちには妹もいる。でも学校でうまくいかなくてずっとうちにいる。だからライブにも来れないし、そもそもライブがあることも教えてない。きっと教えたって来てくれないし、迷惑だって思うよ。自分のことでいっぱいいっぱいなのに」渡は唇を震わせる。
「...とりあえず行くぞ、二人になれる場所に行こう」無理やり渡を立ち上がらせて、要は会計を済ます。二人で公園に向かった。
「ほれ、飲め」自販機で買ったコーヒーを渡に渡した。無言でフタを開け一口飲んだ。
「お前が今、家庭を支えているんだよな、精神的な面でも、経済的な面でも」渡がうんと頷く。
「母親とは、妹とは口聞いてんのか?」その問いに今度は首を振る。
「ふーん、ま、やり方はお前が自分で考えればいいと思うけど俺はこう思う。ちょっと話聞けや」手を組み要は持論を語り出す。
「言わなきゃ結局何も分かんないし進展しない。俺がお前の立場なら一度声をかける。返事がなくても声をかけ続けるし、歌も聞かせてやる。俺ならそんなことができる。お前は何ができる?」その問いに、渡は堪えていたものが溢れ出した。
「よしよし、おー殴ってくるか、いいぞもっと叩いてこい引っ掻いてこい」渡は泣きながら要に爪を立てる。歯を食いしばりながら時折「疲れた」「死にたい」と呟きながら。要は黙ってそれを受け止めた。渡が元に戻るまで。
「...ごめんね、いっぱいやっちゃった」目元が赤いままの渡が散々引っ掻いたり殴ったりした要を申し訳なさそうに見つめる。
「いいんだって、悩んだ時はお互い様だ!次のレッスンの日に会おうぜ!今日はありがとう、楽しかったよ、じゃあな!」要はバスに乗り込み渡と別れた。




